障害児を持つ 家族の積極的人生への 変化について 一 障害児を持っ 家族へのインタビューを 通して一 八幡 晶香 はじめに 子どもに障害があ ることを知ったときの 家族のショックは 、 私たちには想像もできないほど 大きい ものであ ると考えられる。「わが子に障害があ る」という事実をすぐに 受け入れることは 容易ではない。 そのショックの 大きさから、子どもの障害を 受け入れられず、マイナスに考えてしまう 家族もあ れば、 時間をかけて 悩み、 苦しみながらも 子どもの障害を 受け入れ、 前向きに考えられるようになった 家族 もあ るだろう。 では、前向きに考えられるようになった 家族は、 そのショッ タ をどのように 乗り越え、 どのようなことがきっかけで 前向きに考えられるようになったのだろうか。 この研究では、 障害児を 持った家族が 前向きに考えられるようになった 要因について 考察したい。 障害児を持つ 家族が、 前向きに考えられるようになった 要因について、 私なりに考えてみた 結果、 前向きに考えられるようになった 家族は、 子どもの障害に 向き合い、 受け入れ、 認めることができて いる、 つまり受容できているからではないかという 結論に至った。 そこで、 この研究では「子どもの 障害を受容することが、 障害児を持つ 家族にプラスの 影響を与える」という 仮説をたて、 この仮説を 検証するために 障害児を持つ 家族を対象にインタビューを 行うことにした。 この研究の意義は、 障害児を持つ 家族がどのようにして 前向きに考えられるようになったのかを、 障害児を持つ 家族へのインタビューを 通して探ることにより、 前向きに考えられるようになった 要因 を知ることができる 点にあ る。 わが子に障害があ るという事実を 受け入れられず、 障害児を持ったこ とをマイナスに 考えてしまい、 前向きになれない 家族に対する 支援を考えるとき、 同じように障害児 を 持った家族が 前向きに考えられるようになった 要因を知ることが、 援助の助けや、 きっかけにつな がるのではないかと 考える。 そして家族が 障害児を持つことをマイナスではなく、 プラスに考えられ るようになることで、 障害児を持つ 家族を取り巻く 環境もプラスへと 変化するのではないかと 期待で きる。 ] . 家族の障害受容とは わが子に障害があ るとわかったときの 親の衝撃は計り 知れない。 そのときの気持ちを 親たちは「動 揺してしまい、 自分を見失っていた」、 「頭の中が真っ 白」、 「暗い海の底に 突き落とされたような 気が した」 ゎと 表現している。 このときのショッ タ から長 い 時間をかけ、 悩み苦しみながらも 立ち直り、 や が てわが子に障害があ るという現実を 認め、 積極的な生き 方を選択できるよ う に変化していくことを 障害の受容というのではないだろうか。 障害受容は一般的に 報告されている 段階調 @こ しろ、 慢性的悲哀 の り @こせよその本質は 、 親の人間観、 価値観の転換と 生きる強さを 獲得していく 過程であ るように思われる。 三木女王 は、 知的障害児を 持 つ親の受容を「子どもの 現状の理解」「教育観、 子どもへの教育的期待」「村社会的態度世間 態 」「親の 気分、 心構え」の 四側面について、 現状の否認から 障害の本質や 子どもの能力を 理解し、 不安一希望 一落胆を経て、 社会的関係の 中で、 人間として大切なものや 尊さなど価値観の 転換が図られる 過程と しめ、 鏑幹 八郎は受容段階の 最終段階で、 このような 親 自身の人間的な 成長を子どもに 感謝する段階 や 、 これらの 親 自身の体験をもとに 啓蒙する社会的活動の 段階があ ると述べている 目 。 また、 佐々木 正美は、 障害児を持った 親の人生や生き 方、 障害児を持った 家族の人生というようなものを 新しく創 造していくという 意味で、 障害受容とは 新しい人生のアイ ヂ ンティティの 確立ということになると 述 一 38 一 べている 6)。 