米国の個人消費 - 経済レポート情報

2016 年 5 月 13 日
市場営業統括部
FOREX WEEKLY
チーフ・エコノミスト
山下えつ子
Tel: +1-212-224-4561 (ニューヨーク)
[email protected]
Global View 「原油相場の反発の功罪」 → p.2

原油相場が底打ちの様相となり、金融市場や為替相場の安定に寄与している。

だが、ガソリン価格の上昇は米国の個人消費にはネガティブな効果となる。
US View
… 追加材料乏しく、相場は小動き → p.3

経済指標は重要だが、決定的な材料に欠ける。

来週は FOMC 議事録の公表が重要イベントとなる。
FX Outlook
… ドル円の安定は続くか? → p.4

米国の雇用統計は弱かったが、ドル円は戻り基調となった。

5 月中は材料が少ないことが注意点。
今週のレンジ
来週の予想レンジ
6 月末の予想レンジ
12 月末の予想レンジ
ドル/円
106.44-109.40 円
107.50-110.50 円
110.00-115.00 円
110.00-120.00 円
ユーロ/ドル
1.1359-1.1479ドル
1.1350-1.1500ドル
1.1000-1.1600ドル
1.0000-1.1500ドル
ユーロ/円
121.49-124.65円
122.00-124.50 円
120.00-130.00 円
120.00-135.00 円
(今週のレンジは先週金曜日東京 7 時~本日東京 7 時(データ:Bloomberg)、
予想レンジは本日東京 7 時~来週金曜日東京 7 時)
・今週号本文はニューヨーク時間木曜日午後5時(東京時間金曜日午前6時)までの情報をもとに作成しています。
・FOREX WEEKLYに関するお問い合わせは、現在お取り引き中の営業部/支店にお願い申し上げます。
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本レポートは情報の提供を目的としており、何らかの行動を喚起するものではありません。ここに示した意見は本レ
ポート作成日現在の筆者の意見を示すのみです。データや数値の抽出範囲・基準は任意で設定している場合がありま
す。データ・資料等については、数値等の誤りが含まれている可能性があります。本レポートに基づき、お客さまが
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る最終決定は、お客さまご自身で判断されるようお願い申し上げます。また、本レポートの全部または一部の無断コ
ピー使用はご遠慮ください。
1
FOREX WEEKLY 2016/5/13
Global View
… 「原油相場の反発の功罪」
WTI 先物は 40 ドルを超えた後、今のところ再下落の気配はなく、落ち着いてきた。原油相場(WTI
先物)が 40 ドルを下回る水準では金融市場のボラティリティとの強い相関関係のもとで動いている
ことを 4/22 号で指摘したが、このまま 40 ドル超で推移すれば、金融市場の攪乱要因は一つ減ったと
見てよいだろう。昨年秋以降のグローバルな金融市場の混乱の一因が想定外に大幅に下落した原油相
場にあったため、これで少し安堵できる。
2014 年後半からの原油相場の下落局面では、2015 年にかけて、資源国通貨の下落や資金流出など
を通じて新興国を中心に経済的ダメージを受けた。同時に、米国の利上げ観測も背景として、ドルは
ドル高となり、米国にとっても為替相場の観点からは望ましくない結果になった。原油相場の反転上
昇によって、こうした為替相場を通じた状況は好転している。
ところが原油相場の上昇は手放しには喜べない。これまで原油相場の下落によって、製造業はコス
トの低下の恩恵を受け、消費者もガソリン価格や暖房費の低下の恩恵を受けてきた。これが反転し、
米国ではコスト上昇による企業景況感の下押しや消費者センチメントへの影響など、ネガティブな効
果がじわりと見え始めた。ガソリン価格は原油価格に連動して動いているため、依然として低水準で
はあるが、ガソリン価格は上昇に転じている。これまでガソリン価格の下落を追い風に、燃費の悪い
大型車が売れる、自動車の利用が増加する、といった傾向があったが、燃費の悪い車を購入した人々
はガソリン価格の上昇には困ってしまうだろう。
だが問題は大型車の購入者だけではなく、消費者全般に関わる。ガソリン価格の下落は消費者のセ
