資料2 出張報告(タイ・マレーシア) 伊藤恵子 奥田英信 企業の通貨選択・為替管理と規制 (タイ) 企業の通貨選択・為替管理(タイ) ○当社の現地調達率は7割を超えており、日系を含めた現地サプライヤーとの取引についてはバーツ建てで行っている。 10年ほど前まではドル建てだったが、日系サプライヤーのバーツ建てでの現地調達率が高まってきたことから、比較 的規模の小さなサプライヤーが為替リスクを負わないよう、取引をバーツ建てに変えた。(日系自動車企業) ○当社がタイから輸出する際、物流は直接消費地に向かうが、商流は日本を経由しており消費地とはほとんど直接取引を していない。その際の本社との取引は円建てで行い、最終消費地へは輸出先の通貨建てで輸出。 現地法人である当社が、 為替リスクをオンショア先物市場でヘッジしている。 タイの現地法人としては、すべての取引がバーツ建てとなること が最良であり、規制等の環境が整えば、本社との取引でバーツを使用することも検討。(日系自動車企業) ○日系中小企業の為替取引は、ほとんどが現地での原料調達等のための直物のバーツ転。為替相場の動向に損益が大きく 左右されることを企業も問題視しているが、為替管理に精通した人材の確保といった課題もあり、先物を用いた為替管 理は行えていない企業も多い。(地場金融機関) ○当行の顧客の中には、本社との取引において一部バーツ建てを志向する日系企業もあり、そうした顧客に対しては日本 への輸出をバーツ建てで行えるようオフショアでのバーツ提供の案内を行っている。(日系金融機関) ○タイはASEAN域内、特にCLMVなどの国境を接する近隣諸国との貿易におけるバーツの利用を推進しており、実際に CLMVとの貿易についてはバーツ建て取引の割合が大きくなっている。(タイ中央銀行:BOT) 3 (参考)タイの全世界との貿易額に関する通貨建て内訳 100% 0.8% 2.0% 0.4% 0.5% 95% 3.6% 0.3% 0.2% 0.5% 0.4% 3.1% その他 人民元 ポンド 90% 5.7% 星ドル 9.9% 豪ドル 85% ユーロ 7.6% 5.7% 80% バーツ 日本円 80.2% 78.8% 米ドル 75% 2007 (注)貿易総額(輸出+輸入)における割合 (出所)タイ中央銀行 2015 4 (参考)タイの貿易における決済通貨(2015年) 100% 90% 14.4% 5.7% 5.5% 0.7% 80% 11.4% 10.5% 1.2% 3.2% 7.1% 70% 18.7% 18.3% 29.3% 1.5% 41.8% 51.0% その他 0.1% 33.7% ユーロ 60% 0.2% 50% リンギ 0.3% 87.3% 40% 84.0% 83.7% 78.5% 71.8% 30% 51.3% 20% 星ドル 69.5% 57.9% バーツ 日本円 48.6% 米ドル 10% 0% (注)貿易総額(輸出+輸入)における割合 (出所)タイ中央銀行 5 (参考)タイの貿易相手国 <2007年> <2015年> 中国 15.5% 中国 10.6% その他 41.3% 日本 15.8% タイ(2007年) 2,950億ドル 韓国 2.8% CLMV インドネシア 3.9% 3.0% フィリピン マレーシア 5.6% 1.8% (注)貿易総額(輸出+輸入)における割合 (出所)タイ中央銀行 アメリカ 9.9% シンガポール 5.4% その他 38.1% タイ(2015年) 4,170億ドル 日本 12.3% アメリカ 韓国 9.1% 2.7% CLMV シンガポー インドネシア 7.7% ル 3.5% フィリピン マレーシア 3.8% 2.0% 5.3% 6 金融当局の規制等(タイ) ○タイ中央銀行は、例えば、昨年4月に非居住者による実需原則なしでの国内金融機関からのバーツ建て借入額の上限を 3億バーツから6億バーツに引き上げたほか、企業が国際地域統括本部(IHQ: International Headquarters)の資格を取得 すれば、ネッティングやプーリングを可能とするなど、段階的に規制緩和を進めている。