このように障害をもつ 子どもの受容過程において、 親は価値の高い 生き方を獲得し、 人 間的に成長すると 言えるのではないだろうか。 しかし、 その過程にあ る辛さや苦しさはことばに 表せ ないほど大変なものだろう。 以上の考えをもとに、 この研究では 家族の障害受容を「苦難の 過程を経て、 障害があ るという現実 を認め、 健常 児 と比較するのではなく、 障害があ ることを肯定した 積極的な生き 方を選択できるよ う に価値観の転換が 起こる人間的な 成長の過程であ る」と定義してすすめていくことにする。 2, インタビュ一調査の 概要 インタビュ一の 目的は「子どもの 障害を受容することが、 障害児を持つ 家族にプラスの 影響を与え る 」というこの 研究の仮説を 検証するとともに、 障害受容のきっかけを 探ることとする。 インタビュ 一の対象は障害児を 持つ家族とし、 母親 7 名にインタビューを 行った (2002 年 8 月∼9 月実施 ) 。 インタビュ一の 質問内容は、 「障害児を持つ 家族の障害受容」と「家族の 前向きさ」の 2 つの状況 (1) 家族関係について、 (2) 家族での外出について、 (3) 育児に対する 家族の 協力・ (4) 子どものことについて 一番の相談相手、 (5) 近所の人や友人と 子どもとの交流、 (6) 親 の会について、 (7) 子どもの習い 事について、 (8) 子どもに障害があ るとわかったときの 気持ち、 (9) 現在の子どもの 障害に対する 気持ち、 (10) 受容について、 (11) 子どもを育ててきた 中での支 え、 (12) 子どもの将来について、 の 12 項目を設定した。 を 把握するために 3. インタビュ一の 各質問項目に 対する結果と 考察 インタビュ一の 具体的内容をもとに、 それぞれの質問項目に 対する答えからカテゴリーを 抽出、 分 類し、 質問項目ごとに 考察を行った。 け ) 家族関係について ①家族でよく 話をするけ -X1.3.4.5.6.7)/ ②家族ではあ まり話をしないけ -72) ほとんどのケースが 家族でよく話をすると 答え、悩みなどの相談については 全体的に家族 (特に夫 ) にすると答えたケースが 多かったが、 障害児 は ついての悩みは、 家族にはせず、 同じ障害児を 持つ母 親にすると答えたケースもあ った。 インタビューからは、 子どもの障害を 認められるようになること で、 家族でよく話したり 相談したりするようになったという 傾向が見られ、 障害受容の影響が 考えら れる。 (2) 家族での外出について ①よく外出するけ ハ レ 2,3,5,6,7)/②家族での外出は 少ないけ - 4) ほとんどのケースで 障害を持つ子どもとの 外出はよくすると 答えており、 買い物などに 一緒に行く ことが多いようだ。 家族そろっての 外出も買い物だけでなく、 旅行などをしているというケースも 多 ス かった。 周囲に子どもを 隠すのではなく、 周囲に子どものことを 知ってほしい、 受け入れて欲しいと いう思いがうかがえる 発言もあ った。 (3) 育児に対する 家族の協力 ①協力的 けづ 3.4.5.6)/ ②あ まり協力的とはいえな い け- 1,2.7) ス 協力的か、 そうでないか、 半々の答えだったが、 あ まり協力的でないと 答えたケースの 場合、 夫は 仕事があ るからしょうがなりという 回答が目立った。 また、 協力的だと答えたケースも、 家族かんな が子育てに協力的であ るとは限らないようだ。 障害児のきょ ぅ だいに対しては、 親は興味を持って 欲 しい、 協力して欲しいと 思いながらも、 協力を強制しないようにしているケースが 多いようだ。 一 39 一 (4) 子どものことについて 一番の相談相手 教育関係者 (ケース 1.7})/②矢け り 3,5.6)/③同じ障害を 持つ子の親 ( -7.2) (5) 近所の人や自分の 友人と子どもとの 交流 ①交流があ るけ づ 1.3,5,6)/②あ まり交流はないけ り 2.4.7) 近所の人や自分の 友人と子どもとの 交流があ ると答えたケースは 半分だった。 