ンチメントだけではなく実際の支出増加にも寄与し、2014 年の年末商戦の盛り上がりはガソリン価
格の下落の影響が大きかったと考えられる。その後はガソリン価格の下落は 2014 年時ほどではなく、
消費への効果も小さくなったが、懸念されるのはこの反対作用である。上記のように金融市場や産油
国にとっては原油相場の下げ止まりはプラス効果があるが、原油消費国の実体経済にとってはマイナ
ス効果が発生する。米国では個人消費の行方が焦点の一つだが、原油相場の上昇は不安材料となる。
ドル/バレル
120
ドルインデックス(右軸)
100
80
60
40
20
0
2014
WTI先物(左軸)
2015
ドル/ガロン
4
3.5
3
2.5
2
1.5
1
0.5
0
2014
105
100
95
90
85
80
75
70
65
60
2016
米国のガソリン価格
(注)AAAレギュラー。
(資料)Bloomberg
(資料)Bloomberg
2
2015
2016
FOREX WEEKLY 2016/5/13
US View
… 追加材料乏しく、相場小動き
6 日に発表された雇用統計では非農業部門雇用者数が 16 万人増と予想比下振れた。だが 3 か月平
均は 20 万人増であり、失業率も 5.0%で横ばい(上昇せず)、時間当たり賃金は前年比+2.5%へ上
昇、と必ずしも悪くはなく、労働市場の状態を悲観するのはまだ早い。業種別の動きにも統計の不具
合が感じられる下振れが散見されるため、雇用情勢の判断は次回の雇用統計の発表まで待った方が良
さそうである。
ただ、4/27 の FOMC 声明文で米国の国内景気の現状判断が下方修正されたため、経済指標への注目
度は増している。また、この声明文では需要項目のうち個人消費のみが判断下方修正となっていたた
め、個人消費関連指標には特に注目が集まることになる。(設備投資と純輸出も弱いが、記述は 3
月の FOMC 時の声明文と同じだった。)前回の 3 月分の小売売上高は自動車の売上げ不振を主因に、
前月比▲0.3%と弱かった。13 日には 4 月の小売売上高が発表される。4 月分の自動車販売台数は増
加したことから、今回の小売売上高も少なくとも自動車の反動増によってヘッドラインは改善するは
ずだ。除く自動車ベースは前回+0.2%と弱めながらもプラスとなっているため、大きな反動増は基本
的には望み難い。
前年差、10億ドル
500
個人消費の内訳
失業率と賃金上昇率
%
12
サービス
400
10
300
200
失業率
8
100
6
0
-100
4
非耐久財
-200
耐久財
-300
2
賃金
2016
2015
2014
2013
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2005
(資料)BEA
2006
0
2016
2015
2014
2013
2012
2011
2010
2009
2008
2007
2006
2005
-400
(資料)BLS
2014 年後半から 2015 年前半まで、
自動車販売の他、非耐久財支出とサービス支出も大きく増加し、
個人消費は好調だった。しかし、その後は増勢が失われている(グラフ参照)。耐久財の代表格であ
る自動車販売が年率 1700 万台辺りでピークアウトしたことが一因であるが、非耐久財支出とサービ
ス支出も耐久財支出の減少を補うほどの勢いはない。失業率は低下し、時間当たり賃金にも上昇の兆
しが見え始めた。しかし、こうした雇用・所得環境の改善は今のところ消費を押し上げるには不十分
である。Fed が期待しているのは、賃金の上昇が個人消費の増加に繋がることだが、賃金上昇のペー
スは緩慢で期待通りに個人消費が持ち上がるかどうかは不確かだ。個人消費の鈍化のトレンドを踏ま
えると、4 月分の小売売上高がたとえ強かったとしても、4 月 FOMC の判断をあっさりと撤回して 6
月に利上げを実施する、という展開にはなりそうにない。
ただし、利下げが必要だと政策を方向転換するほど個人消費が弱いのか、という観点では、答えは
ノーである。Fed の現状判断でも住宅セクターは良好との判定だが、個人消費でも家具や家電といっ
3
FOREX WEEKLY 2016/5/13
た住宅関連の支出は堅調である。また、外食・趣味といった娯楽への支出、および医療、教育などの
サービス支出も増勢を維持している。個人消費は全体では鈍化しているが、こうした強いセクターが