(BOT) ○非居住者によるバーツ借入の限度額の引き上げといったタイ中央銀行による規制緩和により、オフショア取引が認めら れないリンギとは異なり、バーツは一定の範囲内でオフショアにおいてもヘッジ取引等を行うことが可能になるなど、 使い勝手が向上している。(地場金融機関) ○タイ中銀はタイに企業の財務統括拠点を誘致するために規制緩和を行っている。これは現在銀行が行っている実需確認 等の業務を企業に移転する試みとも言えるが、余程の大企業ではない限り銀行並みの管理を行うのは難しい。(日系金 融機関) ○タイ中銀の為替管理政策の実需原則については、企業は先物取引一件ごとに必要書類を用意し、銀行は必要書類を保存 し、タイ中銀の要請があれば提示する義務がある。したがって、前年の為替取引の実績等に基づいて、当年分の実需を 推定し、為替取引を行うことは認められない。(日系金融機関) ○非居住者バーツ建て預金口座(NRBA:Non‐Resident Baht Account)については、上限額が3億バーツと定められており、 非居住者がバーツを利用・管理する上で制約になっている。(日系金融機関) ○タイ中銀はアジア通貨危機後に実施した為替管理政策や金融規制は成功していると認識しており、政策運営は非常に慎 重。タイの地場銀行においても、タイ中銀のこうした認識が共有されているため、一度に大幅な規制緩和は難しいので はないか。(日系金融機関) 7 企業の通貨選択・為替管理と規制 (マレーシア) 企業の通貨選択・為替管理(マレーシア) ○マレーシアにおける貿易取引は、ドル建てが決済の9割を占め、シンガポールドルが2位。ユーロや円も利用されてい るが、その比率は下がっている。(地場金融機関) ○取引先企業は日系企業が多く、為替取引は直物がほとんど。為替取引の通貨ペアは、ドル・リンギ4割、円・リンギ3 割~4割、その他はリンギとユーロ、バーツ、シンガポールドル等。マレーシア中銀によれば、マレーシア全体では、 ドル・リンギ97%、シンガポールドル0.9%、ユーロ0.9%、ポンド0.6%、日本円0.2%。(日系金融機関) ○当社は世界中に商品を輸出していることもあり、最も一般的な通貨であるドルで輸出。仕入れはリンギ建てで行ってい るが、リンギはオフショア市場がほとんどないため、輸出代金をリンギ建てで受け取ることは難しい。ドルは他の通貨 と比べて最もヘッジが行いやすく、またドル建て価格の方が他社製品との価格の比較も行いやすいという顧客側のメ リットもある。(地場製造業) ○小売企業が為替管理を自社で行うのは難しいため、自社が直接為替リスクを負わないように通貨を選択している。海外 からの商品の仕入れはマレーシアの商社や海外ブランドの代理店を通じてリンギ建てで行い、国内店舗での販売もほと んどがリンギ建てであることから、収入と支出の間で通貨のミスマッチはほとんど発生していない。(日系小売業) ○マレーシアではリンギ建て貸出金利が高く、親会社などからドル建てで借り入れてリンギに換える方が、リンギ建てで 借り入れるよりもコストが低いため、多くの企業がドルで借入を行っている。 (日系金融機関) ○企業の為替管理については、シンガポールにみられるような統括拠点を設置して集中管理する方法もあるが、現法と本 社との取引のインボイス通貨を現地通貨に置き換えることによって、本社に為替リスクを移転して集中管理することが できるという意味において、企業が主要通貨だけでなく現地通貨を選択するメリットがあるのではないか。ただしリン ギは持出し規制があるため、現状ではクロスボーダー決済はドル建てが主流。 (日系金融機関) 9 (参考)マレーシアの貿易相手国 <2007年> <2015年> 中国 14.3% アメリカ 13.5% その他 35.5% マレーシア (2007年) 3,220億ドル フィリピン 1.7% タイ 韓国 インドネシア 5.2% 4.3% 3.5% CLMV 1.5% (注)貿易総額(輸出+輸入)における割合 (出所)IMF シンガポー ル 13.2% その他 37.4% マレーシア (2014年) 4,430億ドル 日本 10.9% 中国 10.7% フィリピン タイ 1.2% 5.5% CLMV 2.4% インドネシア 4.1% シンガポー ル 13.4% 日本 9.5% アメリカ 韓国 8.1% 4.1% 10 金融当局の規制等(マレーシア) ○マレーシアには1グループに対する与信を銀行の自己資本の25%までとするSCEL規制(Single Counterparty Exposure Limit)という大口融資規制があり、エクスポージャーの範囲にインターバンクのデリバティブ取引や親子間 ローンだけでなく、NYにある決済用ドル預金といった通常は与信に当たらないようなものまで含まれている。 そのた め、大きなデリバティブ取引が行えず、取引先企業に対して為替予約のプライス設定が慎重にならざるを得なくなって いることから、SCEL規制は金融機関だけでなく企業にも影響を与えている。(日系金融機関) ○SCEL規制により与信の量が絞られているため、対応策としてマレーシア・ラブアン島のオフショア金融センターか らの外貨建て貸出も行っている。その際、借入企業がマレーシア中銀に個別に申請して許可を得ることとなっているが、 2014年の秋ごろからマレーシア中銀の審査が厳しくなり、最近では地場企業に対しても許可が下りづらくなっている。 (日系金融機関) ○リンギのNDFによるオフショア取引は、オンショア取引の4倍に達しているが、マレーシア中銀はリンギ相場は実需 原則にもとづきオンショア市場で決定されるべきと発言しており、オンショア市場がオフショア市場の影響を受けるこ とを懸念している。(日系金融機関) ○リンギ市場については、規制緩和による投機によって市場の厚みが増すといった考え方もあるが、投機は一方的な動き であることが多くどこまで効果があるかは疑問であり、金融ビジネスと市場の安定をいかにバランスさせるかが課題。 (マレーシア中央銀行:BNM) ○アジア通貨危機は、マレーシアにとって金融規制や金融市場を整備するきっかけとなった。1997年と比べてマレーシア の外貨準備は増えており、リンギも信頼されている。マレーシア中銀による規制は他国に比べて厳しいとは思うが、再 び通貨危機のような事態が発生しないようにしているものであり、ある程度はやむを得ない。(地場金融機関) 11 人民元や現地通貨の利用 通貨の直接交換市場の創設 人民元の利用 【タイ】 ○対中貿易において人民元建て取引が占める割合については、2010年の0.8%から2015年に1.6%まで増加しているものの、依然 として低水準である。対ASEAN貿易においては、ASEANの現地通貨の使用を推進するというのが基本的な考え方であり、AS EAN諸国との間で、人民元の利用を拡大していくことは考えていない。(BOT) ○取引先企業からの人民元取引のニーズは概ね出張経費等に関するものであり、貿易取引に関わるものはほとんどない。事業で 中国リスクを取っているため、決済通貨まで人民元建てにして中国リスクを取りたくないということなのではないか。(日系金融機 関) ○人民元の利用はこれまでのところ大きくなく、人民元の利用を拡大していくにも長い時間が必要だろう。(地場金融機関) 【マレーシア】 ○中国はマレーシアにとって最大の貿易相手国であり、ドル転コストの抑制や金融商品の拡大等にもつながることから、2011年頃 からマレーシア当局主導で人民元の利用を促進している。人民元流動性ファシリティの導入(2013年11月)により、マレーシア国 内行はマレーシア中銀との間で人民元の貸借や直物、先物取引が可能になった。対中貿易における人民元建て決済の割合は 2%とまだ低いが、現在は人民元の運用の選択肢が広がっており、人民元の利用は拡大していくだろう。