平成 28 年熊本地震 現地調査レポート

平成 28 年熊本地震
現地調査レポート
2016 年 5 月
応用アール・エム・エス株式会社
目 次
1. はじめに ................................................................
..............................................................................
..............................................1
2. 地震・地震動の特徴 ................................................................
....................................................................
....................................2
(1) 地震の特徴 .......................................................................... 2
(2) 地震動の特徴 ........................................................................ 4
3. 現地調査報告 ................................................................
.........................................................................
......................................... 11
(1) 調査概要 ........................................................................... 11
(2) 益城町 ............................................................................. 13
(3) 西原村 ............................................................................. 26
(4) 地表に出現した断層の確認 ........................................................... 31
(5) その他の地域 ....................................................................... 35
4. 地震動と建物被害についての検討 ........................................................
........................................................ 47
(1) 地震動の検討 ....................................................................... 47
(2) 建物被害の検討 ..................................................................... 51
(3) 調査地域の地形・地質と建物被害分布に関する考察 ..................................... 55
5. おわりに ................................................................
.............................................................................
............................................. 62
1. はじめに
平成 28 年(2016)年熊本地震では、4 月 14 日午後 9 時 26 分に発生した M6.5 の前震、4 月 16 日午前 1
時 25 分に発生した M7.3 の本震により、地震発生から約 1 カ月経過した現時点で震災関連死を含めて 69
名の死者・行方不明者、約 78,000 棟の住家被害という非常に大きな被害が発生しました。また、この時
点でも 1 万人以上の方たちが避難を余儀なくされています。お亡くなられた方およびそのご遺族の方には
謹んでお悔やみを申し上げますとともに、被災された方々に、心よりお見舞い申し上げます。
科学が発達した現在においても、大きな地震が発生する度に新たな事象や課題を私たちに突き付けます。
阪神・淡路大震災では、
「断層近傍による大きな地震動による建物の倒壊」
、
「震災の帯の発生」
、
「地震後
の通電による延焼火災の発生」
、東日本大震災では、
「想定されてなかったM9クラスの地震の発生」
、
「広
域的な津波被害」
、
「原発災害」が議論となりました。今回の地震でも、
「広域で活発な余震活動」
、
「震度
7 の地震が短期間で 2 回発生したことによる建物被害への影響」
、
「車中で避難生活をした人たちのエコノ
ミークラス症候群の発生」といったことがキーワードとして報道されています。地震防災は一筋縄ではい
かないということを今回の地震でも改めて思い知らされました。
弊社は、地震リスクを定量化してお客様に提供し、リスクマネジメントに役立てて頂くことを主要な業
務としており、地震の揺れと被害との関係が常に大きな関心事であり課題となっています。その課題を解
決する上で、実際の被害を観察することが最重要であると考え、被害地震が起こる度に職員を派遣して現
地調査を行って参りました。
平成 28 年(2016)年熊本地震においても、その被害の発生を受けて地震発生から約1週間後の 4 月 22~
23 日に職員を派遣して現地調査を実施しました。限られた時間の中での調査であり、十分な調査を実施
したとは言えませんが、建物の被害を中心に、熊本市、宇土市、菊池市、大津町、益城町、西原村といっ
た範囲を調査いたしました。調査中、益城町や西原村では多くの倒壊建物に遭遇し、地震による被害の激
しさを目の当たりにしました。
本報告は、その現地調査結果をとりまとめ、公表されている資料・データをもとに地震動や被害をどの
程度説明できるか検討した内容となっています。本文では、算定根拠などの詳細な説明は省いているため、
専門家の皆様には説明不足と感じる部分が多々あるかと思いますがこの点についてはご容赦願います。本
書が多少なりとも、平成 28 年(2016)年熊本地震に関する知見としてみなさんの理解の一助となれば幸い
です。
最後になりましたが、平成 28 年(2016)年熊本地震で大きな被害に見舞われた被災地の一日も早い復興
を願っております。また、現地調査において被災地でご協力いただいた方々にはこの場を借りて御礼申し
上げます。
1
2. 地震・地震動の特徴
(1) 地震の特徴
2016 年熊本地震は、その地震活動が前震→本震→余震で推移し、前震・本震で連続して最大震度 7(前
震:益城町役場、本震:益城町役場、西原村役場)を記録した観測史上これまでに例の無い地震です。前
震は 2016 年 4 月 14 日 21 時 26 分頃、本震 2016 年 4 月 16 日 1 時 25 分頃に熊本県内で発生し、地震の規
模を示す気象庁マグニチュードは前震が M6.5(モーメントマグニチュード Mw6.2)
、本震が M7.3(モーメ
ントマグニチュード Mw7.0)と推定されています。また、防災科学技術研究所(以下、防災科研と表記)
の解析によりますと、本震発生直後に当該震源からやや離れた大分県内でも別の断層が誘発され 1)、K-NET
湯布院観測点で震度 6 強となる地震が発生しています。しかしながら、本震直後であることから誘発地震
の地震波の初動部分を抽出することが困難で、誘発地震の震源の特定には至っておりません。
前震・本震の地震発生メカニズムは前震が南北方向に張力軸をもつ横ずれ断層型、本震が北西-南東方
向に張力軸をもつ横ずれ断層型と解析されており(図 2-1 参照)2)、南北方向の張力場が卓越する九州中
部地域のテクトニクスと概ね整合しています。この地震の震源付近には、以前から布田川・日奈久断層帯
が確認されており、地震調査研究推進本部による全国地震動予測地図で推定されていた布田川・日奈久断
層帯の断層位置 3)と地殻変動から推定した国土地理院による 2016 年熊本地震の震源断層モデル 4)を重ね
ると、前震は日奈久断層帯高野-白幡区間、本震は布田川断層帯布田川区間に相当する範囲が動いたこと
が分かります(図 2-2 参照)
。
2016 年熊本地震の特徴として、活発な余震活動が挙げられます。4 月 14 日の地震発生以来、わずか2
週間で体に感じる震度 1 以上の地震は 1,000 回を超え、1995 年兵庫県南部地震以降で観測された内陸地
震の中では余震の発生が最も多い地震となっています。気象庁一元化震源のデータ
5)
を用いて、M2.0 以
上の地震の震央分布を前震から本震までの期間、本震以降の期間に分けて表示しますと、前震から本震ま
での期間は前震の震源断層の付近にほぼ限定していますが、本震以降は分布域が一気に広がり、本震・前
震の震源断層沿いだけでなく、北東側の延長上の阿蘇地域、更には大分県内の誘発地震が発生したとみら
れる領域や前震の震源断層の南西側の延長上にも余震域がみられます(図 2-3 参照)
。
前震(M6.5)
本震(M7.3)
図 2-1 2016 年熊本地震前震・本震による地震発生メカニズム
(気象庁報道発表資料 2)による)
2
図 2-2 推定されていた布田川・日奈久断層帯の断層位置
(防災科研地震ハザードステーション 3)による)
と 2016 年熊本地震の震源断層モデル(国土地理院 4)による)
前震から本震まで
130.20
33.40
130.40
130.60
130.80
本震以降4月27日まで
131.00
131.20
131.40
131.60
130.20
33.40
33.20
33.20
33.00
33.00
32.80
32.80
32.60
130.60
130.80
131.00
131.20
131.40
32.60
32.40
0
32.20
130.40
20km
深さ(km)
50km以上
40~50km
30~40km
20~30km
10~20km
0~10km
地震規模
M8.0以上
M7.0~7.9
M6.0~6.9
M5.0~5.9
M4.0~4.9
M3.0~3.9
M2.0~2.9
32.40
0
20km
深さ(km)
50km以上
40~50km
30~40km
20~30km
10~20km
0~10km
32.20
図 2-3 2016 年熊本地震の余震分布(気象庁一元化震源 5)による)と
震源断層モデル (国土地理院 4)による)
3
地震規模
M8.0以上
M7.0~7.9
M6.0~6.9
M5.0~5.9
M4.0~4.9
M3.0~3.9
M2.0~2.9
131.60
(2) 地震動の特徴
① 観測点の震度分布・速度波形について
2016 年熊本地震による気象庁・自治体の観測点の震度 6)は、前震が震度 7 が1地点、震度 6 強が 0
地点、震度 6 弱が 10 地点に対し、本震が震度 7 が 2 地点、震度 6 強が 12 地点、震度 6 弱が 24 地点で
観測されました。最大震度はいずれも 7 で同じですが、震度 6 強、6 弱といった揺れの強い領域は、
本震の方がはるかに広く分布しています(図 2-4 参照)
。
揺れの特徴を詳細に検討するため、防災科研や気象庁・自治体の観測波形の特徴や地震動分布を調
べました。観測波形の例として、本震の震源断層上端部のほぼ直上に位置し、本震で震度 7、ほぼ震
度 7 に相当する揺れを記録した、KiK-net 益城(計測震度:前震 6.48、本震 6.50)
、益城町役場(前
震 6.62、本震 6.78)
、西原村役場(前震 5.75、本震 6.62)による前震・本震の 3 成分の速度波形を図
