会員 寄稿 - 新潟県医師会

35
会員
寄稿
腰痛症の対処-米国の常識、
日本の常識
山
﨑
芳
彦
2015年暮れ、トヨタ自動車勤務の米国女性が、
副社長として日本に転勤してきた。世界のトヨタ
の副社長として、女性の抜擢は日本を驚かせた。
これだけでも大ニュースであるが、
報道によれば、
彼女は以前から腰痛に悩んでいたため、米国にい
る父親から鎮痛薬を日本に送ってもらった。とこ
ろがこの鎮痛薬に麻薬が含まれていたため、大騒
ぎとなり、麻薬の密輸として大きな批判を浴びる
ことになってしまった。
家内の叔母は70歳代半ばであり、シアトルにあ
るワシントン大学(写真)の教授をしているが、
ワシントン大学キャンパス
米国の教授には定年がないため今でも現役を続け
ている。以前から、やはり腰痛に悩んでおり、最
Meloxicam をもらっている。しかし、胃の調子
近、MRI スキャンで第4腰椎の変形が見られ、
が悪くなるという。日本ではこのような NSAID
手術を勧められた。彼女の専門は医学と関係ない
を投与するときは、制酸剤などの胃薬を併用する
ため、身近に直接相談する医師がおらず、当方に
のが普通であると返事、また、別の医師からは
メールで資料を送ってきて意見を求めてきた。ワ
Hydrocodon を処方されたとのこと。これだと胃
シントン大学の3か所の付属病院等で、3人の整
の調子は悪くならず、自分に合っている気がする
形外科医の診察を受け、何れも手術を勧められた
という。Hydrocodon はコデインを含む合成麻薬
が、どの医師に手術をしてもらったらよいかとい
であり、日本では厳重に管理され、少量なら咳止
うものであった。3人の医師各々の、出身大学、
めなどに使用されるが、主に癌性疼痛などに用い
トレーニングを受けた病院、専門領域、現在の病
られ、腰痛などには使用できないと返事をした。
院の地位、表彰歴、学会の発表歴、論文などがか
米国では、コデインはうまく使えば、副作用や習
かれてあった。何れも立派な経歴であったが、米
慣性に陥ることも少なく、ある程度強い腰痛に対
国 で は、 重 大 な 治 療 を 受 け る と き Second
して、気楽に処方されているらしい。先のトヨタ
Opinion などを聞いて、このように調べてから手
の副社長も、おそらく、この薬剤を処方されたの
術を受けるのが普通なのであろうか、米国の医師
であろう。ところが、米国では簡単に使われてい
も大変だと思った。何れの医師も優秀と思われる
るため、何のわだかまりもなく麻薬管理の厳しい
が、手術はテクニックを伴うので、経歴や資料だ
日本に持ち込んでしまったのであろう。違法な麻
けで判断することは難しい、一番良いのは、実際
薬の持ち込みは死刑になる国もあり、国により扱
手術を受けた人を知っていたら、その人から経過
いもさまざまだが、その国の常識が、他の国には
を聞くのが一番だなどと返事をした。
通じないことがあることは肝に命じておく必要が
腰痛薬が投与されているが、
一人の医師からは、
あろう。
(白根大通病院)
新潟県医師会報 H28.4 № 793