文藝春秋「オール讀賣5月号」

All Yomimono
直 木 賞 受 賞 第 一作
織
▲
機
青 山文 平 ﹁
媛
若沖 ﹂の魅力 澤田瞳 子
﹁
連載 四十二年 の歩 み
﹁
御宿 かわせみ一
伊藤理佐 xジェーィ スー
おんながうよく歳をとるために﹂
﹁
ヒ
│
(
石田衣良 朱川湊人
北村蒸 西村京太郎
︲
ること﹂
て考えてい
一
半出石己工枝﹁東吾につい
人女房 ﹂
最新作 コ 一
高島礼子 中村橋之助 インタビュー
│
高村薫 村山由佳 姫野カオルコ
桜本紫乃 柚木麻子 曽野綾子
へ
5号
力 巻第
子 傷 月 1回 1日 発 0第
1路
平 成 28年 5月
b日 第 三種 郵便 物 認 可
0月
昭和狛
t
持
秋
春
藝
文
かもしれ ません。
ちな み にそ の食探 訪 の番組 では、米蔵 が並 んだと いう 大 川
端 を五代 目尾上菊 之助丈 が鰻丼 を詰 めた岡持 を背負 って走 る
と いう シー ンも盛 り込まれ、梨園 の御曹 司 の手代姿 に衆目 が
集 まる中 で共演者 とし ては ハラ ハラし つつ、当 のご本 人 はな
かな かにご満悦 のご様子 でした。専門家 の言う と ころ では、
大 川を頻繁 に行 き来 す る舟 で運 んだ米 を岸 に荷揚げ す る時 に
はどう し ても幾ら かは大川 に こぽ れ落 ち てしま い、川底 で
そ
のお こば れ の米 を食 べた鰻 がま るま ると肥 え て脂 が乗 ったも
のだから 、江戸前 の鰻 は旨 か つたと か。な るほど⋮⋮神林東
吾 さ んも 畝 源 三郎 さ んも、 そ んな 旨 い鰻 を食 べた ん だ ろう
か、 る いさ ん は楚 々と し つ つも花 が哄 い
た
よ
う
な
艶
や
か
さ
で、熱 い番茶 をそ っと出 したんだ ろう か⋮⋮な ん て、勝 手
な
想像 がぶくら みま す。
あらた め て ﹁
御 宿 かわせみ﹂ の魅 力 を文字 にす るな ど烏 滸
がましく も恐 れ多 いほど、長 き にわ たり愛 され る連載 説 で
小
す。
一九 七 三年 に スタートし て、連載誌 が休 刊 とな ったた め
に出版社 を変 え て三十年 以上。連載 が始 っ
ま
た
当
は六歳 だ
初
ったわたく しが四十 八歳 とな った今も、 二〇〇七年
に始 ま っ
た待望 の新 シリーズ 、主人公 の子 ども世代 を新 た に中 心 とし
た現連載 を心待ち にし、新刊 を待 つ間 にも飽 く ことなく これ
ま での文庫 を手 に取 っては読 み返 し ているわ け です から、 わ
たくしと いう小 さな 一サ ンプ ルをみ ても、人 の半生 をほぼ す
っぽりと魅 了し続 け ている こと になり ます。
りたて
﹁
幽霊殺 し﹄収録︶
恋ふたたび﹂﹃
える限 の奥 を光らせた﹂ ︵
かわせみ﹂ の老番頭、昔は八丁堀 の鬼同心 の下 で働
今は ﹁
かわせみ﹂ の女中
いた腕きき の捕方 の嘉助に、同じく今 は ﹁
、
、
頭とな ったお吉が台所 で朝飯を出す場面 ですが なんとも
、
お いしそうな⋮⋮。炊きた てのご飯 の湯気や 大根 の味噌汁
や紫蘇 の葉 の香りまで漂 ってきそうな⋮⋮。
人は ︵
わたくしは特 に食に ついてな のですが︶香りや湿 め
り気や湯気、着物 の肌触りなど五感を通 じて神経 に直 に伝 わ
ると、論やら理やら頭 で考える部分を端折 ったか のよう にぐ
っと惹き つけられ てしまう面 があるよう に感 じますが、まさ
かわせみ﹂と
にそんな共感 から、物語 のなかであるはず の ﹁
、
いう宿屋 の暖簾をくぐり、藤 の間な のか梅 の間な のか 心地
よく長逗留しながら江戸 の時間を共に過ご tているような心
持ち の読者 は多 いのではな いでし ょう か。
そして長くなりましたが、最後 に敬愛 を こめて書き添えた
いのは、清 々しくも慎ましく暮らす主人公たち の情 にああれ
た立ち居振る舞 いに読 み手が魅了され ていることは言わずも
がな ですが、なかでも愛すべき彼等 の誰 しもが、何 かしら耐
えながら生きている姿が物語 に通底する調 べとな って、静 か