(BNM) ○人民元は決済通貨の上位5位以内に入っており、今後も人民元の利用は拡大する見込み。当行としても取引先企業に対して、人 民元を決済通貨として利用するようキャンペーンなどを行っている。(地場金融機関) ○2015年はドルが強く、アジア現地通貨は弱かった。人民元はドルよりもアジア現地通貨との連動性が強いため、為替リスクを減ら す観点から、人民元の利用が広まったのではないか。 (日系金融機関) ○世界中に輸出先(販売先)があり、価格設定の観点から決済通貨をドルで統一する方が望ましいことから、人民元を利用すること は考えておらず、マレーシアの本社と中国の工場の取引もドル建て。 (地場製造業) 13 アジア現地通貨の利用 【タイ】 ○タイ中央銀行は貿易及び投資において、バーツを含む現地通貨の利用拡大を推進している。貿易決済におけるドルの利 用は、バーツなどに徐々に代替されており、タイの貿易決済通貨として、2013年にバーツは円を抜いてドルに次ぐ第2 位となった。CLMVなどの周辺国との国境貿易においても、バーツの利用は拡大。(BOT) ○ASEAN経済共同体(AEC)が昨年発足したこともあり、タイにおいてもASEAN諸国の現地通貨の利用が促進 されているが、取引先企業は主にドル、円、ユーロを利用しているのが現状。リンギやルピアは持ち出し規制等により オフショア市場がほとんどないなど、 ASEAN現地通貨の多くが規制により自由な資本移動ができないことが課題。 (地場金融機関) ○タイの現地企業としては為替リスクが発生しないバーツ建て取引を行いたいが、当社では、実際にはほとんどドルを利 用している。日本やEUに対する輸出もドル建てが多い。(地場食品業) ○バーツ建てで日本との取引を行うためには、非居住者預金口座の規制緩和等を通じて、オフショア市場におけるバーツ の流動性を確保することが必要。(日系金融機関) 【マレーシア】 ○決済通貨の選択は企業がヘッジコスト等も踏まえて総合的に判断するものであるが、アジアの現地通貨はドルと比べて コスト面で割高であることから、ドルが最も使われている。(BNM) ○対中国貿易においては今までのところ、リンギ建てよりも人民元建ての方が伸びているが、リンギ建て取引も推進して いきたい 。中国の銀行間市場では人民元とリンギの直接交換(2010年から実施)のニーズもあると聞いている。(BN M) ○ドルを介さない現地通貨建て貿易決済は取引当事者の為替リスクを低減させる。今後、取引先企業は人民元をはじめと したアジア現地通貨による決済を拡大していくだろう。(地場金融機関) 14 直接交換市場(バーツ・リンギ、円・バーツ) 【バーツ・リンギ直接交換市場】 ○タイ・マレーシア両国の中央銀行が指定した各国3行については、当局への申請や許可を必要とすることなく、直物先 物取引の両方でバーツ・リンギの直接交換が可能となった(2016年3月14日公表)。バーツ・リンギの直接交換市場が機 能すれば、他のASEAN諸国の通貨に対しても直接交換市場に関する取組が拡大していくと考える。(BOT) ○タイ・マレーシア間の取引にはバーツ建てのものもあり、バーツ・リンギ直接交換市場については、良いプライスが出 てくれば利用される可能性が十分にある。(日系金融機関・マレーシア) ○バーツ・リンギの潜在的な為替ニーズは自動車関連企業を中心にあると思うが、タイからマレーシアへ輸出されている 完成車の方が多いため、マレーシアにおいてはバーツ買いの取引の方が多いのではないか。(日系金融機関・マレーシ ア) 【円・バーツ直接交換市場】 ○円は国際的な通貨であり、規制があるバーツやリンギに比べて流動性も十分にあり、日本と直接交換市場の取組みを行 うことについてはオープンである。