――本日は,編集委員代表の先生がたにお集まり 座 談 いただきました。平成 29 年度発行教科書の編集 会 委員会を振り返りつつ, 教科書のことや教科「情報」 のことをお話しいただければと思います。 情報教育の 現在・過去・未来 編集委員会の思い出 坂元 今 回, 『新編社会と情報』という新しい教科書 を編集しました。今までは, 「○○を教えたい, ○○を学んでほしい」という思いで執筆して きましたが,この教科書は全く違う考えでし たね。 東原 そうそう。まず現場の先生がたのご要望に基 東京工業大学名誉教授 赤堀 侃司 づくマーケティングから入り,それから高校 生はこんなことを知りたがっているのではな いか,こういう風に学びたがっているのでは ないかという…。 永野 高校生のニーズですね。 東原 編集委員の先生が,高校生の立場になってあ あでもないこうでもないと考えましたが,結 構みんなノリノリでした。 赤堀 坂元先生がいろいろ研究されていましたね。 聖心女子大学教授 永野 和男 坂元 私がいちばんノリノリでしたか。 (笑) 赤堀 デザインやイラストの候補を並べて,総選挙 をしたりして,楽しかったですよ。 東原 今までは教科書を「書いた」と思ってきまし たが,今回は「作った」という気持ちになり ました。 信州大学教授 東原 義訓 ――夏には 1 泊 2 日の合宿をしました。 東原 会議室が狭くてね。段ボールから原稿が次々 に出てきて,もう逃げられないと思いました。 赤堀 き つかったなぁ。教科書 3 冊分の原稿をずーっと 審議して。 ――すみません。休憩時間も少なくて。 赤堀 でも充実感があった。 坂元 いいものを作ろうと,みんなの気持ちがまと お茶の水女子大学教授 坂元 章 まりました。 東原 我 々は情報の研究者だからこそ言いますが, 直接会うというのは大切ですね。 永野 大きく書き直してほしいなんて,メールでは とても伝えられません。やはり本人を目の前 にして言わないと。 2 ニューサポート¦高校情報 坂元 C MC(Computer Mediated Communication) と face to face の使い分けですね。 教科「情報」 が歩んできた道のり ――永野先生は,教科「情報」の立ち上げに深く関 わっていらっしゃいました。 ンターネットで調べればすぐ分かることをど れだけ覚えたかを測定しても,今の世の中に は通用しませんから。 この先の情報教育 赤堀 高 校の教科「情報」は,論理的思考力を測定 永野 あの頃は本当にいろいろありました。情報教 するのによい教科ですよ。もともと実践力を 育の目標の 3 つの観点「情報活用の実践力」 「情 含めた総合的な能力を見据えていますし,21 報の科学的な理解」 「情報社会に参画する態度」 世紀型能力を育成する場の中枢に成り得るの はね,ずっと先の未来を見据えて,消えない ではないですか。 ものにしようと思って作りました。今あるも 東原 情 報教育自体は,高校だけで完結することで のが残るとは限りませんから。あのときはま はないですよね。 小学校, 中学校からの連携や, だポケベルの時代で。(笑) 大学への接続も当然課題となります。 赤堀 当時は,1994 年に始まった 100 校プロジェク 坂元 積み重ねていくことが大切ですね。 トなど,インターネットの大きなムーブメン 永野 教 科「情報」は,高校生全員が学ぶわけです トが起きていました。その中で 10 番目の独立 から,目的はプログラマーの育成ではありま 教科ができることになったわけです。 せん。将来,プログラミング自体はロボット 永野 当 時,他教科の学習指導要領に,実践力,今 でいう判断力や問題解決能力について書かれ たものはありませんでした。学習活動を進め ていくことが学習になるというデザインです ね。当時は論議をよびましたが,今は不可欠 な要素になっていて,ようやく位置付いてき たと感慨深いです。 赤堀 教科「情報」には,科学的な側面と社会的な 側面がありますが,今はプログラミングやセ キュリティといった科学的な方向へ進んでい るように思います。 がやるようになるかもしれませんし。 赤堀 そ ういうことを考えると,生徒には設計,デ ザイン,企画という経験をさせたい。 東原 あ と,コンピュータの裏側がどういう仕組み になっているかは知っておいたほうがいい。 赤堀 メ モリにはどう記録されているかとかね。昔 はテープやカードで見えたからすぐ理解でき たけど,今は見えないから難しいですよ。 東原 実 践力の育成は,それぞれの教科の学びのプロ セスの中で扱っていくという考えもあります。 坂元 知 識については,自分で考えて気づくことが 永野 私は文系の大学にいますが,優秀な学生が文 大切で,あれこれ詰め込んでも行動に結びつ 章を読んで論理的に考える力は,数学によっ かないと意味がないですね。情報モラルなど て養われたものでも,プログラミングによっ は,教えるだけでなく,行動変容が問われて て養われたものでもありません。これまでさ いる。人の前で宣言するなどが効果的といわ まざまな教科で綿々と培われてきた論理的思 れています。今回の教科書には,自分の生活 考力を育てる土壌は大切です。ただ,思考力 時間を調べて問題点を挙げ,マイルールを策 や判断力を評価できる仕組みは,まだきちん 定してみんなの前で発表するという実習もあ と整っていませんが。 りますね。 赤堀 ソーンダイクじゃないけど,「この世の中に存 在するものは全て測定できる」とばかりに, ――本日は,日本の情報教育の来し方行く末を見る 思いでした。ありがとうございました。 OECD (Organisation for Economic Co-operation and Development:経済協力開発機構)など もさまざまな試みをしています。だって,イ ニューサポート¦高校情報 3
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