公益財団法人日本医療機能評価機構 産科医療補償制度 再発防止委員会 . 『第 6 回 産科医療補償制度 再発防止に関する報告書』を公表 公益財団法人 日本医療機能評価機構 産科医療補償制度 再発防止委員会は、2016 年 3 月 28 日に「第 6 回 産科医療補償 制度 再発防止に関する報告書」を公表しました。 今回の報告書では、2015 年 12 月末までに公表された 793 件の事例を再発防止 の視点から分析しまとめられています。分析対象は重度の脳性麻痺として産科医療補償制度の補償対象となった事例です。第 6 回は、第 2・3 回に続く「常位胎盤早期剥離について」と、「母児間輸血症候群について」「生後 5 分まで新生児蘇生処置が不要であ った事例について」の 3 つのテーマが選定され、提言を行っています。産科医療の質のさらなる向上を図るため、日々の診療・助 産等の確認にご活用いただきたく、報告書のポイントをお伝えいたします。 ※※ 報告書はこちらからダウンロードできます ※※ http://www.sanka-hp.jcqhc.or.jp/documents/prevention/report/pdf/Saihatsu_Report_06_All.pdf ❐ 常位胎盤早期剥離について 今回、常位胎盤早期剥離を合併した事例が増え、動向の確認やより詳細な分析が可能となったことから、第 2・3 回に続き 3 度目 のテーマとしてとりあげられました。公表された 793 件のうち、常位胎盤早期剥離を合併・発症した事例は 176 件(22.2%)でした。分 娩機関外(自宅、外出先)の発生件数が 123 件(69.9%)と約七割を占め、来院した際の主訴は、腹痛 85 件(69.1%)、性器出血 55 件 (44.7%)で、妊婦から症状の訴えがなかった事例も 2 件(1.6%)ありました。分娩機関外での発生が多いことから、常位胎盤早期剥離 が疑われる症状を訴える妊産婦からの連絡を、最初に受ける職員(事務職員を含む)が円滑に連絡を行えるような応対基準の作 成が必要です。また、常位胎盤早期剥離の危険因子として、妊娠高血圧症候群、常位胎盤早期剥離既往、子宮内感染(絨毛膜羊 膜炎)、外傷(交通事故等)、分娩時 35 歳以上、喫煙、IVF-ET 妊娠等に注意を要することから、妊産婦に対し、常位胎盤早期剥離 の症状に関する情報提供とあわせた保健指導が必要です。更に各施設において、胎児心拍数陣痛図の判読能力を高めるための 勉強会や講習会の開催および参加を促し、早期娩出できる体制整備、妊産婦出血対応や「日本版新生児蘇生法(NCPR)ガイドラ イン 2015」に沿った新生児蘇生の対応等、緊急時の診療体制の整備や診療録の記載について提言されています。 ❐ 母児間輸血症候群について 母児間輸血症候群は、分娩前または分娩中に発症し、母児間輸血による胎児貧血が、神経学的後遺症、死産、新生児死亡な どの重大な結果をもたらすため、今回テーマとして選定されました。母児間輸血となった例の 80%以上は原因が特定されていませ ん。分析対象事例 20 件(2.5%)のうち、管理入院中に分娩に至った 1 件を除いた 19 件における、来院時の妊産婦の主訴は、「胎動 減少・消失」11 件(57.9%)が最も多く、次いで陣痛発来 4 件(21.1%)でした。入院時の胎児心拍数陣痛図所見(対象数 18 件、重複あ り)では、基線細変動の減少・消失が 14 件(77.8%)と最も多く、次いで遅発一過性徐脈が 8 件(44.4%)、一過性頻脈消失が 7 件 (38.9%)、サイナソイダルパターン(「サイナソイダルパターン様」などと記載されたものを含む)が 6 件(33.3%)で、生後 1 分のアプガ ースコア 4 点未満は 16 件(80.0%)でした。このことから、分娩に携わるスタッフが胎児の健常性の確認と対応ができるように、胎児 心拍数陣痛図の判読や対応について習熟し、また、「新生児蘇生法ガイドライン 2015」に沿った適切な処置を実施できるよう院内 外の勉強会や講習会の参加を促していく必要があります。更に新生児貧血の対応として、自施設での輸血実施等の考慮、および 実施困難な場合の対応(新生児搬送、応援要請など)について、各施設であらかじめ検討し、児を速やかに搬送できる体制を整備 するよう提言されています。 ❐ 生後 5 分まで新生児蘇生処置が不要であった事例について 出生時に新生児仮死がなく、リスクが低いと判断された新生児であっても、新生児期は胎内環境から胎外環境へ移行する不安 定な時期であり、予期せぬ重篤な症状が出現する可能性があります。出生から生後 5 分までは新生児蘇生処置が不要であって も、その後の経過において児に異常徴候が出現し、重度脳性麻痺と診断されることがあることから、今回テーマとして選定されまし た。分析事例 793 件のうち、生後 5 分まで新生児蘇生処置が不要であった事例は 188 件(23.7%)で、このうち主たる原因の病態が 「明らかではない、または特定困難とされているもの」が 103 件(54.8%)ともっとも多く、次いで「単一の病態が記載されているもの」66 件(35.1%)でした。このうち、感染 19 件(10.1%)、臍帯脱出以外の臍帯因子 11 件(5.9%)、双胎における血流の不均衡(双胎間輸血症 候群を含む)10 件(5.3%)でした。感染の中では、B 群溶血性レンサ球菌(GBS)感染が 12 件(6.4%)と最多であり、「産婦人科診療ガイ ドライン-産科編 2014」に沿ったスクリーニング検査および母子感染予防実施が提言されています。更に、生後 5 分以降に新生児 蘇生処置が実施された事例 51 件のうち、早期母子接触中であった事例が 7 件、母子同室中であった事例が 11 件、早期母子接 触中または母子同室中以外であった事例が 33 件でした。このことから、本会を含む日本周産期・新生児医学会、日本助産師会等 の 8 団体が「『早期母子接触』実施の留意点」について発表し、また、「助産業務ガイドライン 2014」でも医療安全上留意すべき事項 として記載されています。早期母子接触を行う場合や母子同室を行う際にはガイドライン等に沿って実施し、妊産婦や家族への説 明、母子同室の安全性を担保する方策(医療関係者による観察や SpO2モニタなどの医療機器による観察等)を各施設において検 討すること、母子が退院する際に医療機関に連絡・受診すべき児の異常徴候について情報提供を行うこと等が提言されています。
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