2014

融合計算医工学研究分野
(研究目的)
融合計算医工学研究分野では、細胞レベルから循環器系までの生体内流動現象を対象として、先
端生体計測、大規模数値計算、およびそれらを一体化した計測融合シミュレーションにより、循環
器系疾病の機序の解明と次世代医療機器の創成に関する研究を行っている。
(研究課題)
(1) 循環系の計測融合シミュレーションに関する研究
(2) 微小循環系におけるミクロ生体流動現象に関する研究
(3) 鍼治療における血行動態変化の数値解析に関する研究
(4) マイクロ流体デバイスを用いた細胞の低酸素応答に関する研究
(構成員)
教授 早瀬 敏幸、准教授 白井 敦、助教 船本 健一、技術職員 井上 浩介
(研究の概要と成果)
(1) 循環系の計測融合シミュレーションに関する研究
臨床現場において血流動態の情報を簡便に得るため、2 次元超音波計測融合血流解析システムを
開発し、その汎用性について検討した。本システムでは、臨床診断超音波計測データを基に計算領
域を自動で定義し、平均流入流速を自動で求めるとともに、血流場の計測融合シミュレーションを
実施し、解析結果を表示する。健常 3 例、動脈硬化 1 例、狭窄 1 例について解析を行った結果、全
ての頚動脈内の血流で良好な結果が得られ、本システムの汎用性が示された。
(2) 微小循環系におけるミクロ生体流動現象に関する研究
赤血球と内皮細胞の力学的相互作用は、微小血管内の血流動態や、内皮表面の損傷などと関係す
る重要な問題である。相互作用解明の基礎データである傾斜遠心力下での赤血球の非線形摩擦特性
の機序を明らかにするため、様々なギャップ高さと迎角で基板上を移動する赤血球周りの 3 次元流
動数値解析を行った。その結果、変形赤血球の場合にのみ力学的な平衡状態が存在し、実験の摩擦
特性を定性的に説明できることが明らかとなった。
血管内皮表面に発現する P-selectin をガラス平板に塗布し、好中球様細胞に分化した HL-60 細胞
のローリング挙動を解析した。P-selectin の濃度と HL-60 細胞のガラス平板への押しつけ力を種々
に変化させたところ、平均ローリング速度は、P-selectin の濃度および押しつけ力の上昇に伴って
減少することが示された。しかし、基板への付着率は、押しつけ力には比例するが、P-selectin の
濃度で変化しないことが示された。
(3) 鍼治療における血行動態変化の数値解析に関する研究
従来の実験研究において、太衝(LR-3)への鍼刺激によって腕の血流が増加することが示され、こ
れは交感神経の刺激に伴う末梢血管抵抗の変化に起因すると示唆された。そこで、全身動脈系の集
中定数モデルを構築し、実験を数値的に再現することで、末梢血管運動が全身血流分布に与える影
響を数値的に解析した。その結果、末梢血管抵抗を変化させることで血行動態変化を定量的に再現
し得ることが示された。本結果は、先に述べた実験に基づく仮説を肯定するものである。
(4) マイクロ流体デバイスを用いた細胞の低酸素応答に関する研究
3 次元微小環境下の細胞に対し、周囲の酸素分圧を制御しながらリアルタイムかつ高解像度の観察
を可能にするマイクロ流体デバイスを用い、血管内皮細胞の物質透過性の酸素分圧による変化を定
量評価した。マイクロ流体デバイス内に配置したコラーゲンゲル表面に血管内皮細胞の単層を形成
し、細胞培養液に混合して注入する蛍光デキストランのゲル内への拡散を蛍光顕微鏡により観察す
る方法により、酸素分圧による物質透過性の変化を定量的に明らかにした。
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