(BOT) ○現在の銀行間市場には円・バーツ市場がないため、ドルを介した2つの取引を行っているが、タイには日本から直接輸 入している企業も多いことから、円・バーツの直接交換により為替取引のコストが下がることになれば、直接交換市場 が使用される可能性がある。( 日系金融機関・タイ) ○当行においては、円・バーツの為替取引は為替取引全体の2割を占めているため、直接交換市場ができれば利用される 可能性はあると思う。(日系金融機関・タイ) ○円・バーツの直接交換市場が実際に使われるには、実需原則の撤廃をはじめとした規制緩和によりマーケットを厚くす る必要があるが、タイ当局が簡単に規制を緩めるとも思えず、現状では直接交換市場を想像することは難しい。 またタ イから日本への旅行等、円からバーツだけでなく、バーツから円への交換ニーズが増えていくことも重要。 (日系自動 車企業・タイ) 15 (参考)AECブループリントにおける金融に関する方針 • 2015年12月末に創設されたASEAN経済共同体(AEC:ASEAN Economic Community)のAECブループリント2025では、 金融に関する事項として、①金融統合、②金融包摂、③金融安定化が掲げられており、金融統合については、ASEAN銀行 統合フレームワーク、クロスボーダー取引の促進、債券市場の発展等が掲げられている。 【金融統合、金融包摂、金融安定化に関する方針】 金融統合 金融包摂 金融安定化 (出典)野村資本市場研究所 ASEAN域内の 貿易及び投資の促進 • 金融セクターの自由化に対するコミットメントの強化 • ASEAN銀行統合フレームワークを通じた適格ASEAN銀行の市場アク セス及び事業柔軟性の向上 • ASEAN保険統合フレームワークを通じた保険市場の自由化、保険商 品の普及促進 • 域内のクロスボーダー取引の促進を目的とした、決済面での接続の強 化を通じた資本市場の深化及び連結性の向上 • 債券市場(国債・社債)の発展促進 零細・中小企業を含む 金融が行き届いていない層への 金融商品・サービスの提供 • 零細・中小企業が恩恵を享受できる域内の金融エコシステムの構築 - 格付機関や信用保証機関等の設立 • 金融アクセス、金融リテラシー、金融サービス仲介機関の範囲の拡大 • 金融教育の拡充、消費者保護の強化 • 金融サービスへのアクセス向上及びコスト低減に資する販売チャネル 拡充の促進 - モバイル・テクノロジーやマイクロ保険の活用 域内の金融インフラ強化 • マクロ経済及び金融の監督に係る既存プロセスの強化 - グローバルレベルでの金融安定化委員会(FSB)の取組みの補完 • ASEAN銀行統合フレームワークの実施に当たって、緊急時及び平時 における各国間の協力体制の強化 • プルーデンシャル規制に係る結束力の強化 - 国際的なベストプラクティスや規制基準との一貫性の向上 16 (参考)ASEAN銀行統合フレームワークの動向 • ASEAN金融統合フレームワーク(AFIF)が承認され、金融統合に関する議論がスタート(2011年4月)。2020年を期限として域 内の金融統合を目指すこととしている。 • AFIFの一つの柱であるASEAN銀行統合フレームワーク(ABIF:ASEAN Banking Integration Framework)は、域内の銀行 が他国に自由に進出し事業展開できるようにすることを目的とした枠組み。 • ABIFを構成する3要素として、平等なアクセス、平等な扱い、平等な環境が掲げられている。 • 今後、2018年までにASEAN4とシンガポールがABIFに基づく協定を締結する予定。 • ASEAN金融統合に向けた「戦略行動計画」が2016年4月のASEAN財務大臣・中央銀行総裁会議で提出された。 (報道より:2016年4月5日) -2019年までに適格ASEAN銀行2行を認証。 -「海上・航空・運輸」分野などで保険の自由化推進 -域内証券取引所の相互接続を20年以降に加速 -債券の情報開示を共通化(25年までに域内8か国) -一般投資家が国債を購入できる体制つくり(同上) 【金融統合、金融包摂、金融安定化に関する方針】 平等なアクセス (Equal Access) 平等な扱い (Equal Treatment) 平等な環境 (Equal Environment) (出典)野村資本市場研究所 • 一定の基準を満たした銀行が適格ASEAN銀行(QAB:Qualified ASEAN Banks)として認定され、自国と同じように 他国において事業展開できるようになる。 - 基準として、一定の自己資本比率、エクスポージャー規制、会計や透明性等が想定されている。 • 但し、全ての業務が対象ではなく、ホールセール業務に限定することが妥当と考えられている。 • 他の国から参入してきた銀行と自国の地場銀行は平等に取り扱われる(例:最低所要自己資本、ATM設置に係る規 則等。) • そのため、金融当局は各銀行の活動とリスク管理能力を注視する必要。 • この枠組みを有効に機能させるためには、各国の銀行規制が調和化される必要。 - 会計・開示基準、最低自己資本、リスク管理、早期是正措置、エクスポージャー規制、マネーロンダリング等 • 各国の金融インフラ(格付制度、信用補完、インターバンク市場)が整備されている必要があり、整備されていない国 に対しては技術支援が不可欠である。 17 (参考)ASEANにおける金融統合の展開(二国間での取組) 2016年3月14日 QABに関する協定調印 フィリピン (BSP) マレーシア (BNM) 2015年8月27日 現地通貨決済の促進のためのMOU署名 2016年3月14日 上記MOUに基づく決済枠組み公表 2016年3月14日 QABに関するHOA調印 タイ (BOT) 2016年3月31日 QABに関するLOI調印 インドネシア (OJK) 2015年12月 OJKが、CBMと銀行業務 の相互協力に関する合 意を結ぶ方針を発表 ミャンマー (CBM) ○タイ中央銀行(BOT)=マレーシア中央銀行(BNM) 2015年8月27日 ・マレーシア・タイ間の貿易及び直接投資における現地通貨決済を促進するためのMOUへ署名。 2016年3月14日 ・タイ・マレーシア間のQABに関する二国間協定についての基本合意書(HOA : Heads of Agreement)へ署名。 認定される銀行に対しては、相手国での市場アクセスの向上や企業活動の柔軟性が約束される見通し。 2016年3月14日 ・昨年8月のMOUに基づき、バーツ・リンギ直接交換に関する決済枠組みの運用について公表。両国内の各3行を通貨決済 銀行に指定。 タ イ:バンコク銀行、CIMBタイ銀行、カシコン銀行 マレーシア:バンコク銀行マレーシア法人、CIMB銀行、メイバンク ○タイ中央銀行(BOT)=インドネシア金融監督庁(OJK) 2016年3月31日 ・タイ・インドネシア間のQABに関する二国間協定についての基本合意書(Letter of Intent)へ署名。 ○マレーシア中央銀行(BNM)=フィリピン中央銀行(BSP) 2016年3月14日 ・マレーシア・フィリピン間のQABに関する二国間協定についての基本合意書(HOA : Heads of Agreement)へ署名。 両国内の各3行までが其々の市場に参加可能。 ○インドネシア金融監督庁(OJK)=ミャンマー中央銀行(CBM) 2016年1月4日 ・報道:OJKは、銀行業務の相互協力に関する合意を結ぶ方針を発表。 18 出張者所感 出張者所感① (伊藤委員) 通貨選択については、企業の規模や業種によって大きく異なるが、特に製造業の比較的小規模企業にとっては通貨の種類をなる べく少なくして為替管理コストを抑えたいという考えが強いという印象であった。また為替リスク管理を行う人材がいないという意見 も多かった。ドルを利用することがさまざまなコスト面で有利であり、ドルの利用比率は低下傾向にあるとはいえ、ドルの利用が支 配的な状況は続くであろう。円は変動が大きすぎるという声がよく聞かれた。