残っている。外食や趣味(グッズ、サービスとも)の底固さは消費者のマインドが悪くはないことを
示唆しており、消費が腰折れするといった気配までは今のところない。
個人消費の動向は国内の景気全体を左右し、利上げの決断に影響するが、利上げを出来るほど強く
はなく、利下げへ戻るほど弱くもない。Fed の立ち位置はどちらかと言えば、利上げを継続する方に
傾いている。だが、緩やかに鈍化している個人消費全体のトレンドが雇用・所得の改善によって増勢
に転じるのを確認するまでは、利上げ実施には動けないだろう。来週は 18 日に FOMC 議事録が公表さ
れる。4 月の FOMC は声明文の発表のみの会合だった。FOMC の後は地区連銀総裁のスピーチはあった
が、議長や副議長といったコアメンバーのスピーチはなく、議事録で 6 月利上げの可能性を含め、Fed
の考え方がようやく明らかになる。
FX Outlook
… ドル円の安定は続くか?
6 日の米雇用統計は予想比下振れたが、為替市場では更なるドル売りは進まず、ドル円は今週 109
円台前半まで上昇した。28 日の日銀決定会合直後のドル円の下落(112 円近辺→105 円台半ば)を半
分戻したレベルであり、また、追加緩和期待が盛り上がる前の水準にほぼ近い(109.50 円近辺)。
日銀決定会合に対するマーケットの期待の盛り上がりと失望による反落のオーバーシュートの値幅
は大きかったが、結果的にほぼ元に戻った。日経平均株価も日銀決定会合前後の騰落とそこからの半
値戻しの動きは似ており、16500 円超まで戻っている。
米国では 4 月の FOMC の後、米国内の経済指標の注目度は上がっているものの、雇用統計が弱い材
料としてはカウントされず、ドル売りの追加的材料がない。13 日の小売売上高にも注目が集まるが、
市場予想は強い方に傾いており、実際の結果が強い場合よりも弱い場合の方がマーケットの反応は大
きくなりそうだ。小売売上高が予想外に弱かった場合には米国景気悲観論が再燃し、ドル売りとリス
クオフによるドル円の下落(ドル安・円高)となるだろう。逆に、ドル円が 110 円を上抜けていくた
めには小売売上高は市場予想を大きく上回る必要がある。ドル円の上と下ではリスクは下方向(ドル
安・円高)に大きい。
6 月に入ると、再び主要国の金融政策に対する思惑や英国の Brexit への警戒感(および結果判明)
といった大きなイベントでマーケットが動くことになる。だが 5 月中は主だった材料がなく、4 月末
の日銀金融政策決定会合と FOMC の結果の余韻があるのみだ。そうした中での相場は小動きとなるか、
もしくは、小さな材料に過敏に反応するか、どちらかとなる。大した材料ではなくても相場が大きく
動いてしまうこともあることが当面の注意点であろう。
4
FOREX WEEKLY 2016/5/13
ドル/円
(円)
130
125
ユーロ/ドル
(ドル)
ユーロ/円
1.30
150
1.25
145
1.20
140
1.15
135
1.10
130
1.05
125
1.00
120
(円)
120
5/1/2016
3/1/2016
1/1/2016
11/1/2015
9/1/2015
7/1/2015
5/1/2015
3/1/2015
1/1/2015
5/1/2016
3/1/2016
1/1/2016
11/1/2015
9/1/2015
7/1/2015
5/1/2015
5/1/2016
3/1/2016
1/1/2016
11/1/2015
9/1/2015
7/1/2015
5/1/2015
3/1/2015
1/1/2015
105
3/1/2015
110
1/1/2015
115
(データ出所:Bloomberg)
ディーラーに聞きました(来週のドル円相場の方向性~ブルベア)
週
4 月 4 日~
11 日~
18 日~
25 日~
5 月 2 日~
9 日~
予想
-4
-4
+2
+1
+2
-1
実績
ベア
中立
中立
ブル
ベア
ブル
≪見方≫
16 日~
当行の為替ディーラー(マーケット、カスタマー)8 名を対象に、来週の相場予想を聴取。今週の東京市場 8 時から、
ドルブル(終値から1円以上のドル高)、中立(終値から上下1円内)、ドルベア(終値から1円のドル安)の三択で、結果を(ド
ルブル人数-ドルベア人数)で表記。+(プラス)は円安ドル高、-(マイナス)は円高ドル安を示す。
5
70
60
50
40
30
20
株(上海総合指数)
5500
4500
3500
2500
1500
