Title マツタケの腐敗と中毒に関する研究( Abstract_要旨 )

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マツタケの腐敗と中毒に関する研究( Abstract_要旨 )
井上, 伊造
Kyoto University (京都大学)
1973-11-24
http://dx.doi.org/10.14989/doctor.r2430
Right
Type
Textversion
Thesis or Dissertation
author
Kyoto University
氏
名
井
いの
伊
い
上
うえ
造
ぞ
う
学 位 の 種 類
農
学 位 記 番 号
論 農 博 第 485 号
学位授与 の 日付
昭 和 4
8年 11月 24 日
学位授与 の要件
学 位 規 則 第 5粂 第 2項 該 当
学位論文題目
マ ツ タ ケ の腐 敗 と中 毒 に関 す る研 究
論 文 調 査 委員
教 授 瀧 本
数
論
内
士
博
学
(主 査)
文
教 授 栃 倉辰 六 郎
容
の
要
教 授 四手 井 綱 英
旨
腐敗初期のマツタケを摂食す ると激 しい唯 吐を伴 う中毒 をお こす ことがあるが, これ までマツタケ中毒
に関す る研究 は皆無 に等 しい。 本論文はマツタケの腐敗過程 および中毒 に関す る広汎 な研究 をまとめた も
のであ り, その主 な結果 は次 の とお りである。
採取直後のマツタケの pH は 6付近 であ って, これは腐敗細菌 の生育 に適 してお り, マツタケの 自家消
化, 腐敗は極 めて急速 に進 む。 自家消化が進 むにつれて各種 ア ミノ酸, と くに酸性 ア ミノ酸 の増加, 糖 の
分解 による有機酸生成がお こ り, pH はい よい よ低下す る。 この ような状態 ではア ミノ酸 の脱炭酸がお こ
りゃす く, ア ミンの生成が著 し くなる。
マツタケの腐敗初期 にはまず ヒスチジンとフ ェニルアラニンが消失 し, これ らの脱炭酸生成物, ヒスタ
ミンお よびフ ェニルエチルア ミンが生成 され る。 この状態 のマツタケを摂食す ると中毒症状 をお こす こと,
ヒスタ ミン, フェニルエチルア ミン, または両ア ミンの混合物 を自ネズ ミや小猫 に与 えると激 しいマツタ
ケ中毒症状 をお こす ことなどか ら, これ ら両 ア ミンが中毒原因物質であろ うと考 えられ る。 強度 に腐敗 し
たマツタケではチ ラ ミンやアル カロイ ド様塩基性物質 の生成が見 られ るが, この時期 のマツタケを人間が
摂食す ることはないので, これ らが中毒 の原因 になるとは考 えられ ない。
腐敗 マツタケおよび中毒 マツタケよ り分離 した細菌 の脱炭酸能 を測定 した結果, 霊菌は ヒスチジンに対
して,
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up 菌は フェニルアラニンお よび ヒスチジンに対 して強い脱炭酸能 を示す ことが判明した。
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up 菌 を接種 したマツタケを摂取す ると強い中毒症状が現われた。
そ して Ba
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up 菌や霊菌 によってマツタケ中のフ ェニルアラニンや ヒスチジンが脱炭
以上 の ことか ら著者は Bal
酸 されて ヒス タ ミンお よびフェニルエチルア ミンが生 じ, これ らを摂食 した ときに両 ア ミンの相乗効果 に
よってマツタケ中毒が現われ る もの と結論 してい る。
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論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨
マツタケ中毒 に関す る研究 は これ までほ とん ど行 なわれてお らず, その原因 を解 明した もの もない。 著
者 はマツタケの腐敗過程お よび中毒原因 に関す る詳細 な研究 を行 ない, マツタケ中毒 の全貌 をほぼ明 らか
にした 。
良質 マツタケには多種類 のア ミノ酸が含 まれてい るが, これ らの うちヒスチジンとフェニルアラニンが
初期腐敗時 に消失 し, 同時 にこれ らの脱炭酸生成物 であるところの ヒスタ ミンとフェニルエチルア ミンが
生成 され る。 著者は この状態 のマツタケを摂食す ると激 しい噛吐 を伴 う中毒症状が現われ ることを確 かめ
ると同時 に, 自ネズ ミと小猫 を用 いた動物実験 を行 ない, 自ネズ ミに対 しては フェニルエチルア ミンが著
し く有毒 でその毒性は ヒスタ 、ミソの同時供与 によって特 に著 し くなること, 小猫 に対 しては ヒスタ ミンは
激 しい噛 吐を, フェニルエチル ア ミンは瞳孔散大 を もた らし, 両 ア ミンの同時供与はそれ らの症状 を一層
激 し くす ることを認 めた。 強度腐敗時 にはチ ロシンの消失, それ に伴 うチ ラ ミンの生成, およびアル カロ
イ ド様塩基性物質の生成が認 め られ るが, この状態 のマ ツタケを人間が摂食す ることはあ り得 ないので,
これ らが中毒 の原因 になるとは考 え られない。
中毒 マツタケか らヒスチジンや フェニルアラニンに対す る脱炭酸能 を有す る菌 を分離調査 した結果, 霊
菌 は ヒスチジンに対 して,
ることを知 った。
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up 菌は フェニルアラニンお よび ヒスチジンに対 して強い脱酸能 を有す
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up 菌 については, 特 に本菌 による人工腐敗 マツタケをつ くって摂食 し, マ ツタ
ケ中毒 の再現 を認 めている。
以上 の よ うに本研究はマツタケ中毒が ヒスタ ミンお よび フェニルエチルア ミンの相乗効果 によるもので
あることを解 明す ると同時 に, 中毒 マ ツタケの発生条件, 中毒経験者 の実態, 中毒防止法 などについて も
数 々の新知見 を与 えた もので, 食品腐敗学, 食 品衛生学 に寄与す るところが大 きい。
よって, 本論文は農学博士 の学位論文 として価値 あるもの と認 める。
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