2-5 に示します。地震の周期特性にもよりますが一般的に最大速度が 100kine を超えると耐震性の低
い住宅家屋には大きな被害が発生します。そうした観点から速度波形をみますと、本震ではいずれの
地点も東西方向の地震動が南北方向の地震動よりも最大速度が2倍程度大きく、100kine を大きく超
えています。特に西原村役場では 200kine を超えた波形が観測されています。なお、東西方向の地震
動が大きいのは、断層の走向方向に揺れが大きくなる、横ずれ断層による S 波の放射特性を反映して
いるためだと考えられます。一方、前震では益城町役場でのみ、100kine を超える波形が観測されて
います。
前震(M6.5)
本震(M7.3)
図 2-4 気象庁・自治体観測点による 2016 年熊本地震の震度分布
(気象庁 HP、震度データベース検索 6)より)
4
(kine)
2016熊本地震前震(M6.5) KiK-net益城(KMMH16) 南北成分 速度波形
100
Peak= 76.0
-100
100
2016熊本地震前震(M6.5) KiK-net益城(KMMH16) 東西成分 速度波形
Peak= 90.4
2016熊本地震前震(M6.5) KiK-net益城(KMMH16) 上下成分 速度波形
Peak= -55.7
2016熊本地震前震(M6.5) 益城町役場 南北成分 速度波形
Peak= 117.6
2016熊本地震前震(M6.5) 益城町役場 東西成分 速度波形
Peak= 135.4
2016熊本地震前震(M6.5) 益城町役場 上下成分 速度波形
Peak= -15.2
2016熊本地震前震(M6.5) 西原村役場 南北成分 速度波形
Peak= 34.1
2016熊本地震前震(M6.5) 西原村役場 東西成分 速度波形
Peak= -32.9
2016熊本地震前震(M6.5) 西原村役場 上下成分 速度波形
Peak= -7.5
2016熊本地震本震(M7.3) KiK-net益城(KMMH16) 南北成分 速度波形
Peak= 83.9
2016熊本地震本震(M7.3) KiK-net益城(KMMH16) 東西成分 速度波形
Peak= -136.5
2016熊本地震本震(M7.3) KiK-net益城(KMMH16) 上下成分 速度波形
Peak= -42.0
2016熊本地震本震(M7.3) 益城町役場 南北成分 速度波形
Peak= -94.1
2016熊本地震本震(M7.3) 益城町役場 東西成分 速度波形
Peak= -184.7
2016熊本地震本震(M7.3) 益城町役場 上下成分 速度波形
Peak= -44.2
2016熊本地震本震(M7.3) 西原村役場 南北成分 速度波形
Peak= 113.6
2016熊本地震本震(M7.3) 西原村役場 東西成分 速度波形
Peak= 215.9
2016熊本地震本震(M7.3) 西原村役場 上下成分 速度波形
Peak= -108.2
-100
100
-100
100
-100
100
-100
100
-100
100
-100
100
-100
100
-100
100
-100
100
-100
100
-100
100
-100
100
-100
100
-100
100
-100
100
-100
100
-100
0
10
20
30
40
50
60
(sec)
図 2-5 KiK-net 益城、益城町役場、西原村役場による 2016 年熊本地震前震・本震の速度波形
5
② 地震波の周期特性について
地震波の周期特性をみるために各強震観測点の水平 2 成分の波形から水平動の擬似速度応答スペク
トル(以下、pSv と表記)を計算しました。既述の 3 地点1の前震、本震の水平動の pSv と同じく内陸
地震の断層近傍で住宅の被害が大きかった 1995 年兵庫県南部地震の JR 鷹取駅(周辺全壊率:罹災証
明ベースで 50%以上)の pSv を重ねて、トリパタイトの図にして比較しました(図 2-6 参照)
。
一般的な木造住宅や中低層の非木造建物において全壊、倒壊といった大きな被害の発生率は、周期
1~2 秒のレベルと相関が高いとされています。したがって、周期 1~2 秒の平均的なレベルに着目し
ますと、いずれの観測点とも本震が前震のレベルを上回っており、本震の方が建物にはより大きな被
害が発生しやすい地震であったことが分かります。一方で前震においても、益城町役場の周期 1~2 秒
の平均的なレベルは、KiK-net 益城の本震のレベルを大きく超えています。
本震による益城町役場の周期 1~2 秒の平均的なレベルは、JR 鷹取駅のレベルを超えており、一般
的な木造住宅にとっては、より破壊的な地震動であったと推測され、国内で強震観測された波形の中
では史上最大のレベルといえます。また、非公式ながら大阪大学の秦吉弥先生の研究グループ 7)にお
いては、倒壊建物が多く発生した県道 28 号線の南側の地点で臨時の観測点を設置して、本震で計測震
度 6.9 という非常に大きな地震波を観測しています。そのため、この地域では益城町役場よりもさら
に破壊的な地震動であった可能性が高いです。
次に、免震建物や高層建物への影響が大きい長周期地震動についても検討しました。気象庁が発表
する長周期地震動階級 8)では、前震では熊本県熊本、本震では熊本県阿蘇、熊本県熊本の地域で最大
の階級である4が観測されています。そこで、上記3地点の前震、本震の pSv の長周期地震動のレベ
ルに着目しますと、本震の益城町役場、西原村役場では周期5秒において 100kine のレベルを超えて
いて、これまで観測された国内の強震波形の中では史上最大級の長周期地震動のレベルとなっていま
す。特に西原村役場では周期5秒で 200kine を超えており、変位応答では2mに相当するレベルとな
っています。仮に村役場の庁舎が免震建物であれば、大きな被害を受けたことが想定されます。
ただし、益城町役場や西原村役場のような自治体の観測点では震度計が建物内に設置されているた
め、建物の影響が地震波形に反映されているという指摘があります。したがって、どのような周期帯
に影響を及ぼしているのか検証することが、震源断層直上の地震波の生成要因を調べる上でも重要に
なるといえます。
1
益城町役場、西原村役場、KiK-net 益城の 3 地点
6
pSv(kine)
1000
l)
a
(g
Sa
00
500500
減衰定数 h=5.0%
Sd
(cm
)
10
00
500
0
00
20 200
20
0
00
50
50
10
0
応答スペクトル
00
100100
50
00
20
20
0
100
10
50
0
5
20
凡例
200
2
10
0
1
0.1
KiK-net益城 2016熊本地震本震M7.3
益城町役場 2016熊本地震本震M7.3
西原村役場 2016熊本地震本震M7.3
KiK-net益城 2016熊本地震前震M6.5
益城町役場 2016熊本地震前震M6.5
西原村役場 2016熊本地震前震M6.5
JR鷹取 1995兵庫県南部
0.2
0.5
10
5
2
1
2
5
10
周期(sec)
図 2-6 KiK-net 益城、益城町役場、西原村役場による 2016 年熊本地震前震・本震の pSv と
1995 年兵庫県南部地震の JR 鷹取駅の pSv の比較
③ 地震動の面的予測について
2016 年熊本地震による前震、本震の防災科研、気象庁、自治体の各観測点の地震波形を利用して、
空間補間法により 250m メッシュ単位(基盤は 1km メッシュ単位)で地震動分布を推定しました。表層
地盤の影響は微地形区分に基づき、簡易に評価しています。図 2-7 に前震・本震の震度分布、図 2-8
には同じく住宅に影響が大きい pSv1 秒のレベル(水平2成分合成)の分布を示します。この結果によ
ると益城町は前震、本震の両方で震源断層の直上に位置し、町のほぼ全体がいずれの地震でも震度 6
強~7 の強い揺れに見舞われたことが分かります。
住宅に影響が大きい pSv1 秒のレベルに着目しますと、益城町役場の南側の倒壊建物が多く発生した
地域では前震・本震ともに計算上 500kine を超える領域がみられ、連続して破壊的な地震動を受けて
被害を拡大させた可能性があることがこの結果からも伺えます。
7
2016 年 4 月 14 日 前震(M6.5)
130.50
130.60
130.70
130.80
130.90
131.00
131.10
131.20
山鹿市
南関町
和水町
産山村
33.00
菊池市
阿蘇市
玉名市
32.90
玉東町
合志市
大津町
熊本市北区
菊陽町
南阿蘇村
熊本市東区
熊本市西区
32.80
高森町
西原村
熊本市中央区
益城町
嘉島町
熊本市南区
32.70
御船町
宇土市
山都町
甲佐町
宇城市
美里町
32.60
0
10km
氷川町
震度階
7
6強
6弱五ヶ瀬町
5強
5弱
4
3
2
1以下
2016 年 4 月 16 日 本震(M7.3)
130.60
130.80
131.00
131.20
山鹿市
南関町
和水町
産山村
33.00
菊池市
阿蘇市
玉名市
玉東町
合志市
大津町
熊本市北区
菊陽町
南阿蘇村
熊本市東区
熊本市西区
熊本市中央区
32.80
高森町
西原村
益城町
嘉島町
熊本市南区
御船町
宇土市
山都町
甲佐町
宇城市
32.60
0
10km
美里町
氷川町
震度階
7
6強
6弱
五ヶ瀬町
5強
5弱
4
3
2
1以下
図 2-7 2016 年熊本地震前震(M6.5)と本震(M7.3)の 250m メッシュ別推定震度分布
8
2016 年 4 月 14 日 前震(M6.5)
130.50
130.60
130.70
130.80
130.90
131.00
131.10
131.20
山鹿市
南関町
和水町
産山村
33.00
菊池市
阿蘇市
玉名市
32.90
玉東町
合志市
大津町
熊本市北区
菊陽町
南阿蘇村
熊本市東区
熊本市西区
32.80
高森町
西原村
熊本市中央区
益城町
嘉島町
熊本市南区
32.70
御船町
宇土市
山都町
甲佐町
宇城市
美里町
32.60
0
10km
氷川町
pSv(cm/s)
500~
200~500
五ヶ瀬町
100~200
50~100
20~50
10~20
5~10
1~5
0~1
2016 年 4 月 16 日 本震(M7.3)
130.60
130.80
131.00
131.20
山鹿市
南関町
和水町
産山村
33.00
菊池市
阿蘇市
玉名市
玉東町
合志市
大津町
熊本市北区
菊陽町
南阿蘇村
熊本市東区
熊本市西区
熊本市中央区
32.80
高森町
西原村
益城町
嘉島町
熊本市南区
御船町
宇土市
山都町
甲佐町
宇城市
32.60
0
10km
美里町
氷川町
pSv(cm/s)
500~
200~500
100~200
五ヶ瀬町
50~100
20~50
10~20
5~10
1~5
0~1
図 2-8 前震(M6.5)と本震(M7.3)の 250m メッシュ別 pSv1 秒の推定レベル分布
9
参考文献
1) 青井真:地震観測データから見た熊本地震災害,2016 年熊本地震緊急報告会,防災科学技術研究所,
2016.4.
2) 気象庁:平成 28 年報道関係資料,http://www.jma.go.jp/jma/press/index.html?t=1&y=28.
3) 防災科学技術研究所,地震ハザードステーション,http://www.j-shis.bosai.go.
4) 国土地理院:平成28年熊本地震に関する情報,
http://www.gsi.go.jp/BOUSAI/H27-kumamoto-earthquake-index.html.
5) 気象庁ほか:気象庁一元化震源,http://www.hinet.bosai.go.jp.
6) 気象庁:震度データベース検索,http://www.data.jma.go.jp/svd/eqdb/data/shindo/index.php.
7) 秦吉弥:地震動・地盤震動,平成 28 年(2016 年)
熊本地震地震被害調査結果速報会, 土木学会, 2016.4.
8) 気象庁:長周期地震動に関する観測情報(試行)
,
http://www.data.jma.go.jp/svd/eew/data/ltpgm/eq_list.html.
