可搬型近赤外分光器によるトマトの非破壊品質評価 松村洋佑(生物システム工学研究分野) 1. 背景・目的 近年、農産物の栽培において、育成環境を制御することで育成効率や品質の向上を目指す 試みが盛んである。特にトマト(Solanum lycopersicum)では、高い糖度をもつ果実を育成 できる環境の模索が行われている。果実の糖度を各育成段階で非破壊で測定することができ れば、その値をフィードバック制御に用いることで、最適な育成環境を設定することができ る。そこで本研究では、育成段階のトマトの糖度を近赤外分光法により非破壊で定量できる のかを検証した。 2. 方法 市販のミニトマト 120 個(品種こはる:未熟 60 個、成熟 60 個) 、育成したミディトマト 40 個(品種レッドマンマ)を実験試料とし 2 種類の可搬型分光器で近赤外分光スペクトルを 測定した(MicroNIR1700(JDSU)、波長域:908.1-1676.0 nm、波長間隔:6.2nm、フルー ツセレクターK-BA100R(クボタ)、波長域:500-1010nm、波長間隔:2nm) 。その後、試料 を圧搾し得られた果汁の糖度(Brix 値)を糖度計(IPR201 アタゴ)で測定した。 3. 結果・考察 近赤外スペクトルデータから、糖度を予測するために、Partial Least Squares(PLS)回 帰分析を行った。予測精度を表 1、糖度の実測値と予測値の関係を図 1 に示す。決定係数 R2 は 1 に近いほど予測精度が優れていることを意味する。本研究では、JDSU を用いて得られ たスペクトルデータから、全体(ミニトマト+ミディトマト)の糖度を決定係数 0.89 と非常 に高い精度で予測することができた。これにより、可搬型近赤外分光器を用いた育成段階で の糖度の定量可能性が示唆された。 表 1 糖度の予測精度(JDSU) R2 SE(%) RPD ミニトマト 0.83 0.38 2.60 ミディトマト 0.76 0.51 2.55 全体 0.89 0.45 3.12 R2:決定係数 SE:標準誤差 図 1 糖度の実測値と予測値の散布図 (ミニトマト+ミディトマト) RPD:標準偏差/標準誤差
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