日系企業以外では、あえて円を使う(使いたい)理由 はない、という印象であった。 タイやマレーシアではまだ多くの金融規制が残るものの、金融拠点を誘致したいという当局の意図もあり、トレジャリーセンター(プ ロフィットセンター)の設置が多少は増えてくるかもしれない。ただし、トレジャリーセンターの設置とそこでの一括為替管理が進展す れば、ますますドル取引が増えていく可能性が高いのではないか。 現地の外資系企業に対する金融当局の対応は、場当たり的というかケースバイケースで、あまり規制されていない企業と厳格に 規制されている企業とがあるような印象であった。政府から現地金融当局へ働きかけることが有効なのかどうかよく分からないが、 政府として何かサポートできることはあるのかもしれない。 特に、タイの自動車関連の日系企業を中心に、円とバーツの直接取引市場に対するニーズは一定程度あることは確かなようだが、 日本との貿易額自体が大きく増えない状況において、円建て貿易や円・バーツの直接取引のボリュームが今後増えていくことは考 えにくい。また、部品サプライヤーにおいてもASEAN域内や現地からの調達率がかなり高くなっており、日本からの輸入が大きく増 えることもなさそうである。円は国際通貨の一つであり、今後も一定程度使われ続けるであろうが、ASEANにおける円の利用拡大 はあまり見込めない。 タイとマレーシアで、人民元利用に対する考え方はかなり違うという印象を受けた。ヒアリングした企業の属性による差もあるだろ うが、マレーシアの中央銀行はかなり積極的に人民元利用を促進しており、中国との貿易額の大きさからしても近い将来人民元利 用が急速に拡大する可能性があるのではないか。円と同等にまで多く利用されるようになるには、まだ時間がかかりそうではある が、遅かれ早かれ円に並ぶ地位にはなってくる可能性があると感じた。 21 出張者所感② ASEAN諸国における中国との貿易の大きさを考慮すれば、近い将来、人民元のプレゼンスは円と同等程度にまでは高まってくる と感じた。特にタイでは、人民元は使いにくいという声もあったものの、人民元は遅かれ早かれ国際通貨としての地位を確立してく るのではないか。それを前提として、日本においても人民元を利用しやすい環境整備を急ぐべきではないか。それがひいては、東 京の金融センターとしての魅力を高めることにつながるのではないか。 (奥田委員) (1)人民元の利用について 貿易・投資面での中国の比重に合わせて、人民元の利用は更に拡大する余地がある。バーツやリンギと元の連動性が増し ており、元建取引のメリットが増している。 中国とタイあるいは中国とマレーシアの2国間で生産・取引の連鎖が完結しない場合(例えば第3国からの部品や資源の購入 が生じる場合)には、メリットに限界がある。 中央銀行は総じて好意的な対応であり、地場金融機関はドル建取引では欧米銀行や邦銀よりも見劣りすることもあり、元建 取引については前向きに対応している。中国がタイ・マレーシアなどに積極的な接近を図っていることも促進要因となっている。 欧米銀行や邦銀でも元建取引の拡大に消極的ということはない。 (2)現地通貨の利用について 国際金融市場の混乱を警戒して、オフショアのバーツやリンギを認めず実需原則を厳しく守っている。この場合、現地通貨建 て取引の拡大は為替リスクを軽減する一策である。 現地通貨の直接取引にもタイとマレーシアの中央銀行は前向きである。ただしオフショアのバーツやリンギが利用できないな ど、当面は流動性などの面で窮屈ではないか。 (3)円の直接取引について 円建て取引も一定の水準があり円と現地通貨との直接取引もあり得るというのが邦銀の回答であったが、実際には積極的 に円の直接取引を考える動きはない。 円の直接取引には、市場の流動性を高めることが必要だが、実需原則が基本なので限界があろう。 22
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