10
3. 現地調査報告
(1) 調査概要
① 調査目的
平成 28 年熊本地震において大きな被害が発生した熊本県上益城郡益城町・西原村・熊本市東区を中
心とした地域を対象に、建物の被害状況について調査を実施しました。
② 調査日
平成 28 年(2016 年)4 月 22 日(金)
・23 日(土)
③ 調査地点
熊本県上益城郡益城町・西原村・熊本市東区を中心とした以下の 7 地域で調査を行いました。図 3-1
には調査地域の位置図を示します。
1) 益城町
---
震度 7 を観測した益城町役場周辺、防災科学技術研究所の強
震観測点 KiK-net 益城周辺、安永・木山・宮園・惣領地区の
うち被害が大きい県道 28 号線以南を中心に被害状況の確認
を行いました。
2) 西原村
---
震度 7 を観測した西原村役場周辺のほか、風当・古閑・名ヶ
迫地区の被害状況について確認しました。
3) 地震断層
---
益城町下陳・堂園、西原村小森にて地表に現れた震源断層を
確認しました。
4) 熊本市東区
---
防災科学技術研究所の強震観測点 K-NET 熊本周辺、熊本市東
区健軍町、同西原・保田窪、熊本市民病院の被害状況につい
て確認を行いました。
5) 菊池市
---
防災科学技術研究所の強震観測点 KiK-net 菊池周辺や菊池市
役所周辺の被害状況を確認しました。
6) 大津町
---
大津町役場周辺の被害状況を確認しました。
7) 宇土市
---
大きな被害を受けた宇土市役所とその周辺地域の被害状況の
確認を行いました。
以降では、各地の被害状況について示します。
11
菊地市
大津町
⻄原村
熊本市東区
益城町
地表断層(が出現した地域)
宇土市
背景は地理院地図(標準地図)を使⽤
図 3-1 現地調査位置図
12
(2) 益城町
益城町は、熊本市の東側に隣接する町で、震源断層の真上に位置し、今回の地震で最も大きな被害を出
した地域の一つです。益城町役場にある震度計では、前震・本震ともに震度 7 を観測しました。現地調査
は、地震計が設置されている益城町役場、KiK-net 益城の周辺地域の被害状況を確認するとともに、安永・
木山・宮園・惣領地区のうち被害が大きい県道 28 号線以南を中心に現地調査を実施しました。益城町の
調査対象地域を図 3-2 に示します。
KiK-net 益城周辺
益城町役場周辺
宮園・木山・安永地区
惣領地区
背景は地理院地図(標準地図)を使⽤
図 3-2 益城町の現地調査位置図
13
① 益城町役場周辺
前震・本震ともに震度 7 を観測した益城町役場周辺の被害状況について、益城町役場の東側と南側を
中心に確認しました。
益城町役場の東側には住宅地が広がっていましたが、多くの住宅がなんらかの被害を受けていました。
特に、瓦葺の古い木造住宅では複数の住宅が倒壊していまいした。倒壊していない住宅でも、1 階部分
の大きな残留変形、外壁の損傷、屋根瓦の落下などの被害を受けていました。被害を受けた住宅の残留
変形や建物倒壊の向きは、多くが東西方向でした。また、ブロック塀や石積擁壁の被害も確認されまし
た。町役場の東側に墓地がありましたが、ほとんどの墓石が転倒していました。
益城町役場の南側(町役場と県道 28 号線の間の地区)には、県道沿いに店舗があり、その北側は住
宅地となっていました。住宅地では、複数の住宅が倒壊していましたが、倒壊した住宅は瓦葺の住宅が
ほとんどでした。
益城町役場(震度観測点)
図 3-3 益城町役場周辺の調査建物と建物倒壊状況
(注意:本図は地区毎の被害傾向を表現するために作成したもので、建物悉皆調査の結果ではない。なお、凡例の D0~D5
はダメージグレードを示している。調査建物には無被害建物も含んでいる。
)
14
⻄
東
写真 3-1 益城町役場の東側にある墓地
写真 3-2 写真 3-1 の東側に隣接した住宅
殆どの墓石が転倒している。
1 階部分が破壊し、倒壊した住宅が墓地(西側)に
せり出している。
東→
←⻄
写真 3-3 2 階建共同住宅(益城町木山)
写真 3-4 1 階が破壊された住宅(益城町木山)
2 階部分が東に移動し 1 階部分に残留変形が残る。
←東
⻄→
写真 3-5 1 階が破壊された住宅(益城町木山)
写真 3-6 崩壊した道路沿いの石積宅地擁壁
乗用車が下敷きになっており、1 階部分は駐車場で
あったと推測される。
(益城町木山)
15
東→
←⻄
写真 3-7 壁面材が大幅に剥落した住宅
写真 3-8 1 階部分が破壊した住宅
門柱も傾いている
写真 3-9 屋根瓦の落下・壁面材の亀裂や剥落が認
められる住宅。1 階の柱は傾いている。
写真 3-11
写真 3-10
1 階・2 階境界部の壁面に大きな亀裂が
ある住宅(住宅の西側壁面にあたる)
宅地擁壁の被害
写真 3-12
コンクリート擁壁の亀裂・剥落がみられる
16
屋根瓦が落下し壁面材が剥落した住宅
② KiK-net 益城周辺
益城町辻の城にある防災科学技術研究所の強震観測点 KiK-net 益城周辺の被害状況について確認し
ました。観測点周辺は造成された住宅団地のようになっていますが、建物の外観から判断する限り、建
物の建築時期は様々と思われます。図 3-4 に KiK-net 益城の周辺の調査建物と倒壊状況について示しま
したが、図 3-4 の道路Aよりも北側の地区では、調査した限りでは倒壊した住宅は確認できませんでし
た。これらの地域の被害は、屋根材の落下や壁面の亀裂・剥落が殆どでした。道路A周辺では瓦葺住宅
の多くで瓦の落下がみられました。
図 3-4 の地点B付近には新しい住宅(2 階建スレート葺サイディング貼り住宅)で 1 階が破壊された
ものや 1 階に大きな残留変形が残る建物がありました。この付近は地点Bと国道 443 号線に高低差があ
るため、道路は東側に向けて下っており、地形の影響によって局所的に被害が発生した可能性がありま
す。
道路Aから南側の地区では、
その他にも 1 階が層崩壊した 2 階建住宅や宅地擁壁の被害が確認され、
道路Aの北側よりもやや被害が大きい傾向がありました。
KiK-net 益城
道路 A
地点 B
益城町役場(震度観測点)
図 3-4 KiK-net 益城周辺の調査建物と建物倒壊状況
(注意:本図は地区毎の被害傾向を表現するために作成したもので、建物悉皆調査の結果ではない。なお、凡例の D0~D5
はダメージグレードを示している。調査建物には無被害建物も含んでいる。
)
17
写真 3-13
KiK-net 益城観測点
写真 3-14
KiK-net 益城周辺の住宅
1 階壁面の角に亀裂がある(応急危険度判定:赤)
写真 3-15
KiK-net 益城周辺の住宅
写真 3-16
左側の新しい住宅には外観上の被害は見られない。右側
の住宅は屋根瓦が落下している。
図 3-4 道路A南側の 2 階建共同住宅
スレート葺の屋根材が落下している
国道 443 号線
写真 3-17
辻の城周辺の被害状況(図 3-4 道路A付近)
瓦葺の多くの建物で屋根瓦が落下しているが、倒壊した建物はほとんどない
18
写真 3-18
図 3-4 道路Aの南側の被害状況
宅地擁壁が崩壊している。
写真 3-19
図 3-4 道路Aの南側の被害状況
1 階部分が崩壊し、1 階の軒が地面に近い位置にある
住宅D
住宅C
写真 3-20
図 3-4 地点Bの被害状況
住宅Cは 1 階部分が層崩壊し、住宅Dの 1 階は残留変形が認められる。道路面には亀裂がみられる。
東→
←⻄
写真 3-21
写真 3-20 の住宅C
写真 3-22
1 階部分が崩壊している。
写真 3-20 の住宅D
1 階部分は西に傾いている。
19
③ 宮園・木山・安永地区(県道 28 号線以南の地域)
益城町宮園・木山・安永地区の県道 28 号線以南の地域の被害状況について現地にて確認しました。
この地域は、①益城町役場周辺、②KiK-net 益城周辺と比べると被害が大きく、倒壊した建物や倒壊は
免れたものの残留変形の大きい建物が多く分布していました。調査した建物や今回の調査で確認できた
倒壊建物の分布を図 3-5 に示しました。県道 28 号線沿いでは倒壊建物や残留変形の大きな建物を多数
確認しましたが、その多くは東西方向(県道 28 号線と平行)に倒壊または変形していました。4 階建
建物で 2 階部分が潰れた建物もありました(写真 3-26 参照)
。
また、県道 28 号線から県道 235 号線沿いに南側(秋津川方向)へ下っても、被害を受けた建物は多
い状況でした。倒壊した建物や残留変形の残る建物の多くは、他の地区と同様に東西方向に倒れたり変
形しており、地震動の東西成分が被害に大きな影響を与えたと考えられます。
益城町役場(震度観測点)
図 3-5 県道 28 号線以南の地区の調査建物と建物倒壊状況
(注意:本図は地区毎の被害傾向を表現するために作成したもので、建物悉皆調査の結果ではない。なお、凡例の D0~D5
はダメージグレードを示している。調査建物には無被害建物も含んでいる。
)
20
←東
⻄→
建物 A
東
⻄
写真 3-23
県道 28 号線の南側の建物
写真 3-24
左側の建物は 1 階が層崩壊し、右側の建物の 1 階は
大きな残留変形が認められる。いずれも西側(写真
右側)に傾斜・圧潰している。
←東
(木山下町バス停付近)
1 階部分が西側(写真右側)に圧潰している。
⻄→
写真 3-25
県道 28 号線の南側の建物
東→
←⻄
写真 3-24 の建物A
写真 3-26
1 階部分が西側(写真右側)に傾斜・倒壊し、2 階
部分が道路を塞いでいる。
県道 28 号線の北側の建物
(木山下町バス停付近)
2 階部分が潰れ、3 階と 4 階が西側に倒れている。
写真左の白い車両の上に屋根がある訳ではない。
東
⻄
←東
写真 3-27
写真 3-28
1 階部分に残留変形の残った S 造店舗
21
⻄→
1・2 階ともに大きく傾いた店舗
東→
←⻄
写真 3-29
県道 235 号線 木山橋~木山交差点の
写真 3-30
被害状況(1)
県道 235 号線 木山橋~木山交差点の
被害状況(2)
2 階に大きな残留変形の残る建物。東に向かって変位
している。
左側の瓦葺建物は崩壊している。
⻄
東
写真 3-31 木造 2 階建建物の 1 階部分が崩壊した建物
写真 3-33
瓦屋根の落下や壁面に亀裂のある住宅
外観から比較的古い建物と推測されるが倒壊はして
いない。
西側に向かって倒壊している。
←東
写真 3-32
⻄→
県道 28 号線と秋津川の間の被害状況
写真 3-34
倒壊した建物が複数みられる。
22
1 階部分が大きく破壊した建物
④ 惣領地区(惣領橋北詰周辺)
惣領地区では、秋津川に架かる惣領橋の北詰周辺を中心に被害状況を確認しました。惣領橋北詰周
辺の建物の倒壊状況を図 3-6 に示します。外観目視による判定ですが、調査建物の約 4 割が倒壊して
おり、大きな被害を出した地区の一つと思われます。
今回調査した惣領橋北詰周辺では、秋津川からやや離れた場所の方が秋津川に沿いの場所よりも倒
壊建物が多くみられる傾向がありました。この地域の地形は秋津川を南限に北から南に傾斜する緩傾
斜地になっています(図 4-12 参照)
。被害が大きかった場所はこの緩傾斜地の縁にあたる場所になっ
ています。一方で、惣領橋(図 3-6 参照)北側付近の沖積低地では倒壊した建物が見られませんでした。
この地域では冒頭に記載したように非常に多くの建物が倒壊していましたが、新しい建物で倒壊し
