リサーチ TODAY 2016 年 4 月 28 日 日本企業も英国の EU 離脱(Brexit)の可能性に配慮を 常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創 英国では6月23日にEU残留・離脱を問う国民投票が実施される。現在、世論調査は拮抗しており、投票 の行方は予断を許さない状況にある。離脱時の交渉は、最終的に2020年代後半まで続く可能性がある。 みずほ総合研究所は、英国のEU離脱に関するリポートを発表している1。「離脱」の場合、英国やユーロ圏 経済の先行きに関する不確実性が高まり、金融市場の不安定化に繋がる可能性がある。その金融市場の 不安定化が欧州金融システム不安に繋がることが最悪のシナリオだ。リスク回避のためには日本も円高に よる企業収益悪化やデフレ圧力の高まりに警戒する必要があり、在英日本企業は、Brexitの可能性を考慮 した危機管理プランを策定する必要がある。下記の図表は、英調査会社の世論調査の推移である。最新 調査では、残留39%、離脱38%と、両派の支持率は拮抗している。残留派は不確実性の高まりによる景気 や雇用への悪影響、安全保障上の脅威を主張し、英国産業界のバックも得ている。一方、離脱派は、主権 の回復を訴え、EU予算への拠出などの無駄な出費を抑え、グローバルに自由貿易を推進することのメリッ トを訴えている。 ■図表:EU離脱に関する世論調査推移 残留 (%) 離脱 態度保留 55 50 45 40 35 30 25 20 15 10 12 13 14 15 16 (年) (注)2012 年 12 月、2015 年 8 月は調査未実施のため、線形補完。1 カ月に複数調査があった場合は平均値。 2016 年 4 月のみは 3/29~4/4 日に実施された直近値。 (資料)YouGov より、みずほ総合研究所作成 次ページの図表はEU離脱後のプロセスを示したものだ。6月の国民投票で仮に離脱が選択された場合、 1 リサーチTODAY 2016 年 4 月 28 日 英国にはEUや他国との間での長い交渉過程が待ち受けることになる。図表のように、もし離脱が決定され ればその後の交渉は大きく二段階に分かれる。まずEUとの交渉、次いで他国との交渉が行われると予想さ れ、その交渉は最終的に2020年代後半まで続く長丁場となる。 ■図表:EU離脱のプロセス 2018/6月 EU離脱交渉期限 2016/6/23 国民投票 2017/4~5月 仏大統領選挙 2016/5/5 スコットランド議 会選、ロンドン市 長選 ・EU条約 50条通告 2017/9~10月 独議会選挙 <EU脱退協定の締結> ・欧州委員会による提案 ・欧州議会による同意 ・EU理事会にて可決 2020年代? 他国とのFTA 交渉終了? (全28カ国の同意が あれば期限延長可。無 ければEU法は失効) 2017/9月 英EU議長国? <EUとの新協定の締結> ・欧州委員会による提案 ・欧州議会による同意 ・EU理事会にて可決 ・各国議会による批准 2020/5月 英議会選挙 <他国とのFTA交渉> <EUとの新協定交渉継続?> ・経過的にはWTOルール? (資料)英政府、各種報道等よりみずほ総合研究所作成 次の図表はBrexitの可能性を考慮した時の危機管理の視点を示したものだ。Brexitの可能性に配慮して 日本企業も危機管理プランを策定しておくことが重要だ。その際のチェックポイントは多岐にわたる。英国 のEU離脱は、世界経済の大きな下振れリスクであるとの認識が国際社会に浸透し、今年2月の上海G20で は声明文の中に世界経済の「下方リスクと脆弱性」として明記されるに至った。いずれにしても、Brexitは今 年最大の不確実性要因の一つとして認識する必要があるだろう。こうした不確実性が高い中では、6月の FOMC(6月16・17日)の利上げは困難ではないか。 ■図表:Brexitの可能性を考慮した危機管理の視点 考えうるチェック項目 ビジネス 顧客 英国から財・サービスを提供する、EU圏の顧客がどの程度いるか? 貿易 EUへの財輸出、又はEUからの財輸入がどの程度あり、輸出入品にEUの最 恵国税率が課された場合に、コスト等でどの程度の影響を受けるか? EUパスポートを英国で取得し、それを利用してEUでのビジネスを行っている 金融サービス か?他にEUパスポートを取得できるEU内の拠点があるか? 英-EU間の国境をまたぐ人材登用、異動等がどの程度あるか? 人材 社内 市場 規制/法制 為替 EU指令・EU規則などEU法に基づき制定された英国法制に自社がどの程度 影響を受けているか?EU法制が英国法制に置き換わることで、既存契約が 影響を受ける可能性があるか? 英ポンドや、ユーロの対円や対ドルでの下落に対してどこまで収益等が影響 を受けるか? (資料)みずほ総合研究所 1 吉田健一郎 「英国の EU 離脱で何が起こるか?」 (みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2016 年 4 月 19 日) 筆者の都合により、5 月 2 日(月)から 10 日(火)は休刊とさせていただきます。 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき 作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 2
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