交流の深さはケース によって違うが、 母親の方から 積極的に周りに 働きかけて、 子どもを受けて 入れてもらえるように 努 力 しているケースもあ った。 時間はかかったようだが 確実に受け入れられているようであ る。 (6) 親の会について ①親の会には 入っていないけ り 1ノ ②親の会に入っているけ り 2.3.4.5.6,7) ケース 1 を除いてどのケースも 親の会に入っており、 子どもが小さいときよりもあ る程度大きくな ってから参加することが 多くなったと 答えるケースが 目立った。 これは入った 当初は親の会について よく知らず、 親の会に参加することの 意味などを理解してからよく 参加するようになったようだ。 親 の会で同じ障害児を 持つ母親同士で 話をすることは、 気持ちが楽になったり、 安心したりと 精神的な 支えにもなっているようであ る。 インタビュ一では 親の会について、 「情報を得ることができる」、 「精 神的にプラスの 面が大きい」と 答えており、 障害児を持つ 母親にとって、 同じ障害児を 持つ母親との 交流の場であ る親の会の存在は 大きいようで、 障害受容にも 影響を与えているのではないだろうか。 (7) 子どもの習い 事について ①していた,現在もしているけ - 1.2.5.7)/②していない・したこともない ( -73.4.6) 習い事を過去にしていたことがあ る、 現在もしているというケースはほぼ 半分だった。 習い事を始 めた理由としては 子どもの発達のためと 答えたケースが 多く、 どのケースからも 少しでも発達してく れればという 親の思 いが感じられた。 また習い事をさせなかったケースはその 理由を「できないだろ うと思いさせなかった」「やっても 無駄という思いがあ った」と答えている。 (8) 子どもに障害があ るとわかったときの 気持ち ①障害よりも 生きて欲しいという 思いのほうが 強かったけ り 1,2)/ ②信じられなかった (ケづ 3 ノ ③ 大きなショック・ 落ち込ん れケづ 4.5.6 ノ ④わからなかったけ り 7) 子どもに障害があ ることを知ったときは 大きなショックを 受けたと答えたケースが 多かった。 一度 診断されたものの、 その事実を信じられず、 医療機関を回ったというケースもあ ったことなどから、 子どもに障害があ るという事実はそう 簡単に受け入れられるものではないということがうかがえる。 (9) 現在の子どもの 障害に対する 気持ち ① 力 をつけてやりたいけづレ 6)/ ②不満はないけ り 2.5,7)/③可能性を信じたいけ り 3)/ ④ど う し ようもない けづ 4) 子どもの現在の 状態に不満があ ると答えたケースはなく、 心の安定を得られたケースが 多いが、 現 状 に満足せず可能性を 信じたいというケース や 、 現在の子どもの 状態に不満はないが 今後の子どもの ①医療・福祉・ ケ ス ケ 生活に不安を 感じているケースもあ った。 (10) 受容について ①受容できているけ り 1,3.4.5.6.7)/ ②受容できていなⅨケース 2) ケース 2 を除いた 6 ケースが「受容できている」と 答えている。 またケース 2 も受容できていないと はしながらも「個性として 思えるときもあ る。 まだ揺れ動いている 状態」という 発言から受容の 過程 にあ るのではないかと 推測することができる。 (11) 子どもを育ててきた 中での支え 一 40 一 ①子ども自身け - 1,2.3)/②家族 (ケース 4.5.6)ノ③障害児の 親 との交流 (ケース 5)/ ④こと 風 ケース 7) 子どもを育ててきた 中で支えになっていたものは、 障害のあ る子ども自身や 家族と答えるケースが 多かった。 中には「ことば」と 答えたケースもあ り印象的だった。 またこの質問でも 同じ障害児を 持 つ親 との交流が支えになったというケースもあ り、 親の会の影響は 大きいと言える。 ケースによって 支えになっていたものは 違うが、 苦しい時期もこれがあ ったからがんばれたというものがどのケース ス にもあ ったようだ。 (12) 子どもの将来について ①自立して欲しいけ -71.2.3.5.6)/ ②不安 (ケース め Ⅰ③施設入所 (ケ -77) 子どもの将来については、 ほとんどのケースが 子どもの自立を 望んでいるよ う であ る。 子どもの自 立のために今からいろいろと 考えているケース や 、 自立に向けて 具体的な話 (グループホームなど ) が進んでいるケースもあ る一方、 将来について 不安を抱えているケースや 施設入所を選択したケース もあ った。 4. 仮説の検証 (1) 受容の程度における 比較 インタビュ一の「 (9) 現在の子どもの 障害について」の 質問で、 現在の子どもの 状態に不満があ ると答えたケースがなかったことと、 「 (10) 受容について」の 質問の答えから 推測して、 インタビュ 一 を行った全てのケースが 受容の過程にあ るといえるのではないかという 結論に至った。 一口に受容 の過程にあ るとは言っても、 ケースによって 受容の程度は 異なっていると 考えられる。 そこでこの研 究ではインタビュ 一内容から、 各ケースの受容の 程度を「高 い 受容」・「中程度の 受容」・「低い 受容」 の 3 段階に分けて、 その程度ごとにインタビュー 結果を比較し、 仮説を検証していくことにしたい。 そこでまず、 受容の程度を 測る指標として、 ①周囲に子どもを 隠さない、 ② 健常見と比較しない、 ③子どもの障害に 対して不満はない、 の 3 つを設定した。 これを各ケースに 当てはめ、 インタビュー 内容から考察して「よくあ てはまる」ものには⑨ 、 「ややあてはまる」ものには 0 、 「あ まりあ てはま らない」ものには ム をつけることにした。 そして 3 つ全てに⑨がついたものを「高い 受容」、ム がつい たものを「低い 受容」、 それ以外を「中程度の 受容」と分類することにした 俵i (表 1 参照 ) 。 各ケースの受容の 程朗 ケース 2 3 4 5 6 7 ①周囲に子どもを 隠さない ⑥ ム O ム O ⑥ ⑨ ②健常見と比較しない ⑥ O O O ⑥ ⑥ ⑨ ③子どもの障害に 対して不満はな い ⑨ ⑨ O O O ⑥ ⑨ 4氏 中 低 中 局 向 受容の程度 庄司 (2002 年八幡品番 拘劇 次にこの結果を「家族の 前向きさ」をキーワードに 設定した項目に 当てはめ、 受容の程度によって 違いがあ るのかどうか 見ていきたい。 項目は①家族でよく 話したり、 相談したりする、 ②家族でよく 外出する、 ③子どもの将来について 家族でしっかり 考えている、 ④家族みんなが 子どもの障害に 対し て肯定的であ る、 の 4 項目設定した。 これを受容の 程度ごとに比較してみたところ、 受容の程度が 高 いほど「よくあ てはまる」項目が 多く 、 逆に受容の程度が 低いケースは「あ まりあ てはまらない」 項 目が多い傾向があ るという結果になった (表 2 参照 ) 。 このことから、 受容の程度が 高いほど、 その家 一 41 一一 族は前向きであ り、 家族にとってプラスの 影響が大きいと 考えられる。 俵2 受容の程度に よ る とヒ蜀 ①家族でよく 話したり、 相談したりする 低 中 局 ケース 6 7 3 5 2 4 ⑨ ⑨ ⑥ ⑨ 0 ム ム ⑨ ⑥ ム ⑥ ⑥ ム ム ⑨ O ⑥ O O ム ム ⑨ ⑨ O ⑥ O 八 O ③子どもの将来について ②家族でよく 外出する 家族でしっかり 考えている ④家族みんなが 子どもの障害に 対して肯定的であ る (2002 年八幡品番作成 ) (2) インタビュ一内容の 考察 次にインタビュ 一の具体的内容からも 仮説の検証を 行いたり。 (1) で「高い受容」「中程度の 受容」 に分類されたケースはインタビュ 一の中で、 子どもの障害を 受け入れていることにより、 以前に比べ て家族で障害のあ る子どものことについて 話したり相談したりするようになった、 家族での外出でも 障害のあ る子を中心に 考えられるようになったと 話している。 