た建物は建築中のものを除いては確認されませんでした。ただし、駐車場となっていた 1 階部分に残
留変形がみられる新しい建物が確認されました(写真 3-38 参照)。
また、秋津川沿いを中心として、地盤の液状化現象や地盤変形が見られました(写真 3-39~3-42 参
照)。道路が川に向かって側方に移動して宅地内に亀裂が生じるとともに、道路が沈下している地点が
有りました。このほか、他の地点では、道路が沈降したことによって橋台が相対的に 35 ㎝ほど道路よ
り高くなっている地点や、マンホールの抜け上がりが生じている地点もありました。
図 3-6 益城町惣領地区(惣領橋北詰周辺)での被害状況
23
写真 3-35
倒壊した建物と転倒したブロック塀
写真 3-37
写真 3-39
写真 3-36
写真 3-38
道路にはみ出て倒壊した建物
宅地内に生じた亀裂と沈下した河川沿い
の道路
県道沿いでは多くの建物が倒壊
比較的新しいものの1階部分が変形した
建物
写真 3-40 河川側に移動した道路
(写真 3-39 と同地点)
24
写真 3-41
橋台が相対的に約 35 ㎝隆起
写真 3-42
25
マンホールの抜け上がり
(3) 西原村
西原村では、風当地区・古閑地区・名ヶ迫地区・西原村役場周辺の 4 地区(図 3-7 参照)で建物被害を中
心とした調査を実施しました。今回の調査では、建物の被害状況に関する悉皆調査は行っていませんが、
調査した 4 地区の中では風当地区の被害がもっとも大きく、2~3 割程度の建物が倒壊していました。古
閑・名ヶ迫地区は風当地区ほどの被害ではありませんでしたが、倒壊した建物が複数見られました。一方、
西原村役場周辺では、屋根瓦や壁が落下した建物は見られましたが、調査した範囲では、倒壊した建物は
確認できませんでした。
図 3-7 西原村調査地点図
① 風当地区
風当地区は西原村役場から北東へ約2km の位置にあり、今次地震の震源となった布田川断層帯は地
区南方にある大峰の縁を通っているものと考えられています 1)。
前述の通り、今回調査した西原村の中でも風当地区はもっとも大きな被害を受けており、倒壊した家
屋は全体の 2~3 割に及んでいました。倒壊などの深刻な被害を受けた建物はいずれも瓦葺きの木造家
屋でした。また、玄関部分など家屋の主要部分から突出した部分のみが倒壊しているケースがあるなど、
増改築部分に被害が集中している可能性もあります。
26
風当地区は盛土も大きな被害を受けているのが特徴として挙げられます。この地区は全体的に北西に
傾斜する緩傾斜地になっているうえ、大峰山麓から流れる小河川によって開析された細かい谷があるな
ど起伏に富んだ地形になっているため、宅地を作るために整地されている箇所が多くあります。このよ
うな造成された宅地では、家屋が無事であっても地盤に大きな被害を受けている場合も多く見られまし
た。特に、盛土によって整地されている宅地では、盛土の高さにかかわらず擁壁・石垣などが崩れてい
る箇所が多く確認されました。宅地以外でも盛土の被害が複数地点で見られ、盛土の崩壊によって地下
に埋設された水道管が露出している箇所もありました。
写真 3-43 手前の建物が倒壊しているほか、奥の家屋
も玄関と考えられる部分が倒壊している
写真 3-44 倒壊を免れているものの、1階部分が大き
く変形している
写真 3-45 建物には外観上の被害はないものの、地盤
が崩落し駐車されていた自動車が転倒している
写真 3-46 歩道下に埋設されていた水道管が被害を
受けて漏水している
27
② 古閑地区
古閑地区は西原村役場から北東に約 2.2km、風当地区の北西約 600m に位置し、風当地区の南縁を通
る布田川断層帯からの距離は概ね 600~700m であります。古閑地区は南西に下る緩傾斜地に位置してお
り、道路建設や整地に伴う法面の崩壊が至るところで見られました。倒壊している家屋は風当地区と比
べると少ないものの、瓦葺の古い家屋の一部が倒壊していました。
写真 3-47
道路法面が崩壊し土砂が建物内に流入宇
している
写真 3-49
外見上は被害を受けていない新しい建
物
写真 3-48
屋根瓦の落下等の被害
写真 3-50
28
倒壊した納屋
③ 名ヶ迫地区
名ヶ迫地区は西原村役場から北東へ約 1.3km に位置し、地区の南東側約 300~400m の位置を今次地震
の震源となった布田川断層帯が通っています
1)2)
。この地区で倒壊している建物はごく僅かで、屋根瓦
の落下などの被害も風当・古閑地区と比べると少なくなっています。ただし、1階部分が明らかに変形
している建物は複数箇所に見られました。また、建物には外観上は目立った被害が無くとも、宅地縁辺
部の段差部分にコンクリートブロック等で構築された土留めが崩壊するなどの被害がみられました。
写真 3-51
建物には外観上の被害はないものの宅地
の土留めが崩壊している
写真 3-53
写真 3-52
外観上は被害が確認できない建物
写真 3-54
29
倒壊した木造2階建瓦葺家屋
1 階部分に残留変形のある木造建物
④ 役場周辺
西原村役場は今次地震の震源となった布田川断層帯の北西約 500m に位置しており 1)2)、役場周辺には
小河川沿いの沖積低地を除いては約9万年前に大峰から流下した高遊原溶岩が形成した溶岩台地が広
がっています。前述の風当地区・古閑地区・名ヶ迫地区では倒壊した建物が見られましたが、役場周辺
では壁や瓦の落下といった被害は見られたものの倒壊した建物は調査した範囲内では確認できません
でした。
写真 3-55
屋根瓦が落下しブロック塀が倒壊した建
物
写真 3-57
応急危険度判定で要注意と判定された比
較的新しい建物
写真 3-56
写真 3-58
30
壁が落下した建物
盛土部分に生じた亀裂
(4) 地表に出現した断層の確認
今回の現地調査では布田川断層帯上の益城町下陳および益城町堂園、西原村小森の 3 か所で地表断層を
確認しました(図 3-8 参照)。今回の地震のメカニズムと調和的な北東-南西走向の右横ずれ変位の地表断
層がすべての地点で確認され、その変位量は概ね 1~2m程度でした(写真 3-59~3-62 参照)。
図 3-8 現地で確認した地表断層の位置
31
写真 3-59
益城町下陳に生じた横ずれ変位の断層
写真 3-61
写真 3-60
益城町堂園での右横ずれ変位
益城町下陳に生じた北西-南東走向の地表
断層
写真 3-62
西原村小森での右横ずれ変位
3 か所のうち、益城町下陳地区では北東-南西方向の右横ずれ断層のほかに、今回の逆断層のメカニズ
ムとは調和しない北西-南東走向の断層が確認しました(写真 3-60、図 3-9 参照)。この北西-南東走向の
地表断層は、段差を伴う田圃の畔で見かけ上曲がっていることから傾斜角は低角と考えられます。また、
田圃の稲の配列から地表面が圧縮する変位を受けている様子が読み取れることから逆断層であると考え
られます。
右横ずれ断層が卓越するなかで逆断層が生じた原因について検討しました。現地調査結果や空中写真の
判読結果から、この付近の地表断層は図 3-9 に示すように2列の横ずれ断層が平行に走り、南側の横ずれ
断層の北東端から北西に向かってこの逆断層が走っていると考えられます。現調査結果、空中写真の判読
結果、航空レーザー測量 3)などを参考に、断層の様子を模式的に表したものが図 3-10 です。図中の矢印
は、2つの右横ずれ断層の間の地盤(図中「ブロック①」)からみた周辺の地盤の相対的な動きを示してい
ます。北西-南東走向の地表に露出した低角な逆断層(図 3-10、赤線で記載)は図中のブロック①とブロッ
ク③-2 の境界線に位置しており、両ブロックが衝突する境界になっています。このことから、この逆断
層は、横ずれ断層が分岐・屈曲するなかで地盤同士が衝突することによって形成されたと考えられます。
32
図 3-9 益城町下陳付近の地表断層
(図中の矢印はブロック①から見た地盤の相対的な変位方向と変位量)
図 3-10 益城町下陳付近の地表断層模式図
地表断層が露出している地点付近の建物被害状況として、益城町下陳と益城町堂園の写真を、写真 3-63
~3-66 にそれぞれ示しました。益城町下陳付近では、屋根に損傷を受けている建物は多くみられるもの
33
の、層崩壊などの深刻な被害を受けた建物は限られています。一方で、益城町堂園では至る所に深刻な被
害を受けた建物が見られました。今回の調査では建物被害の悉皆調査は行っておらず、定量的な検討はで
きませんが、両地点(益城町下陳・堂園)の建物の被害率には差異があると思われます。
写真 3-63
益城町下陳の建物被害状況(1)
写真 3-64
益城町下陳の建物被害状況(2)
写真 3-65
益城町堂園の建物被害状況(1)
写真 3-66
益城町堂園の建物被害状況(2)
34
(5) その他の地域
本項では、益城町・西原村以外の調査結果を示します。具体的な調査地域は以下の 4 地域で、その位置
関係は図 3-11 に示す通りです。
① 熊本市東区
② 菊池市
③ 大津町
④ 宇土市
②菊池市
③大津町
①熊本市東区
④宇土市
背景は地理院地図(標準地図)を使⽤
図 3-11 調査位置図(その他の地域)
35
① 熊本市東区
熊本市東区は、大きな被害を出した益城町の西隣に位置し、防災科学技術研究所の強震観測点 K-NET
熊本があります。また、地震後の報道ではアパートやアーケードの倒壊等が伝えられていました。そこ
で、K-NET 熊本周辺、アーケードが倒壊したとの報道があった健軍商店街、マンションの倒壊が伝えら
れた西原地区や隣接する保田窪地区を中心に被害状況を確認しました。熊本市東区の調査地域の位置図
を図 3-12 に示します。
C)⻄原・保⽥窪地区
A)K-NET 熊本周辺
B)健軍地区
背景は地理院地図(標準地図)を使⽤
図 3-12 調査位置図(熊本市東区)
A)K-NET 熊本周辺
K-NET 熊本周辺は、熊本市東区佐土原 3 丁目の熊本市東部土木技術センターの敷地内にあり、周辺は
住宅地となっています。K-NET 熊本周辺の被害状況を確認すると、観測点の北側では、屋根瓦が落下し
た住宅が複数確認できましたが、それ以外では目立った被害はほとんどありませんでした。
B)健軍地区
健軍町は熊本市東区の南部にあたります。熊本市電の健軍町停留所もあり、健軍商店街など店舗が多
く集まっている地区です。今回の調査では、健軍町停留所周辺の県道 28 号線沿いの地域や健軍商店街
の被害状況を確認しました。県道 28 号線沿いの地域には非木造建物が多く建てられていますが、一部
36
の古い建物では、壁面材の剥離・落下や、亀裂等が確認されました。また、健軍商店街では、大型ショ
ッピングセンターの 1 階部分が一部圧潰して 2 階部分が西側に変位し、その影響で商店街のアーケード
の柱が大きく変形している状況が確認されました。その他にも、商店街内の古い建物では、1 階部分に
大きな残留変形のある店舗や、開口部周辺にクラックの入った建物などが確認されました。
C)西原・保田窪地区
調査ルート
西原・保田窪地区は熊本市東区
の北部にあたります。今回の調査
では、国道 57 号線と藻器堀川の間
の地区(西原 1 丁目・保田窪 4 丁
目・5 丁目)の非木造建物の被害
しょうけ
状況を中心に調査しました。藻器
ぼりかわ
堀川付近にある高層マンションで
倒壊した 5 階建マンション(写真 3-78)
は、中間階の壁面にせん断クラッ
クが入り、コンクリートの剥落や
鉄筋の露出がみられました。また、