な美 しさを醸している点 です。半可な小説など で、途中 にた
全 ては夢だ
くさん の疑問符をちりぱ めながら最後 に夢落ち ︵
ったと いう ことで幕切れする手法︶などと いう場合には、ど
こに慣怒を持 っていこうかと内心腹立たしく思 ったりもする
事件 や刑事事 件 を毎回鮮 やか に ひも解 いて いく 心地 よさを
横
2
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麻 嗽鮮 Щ廟 蜘駒榊 ] .獅 蜘踏残 [叫軸 拘慟譜 帰 口洵 端嶋は 4
︲
営
こ
︲
を下 って いく縦糸 と絶 妙な バラ ンスで絡 ま つて、 ま る でそ
こ
ここ で小 さな渦 を巻 いたり淀 みを つく つたり しな がら も、 ゆ
ったり と海 へと注 いでいく大川 の流 れそ のも のの
よう な悠 々
と魅 力的 な物 語 。
いや 、 ただ大 川 の流 れ のよう な と記 すと雄 大 な時代 小説 と
いう印象 のみ強 く感 じら れるかも しれま せん が、わ た しに
く
と って の ﹁
御宿 かわ せ み﹂ の魅 力 は、 そ の筆使 いと目線 の細
や かさ に最 もあ る気 がし ていますo
江戸末 期 から始 まり、新 シリーズ では維 新後 の明治期 へと
続く日本が最も大きく国としての変
げ
容を遂 た時代のうなり
一 し
っ
げ
怖
い
投
声
現
撤
呻
聯
和
琳
鉤
靴
嘘
測
軸
施
蝉
T
輔
轄
躙
伐
嘴
吸
つ
て
と ころ ど ころ にさり気 なく添え られ る日常 生活 の温度 や湿度
のよう な情景 が、読 ん でいるはず のこちら側 をも ぶ つと
物
語
の中 へと招 き入 れ てく れる柔 ら か い錯覚 を覚 え ます。 こ の
ま
ま拙 い文 の運 び で、 ﹁かわ せみ への想 い の丈 を綴 つ
﹂
て
も
な
かな か伝 わり にく いも のかと案 じる ので、思 い切 って抜粋
引
用 しま すと ⋮⋮。
﹁
大根の千六本の味嗜汁はもう何度かあたため直したので味
嗜 の香 がとん でしま つていたが、梅 漬 け の紫蘇 の葉 を細 か
く
雪 って いる と感 じ る筆 使 い、 そ れ でも降 り 掛 か ってく る誠
、
練 をどう背負 い生 き て いく かと いう主 人公 たち の姿勢 に 説
。
みな がら励 ま され、教えられ る こと がしば しば あり ます 喜
怒 哀 薬 の喜 と楽 だ け で済 めば よ い世 の中 、 どう し ても訪 れ
、
る試練 にどんな ふう に向 き合う かを器 と呼 び 続 いて押 し寄
、 そ れ でも凛 と
せ る絶 え間 のな い哀 し み にどう 耐 え な が ら
生 き るかを品 と呼 ぶ のではな いかと、明 るく丁寧 に日 々を送
る ﹁か わ せ み﹂ の人 々 は言葉 にせず とも 教 え てく れ て いる
だから、目や耳を覆 いた↑なるような事柄 が日々起 こる今
よう な。
御宿 かわ せみ﹂ の人 々が暮ら
の浮 き世 でも、本 を開 けば ﹁
し、泣き笑 いし、事件と聞 いては駆け出 していく この物語世
界 に、小さな灯り のような安堵と幸せを感 じて、 これからも
。
﹁
かわせみ﹂ の人 々の活躍を心底、待ち続け てしまう のです
内
昌
之
茎 爪大学名誉整
新・
﹁
御宿かわせみ﹂
海外編 への期待
山
﹁
み の若 い主欠公たちにも随分と慣れてき 路
か
・
宿
わ
せ
新
御
﹂
若きかわせみ の人び と﹀ は、維新 から
た人も多 いだろう。︿
私 の好 きな「御宿 かわせみ」
開 化 の時代 をたく ま しくも爽 や かに生 き て いる。軍 船 の遭 難
で帰 ら ぬ人 とな った神 林 東吾 と、 る い の間 に生 ま れ た千 春
も 、 す でに清野凛 太郎 と結ば れた。
江戸 から東京 への様変 わり は、東吾 や同 心 。畝源 二郎 が生
き ていた時 代なら想像 も できな いほどだ。 公家 と いう新 人種
がすまし て、 る いは じめ ︿かわせ み の人び と﹀ の生活 に聞 入
し てく る のを読 ん で思 わず 笑 いころげ た。 ﹁
