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日本大学英文学会 5 月例会
発表梗概
『楽園の喪失』において、御子はセイタンを
【研究発表 1】
倒し、人類の英雄となることが予言されている。
Paradise Lost におけるアーサー王物語的要素
中世という旧時代の英雄であるアーサー王の
-Le Morte d'Arthur との比較を通して-
イメージをセイタンに重ね、彼を御子が倒すこ
とで、ミルトンは御子こそがアーサー王に代わ
小川 佳奈(博士後期課程1年)
る新たな普遍的英雄であることを示している
のだ。
17 世紀の英国叙事詩人 John Milton(1608-74)
は、かつて志していた King Arthur と円卓の
【研究発表 2】
騎士の伝説を題材とする国民的叙事詩の執筆
を、時の Stuart 朝が自らの王権の正当性を
属格の通時的研究—四福音書を中心に—
主張するためにアーサー王を利用した経緯か
ら断念した。その一方でミルトンは、アーサー
今滝 暢子(博士後期課程3年)
王物語を構成する騎士道物語的要素とキリスト
教的要素を、自らの叙事詩に組み込んでいる。
古英語は屈折形態のひとつとして属格の形
本発表ではミルトンの叙事詩におけるこれら
を持っており、所有・所属、内容、分離、同格、
2 つのアーサー王物語の要素を、他のアーサー
目的格、主述の関係、形容詞的な修飾関係等、
王作品との比較を通して分析することで、ミル
様々な意味を表すのに用いられていた。現代
トンが中世イングランドの英雄であるアーサ
英語に至る過程で、それらの役割は of に引き
ー王をどのように捉えているのかを考察する。
継がれたとされる。
比較する作品には、ミルトンの叙事詩には
Paradise Lost (1667)、アーサー王作品には
(1)the son of my friend
The Post-Vulgate Cycle(1230-40)や他のアー
(2)He is proud of his daughter.
サー王物語の作品を編集し、世界で初めて英語
(3)They cleared the pavement of snow.
[所有・所属]
[内容]
で書かれたアーサー王物語である、Sir Thomas
[分離]
Malory ( 1399-1471 ) の Le Morte d’Arthur
(4)the virtue of charity
(1470-85)を選択する。
(5)the search of the house by the FBI
[同格]
ミルトンは騎士道物語の要素とキリスト教
[目的格]
的説話の要素を、それぞれ異なる場面や登場人
(6)the appearance of the king [主述の関係]
物に対して用いている。騎士道物語に見られる
(7)a brute of a man(=brutal man)
要素は堕天使 Satan と彼の部下である堕天使
[形容詞的な修飾関係]
達を表現する際に用いられ、特にセイタンの
描写にはアーサー王のイメージが重ねられて
また、現代英語では his, her, their 等の代名詞
いる。一方、キリスト教的説話に見られる神や
の所有を表す形態に名残があるが、古英語に
御子と人間の交流の形式は、『楽園の喪失』に
見られるような格標識(マーカー)は完全に
おけるそれと非常に類似している。つまり、人
消失している。(現代英語において所有を表す
間は言葉を通して神と交流することは勿論、視覚
‘s は、Saxon genitive とも呼ばれるが、文法的
や嗅覚によっても神や御子を感じ取るのである。
な格を表すものではないとされる。
)
日本大学英文学会 5 月例会
発表梗概
本発表は、属格の用法の変遷を検証する実証
的研究の、現段階での成果及び展望を報告する
ものである。言語資料として四福音書を扱い、
古英語・中英語・初期近代英語・現代英語に
おける Saxon genitive と of を用いた表現に
関して、それぞれの出現頻度およびその用法の
変化を考察する。