エキスパンション・ジョイントの
損傷や外壁タイルの落下もみられ
ました。なお、高層マンション周
辺の木造住宅で倒壊した建物は確
保田窪 5 丁目のマンション
認できませんでした。また、西原
(写真 3-79)
建てられた 5 階建マンションの 1
階部分が層崩壊していました。崩
壊したマンション周辺の木造住宅
保田窪 4 丁目のマンション
(写真 3-76)
1 丁目の国道 57 号線沿い平行して
背景は地理院地図を使⽤
図 3-13 調査位置図(西原・保田窪地区)
は、瓦屋根の被害や壁面に亀裂の入った住宅、大きな残留変形の残った建物もありますが、倒壊した建
物は確認できませんでした。
37
K-NET 熊本
写真 3-67
K-NET 熊本周辺の被害状況(北側)
一部の住宅で瓦の落下等の被害がみられるが、倒壊建物は確認できない。
写真 3-68
K-NET 熊本周辺の被害状況(南側)
一部の住宅で瓦の落下等の被害がみられるが、大きな被害を受けた建物は確認できない。
写真 3-69
壁面に亀裂の入った住宅
写真 3-70
写真 3-69 の赤丸部分の拡大
外壁面に亀裂が見られる。
38
写真 3-71
県道 28 号線沿いの S 造 3 階建建物
写真 3-72
1・2 階の壁面材は落下し、3 階部分の壁面材には亀裂
が入っている。
県道 28 号線沿いの 2 階建建物
壁面材・下地材が落下している。
北→
←南
写真 3-73
健軍商店街の様子
写真 3-74
アーケードは新しいが、商店街の建物は比較的古い建
物もある。
1 階部分に大きな残留変形が残った店舗
隣接建物のない南側に傾いている。
⻄
東
写真 3-75
1 階部分が圧潰したショッピングセンター
建物は西に向かって倒れ、商店街の柱で支えられる格好となっている。
39
写真 3-76
東区保田窪 4 丁目の高層マンション
写真 3-77
写真 3-76 の拡大
壁面にはせん断クラックが確認できる
写真 3-78
東区西原 1 丁目の 5 階建マンション(南側から撮影)
1 階部分が層破壊している。
写真 3-80
写真 3-79 東区保田窪 5 丁目
の高層マンション
東区西原 1 丁目の 5 階建マンション(写真
3-78 と同じ建物、東側から撮影)
写真 3-81
写真 3-79 の拡大
壁面にはせん断クラックが確認できる。
40
② 菊池市
菊池市は今次地震の震源となった布田川断層帯の北方約 20km に位置しています。16 日の本震では、
菊池市役所のある菊池市隈府で震度 6 弱を観測しました。
菊池市では KiK-net 菊池が設置されている菊池市大平および、菊池市役所周辺で建物被害の概況を調
査しました。両地点ともに倒壊などの深刻な建物被害は見られませんでした。KiK-net 菊池は迫間公民
館の敷地内に設置されていますが、公民館や併設されている建物には外観からは被害が見られませんで
した。観測点周辺では一部の建物に瓦の落下や壁の亀裂といった被害を受けた建物が一部で確認されま
した。一方で、菊池市役所周辺では、調査した範囲では瓦の落下を含めて外観から見た限り被害は見ら
れず、多くの店舗では通常の営業を行っていました。以上の点から、現地で確認した限りでは Kik-net
菊池の方が菊池市役所よりも周辺の建物被害は大きいと思われますが、表層地盤の AVS30(表層 30m の
平均 S 波速度、AVS30 が小さいほど揺れが増幅されやすい、図 3-14 参照)を見ると KiK-net 菊池の方が
AVS30 の値が大きく、観測点周辺の建物の被害状況と地盤条件は整合していません2。
図 3-14 菊池市における調査地点と表層地盤(AVS30)4)
2
震源からの距離も、若干ではあるが KiK-net 菊池の方が菊池市役所よりも遠い。
41
写真 3-82
KiK-net 菊池
写真 3-83
KiK-net が設置されていた公民館
写真 3-84 屋根瓦が落下した建物(KiK-net 菊池周辺) 写真 3-85 壁に亀裂が生じた建物(KiK-net 菊池周辺)
写真 3-86
営業している菓子店(菊池市役所周辺)
写真 3-87
42
菊池市役所の状況
③ 大津町
大津町は今次地震の震源となった布田川断層帯の北方約 7km に位置しており、
14 日の前震で震度 5 強、
16 日の本震で震度 6 強をそれぞれ観測しました。現地調査で訪問した際、大津町役場は地震による被害
のため業務を停止しており、町役場の近くにある町民交流施設に一部の窓口業務を移していました。町
役場周辺の建物被害状況を外観から目視で確認した限り、一部の建物で屋根瓦の落下や壁に亀裂が見ら
れたほかは、深刻な被害を受けた建物はみられませんでした。
写真 3-88
業務を停止している大津町役場
写真 3-90
写真 3-89
屋根瓦が落下した建物
大津町役場近くの路面に見られる亀裂
写真 3-91
43
外観上に被害の見られない建物
④ 宇土市(宇土市役所)
宇土市では市庁舎(鉄筋コンクリート造 5 階建、1965 年竣工)が大きな被害を受けました。このた
め、市庁舎とその周辺の被害状況について現地確認を行いました。なお、宇土市役所には防災科学技術
研究所の観測点 K-NET 宇土があり、前震で震度 6 弱、本震で震度 6 強を観測しました。また、発災当時、
市庁舎は新築から 50 年以上が経過しており、2003 年の実施した耐震診断では「震度 6 強程度の地震で
は大きな被害を受ける可能性が高い」と指摘され、新庁舎建設の基本構想が検討されている中での被災
でした。
宇土市庁舎の被害状況を外部から確認すると庁舎 4 階部分の西側が圧潰していました。4 階部分西面
は、サッシが「く」の字形に変形し、建物外側にある化粧間柱(写真 3-92 の赤矢印)も複数、脱落し
ていました。4 階の南面は、圧潰はしていませんが、柱(構造体)にせん断クラックが入り、コンクリ
ートの剥落や鉄筋の露出が認められ、構造体が大きなダメージを受けたと推察されます。市庁舎の西
面・西面を見る限り、躯体の柱以外の部分のほとんどは開口部(窓)となっており、地震に対して脆弱
な構造であった可能性があります。
市庁舎周辺の被害状況を確認すると、一部で、木造瓦葺住宅の屋根瓦の落下やブロック塀の転倒など
が確認されましたが、住宅が倒壊するなどの大きな被害はありませんでした。
44
写真 3-92
宇土市庁舎(南西側)
写真 3-93
宇土市庁舎西面
4 階部分が圧潰している。
写真 3-94
4 階南西面の柱の損傷状況
写真 3-95
柱の亀裂・コンクリートの剥落・鉄筋露出がみられる。
写真 3-96
宇土市役所北東側の木造住宅
屋根瓦が落下した住宅が一部で見られる。
45
転倒したブロック塀
参考文献
1) 池田 安隆・千田 昇・中田 高・金田 平太郎・田力 正好・高沢 信司:都市圏活断層図,熊本,国土
地理院,2001.12
2) 産業技術総合研究所:地質図 Navi,https://gbank.gsj.jp/geonavi/
3) アジア航測株式会社:
「平成 28 年熊本地震」災害状況 第二報(2016 年 4 月)
,
http://www.ajiko.co.jp/article/detail/ID56JI45Y2D/
4) 地震ハザードステーション:http://www.j-shis.bosai.go.jp/
46
4. 地震動と建物被害についての検討
ここでは、現地調査結果も踏まえた上で、2016 年熊本地震において地震動、建物被害、地形・地質と
いった観点から、
「地震動の検討」
「建物被害の検討」
「益城町の地形・地質と被害分布についての考察」
の 3 つの項目について検討・考察を行いました。ただし、検討と言ってもデータを詳細に分析して解析し
たということではなく、仮定の上で単純なモデルで設定してどの程度地震で発生した事象を説明できるか
(あるいは説明できないか)を確認したという程度ですので、その点はご理解ください。
(1) 地震動の検討
地震動の検討は、
「KiK-net 益城観測点と益城町役場の本震における地震動の違いについて」と「西原
村役場における長周期地震動について」をテーマに行いました。
① KiK-net 益城観測点と益城町役場の本震における地震動の違いについて
図 2-6 で KiK-net 益城観測点と益城町役場の pSv を比較すると、直線距離で 1km 程度しか離れてい
ないにも関わらず、周期 1 秒以上では益城町役場のレベルが KiK-net 益城観測点のレベルを大きく上
回っていました。既往の研究成果から考えると、特に周期 1~2 秒のレベルの違いが木造住宅の被害の
差に直結していると考えられます。
そこで、このレベルの違いが表層地盤の違いで説明できるか検討しました。KiK-net 益城観測点の
ボーリング柱状図や PS 検層の結果は公開されています 1)ので、それを基に表層地盤モデルを設定しま
した(表 4-1 の左側参照)
。一方、益城町役場では公開されたボーリング柱状図は無く、表層地盤の状
況は分かっていません。周辺のボーリング柱状図 2)からは KiK-net 益城観測点の南側では、N 値が低
い火山性粘性土が厚く堆積していることが分かっていますが、いずれも掘進深度が浅く、その層厚の
分布を把握することができません。そのため、KiK-net 益城観測点で表層 3m に確認されている S 波速
度 110m/s 層が益城町役場では表層 10m まで堆積していると仮定しました(表 4-1 の右側参照)
。
これらの表層地盤モデルの違いより、KiK-net 益城観測点で観測された本震の東西成分の波形が益
城町役場の波形を概ね再現できるか検討しました。具体的には、KiK-net 益城観測点の本震の波形を
当地点の表層地盤モデルで工学的基盤相当の波形に戻し 3)、工学的基盤では地震動は一定と仮定して、
推定した益城町役場の表層地盤モデルで立ち上げて地表波形を計算し
4)
、観測された波形と比較しま
した。検討にあたっては地盤の非線形性を考慮しました。地盤の非線形性を簡単に表現するパラメー
タとしては、
「基準ひずみ」と「最大減衰比」の 2 つの値が必要となります。これらの値は本来土質に
よって変化しますが、ここでの検討は土質に関わらず表層地盤で 1 つの非線形特性とした上で「最大
減衰比」を平均的な 20%に固定したまま、
「基準ひずみ」の値を試行錯誤で益城町役場の波形をできる
だけ再現できるように設定しました。
こうして推定した益城町役場の速度波形を KiK-net 益城観測点、益城町役場の観測速度波形ととも
に図 4-1 に示すとともに、それらの pSv の比較を図 4-2 に示しました。これらの結果から被害に直結
する周期 1~2 秒のレベルの違いは仮定の上ですが表層地盤の違いで説明できそうです。また、工学的
基盤から地表の最大相対変位は KiK-net 益城観測点のモデルでは約 2cm に対し、益城町役場のモデル
では約 30cm と地盤変状が多く見られた点についても説明できそうです。ただし、推定した「基準ひず
み」の値は 0.005 となり、土質試験で得られている砂質土の平均的な値 0.001 程度、粘性土の平均的
な値 0.002 程度 5)と比較すると、かなり大きめの値となりました。実際のところは、
「最大減衰比」や
47
「S 波速度」等の表層地盤のパラメータを含めて複合的な要因があると想定され、表層地盤の詳細な
調査・分析が必要といえます。
表 4-1 設定した表層地盤モデル
