「American Finance Association 2016 Annual Meeting (AFA)」参加報告

フィナンシャルエンジニアリングレポート Vol.21(
(2016/5)
)
「American Finance Association 2016 Annual Meeting (AFA)」
(AFA)」参加報告
1.カンファレンス概要
大会名:American Finance Association 2016 Annual Meeting (AFA)
主催者:American Economic Association
開催地:San Francisco , CA , USA
日時:2016 年 1 月 3 日~ 2016 年 1 月 5 日
AFA はサンフランシスコのダウンタウンにある Marriotto marquis を会場に 2016 年 1 月 3 日から 1 月 5 日の
間で開催された。開催期間中はあいにくの空模様であったが、サンフランシスコのダウンタウンは本カンファレン
スの参加証を着用した参加者で賑わっていた。3 日間で 74 のセッションが開かれ、251 もの多岐にわたる発表が
行われた。
2.内容
以下では、聴講した発表の中からその一部を紹介する。
【High-Frequency Trading】
[Dion Bongaertsy and Mark Van Achter ” High-Frequency Trading and Market Stability”]
近年注目を浴びている High-Frequency Trading (高頻度取引) が市場の流動性に与える影響に関する研究。
本研究では、高頻度取引の特徴である「高速での取引発注機能」および「取引量等の実データを用いて市場動
向を推定し、推定の結果をもとにリアルタイムに取引戦略を変更する機能」に着目し、下記 3 つのアルゴリズム
取引モデルを構築、比較することで高頻度取引が市場の流動性へ与える影響を分析した。
モデル
取引発注速度
取引戦略
①
高速
市場動向の推定等を行わず、初期に決めた取引戦略で取引発注を実行
②
低速
取引量等の実データを用いて市場動向を推定し、リアルタイムに取引戦略を変更
③
高速
取引量等の実データを用いて市場動向を推定し、リアルタイムに取引戦略を変更
本研究では、「OFFER と BID の乖離幅」および「取引数量」を市場の流動性をはかる指標としている。
分析の結果、①のモデルにおいては、取引数量が増えることにより市場の流動性が上昇したが、②のモデルに
おいては情報の非対称性から軽微な市場流動性の低下が発生する可能性があることを示した。
そして、まさに高頻度取引の特徴を有する③のモデルにおいては、取引量が増えることで市場の流動性を上昇
させる可能性もある一方で、情報の非対称性が②のモデルと比して大きく拡大し、市場の流動性を著しく低下さ
せる可能性があることを示した。
【Variance and Crash Risk Pricing】
[Sang Byung Seo , Jessica A. Wachter “Do rare events explain CDX tranche spreads?”]
本研究は Barro(2006)のモデルを用いた 2008-2009 年の金融危機時における CDX のトランシェの価格付けに関
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する研究である。Barro のモデルは、大きな負の経済的影響をもたらす事象は、稀ではあるが発生しうるというこ
と(レア・ディザスター)を前提にした投資リターンモデルである。実際に観測される株式のリスクプレミアムが、経
済学の標準的なモデルによって説明できないほど大きいという問題を説明することができるモデルとして知られ
ている。本研究では Barro のモデルを用いて、金融危機等のレア・ディザスターを市場がどのように評価している
かをはかる指標となる CDX の価格付けができることを示した。
【Trading in OTC Markets】
[Terrence Hendershott , Dan Li , Dmitry LivdanNorman Schürhoff ” Relationship Trading in OTC Markets”]
アメリカにおいて社債最大保有者のひとつである保険会社の債券取引データ(2001 年-2014 年)を使用した OTC
マーケット取引に関する研究。大規模な保険会社は多数のディーラーと取引ネットワークを構築し、そのネットワ
ークの中でベストの取引を行う一方で、小規模の保険会社は少数あるいは単一のディーラーと条件の悪い取引
を強いられていることを示した。
【Pricing of Variance and Tail Risk in Derivatives Markets】
[Martijn Cremers , Andrew Fodor , David Weinbaum “Where Do Informed Traders Trade First? Option Trading
Activity , News Releases , and Stock Return Predictability”]
経済ニュースリリースが株式オプショントレーダーの取引に与える影響に関する研究。
本研究では、株式オプション取引のデータと経済ニュースリリースのデータを紐づけることで、経済ニュースリリ
ース付近の株式オプション取引の傾向を調査し、ニュースのリリース時および直前において、株式オプションの
取引数量が増えることを示した。また、予定された経済ニュースリリースが無い場合において、株式オプショント
レーダーがショートポジションを選好し、経済ニュースリリースが予定されている場合にはロングポジションを選
好する傾向があることを示した。
【Credit Risk】
[Wenxin Du , Salil Gadgil , Michael B . Gordy , Clara Vega “Counterparty Risk and Counterparty Choice in the
Credit Default Swap Market”]
CDS 市場におけるカウンターパーティリスク管理に関する研究。豊富な実データを用いて、マーケット参加者が
カウンターパーティリスクを「信用リスクの低いカウンターパーティと優先的に取引すること」および「参照組織と
の相関が高いカウンターパーティとの取引を避けること」で管理していることを示した。また、取引の清算集中に
関しても分析を行っており、「カウンターパーティリスクを低減(排除)するはずである清算集中が、必ずしも CDS
の価値向上に寄与しているわけではない」ということを示した。
3.所見
AFA では毎年金融に関する幅広い分野の発表が行われているが、2016 年の AFA では昨年までと比較して大
幅にセッション数が増え、高頻度取引やカウンターパーティリスクなどの近年注目を浴びている分野の研究や金
融危機時のデフォルトリスクにかかわる研究などの多岐にわたる分野の発表が行われた。
これは、金融分野の領域細分化が進んでいることを物語っており、今後もこの傾向は進んでいくと思われる。
これだけ幅広い分野の発表を聴講できるカンファレンスは貴重であり、金融関連の業務に従事する者として非常
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に有意義な大会であった。
(金融技術開発部 柳田 真吾)
照会先:みずほ情報総研株式会社 金融技術開発部
東京都千代田区神田錦町 3-1
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