それに比べて「低い 受容」に分類された ケースでは、 家族で話したり、 相談したりする 機会や、 家族そろって 外出する機会も 少ないようだ。 また「高い受容人「中程度の 受容」のケースでは、 それまで周りに 子どもの障害について 隠すよう な傾向があ ったが、 子どもの障害を 親自身が受け 入れられるようになって 堂々と話せるようになった という語や 、 子どもを周りに 隠すのではなく、 積極的にいろんなところへ 連れていき、 周りに受け入 れてもらえるように 行動しているという 話もあ り、 親が子どもの 障害を受け入れていれば、 周りにも 子どもの障害を 隠すようなことはなく、 逆に受け入れて 欲しいと考えるようになるのではないかと 推 測できる。 これは家族間においても 言えることで、 家族のうち誰かひとりでも 子どもの障害を 受け入 れていれば、 障害児のきょうだいも 含めて家族みんなで 障害のあ る子どものことについて 話したり、 相談したりすることが 多いようであ る。 このことは、 子どもの障害を 受け入れていく 過程において 親 が子どものおかげで 成長できたと 発言しているケースもあ ることから、 障害受容の過程で 親自身の考 え方や価値観の 変化が見られる 傾向があ ると言うことができる。 以上、 インタビュ一の 内容から①子どもの 障害を認められるようになって 家族の絆が深まった 、 ② 親が子どもの 障害を受け入れていると 周りに子どもの 障害を隠さない 傾向があ る、 ③子どもの障害を 受容する過程で 考え方 (価値観 ) に変化が生じる、 という結果が 得られた。 (1) 、 (2) の結果から、 子どもの障害を 受容することは、 障害児を持つ 親や家族にとってプラス の影響があ るということがわかる。 したがってこの 研究の「子どもの 障害を受容することが、 障害児 を 持つ家族にプラスの 影響を与える」という 仮説は立証されたといえる。 このように子どもの 障害を受容することが、 その家族にプラスの 影響を与えるという 結果が出た背 景には母親の 存在が大きく 関係していると 思われる。 インタビュ一内容からも、 母親の障害受容が 、 他の家族にとって 大きな影響を 与えているということがうかがえる。 これは母親だけに 限らず、 家族 のうち誰かひとりでも 子どもの障害を 受容できていれば、 他の家族に何かしらの 影響があ ると言える のではないだろうか。 これを障害児を 持つ家族におけるキーパーソンであ ると考えると、 子育ての中 心 はほとんどが 母親であ り、 子どもと過ごす 時間が多く 、 子どもの障害を 受け入れやすいと 推測され るため、 このキーパーソンは 母親が多くなるのではないかと 考えられる。 今回のインタビュ 一の結果 はインタビュ一時の 母親についてのものであ り、インタビュ一時の 母親 一 42 一 の気持ちや考えであ る。 これから先、 子どもとともに 生きていく過程で 気持ちや考え 方は様々に変化 していくと考えられ、 子どもの成長とともに 親 自身も成長していくものと 思われるということだけこ こで付け加えておきたい。 障害受容が家族に 与える影響 5. 今回の研究結果のように、 子どもの障害を 認めることができるようになることで、 家族で話したり 相談したりする 機会が増えたり、 子どもの障害を 認められるようになって 、 子どもの障害について 人 に隠したりすることなく 話せるようになったり、 また子どもの 障害を受容する 過程で価値観に 変化が 見られたりするなど、 障害受容が家族に 与える影響は 大きいといえる。 自分の子どもに 障害があ るとわかったとき、 その現実を受け 入れるのは容易ではない。 だからこそ 子どもに障害があ るという現実を 受け入れていく 過程で、 障害児を持つ 親や家族は積極的に 人生を選 択し、 人間的に成長していけるのではないだろうか。 障害受容が家族にプラスの 影響を与えるという なら、 それは障害児自身にとってもプラスであ る。 