組織再生研究を加速させる新技術~ 多面観察可能な

報道発表資料
平成 28 年 4 月 28 日( 1 / 5 ページ)
~組織再生研究を加速させる新技術~
多面観察可能な三次元細胞組織培養プラットフォームを開発
公立大学法人大阪府立大学(理事長:辻 洋)ナノ科学材料研究センターの萩原将也テニュアトラック
講師と九州工業大学の川原知洋准教授らの研究チームは、立体的に細胞組織を培養する際に用いる、細
胞を多方面から観察できるデバイスの開発に成功しました。レーザー顕微鏡のような高価な機器に頼ら
ずに細胞組織の三次元構造認識が可能となり、再生医療分野の発展に大きく貢献するプラットフォーム
として期待されます。
本研究成果は 2016 年 5 月 3 日(現地時間)に、ドイツ科学雑誌「Advanced Healthcare Materials」
のオンライン速報版で公開されます。
■本取り組みのポイント■

培養中の細胞組織サンプルを多面より観察可能にするプラ
ットフォームの開発に成功

レーザー顕微鏡のような高価な機器に頼らず、発達した細胞
組織の三次元構造認識が可能

特定タンパク質や内部構造観察のために蛍光染色を行った
場合でも、厚み方向の空間分解能を飛躍的に向上させること
が可能

デバイス自体は安価で汎用性が非常に高い

非染色であれば、細胞にダメージを与えず立体観察ができる
ため、再生医療分野の発展に大きく貢献するプラットフォー
開発のデバイス。培養中の細胞組織をデバイ
スごと回転させることで多面より観察可能
(写真は培養中のマウスの心臓)
ムとして期待
従来では培養中の細胞にダメージを与えず容器の中から動かすことは困難でしたが、細胞の立体形成
に必要な基質を十分な硬さを持ちつつ栄養成分だけを通す網目構造をもつゲルで覆うことにより、培養
中のサンプルをピンセットで容易に持ち上げたり回転させたりすることが出来るようになりました。
また、これまで細胞組織の立体構造を観察する為には、細胞に蛍光染色などの前処理を施した後に高
価なレーザー顕微鏡が必要でしたが、本開発成果を用いて複数の面から観察することにより、前処理は
一切不要かつ通常の顕微鏡においても対象組織の三次元形状認識が可能となりました。さらに、従来で
は観察が難しかった厚みのあるサンプルにおいても、複数の角度からの詳細観察が可能となりました。
一方、特定タンパク質の発現確認や細胞組織の内部構造観察など蛍光染色が必要である場合におい
ても、従来のように一方向からのみ観察する場合と比較して、サンプルの厚み方向における計測分解能
を飛躍的に向上させることが可能となります。
デバイス自体は材料費にして 100 円以下と安価に製造可能であり、市販の培養容器にもそのまま使用
可能であるため、汎用性が非常に高いのも大きな特徴です。培養した細胞組織の三次元形状把握に前処
【研究に関するお問い合わせ】
公立大学法人大阪府立大学 21 世紀科学研究機構ナノ科学材料研究センター
テニュアトラック特別講師 萩原 将也 TEL:072-254-9829 Email: [email protected]
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理による細胞へのダメージを不要とするため、現在活発に研究が進められている体外組織再生の分野の
研究に大きく貢献することが期待されます。
1.背景
細胞組織の三次元培養は、細胞外基質との相互作用を通じ二次元とは全く異なる分子発現・形態形成
が行われることから、組織再生のみならず、発達メカニズム解明、病理解明、新薬開発など多くの研究
分野において必須の実験です。一方従来の三次元培養方法については、その多くはプラスティックやガ
ラス容器の上に滴下したコラーゲン等のゲル内にサンプルを埋包する形で行われていますが、サンプル
のサイズが大きく厚みがある場合は顕微鏡の光が透過せず観察が困難である問題が多々存在しています
(図 1)
。
図 1.市販培養容器を用いた従来の一般的な三次元細胞組織培養手法(左)と、
これにより発達した気管支上皮細胞の顕微鏡観察画像(右)
またサンプルの三次元形状を観察するためには一般にレーザー顕微鏡が用いられていますが、細胞へ
の染色処理が必要であり、かつレーザー照射による細胞へのダメージは避けられません。さらに装置自
体も非常に高価(数千万円~)であるため利用が限定的でした。とりわけ現在急速に研究が進められて
いる再生医療応用の分野においては、染色処理およびレーザーによる細胞へのダメージは致命的であり、
非侵襲で培養した細胞組織の立体観察技術の開発が求められてきました。
2.研究手法と成果
そこで本研究では任意の細胞外基質とその外側をサポートするためにアガロースゲルを組み合わせて
作成した立方体内にて細胞組織を三次元培養し、多面から細胞組織を観察することにより染色すること
なく細胞組織の三次元構造認識が可能な実験プラットフォーム(ハイブリッドゲルキューブ)を構築し