KiK-net 益城観測点
深度
(m)
0
3
9
15
層厚
(m)
~
~
~
~
3
9
15
3
6
6
-
S波
密度
速度
3
(g/cm
)
(m/s)
110
240
240
500
1.5
1.8
1.9
1.9
益城町役場
深度
(m)
主な土質
0
10
16
22
火山灰質粘土
砂
工学的基盤
~
~
~
~
層厚
(m)
10
16
22
10
6
6
-
S波
密度
速度
3
)
(g/cm
(m/s)
110
240
240
500
1.5
1.8
1.9
1.9
主な土質
火山灰質粘土
砂
工学的基盤
(kine)
2016熊本地震本震(M7.3) KiK-net益城(KMMH16) 東西成分 観測速度波形
150
Peak= -136.5
-150
150
2016熊本地震本震(M7.3) 益城町役場 東西成分 観測速度波形
Peak= -184.7
2016熊本地震本震(M7.3) 益城町役場 東西成分 推定速度波形
Peak= 188.6
-150
150
-150
0
10
20
30
40
(sec)
図 4-1 本震(M7.3)の東西成分の KiK-net 益城観測点、益城町役場の観測速度波形と
益城町役場の推定速度波形
pSv(kine)
1000
l)
(ga
Sa
00
00
10 500
応答スペクトル
0
50
減衰定数 h=5.0%
Sd
(cm
)
10
00
00
50
0
200
0
00
20
100
20
0
0
00
10
50
10
0
50
00
20
2
50
凡例
KiK-net益城 観測波形 東西成分
益城町役場 観測波形 東西成分
益城町役場 推定波形 東西成分
0
00
10
0.05
0.1
0.2
0.5
1
2
5
20
10
周期(sec)
図 4-2 本震(M7.3)の東西成分の KiK-net 益城観測点、益城町役場の観測速度波形と
益城町役場の推定速度波形
48
② 西原村役場における長周期地震動について
2016 年熊本地震の本震において西原村役場で観測された長周期地震動のレベルは、これまで国内で
観測された強震記録の中でも最大級のものです。また水平動だけでなく、上下動でも長周期地震動の
レベルが大きいのが特徴です。これらは免震建物が影響する周期帯に相当しますので、今後断層近傍
に建設する重要建物の設計に大きく影響する可能性があります。
そこで、2016 年熊本地震の本震の単純化した震源断層モデルを設定して、西原村役場の地点におい
て観測された長周期地震動のレベルをどの程度再現できるか検討してみました。
具体的には、東京大学地震研究所の解析結果
6)
に基づいて、断層内ですべりが大きい部分を強震動
生成域の領域として 3 箇所設定し、それ以外を背景領域として、単純化したモデルを設定しました(図
4-3 参照)
。強震動計算に必要なパラメータとしては、断層全体の位置、規模(地震モーメント)等の
巨視的なパラメータは東京大学地震研究所の解析結果を使用し、各領域の実効応力、平均すべり量と
いった微視的なパラメータは地震規模等に基づく平均的な特性 7)によって設定を行っています。なお、
すべり方向はすべて右横ずれ断層を仮定しています。
こうして設定した単純化した断層モデルに基づき、西原村役場地点において周期 1 秒以上の長周期
地震動を対象に 1 次元の深部地盤モデル 8)を設定して、波数積分法 9)により工学的基盤相当の地震波
を計算しました。それらの波形の pSv の結果を観測波形と比較した結果を図 4-4 に示します。水平動、
上下動ともに観測波形のレベルには達していないことが分かります。特に上下動はレベルの差が歴然
です。そのため、上記のモデルは右横ずれ断層として評価していましたが、試みに強震動生成域1の
領域のみ正断層としたモデルも計算を行いました。その結果を同様に図 4-5 に示します。
主要なパラメータ
Mo(N・m)
長さ(km)
幅(km)
断層全体
走向(度)
傾斜(度)
上端深さ(km)
Mo(N・m)
強震動 長さ(km)
生成域1・ 幅(km)
2
平均すべり(m)
実効応力(MPa)
Mo(N・m)
長さ(km)
強震動
幅(km)
生成域3
平均すべり(m)
実効応力(MPa)
4.1E+19
54
16
225
75
1
9.4E+18
12
8
3.2
14.6
3.3E+18
6
8
2.3
14.6
図 4-3 本震の断層内すべり分布と断層投影図、設定した強震動生成域の範囲、主要なパラメータ
(図は東京大学地震研究所作成のもので強震動生成域の範囲、西原村役場の位置を加筆)
49
この結果、上下動は前のモデルよりレベルが上がりましたが、観測波形の長周期地震動のレベルと
は依然としてかなりの差があります。一方、水平動は周期 1~2 秒のレベルが過大評価となりましたが、
周期3秒以上では、観測波形の長周期地震動のレベルを大きく下回っています。
結論として、単純化した平均的なモデルでは西原村役場の長周期地震動は説明できませんでした。
そのため、震源、地盤を含めた詳細な分析が必要といえます。
水平2成分合成
pSv(kine)
500
上下動
pSv(kine)
500
減衰定数 h=5.0%
Sd
(
)
al
(g
Sa 000
2
50
cm
Sa
)
減衰定数 h=5.0%
Sd
l)
(ga
00
20
0
00
10
0
応答スペクトル
応答スペクトル
100
20
0
100
50
0
10
0
50
50
1
2
5
0
凡例
50
西原村役場 観測波形
西原村役場 推定波形
20
10
20
10
50
凡例
0
20
0
10
2
20
50
0
20
0
50
00
0
200
200
0
10
(cm
)
50
西原村役場 観測波形
西原村役場 推定波形
5
10
1
2
周期(sec)
5
10
10
周期(sec)
図 4-4 西原村役場における本震の観測波形と推定波形の周期1秒以上の pSv の比較
(すべての領域で右横ずれ断層のケース)
水平2成分合成
pSv(kine)
1000
上下動
減衰定数 h=5.0%
al)
(g
Sa
00
50
pSv(kine)
500
Sd
(cm
)
10
00
500
(g
Sa
減衰定数 h=5.0%
Sd
(c
al)
2
0
00
50
0
20
0
10
0
m)
200
00
100
200
00
10
応答スペクトル
応答スペクトル
10
50
0
00
20
20
0
100
50
50
20
0
50
10
0
50
0
50
0
20
0
10
凡例
0
20
西原村役場 観測波形
西原村役場 推定波形
20
1
2
5
20
10
50
凡例
50
10
西原村役場 観測波形
西原村役場 推定波形
5
周期(sec)
1
2
5
10
10
周期(sec)
図 4-5 西原村役場における本震の観測波形と推定波形の周期1秒以上の pSv の比較
(強震動生成域1の領域が正断層、それ以外の領域は右横ずれ断層のケース)
50
(2) 建物被害の検討
建物被害の検討は、
「2016 年熊本地震本震を対象とした面的な住家全壊予測」と「木造建物モデルの応
答解析による被災度の推定」の2つのテーマで実施しました。
① 2016 年熊本地震本震を対象とした面的な住家全壊予測
「2.地震・地震動の特徴」で推定した 2016 年熊本地震本震による地震動分布を用いて、住宅家屋を
対象に全壊の被害を 250km メッシュ単位で予測し、その結果を集計しました。ここで予測する全壊棟
数は罹災証明ベースの値です。住宅家屋のデータは「2005 年国勢調査メッシュ統計」10)と「2008 年住
宅・土地統計調査」11)より 1km メッシュ単位で建築年代別棟数を推定したものを使用しました(250m
メッシュには便宜的に 1km メッシュ内の 250m メッシュの数で割り振っています)
。
被害関数は、建物構造(木造、非木造)別建築年代別の全壊率関数を用いました。なお、関数に用
いる地震動指標は、地震動特性等の指標による違いの影響を考慮し、計測震度 12)と pSv 周期帯の平均
レベル(木造 0.5-1.5 秒、非木造 1.0-2.0 秒)の被害関数(開発中)を設定し、2 つの地震動指標で計
算を行いました。その熊本県内の市町村別の集計結果を被害実数とともに表 4-2 に示します。さらに
震源断層周辺の 250m メッシュ単位の各指標の被害関数による全壊棟数分布を図 4-6 に示します。
その結果によると、熊本県全体では計測震度の被害関数で約 12,000 棟、pSv 周期帯の被害関数で約
8,000 棟の住家で全壊被害が発生すると予測されました。
市町村別には計測震度の被害関数が西原村、
益城町、御船町、嘉島町の4町村、pSv 周期帯の被害関数が嘉島町、益城町、西原村の3町村、で全
壊率 10%以上の大きな被害となると予測されています。
全壊被害実数との比較では現時点において、pSv 周期帯の被害関数の方が県内全体の被害数量を概
ね説明できています。ただし、阿蘇市、菊池市などでは大きく予測値が乖離していますので、地震動
分布の妥当性を含めて今後の検討課題といえます。
表 4-2 2016 年熊本地震本震による熊本県内の市区町村別住家全壊予測結果と全壊被害実数
市町村名
熊本市
八代市
人吉市
荒尾市
水俣市
玉名市
山鹿市
菊池市
宇土市
上天草市
宇城市
阿蘇市
天草市
合志市
下益城郡美里町
玉名郡玉東町
玉名郡南関町
玉名郡長洲町
玉名郡和水町
菊池郡大津町
菊池郡菊陽町
阿蘇郡南小国町
阿蘇郡小国町
住宅
棟数
1 70,000
41,760
12,440
17,000
10,290
22,140
18,010
15,440
10,960
12,210
20,240
9,790
35,160
15,580
4,011
1,824
3,768
6,030
3,800
8,050
7,740
1,738
3,057
計測震度
全壊 全壊率
棟数
(%)
5,332
3.1
27
0.1
0
0.0
0
0.0
0
0.0
3
0.0
21
0.1
376
2.4
714
6.5
5
0.0
403
2.0
344
3.5
0
0.0
40
0.3
22
0.6
0
0.0
0
0.0
0
0.0
0
0.0
112
1.4
73
0.9
1
0.1
2
0.1
pSv周期帯
全壊 全壊率
棟数
(%)
4,257
2.5
24
0.1
0
0.0
0
0.0
0
0.0
0
0.0
27
0.2
292
1.9
432
4.0
0
0.0
542
2.7
225
2.3
0
0.0
28
0.2
3
0.1
0
0.0
0
0.0
0
0.0
0
0.0
37
0.5
50
0.6
0
0.0
0
0.0
全壊
実数
棟数
*1
3
0
0
0
4
0
31
226
0
203
92
0
5
11
2
0
0
0
90
14
1
0
市町村名
阿蘇郡産山村
阿蘇郡高森町
阿蘇郡西原村
阿蘇郡南阿蘇村
上益城郡御船町
上益城郡嘉島町
上益城郡益城町
上益城郡甲佐町
上益城郡山都町
八代郡氷川町
葦北郡芦北町
葦北郡津奈木町
球磨郡錦町
球磨郡多良木町
球磨郡湯前町
球磨郡水上村
球磨郡相良村
球磨郡五木村
球磨郡山江村
球磨郡球磨村
球磨郡あさぎり町
天草郡苓北町
熊本県計
住宅
棟数
587
2,614
2,062
4,634
5,750
2,823
9,470
3,758
6,440
4,086
7,560
1,940
3,669
3,870
1,625
908
1,622
