高平均出力 Yb 系ピコ秒固体レーザーの開発 分子運動の観測や制御に用いる高強度テラヘルツ光パルスを発生するためには、パルス(時 間) 幅が 1 ピコ秒程度、 パルスエネルギーが 1 mJ 以上のレーザーパルスが必要になります。 また、利用・応用研究をスムーズに行うためには、その発生頻度は 1 kHz(1 秒間に千回) という高い繰り返し頻度が要求されます。我々はこれらの要求を満たす高平均出力ピコ秒 パルスレーザー「QUADRA-T」 (テラヘルツ用高品位高輝度光源 Quality Ultra ADvanced RAdiation Sources for THz)を独自に開発しました。QUADRA-T レーザーは、レーザーパ ルス発振器、パルス伸長器、前置増幅器、再生増幅器、パルス圧縮器で構成されます(図 1) 。 図 1. QUADRA-T レーザーの構成(a)と装置全景(b) このような構成のレーザーはチャープパルス増幅レーザー(CPA レーザー)と呼ばれます。 パルスレーザー発振器からはパルス幅 200 fs の短パルスが、繰り返し頻度 80 MHz で出力 されます。パルス伸長器によりパルス幅を 2 ns に引き伸ばしたのち、Yb ファイバー前置増 幅器にて増幅を行います。その後、パルス分集器により繰り返し頻度 1 kHz 成分を 2 系統 取り出し、それぞれレーザー媒質として(1) Yb:YAG [1]、(2) Yb:Y2O3 [2]を適用した再生増 幅器により、10 万倍~100 万倍のエネルギー増幅を行います。QUADRA-T レーザーでは、 このような繰り返し頻度 1 kHz での高平均出力動作を実現するため、主増幅器である再生 増幅器にて薄ディスク型レーザー媒質を用いています(図 2) 。現在、パルス圧縮器により 短パルス化されたのちの出力として、 (1) Yb:YAG を用いた場合: 10 mJ/パルス、パルス幅 1.3 ps --- 高出力モード (2) Yb:Y2O3 を用いた場合: 2 mJ/パルス、パルス幅 0.9 ps --- 短パルスモード の 2 つのモードにて実験用途に応じた運用を行っています。 図 2. 薄ディスク型レーザー媒質 また、QUADRA-T レーザー内で用いる光学素子用の高耐力光学薄膜の独自開発を行ってお り、世界最高性能のレーザー耐力を実現しています[3]。 問い合わせ先: 越智 義浩 E-mail: [email protected] 参考文献 [1] “Yb:YAG thin-disk chirped pulse amplification laser system for intense terahertz pulse generation, ” Yoshihiro Ochi, Keisuke Nagashima, Momoko Maruyama, Masaaki Tsubouchi, Fumiko Yoshida, Nanase Kohno, Michiaki Mori, and Akira Sugiyama, Opt. Express 23, 15057-15064 (2015). [2] “Sub-picosecond regenerative amplifier of Yb-doped Y2O3 ceramic thin disk,” Momoko Maruyama, Hajime Okada, Yoshihiro Ochi, and Keisuke Nagashima, Opt Express 24, 1685-1692 (2016). [3] “Development of high resistant anti-reflection coating by using Al2O3/SiO2 multilayer,” Y. Ochi, K. Nagashima, H. Okada, M. Tanaka, R. Tateno, Y. Furukawa, and A. Sugiyama, Proc. of SPIE 7774, 88851Z-1-6 (2013).
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