殿 様 は色 好 み﹂
の篇 であ る。
或 る日、高市新 之助 と名乗 る若者 が、 かわ せみ に宿 を求 め
て、竹 の間 に運 留 す る こと にな った。 金 子 も ぶ ん だ ん にあ
り 、生ま れ つき の気 品も尋常 ではな いのだ が、 る いはも と よ
り 、女中頭 のお吉 や若 い女中 にも親 しげ に声 を かけ るな ど振
舞 いが 一風 変 わ って いる。近場 でじ っと女 たち の顔 を見 つめ
るも のだ から瞥 が気味悪 が る。宿帳 には京 都 の公家 ゆかり の
者 と知 れ る住所や名 前 を記 し ている ので身元 はさほど おかし
恥知 らず の女好 き﹂ だ と唾棄 す
く な い。 それ でも、 る いが ﹁
るほど嫌う のだから、余程 の変人な のだ ろう。 お吉 ま で日説
か れたと自慢 め いた告げ 口をす る のがおかし い。 さす が のる
いも、自 分 は毅然 と し て身 を固く持 し ている ので言 い寄 ら れ
な いと、妙 な言 い訳 をす る。
ど
し し、 之 が
し
かと いう
か
新
助
具
体
的
に
い
う
ユ
恐
を
た
の
う
さ
新之助
と、どうも 一同は っきり説明 できな い。お吉 が言う には、
も のだ 。
これははしたな いことだ。まるで女性を日説く手練手管 では
な いか、と気色ばむ。
東吾 の実子 でいまや英国医学を修 めた麻
太郎も、
何と不潔な奴だと いきまく女たちを宥 めるど ころか、
﹁ さか﹂と言 いながらも職を決するのは滑稽なほどだ。
ま
岡場所 に行くわけでもなく、酒をたしなまな い新之助をほ
とんど何 の根拠もなく誹謗する ︿
かわせみ の人びと﹀ の粗忽
さ加減も相当なも のだ。墓 昔が生き ていれば、聡明ながら勝
気なる いにやんわり半畳を入れ、思 い込 みと想像力 の豊 かな
お吉 に皮肉 の 一つでも言うと ころだろう。
かわせみの面 々は新之助 の言葉を素直 に受け止めれば よか
った のに、色 と気を回して半ば敬還し半ば猜疑心 で接する
々
も のだから、どう にも ﹁
殿様は色好み﹂ の作品だけ では埒が
明かな い。彼 の正体 が分かるのは、麻太郎が再び医学知識を
深 めるために世界留学 の旅 に出る横浜 の波上場 でのことだ。
女医志望 で英国留学 に立 つ 一条結子なる女性 の 送 に来
見
り
た のが新之助な のだ。公家も公家、華族も華族、 この ﹁
女好
き﹂ は、五撰 家 に生ま れた 一条道明 な る貴種だ った のであ
る。同 じ船 に乗 る医者 の麻太郎も、築地居留地 でのひょんな
出来事 で結 子 を見知 っており、 これが最初 の出会 いではな
い。町季行与力 の養子麻太郎と五摂家 の結子と の間 に、長 い
船旅 でど のような会話 が交 わされた のか楽 しみだ。﹃お伊勢
ま いり﹄ で帰国 した麻太郎だが二人は無事結ばれる機会 に恵
まれるのだろう か。
洋行中 の二人 の様子を描 いた ﹁
新 ・御宿 かわせみ﹂海外編
3265¬ 211(イ t)httw:″ WWW bunshun co‖ 〕
とも いう べき作 品 も読 ん でみた
文書文庫
本 体 6 3 0円 +税 ︶ノ
●定 価 ︵
臓女 の盟約﹂
﹁
文書文庫
本 体 7 6 0円+税 ︶
●定 価 ︵
!
144
145
﹁
での壮絶な経験から得た特殊能力∼男をひと日で見抜く∼
地獄島﹂
、
この能力を生かし、東京で女ひと少間のコンサルタントとして
﹁
魔女の笑窪﹂
水原の戦い︱︱ 第 3弾!
裏社会を生き抜↑女性、
●定価︵
本体 1850円+税︶
大沢在昌
Te1 03‐
〒102‐ 8008東 京 都 千代 田 区 紀 尾 井 町 323
文 藝 断 謀 不火
「地獄」を見た女は、
男のすべてを見抜く
日中韓を舞台に、巨大な
組織 に立ち向かう一-1
‐
‐
ロ
田
は こう言 ったと いう のだ。自 分 は幼 いころ に母 と死 別 した の
で、あな た のよう な年頃 の女性 から優 しく し てもらう と涙 が
江戸 の武家 や町衆 の道徳 観 からす れば 、
出 るほど嬉 し い、と。
,