548
1,197
1,626
5,220
3,203
526,200
計測震度
全壊 全壊率
棟数
(%)
0
0.0
1
0.0
534
25.9
178
3.9
952
16.6
464
16.4
2,212
23.4
223
5.9
88
1.4
7
0.2
0
0.0
0
0.0
0
0.0
0
0.0
0
0.0
0
0.0
0
0.0
0
0.0
0
0.0
0
0.0
0
0.0
0
0.0
12,133
2.3
pSv周期帯
全壊 全壊率
棟数
(%)
0
0.0
0
0.0
206
10.0
71
1.5
271
4.7
349
12.4
1,136
12.0
64
1.7
2
0.0
14
0.3
0
0.0
0
0.0
0
0.0
0
0.0
0
0.0
0
0.0
0
0.0
0
0.0
0
0.0
0
0.0
0
0.0
0
0.0
8,030
1.5
全壊
実数
棟数
1
0
344
150
229
268
1,026
99
2
30
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
2,831
・住家全壊実数棟数は「熊本地震に係る被害状況等について(第 58 報)」
(2016/5/13 現在)13)による
・表中*1 熊本市は全半壊棟数で 37,099 棟となっており、全壊・半壊が区別されていない点、棟数で発表されてい
るが実際には罹災証明申請件数でありマンション等による重複が考えられるため、ここでは記載していない。
51
計測震度
130.50
130.60
130.70
130.80
130.90
131.00
131.10
131.20
山鹿市
南関町
和水町
33.00
菊池市
阿蘇市
玉名市
玉東町
32.90
合志市
大津町
熊本市北区
菊陽町
南阿蘇村
熊本市東区
西原村
熊本市西区
熊本市中央区
32.80
益城町
嘉島町
熊本市南区
御船町
宇土市
32.70
山都町
全壊棟数
10棟以上 五ヶ瀬町
5~10棟
2~5棟
1~2棟
0.5~1棟
0.1~0.5棟
0.1棟未満
甲佐町
宇城市
美里町
32.60
0
10km
氷川町
pSv 周期帯
130.50
130.60
130.70
130.80
130.90
131.00
131.10
131.20
山鹿市
南関町
和水町
33.00
菊池市
阿蘇市
玉名市
玉東町
32.90
合志市
大津町
熊本市北区
菊陽町
南阿蘇村
熊本市東区
西原村
熊本市西区
熊本市中央区
32.80
益城町
嘉島町
熊本市南区
御船町
宇土市
32.70
甲佐町
宇城市
32.60
0
10km
美里町
氷川町
山都町
全壊棟数
10棟以上 五ヶ瀬町
5~10棟
2~5棟
1~2棟
0.5~1棟
0.1~0.5棟
0.1棟未満
図 4-6 本震(M7.3)の指標別被害関数による 250m メッシュ別住家全壊棟数推定分布
52
② 木造建物モデルの応答解析による被災度の推定
2016 年熊本地震の観測波形を用いて、木造建物のモデルを設定し応答計算を実施して、建物の耐力
の違いでどの程度の被害が発生するか試算してみました。応答計算の模式図を
図 4-7 に示します。木造建物のモデルは 2 階建を 1 質点系に模したモデルで復元力特性はポリリニア
モデルとスリップモデルの混合型のモデル 14)を使用しています。計算は、
「2.地震・地震動の特徴」で
pSv を算定した KiK-net 益城、益城町役場、西原村役場の前震・本震の水平 2 成分の観測波形を用い
て、耐力を表す降伏せん断力係数(以下、Cy と表記)を 0.1~1.5 まで 0.1 刻みの 15 ケースのモデル
で計算しました。
その計算結果を 1995 年兵庫県南部地震の JR 鷹取駅の結果とともに図 4-8 に示します。グラフの横
軸は Cy の大きさ、縦軸は塑性率( = 最大応答変位/降伏変位)とし、塑性率と被災度との関係を以
下のように仮定をおいて被災度を推定しています。
○塑性率と被災度の関係(仮定)
0 ≦ 塑性率 < 1 : 無被害
1 ≦ 塑性率 < 3 : 一部破損
3 ≦ 塑性率 < 8 : 半壊
8 ≦ 塑性率 < 15 : 全壊
15 ≦ 塑性率
*塑性率=1
: 倒壊
は層間変位 1/120rad に相当。被災度との関係は、文献
15),16)を参考にして、実際の被害状況も踏まえて設定。
図 4-7
強震観測波形による木造建物モデルの
塑性率
応答計算の模式図
25
24
23
22
21
20
19
18
17
16
15
14
13
12
11
10
9
8
7
6
5
4
3
2
1
0
JR鷹取
KiK-net益城_本震
益城町役場_本震
西原村役場_本震
KiK-net益城_前震
益城町役場_前震
西原村役場_前震
倒
壊
全
壊
半
壊
破一
損部
無
0.0
0.5
降伏せん断力係数Cy
降伏せん断力係数
1.0
1.5
53
図 4-8
観測波形に基づく木造建物モ
デルの応答計算結果
ここで、被害の傾向をつかみやすくするために Cy の値から 0.1≦Cy≦0.5 を「耐震性が低い」
、0.6≦Cy
≦1.0 を「耐震性が中程度」
、1.1≦Cy≦1.5 を「耐震性が高い」の3つにグループに便宜的に分けます。
そして、各波形の応答解析結果から観測波形ごとに耐震性のグループと被災度の関係をまとめると表 4-3
のようになります。
表 4-3 応答計算結果による波形ごとの建物の耐震性と被災度の関係
地震
本震
M7.3
前震
M6.5
観測波形
計測
震度
KiK-net益城
6.50
倒壊~全壊
全壊
益城町役場
6.78
倒壊
西原村役場
KiK-net益城
6.62
6.48
倒壊~全壊
倒壊
全壊~半壊
半壊
益城町役場
6.62
倒壊~全壊
全壊
西原村役場
5.75
一部破損
低い
0.1≦Cy≦0.5
耐震性のグループ
中程度
0.6≦Cy≦1.0
全壊~半壊
半壊
~一部破損
倒壊~全壊~半壊
~一部破損
一部破損
全壊~半壊
全壊
半壊
全壊~半壊
~一部破損
一部破損
高い
1.1≦Cy≦1.5
一部破損~無
一部破損
一部破損~無
無
一部破損~無
無
一部破損
一部破損~無
一部破損
無
*太字は比率の高い被災度を表す
この結果によると、本震では「耐震性の低い」建物は、いずれの波形でも全壊以上の大きな被害となり、
特に益城町役場は「耐震性の低い」建物はすべて倒壊するという結果が得られています。一方で、
「耐震
性の高い」建物は、いずれの波形でも一部破損以下の軽微な被害で収まるという結果が得られ、
「耐震性
の低い」建物と「耐震性の高い」建物で被災度の違いが鮮明となっています。これは現地調査でもよく目
にした傾向とも一致しています。
次に本震において木造建物が倒壊となる Cy の大きさに着目すると、益城町役場の倒壊となる上限 Cy
の値は約 0.6 程度、西原村役場の Cy の値は 0.3~0.4 程度となっているのに対し、1995 年兵庫県南部地
震のJR鷹取駅の波形が 0.4~0.5 程度であることから、この結果からも木造建物において益城町役場の
波形はJR鷹取駅より破壊的な地震動であったことが推測されます。
以上の木造建物の応答解析結果は、仮定した木造建物モデルや被災度の設定の問題はありますが、概ね
被害の相対的な傾向は表しているといえます。しかしながら現地調査からの状況からいえば、西原村役場
の周辺では倒壊した木造住宅は確認できず、全壊した木造住宅も少なかったので、応答解析結果と比較し
て実際の被害は相対的に小さめであった印象があります。また、前震において KiK-net 益城、益城町役場
では「耐震性の低い」建物は倒壊には至らないまでも大きな損傷を受けていた可能性が応答計算結果にも
示されているので、この影響が約 1 日後に発生した本震にどのように影響したのかについては、応答計算
には反映されていません。こうした点につきましては、今後検証や検討すべき課題であるといえます。
54
(3) 調査地域の地形・地質と建物被害分布に関する考察
「3.現地調査報告」に示したように、益城町では県道 28 号線以南の地域で大きな被害が発生していま
した。一方、KiK-net 益城周辺では倒壊するような建物はほとんどなく、同じ益城町でも被害の大きな地
域と小さい地域があります。このような建物被害分布の違いについて探るため、益城町の地形・地質概要
について示すとともに、建物被害分布と比較・考察しました。
① 益城町の地形・地質概要
調査を行った益城町中心部およびその周辺の地質図を図 4-9 に示したとおりで、この付近の地質は
古い順から阿蘇火山砕屑物-4(以降「Aso4」と称す)
、中位段丘堆積物、低位段丘堆積物、沖積層の順
になっています。Aso4 は約 10 万年前に益城町の東方にある阿蘇カルデラから噴出した巨大な火砕流
の堆積物で台地状の地形を形成しています。中位段丘堆積物および低位段丘堆積物はこの付近を流れ
る秋津川などの河川が数万年前に運んで形成した砂利の地層からなり、こちらも台地状の地形を形成
しています。一方、沖積層は概ね 1 万年前以降も河川によって運搬されている砂利や砂・粘土などの
堆積物から形成されており、低地を形成しています。
図 4-9 益城町周辺の地質図(文献 17 を使用)
55
KiK-net 益城
地点 A
至
⻄原村
凡例[m]
益城町木山交差点
益城町役場(震度観測点)
至
益城町惣領
木山橋
交差点
地点 B
益城町惣領交差点
至
益城町惣領
交差点
凡例[m]
至
熊本市
惣領橋
秋津川
図 4-10 益城町周辺の標高分布(T.P.基準)
56
今回調査した益城町の市街地は、主に秋津川右岸(北岸)の段丘面上から Aso-4 の台地に広がって
います。秋津川にかかる県道 235 号線の木山橋付近の標高は 10m 前後なのに対し、約 400m 北側に位置
する益城町木山交差点の標高は約 23m、さらに 200m ほど北側の益城町役場周辺では約 28m、さらに県
道 235 線沿いに 500m 北側にある地点 A では 43m となっており、木山橋から県道 235 号線(東側)を中
心にみると 1/10 程度の勾配のある斜面上に市街地が広がっています。また、益城町役場の西側にあた
る惣領地区では、秋津川に架かる惣領橋で標高 10m、惣領橋から 400m ほど北側にある益城町惣領交差
点で標高 11m、さらに県道 235 号線(西側)に沿って 800m ほど北側に進んだ地点 B で標高 29m となっ
ていました。県道 235 号線(東側)と比べると、惣領地区(県道 235 号線(西側)沿い)では、秋津
川から県道 28 号線までの間は比較的平坦で、県道 28 号線以北で 1/40 程度の勾配となっています。
② 益城町における建物被害分布の地形・地質的観点からの考察
益城町を対象に現地調査を実施しましたが、標高の高い場所にある KiK-net 益城周辺と県道 28 号線
以南では建物被害状況が大きく異なるのではないかと感じられました。そこで、現地調査結果から得
られた建物の被害状況を分布図として整理してみました。今回の調査は、応急危険度判定や罹災証明
のための調査のように、個々の建物を詳細に調査したものではありません。そこで、明らかに大きな
被害を受けたとわかる建物倒壊に着目し、調査範囲における建物倒壊率の違いを被害分布図として示
しました。ここでの建物倒壊は、岡田・高井(1999)18)の D5 相当と定義しました。この、建物倒壊分布