原油(WTI 先物(期近物):ドル/バレル)
6
2016/4/1
14000
2016/4/1
16000
2016/1/1
15000
2015/10/1
2015/7/1
2016/4/1
16000
2016/4/1
17000
2016/1/1
株(米ダウ)
2016/1/1
18000
2016/1/1
18000
2015/10/1
19000
2015/10/1
20000
2015/10/1
20000
2015/7/1
株(日経平均株価)
2015/7/1
22000
2015/7/1
2.6
2.4
2.2
2.0
1.8
1.6
1.4
2015/4/1
2015/1/1
2016/4/1
2016/1/1
2015/10/1
2015/7/1
2015/4/1
2015/1/1
%
2015/4/1
2015/1/1
2016/4/1
2016/1/1
2015/10/1
2015/7/1
2015/4/1
2015/1/1
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0.0
-0.1
-0.2
2015/4/1
2015/1/1
2016/4/1
2016/1/1
2015/10/1
2015/7/1
2015/4/1
2015/1/1
債券(日本国債・10 年債利回り)
2015/4/1
2015/1/1
2016/4/1
2016/1/1
2015/10/1
2015/7/1
2015/4/1
2015/1/1
FOREX WEEKLY 2016/5/13
各種相場の動き
債券(米国債・10 年債利回り)
%
株(ドイツ DAX 指数)
13000
12000
11000
10000
9000
8000
金(NY 先物(期近物):ドル/トロイオンス)
1400
1300
1200
1100
1000
900
(データ出所:Bloomberg)
FOREX WEEKLY 2016/5/13
今週のプライスアクション(ドル円)
(出所:Reuters)
① 積極的にドルを売る材料が
ない中、麻生財務相の口先
介入や浜田参与の発言が意
識され、ドル円は 109 円前
半へ上昇。
② WTIが直近高値を抜け 47
ドル台に上昇する中、リス
クセンチメントが良好とな
り、ドル円は、一時 109.40
へ上昇。
②
①
来週のチャ-ト分析
(出所:Reuters)
日足 J PY=EB S
日足 EUR=EBS
2016/03/03 - 2016/06/30 (TOK)
価格
2016/03/04 - 2016/06/30 (TOK)
価格
1.165
123
1.16
122
1.155
121
1.15
120
1.145
119
1.14
118
1.135
117
1.13
116
1.125
115
1.12
114
1.115
113
1.11
112
1.105
111
1.1
110
1.095
109
1.09
108
1.085
107
1.08
106
1.075
自動
自動
07日
14日
21日
2016年 3月
28日
04日
11日
18日
2016年 4月
25日
02日
09日
16日
23日
2016年 5月
30日
06日
13日
20日
2016年 6月
07日
27日
<ドル円、日足、一目均衡表>
・ 現在雲の下を推移。
5/20 の雲上限は 112.94 円、下限は 110.12 円。
14日
21日
2016年 3月
28日
04日
11日
18日
2016年 4月
25日
02日
09日
16日
23日
2016年 5月
30日
06日
13日
20日
2016年 6月
27日
<ユーロドル、日足、一目均衡表>
・ 現在雲の上を推移。
・ 5/20 の雲上限は 1.1306 ドル、下限は 1.1143 ドル。
来週の主な材料
5/16(月) (日)4 月国内企業物価指数
5/17(火) (米)4 月住宅着工件数、4 月建設許可件数、4 月 CPI、4 月鉱工業生産
5/18(水) (日)1-3 月期 GDP(1 次速報)(米)FOMC 議事録(欧)4 月ユーロ圏 HICP(確報)
5/19(木) (日)3 月機械受注、3 月全産業活動指数
(米)4 月景気先行指数(欧)ECB 議事録
5/20(金) (米)4 月中古住宅販売件数
(時間は全て現地時間)
(本ページの担当:花木)
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