A 村,B 村はともに人口が 10 人で,消費が貧困ライン

貧困指標についての補足(開発経済論)
A 村,B 村はともに人口が 10 人で,消費が貧困ラインを下回っている人が 3 人であると
しよう。それぞれの村の貧困者の消費が下の図 1 のようなとき,貧困率はどちらの村も 30%
だが,貧困の深刻さは大きく異なる(B 村の方が貧困は深刻)
。
図1
このように貧困率という指標だけでは,貧困の深刻さは計測できない。そこで,貧困率と
あわせて,貧困ギャップ率や二乗貧困ギャップ率という指標が用いられる。
貧困ギャップとは,貧困者の消費額を貧困ラインまで引き上げるためにいくら必要にな
るかという金額である(図 2)
。たとえば,A 村の 3 人の貧困者の貧困ギャップはそれぞれ,
1 ドル,0.8 ドル,0.2 ドルであり,A 村全体で貧困ギャップは 2 ドルとなる。一方,B 村の
3 人の貧困者の貧困ギャップはそれぞれ 1.5 ドル,1.2 ドル,1 ドルで,B 村全体で貧困ギ
ャップは 3.7 ドルとなる。したがって,B 村の方が貧困は深刻である。
図2
貧困ギャップ率は,上で求めた貧困ギャップの総額を,人口規模や,消費額および貧困ラ
インの単位(ドルかセントかなど)にかかわらず比較可能な率にするために,人口と貧困ラ
インで割ったものである。この例では,
A 村の貧困ギャップ率:2.0 ドル/(10 人×2.0 ドル)=0.1
B 村の貧困ギャップ率:3.7 ドル/(10 人×2.0 ドル)=0.185
貧困ギャップ率により,貧困率からは知ることができない貧困の深刻度を計測すること
ができる。しかし,貧困ギャップ率には,貧困者の間での不平等が反映されない。たとえば,
図 3 において,C 村も D 村も貧困ギャップは 1.8 ドルである。しかし,貧困者の間での不
平等度は大きく異なる(D 村の方が不平等)。
図3
二乗貧困ギャップ率は,ひとりひとりの貧困者の貧困ギャップの二乗を合計して,人口
と,貧困ラインを二乗した数で割ったものである。C 村と D 村の人口がともの 10 人であ
るとすれば,
C 村の二乗貧困ギャップ率: (1.02+0.82)/(10 人×2.02)=0.041
D 村の二乗貧困ギャップ率: (1.52+0.32)/(10 人×2.02)=0.0585
貧困ギャップ率が,貧困ラインからの乖離に比例するのに対し,二乗貧困ギャップ率は
貧困ラインからの乖離の二乗に比例する。すなわち,二乗貧困ギャップ率は,より貧困ラ
インからの乖離が大きい(貧困者のなかでもより貧しい)人の消費額の増加に,より大き
く反応する。たとえば,消費額が 0.5 ドルの人の消費額が 1 ドル増加する方が,消費額が
1 ドルの人の消費額が 1 ドル増加するよりも,二乗貧困ギャップ率が大きく改善する。
貧困の状況をより詳細に把握するためには,貧困率だけではなく,貧困ギャップ率や二
乗貧困ギャップ率も合わせて考慮する必要がある。特に,貧困削減の政策目標として,貧
困率だけが用いられると,貧困者の中では最も消費額の高い人から順番に政策の対象とさ
れることになるため注意が必要である。
参考文献
国際協力総合研修所『指標から国を見る~マクロ経済指標,貧困指標,ガバナンス指標の
見方~』第 3 章(p.102~105)