図と表層地質図を重ね合わせたものを図 4-11 に示します。図 4-11 からは、今回現地調査した限りで
すが、倒壊した建物の表層地質は段丘堆積物となっており、倒壊した建物の多くは低位段丘面上にあ
ったことがわかります。図 4-11 のピンク色の部分は火山砕屑物(以下、
「Aso4」と称す)で、地形的
には火砕流台地面となっています。この台地面では、益城町役場の南側と東側で倒壊建物が複数確認
されましたが、それ以外の場所では、今回、現地調査で確認した限り、倒壊建物はほとんどありませ
んでした。
また、図 4-11 に示した断面における地質断面図を文献 1)2)19)20)を参考に試作しました。限られ
た資料から試作したもので参考程度としていただければと思います。試作した地質断面図からは、標
高が下がるに従い、砥川溶岩の深度は深くなり堆積層が厚くなっています。また、秋津川に近づくに
従い、Aso4(火砕流堆積物)の上に、段丘堆積物や沖積層が堆積しています。建物被害が大きかった
のは、この段丘堆積層のある範囲で、大阪大学秦先生の本震の観測記録 21)などから考えても、この低
位段丘面の部分は地震動も大きかったと考えられます。この地域の標高、表層地質、建物被害状況を
まとめると表 4-4 のように示すことができると思われます。
57
測線A
KiK-net 益城
益城町役場
Aso 4
木山橋
測線B
秋津川
Aso 4
秋津川
惣領橋
図 4-11 益城町の建物倒壊被害の分布と表層地質
(図中の黄色破線は図 4-12 の試作した地質断面位置を示す。また、本図は地区毎の被害傾向を表現するために作成したも
ので、建物悉皆調査の結果ではない。調査建物には無被害建物も含む。表層地質は文献 22)をトレースしたもの。)
58
KiK-net 益城
測線A
益城町役場
県道 28 号線
測線B
被害が大きい地域
県道 28 号線
広安小学校
被害が大きい地域
秋津川
秋津川
図 4-12 試作した地質断面図(参考)と被害の大きな地域の位置関係
(柱状図①は文献 1)、柱状図②~⑤は文献 2)、柱状図⑥は文献 19)を利用した)
表 4-4 益城町役場付近の標高・地質・被害状況・地震動のまとめ
KiK-net 益城周辺
益城町役場周辺
県道 28 号線以南
県道 28 号線沿い
木山橋付近
標高
49m
28m
23m(木山交差点)
10m
表層地質
Aso-4
Aso-4
段丘堆積物
低地堆積物(沖積世)
建物被害状況
被害は受けているが
倒壊した建物はない
多くの建物が被害を
受けており、役場の
南側と東側で倒壊し
た建物あり
計測震度
6.50
6.78
6.90 (文献 21)による)
pSv[kine]
382
436
左の 2 地点よりも大きな応答加速度が観測さ
れている 21)。
地震動
※上表の pSv は疑似速度応答スペクトルの 1 秒の値を示しています。
59
倒壊した建物や大きな残留変形のある建物が
多い
参考文献
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http://www.kyoshin.bosai.go.jp/kyoshin/db/index.html?all.
2) 全国地質調査業協会連合会:平成 28 年(2016 年)熊本地震復興支援 ボーリング柱状図 緊急公開サ
イト,http://geonews.zenchiren.or.jp/api/2016KumamotoEQ/index.html.
3) 吉田望・末富岩雄:DYNEQ : 等価線形法に基づく水平成層地盤の地震応答解析プログラム,佐藤
工業(株)技術研究所報,pp.61-70,1996.
4) 吉田望,2006,DYNES3D : A computer program for dynamic response analysis of level ground
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5) 日本建築学会:
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6) 東京大学地震研究所:2016 年 4 月 14・16 日熊本地震の震源過程,4 月 16 日地震の震源断層と震源イ
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7) 地 震 調 査 研 究 推 進 本 部 : 震 源 断 層 を 特 定 し た 地 震 の 強 震 動 予 測 手 法 ( 「 レ シ ピ 」 ) ,
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地下構造モデル(暫定版)
,西日本,
http://www.jishin.go.jp/evaluation/seismic_hazard_map/lpshm/12_choshuki_dat/ .
9) 久田嘉章:成層地盤の解析手法,地盤震動-現象と理論-,日本建築学会,pp.84-102, 2005.
10) 総務省統計局 地域メッシュ統計:http://www.stat.go.jp/data/mesh/index.htm.
11) 総務省統計局 平成 20 年住宅・土地統計調査:
http://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2008/index.htm.
12) 清水 智, 小丸 安史, 若浦 雅嗣, 藤原 広行, 中村 洋光, 森川 信之, 早川 讓: 1890 年~2040 年の
地震の揺れによる住宅全壊リスクの変遷 ,日本地震工学会論文集,第 16 巻,第1号,pp.258-273,
2016.
13) 熊本県ホームページ:
「熊本地震に係る被害状況等について(第 58 報)
」
,
https://www.pref.kumamoto.jp/common/UploadFileOutput.ashx?c_id=9&id=78&set_doc=1
14) 鈴木祥之、中治弘行、強震動下における木造建物の地震応答と耐震性評価,第2回都市直下地震災害
総合シンポジウム,pp.211-214,1997.
15) 宮腰淳一,林康裕,田村和夫,被害データと地震応答解析に基づく建物群の耐震性能に関する考察,
第 10 回日本地震工学シンポジウム,pp.327-332, 1998.
16) 村上雅英、鈴木祥之,田原賢, 阪神淡路大震災における木造住宅の倒壊原因に関する考察, 日本建築
学会構造系論文集,第 523 号, pp.71-76, 1999.
17) 産業技術総合研究所:20 万分の1地質図「熊本」
18) 岡田成幸・高井伸雄:地震被害調査のための建物分類と破壊パターン,日本建築学会構造系論文集,
第 524 号,pp.65-72,1999.10.
19) 長谷 義隆,中山 洋,古澤 二,荒牧 昭二郎:熊本平野南部,沖積層下に認められる砥川溶岩の変位,
御所浦白亜紀資料館報,vol.17,pp.5-13,2016.3
60
20) 熊本地盤研究会:熊本地域の地質断面図,公益社団法人 くまもと地下水財団,2014.3
21) 秦吉弥:地震動・地盤震動,平成 28 年(2016 年)熊本地震 地震被害調査結果速報会, 土木学会,
2016.4.
22) 国土交通省国土政策局国土情報課:国土調査,
http://nrb-www.mlit.go.jp/kokjo/inspect/landclassification/land/5-1/4301.html
61
5. おわりに
本資料は 2016 年 4 月 22~23 日に実施した現地調査や 2016 年 5 月 13 日時点までに判明した情報を元に、
平成 28 年熊本地震の被害概況を整理したものです。その内容を以下に簡潔に示します。
前震よりも本震のほうが強い揺れが観測された地域は広く、益城町では震度 7 を 2 回観測しました。
また、観測された波形は東西方向の地震動が南北方向よりも大きい状況でした。また、建物被害と相
関の高い周期 1~2 秒の疑似速度応答スペクトルは、益城町で観測された本震の地震動では、1995 年
兵庫県南部地震の JR 鷹取の観測記録を超えるものであり、非常に大きな地震動であったと考えられ
ます。さらに、西原村では周期 5 秒において 200kine を超えており、これまでに観測された国内の強
震波形の中では史上最大級の長周期地震動のレベルであったと考えられます。
震度 7 を観測した益城町の市街地は南向きの緩斜面上にありますが、調査した限りでは標高が低くな
るに従って被害が大きくなっていました。大きな被害が出ていたのは県道 28 号線と秋津川の間の地
域で、倒壊した建物もこの地域に集中していました。倒壊した建物分布と地質図を重ねると、倒壊し
た建物の多くは低位段丘面上に位置しています。他の研究グループでは、秋津川と県道 28 号線の間
の地域で、益城町の震度観測点や KiK-net 益城よりも大きな地震動が観測されており、どのような要
因で被害が集中したのか、今後分析が必要かと思われます。なお、益城町の倒壊した建物や残留変形
のある建物の多くは東西方向に変位しており、地震動の東西成分が建物に大きな影響を与えたものと
考えられます。
同じく本震で震度 7 を観測した西原村では、風当地区の被害が大きく、調査した建物の 2~3 割が倒
壊していました。倒壊した建物の多くは木造瓦葺建物でした。また、擁壁・石垣などの被害も多く見
られました。
本震で震度 6 強を観測した熊本市東区では、健軍商店街でショッピングセンターの 1 階部分が崩壊し
ていました。また、西原・保田窪地区では、1 階部分が圧潰した 5 階建マンションを確認するととも
に、高層マンションでは、中間階壁面のせん断クラック、エキスパンションジョイントの損壊、外壁
の剥落等の非構造部材の被害を確認しました。K-NET 熊本の周辺では、瓦屋根の落下等の軽微は被害
はありますが、建物倒壊などの深刻な被害はありませんでした。
KiK-net 菊池周辺、菊池市役所周辺、大津町役場周辺の被害状況を確認しましたが、一部の建物で屋
根や外壁材の落下が見られましたが、大きな被害は確認されませんでした。
宇土市では鉄筋コンクリート造 5 階建の市庁舎の 4 部分が圧潰していましたが、市庁舎の周辺の建物
は、一部、瓦葺木造住宅で屋根瓦の落下等が見られましたが、大きな被害はありませんでした。
益城町下陳・堂園、西原村小森で、地表断層を確認しました。これら 3 地点では、今回の地震のメカ
ニズムと調和的な北東-南西走向の右横ずれ変位の地表断層が確認され、その変位量は概ね 1~2m程
度でした。
62
謝辞
本資料の作成にあたっては、気象庁・文部科学省が協力してデータを処理した結果である気象庁一元化
震源データ、国立研究開発法人防災科学技術研究所の強震観測網(K-NET・kik-net)
、気象庁震度計、熊
本県震度計、鉄道総合技術研究所の観測波形を利用させていただきました。また、国土地理院の基盤地図
情報、地理院地図、国土交通省国土政策局の国土数値情報を利用させていただきました。現地調査は、株
式会社イー・アール・エス、鱒沢工学研究所と共同で実施し、調査データや被害写真を提供していただき
ました。ここに記して御礼申し上げます。
-免責事項-
本報告書の使用に起因して本報告書使用者または第三者に発生しうる損害賠償責任等その他一切の法的問題から
OYORMS およびその関係会社・従業員は免責されます。
63