そして障害児を 持つ家族を取り 巻く周りの環境に とってもプラスであ るはずだ。 障害児を持つということは 恥ずかしいことでもなければ、 隠す必要も ないことであ る。 子どもに障害があ るという現実を 親や家族が受け 入れるということは 容易ではない かもしれないが、 親や家族が子どもの 障害を受け入れやすくなるよさに、 周りの理解と 協力が得られ るような社会にしていくことが 重要であ る。 6, 障害受容に影響する 要因 障害受容には 障害の種類の 違いや、 障害の程度、子どもから親への 反応の違い、 親の生育歴や 性格、 社会の障害観、 家族の理解、 同じ障害児をもつ 親 との交流、 健常児の発達など、 様々な要因が 影響を 及ぼすと考えられる。 子どもに障害があ るとわかったときの 気持ちをインタビュ 一の中で親たちは、 「大きなショックを 受けた」「信じられなかった」など、 その当時の複雑な 心境を語っている。 しかし、 現在の子どもの 障害に対する 気持ちをたずねたところ、 不満であ ると答えたケースはなく、 子どもの 障害を受け入れられているケースが 多かった。 子どもに障害があ るとわかったときの 気持ちから、 子 どもの障害を 受け入れ、 現在のような 気持ちに至ったのは 各家族でいろいろな 出来事、 経験を経てき た 結果であ り、 上に挙げたような 様々な要因が 影響している。 今回のインタビュ 一では子どもを 育て てきた申での 支えとして、 「家族の支え」、 「同じ障害児を 持つ 親 との交流」、 そして「障害を 持つ子ど も自身」が挙げられている。 また障害児を 持つ家族を取り 巻く周りの環境や 理解も家族の 障害受容に 影響を及ぼすのではないかと 考えられる。 障害受容の過程は 受容に至る時間も 状況も人それぞれであ る。 そのため障害受容に 影響する要因も 人それぞれ異なるだろう。 しかし少なくとも 上に挙げたよう な要因があ ることを理解していれば、 障害児を持ったことで 悩んでいる家族や 受容できていない 家族 に 対する援助の 際、 何か助けになるのではないかと 私は考えている。 おわりに 障害受容とは、 苦難の過程を 経て、障害があ るという現実を 認め、健常 児 と比較するのではなく、 障害があ ることを肯定した 積極的な生き 方を選択できるように 価値観の転換が 起こる人間的な 成長の 過程であ るⅡ「障害児を 持つ家族の積極的人生への 変化について」というテーマを 取り上げて、 この 研究をするにあ たり私は障害受容をこのように 定義した。 今回インタビュ 一で、 障害児を持つ 7 人の お母さん方に 出逢うことができ、 いろいろな話を 聞かせていただく 中で、 私はお母さん 方の話を聞い 丁 一 43 一 て 家族の絆の深さを 感じ、 お母さん方の 積極的な姿勢を 見て子どもを 育てる母親の 強さを感じた。 そ して障害受容とはまさにこの 定義の通りだと 感じた。 話を聞かせていただいて、 周りから見て 現在は 積極的に前向きに 人生を過ごしているように 見えているお 母さん方も、 過去には障害児を 持ったこと で 悩み、 苦しんだ時期があ り.それを乗り 越えて現在の 気持ちや状態に 至るまでの過程は、 ことばに 言い表せないほど 長い道のりであ ったのだと改めて 感じた。 ただ、 そのときの悲しみ、 苦しみを乗り 越えたことが 今の生活につながっていて、 今の生活に満足している、 子どもが成長してきた 中で私は 人生で得られないものを 得たと 思、う 、 とおっしゃ つ たお母さんのことばの 一つ一つぼ重みがあ って、 そう言えるまでになったお 母さん方の人生がすてきに 輝いて見えた。 まだまだ子どもの 将来のことで 不安や悩みを 抱えているお 母さん方も多かったが、 きっとこれからも 家族で力を合わせて 乗り越えて いかれるのだろう。 全ての障害児を 持つ家族が子どもの 障害を受け入れ、 積極的な生き 方を選択できるように、 そして 障害児を持つ 家族の方の理解につながるよさに、 この研究が少しでもそのような 援助の手助けになれ ば幸いであ る。 [ 注 ] 1) 野辺明子・加部一彦・横尾京子偏 ㎡ Ⅵ障害をもつ 子を産むということ円 9 人の体泰司 2) Dror 打, D. 田as 憶e㎞ cz,,A.皿 巧N. Ⅹenneh,J.& 風 aus,M.TThe conge ㎡talmaⅡROrma 廿 on,Ah 3) 0b ㎞lskXS.:C血 。田cso adap ぬ廿 on ofp 打@en㎏ to 中央法規出版 1999 市e b む土 ,h ofan 血丘皿も ㎡ 伍 a 昨 othetlc田 modeL.Pe 田a㎡㏄, 56(5),pp.710-717,1975. ℡ow:Aresp0nse 血 gAment 田lyde 良 cは ㎎ cldu.S ぬ haV Casew0rk,(43),pP.190-193%962 ㏄土田 4) 三木女王 「親の理解について」 ぽ精神薄弱児研究上 策 1 号 全日本特殊研究連盟 1956 5) 鏑幹/鳩は 「精神薄弱児の 親の子ども受容に関する分析研究@ r京都大学教育学部紀要 第 9 集 1963 6) 佐々木正美・近藤弘子・中す @喜代子・本間博彰 「双掲 書 p27 臼 」 [ 引用・参考文献 ] 1 、 三原博光 F障害者ときょうだ ト日本・ドイ 、ソの比較調査を通して一口 2 、 南雲直二 『障害受容一意味論からの 間 トよ し し 1998 商 と受容に関する考察二受容の段階 説 と慢性的悲哀一 3 、 中田洋二郎 「親の障害の 4 荘道社 学殖社 2000 我 、 中田洋二郎・上林靖子・藤木折口 子 ・佐藤敦子・ 井上層入相称・石川順子 の親の関わりについて 一 」 ァ 小児の精神とネ聯勒 第 35 巻・第 4 号 5 、 野辺明子・加部一彦,横尾京子偏 」 ァ 早稲田心理学年報』第 27 号 t995 「親の障害認識の 過程 コ専門機関と発達障害児 日本小児精神神経学会 1995 『障害をもつ 子を産むということ一19 人の体泰司 中央法規出版 1999 、 岡本五十雄 「障害者の心理と 障害の受容」 に北海道 区鞍コ 873 号 1997 、 ぼれ ばれくらぶ 今 どき、しょうがい児 と家族] ぶどう社 1995 8 、 佐々木正美・近藤弘子・村瀬喜代子・本間博彰 『発達障害児・ 不登校児の親 ・家族への援助と 相互協力 (佐々木工 ) 安田 美 「親や家庭が 子どもの障害の「診断」「状態 像」を適切に受容し 、 機関と家庭内教育の連動を進めるために」 生命社会事業団 1992 9 、 橘英輔 F障害教育に生かす心理学d (岡田督 「保護者の障害受容」 ) 朱鷺書房 2001 ㎎、 田中農夫男・池田勝昭・木村進 ・後藤守 r障害者の心理と 福村出版 2001 11 、 同本由紀子・足立自助 「障害児を持つ 母親の受容と立ち直りに関する研究@ r埼玉大学紀要 (教育学部翔 第 47 巻 1 6 7 『 コ 鞠 号 1998 12 、 「家族から見た 資源」 ht ゆ://www02.u-page.so-net.ne.Jp ぬa 刀山ac Ⅲぬ/otbe/oヒ血92.htm 田 憶 13 、 「ライフサイクルの 視点から考える」 h 七ゆ './VwW02.u.page. ㏄・ net.ne.JPぬ a2/maf 、出ぬわ th Ⅳ oしね 2k.h 七曲 Ⅲ 14. 「障害児療育における 家庭の役割」 h.t ゆ V/www3.]ustnet.ne,lp7 コ五 Ⅲぬ b/ぬ火は皿 a5.h 捷卍aぬ血a Ⅰ 5 、 「障害受容から 新しいアイデンティティヘ Ⅳ㎡ 」 16 、 「親の障害毒 祷哉の過程』 ht 町@7/Ww W. 田 h 七ゆ ://[email protected] globe.nejp/ 叩 engm 正㏄四you. 比田 ぇ ne 睡/do 蜀apmes 田鹿 s0 ℡㏄Ⅱ 田z12021 ね 120210l.h㎞ (本論文は平成 1 4 年度卒業論文を 要約したものであ る。 原文は 1200 字 X26 ぺージ。) @ 44 一
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