女性活躍推進法の実効性向上

リサーチ TODAY
2016 年 4 月 25 日
女性活躍推進法の実効性向上
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
2015年8月28日に女性活躍推進法が成立し、この法律により2016年4月1日以降、常時雇用する労働者
が301人以上の企業には、数値目標を含む行動計画の策定等が義務付けられた。女性活躍推進法は企
業が女性の活躍に関わる取り組みに着手する契機になりうると認識し、みずほ総合研究所はすでに女性
活躍推進法に関するリポートを発表してきた 1。下記の図表は、女性活躍にかかわるこれまでの政策をまと
めたものだ。女性活躍に関わる日本の政策は、1986年施行の男女雇用機会均等法が大きな出発点となっ
た。今年は、それから30年の節目に当たる重要な年である。その後、1990年代、2000年代と両立支援や保
育所整備に重点が置かれてきた。その延長線上で、一層の女性活躍を進めるべく、今回の女性活躍推進
法が2016年に始まった。そこでは企業に、①女性活躍に関する現状把握を行ったうえで、②行動計画を策
定し、さらに、③情報公開することが義務付けられている。次の焦点は今年5月に予定される、「女性活躍
加速のための重点方針2016」であり、ここでさらに働き方改革への道筋が示されることになる。
■女性活躍に関わるこれまでの政策の歩み
機会均等
1980年代
両立支援(育児休業等)
保育所整備
働き方改革
男女雇用機会均等法
(1986年施行、
以降数次改正)
1990年代
エンゼルプラン
育児・介護休業法
新エンゼルプラン(2000-04年)
少子化対策プラスワン(2002年):働き方の見直し、両立支援、保育所充実等
2000年代
次世代育成支援対策推進法
(2005年施行)
待機児童ゼロ作戦(2008年)
「ワーク・ライフ・バランス憲章」
「仕事と生活の調和推進の
ための行動指針」(2007年)
「日本再興戦略」(女性活躍推進)(2013年):両立支援、保育所拡充、働き方改革
2010年代
子ども・子育て支援新制度
(2015年)
女性活躍推進法施行(2016年4月1日)
「ニッポン一億総活躍プラン」
「女性活躍加速のための重点
方針2016」
次の焦点は
(2016年5月)
働き方改革へ
(資料)みずほ総合研究所作成
みずほ総合研究所では、女性活躍推進法の見直しも視野に、前述の昨年のリポートで同法の実効性を
最大限に高めるための3つの提言を行っている。第1は、女性活躍に関する項目に対する最低目標水準を
提示することだ。その際、特に重要なのは、女性の進出を妨げる長時間労働の克服だろう。第2は女性の
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2016 年 4 月 25 日
活躍に関わる情報の公表促進である。企業には国が列挙する14項目のうち1つ以上を公表することが義務
付けられているが、より多くの項目の公表を原則とすることも今後検討する必要がある。第3は非正社員の
キャリア形成促進である。
アベノミクスにおける成長戦略のなかでは、労働力人口をいかに底上げするかが重要な課題であり、そ
のなかで女性の更なる就業拡大とキャリア形成の実現は特に重要となる。それは、日本が少子高齢化とい
う大きな制約を背負ったなかで成長戦略を実現するための大きな要素となるからだ。安倍政権は「新3本の
矢」の一つとして子育て支援を示している。本稿で示した女性活躍推進法の更なる充実は、子育て支援と
いう点でも重要と言えるのではないか。
みずほ総合研究所はコンサルティング業務の一環として、人事関連の課題に取り組んでいるが、下記の
図表は、企業が女性活躍推進に取り組む場合の施策のポイントを示したものだ 2。ここで重要なことは企業
のトップの「本気度」である。今日、企業の多くは女性活用の重要性を認識しつつも、まだ制約があるから仕
方がないとの意識が強いのが実情であろう。女性が活躍しやすい職場環境は、高年齢者や外国人など多
様な人材が活躍し、さらに生産性向上を実現する戦略経営にもつながると考えられる。
■図表:女性活躍推進の施策ポイント
女性活躍推進を経営戦略化/日本的雇用慣行からの脱却
ステークホルダーへの働きかけ/数値目標によるコミットメント
トップの本気度
推進体制
長く働く
活躍する
組織風土
人事施策
キャリア開発
採用
教育
人事制度・ワークルール
ボトムアップによる継続的改善
推進する全社組織を組成/物理的なフォロー体制(時間的カバー)
精神的なフォロー体制(メンター制度など)
生産性を重視した働き方意識醸成/
管理職のマネジメント意識変革/同僚社員の理解促進
早期選抜による開発スピード向上/ローテーションによる幅広い経験蓄積
[採 用] 女性をターゲットにした採用活動/キャリアアップに意欲的な人材の採用
数値目標と連動した採用割合の設定
[教 育] マネジメント育成プログラム導入/動機づけ研修実施
[人事制度・ワークルール] 柔軟な働き方の整備/生産性を重視した評価体系構築
ノーワーク・ノーペイの原則徹底
施策の効果を検証する機会の創出/現場の声を反映させた改善
(資料)近藤康弘「
「女性活躍」で実現する生産性向上の戦略経営」(みずほ総合研究所『コンサルタント・オピニオン』
2016 年 4 月 1 日)
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大嶋寧子 「女性活躍推進法は有効か」 (みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2015 年 9 月 14 日)
http://www.mizuho-ri.co.jp/publication/opinion/business/pdf/business160401.pdf
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