ました(図 2)
。
アガロースゲルはサンプルや内側の細胞外基質を保持するだけの硬さを有しながら、自身は網目状の
構造を持っているため、外部から供給された培養成分が透過し細胞組織のサンプルに到達することが可
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能になります(図 3)
。さらにアガロースの外壁はサンプルを細胞外基質ごと持ち上げ・回転させること
を可能とし、アガロースの光透過性は水とほぼ同等であるため、顕微鏡観察を阻害しないという大きな
メリットも持ち合わせていることから、培養中のサンプルを様々な角度から観察することを可能にしま
す。
図 2.開発したハイブリッドゲルキューブのコンセプト図
図 3.アガロース内部構造
本ハイブリッドゲルキューブを用いて気管支上皮細胞を培養し、発達した分岐構造を観察したところ、
従来同様に下からの観察のみではサンプルに厚みがあるため、中心付近の形状詳細が全く分からない状
態でしたが、キューブを回転させて側面からあるいは前面から見ることにより、一方向からでは見えな
かった部位の詳細観察が可能になりました(図 4)
。
さらに別のサンプルにおいても、
下からの観察のみでは 2 次元的な広がりにしか見えませんでしたが、
別の方向から観察することによりレーザー顕微鏡に頼らずともサンプルの立体構造を確認することが出
来るようになりました(図 5)
。このように従来観察が困難であった厚みのあるサンプルにおいても他の
角度から観察することにより、これまで見えなかった深度まで詳細確認することができ、また全体形状
を把握することができるようになります。サンプルに染色処理をしてレーザー顕微鏡で観察するという
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従来手法とは異なり、細胞に対してダメージを与えず全体観察が可能であるというメリットは計り知れ
ません。
図4.ハイブリッドゲルキューブ内で培養し、多面より観察した気管支上皮細胞の顕微鏡画像
図 5.ハイブリッドゲルキューブ内で培養し、多面より観察した小気道上皮細胞の顕微鏡画像
図6.さまざまなサイズで作製したハイブリッドゲルキューブ(左)。ハイブリッドゲルキューブは市販
のウェルプレートに適応可能であり、そのまま培養することが出来る(右)
。
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本ハイブリッドゲルキューブはサンプルサイズや培養用途に応じて、様々なサイズやデザインで作製
することが可能であり(図 6)
、市販の培養容器(例:ウェルプレート)に対してもそのまま適応可能(図
7)であるため汎用性が非常に高いということも大きな特徴です。また 100 円に満たない程度の材料費で
作製可能であることから、三次元細胞組織培養のプラットフォームとして大きく貢献することが期待で
きます。
3.今後の期待
今後 3D スキャナや CT スキャン等で培われた画像処理技術と組み合わせることにより、多面より取得
した画像から細胞組織の三次元画像の再構築が可能となります。これにより、細胞にダメージを一切与
えることなく、発達した細胞組織の三次元画像取得が行うことができるようになれば、体外組織再生に
おける再生医療応用においてブレークスルーとなることが期待できます。
また、タンパク質の発現や内部構造観察など染色によるレーザー顕微鏡観察が必要な研究においても、
従来手法においては厚み方向の解像度を上げることが困難でしたが、本プラットフォームを用いて横か
ら直接画像取得を行うことにより従来を大幅に凌駕する解像度での画像取得が可能となり、新薬の評価
テストや脳研究においても大きく貢献することが期待できます。
4.研究助成資金等
本研究は科学研究補助金・若手研究(A)(代表:萩原 将也)、挑戦的萌芽研究(代表:川原 知洋)、
住友財団基礎科学研究助成、および文部科学省テニュアトラック普及・定着事業からの支援を受けて行
われました。
5.発表雑誌
論文名:Tissue in Cube: In Vitro 3D Culturing Platform with Hybrid Gel Cubes for Multi-Directional
Observations
著者:萩原将也 1、川原知洋 2、野畑李奈 1,2
(1 大阪府立大学ナノ科学・材料研究センター、2 九州工業大学生命体工学研究科、3 大阪府立大
学自然科学類生物科学課程)
掲載誌:Advanced Healthcare Materials
doi: 10.1002/adhm.201600167
公表日時: 2016 年 5 月 3 日(火)12 時(ドイツ時間)
※日本時間 5 月 3 日 21 時頃
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