塙 雅典 教授 時間配分 対面授業中の活動 3~5分/問 解答例を共有(*に戻る) 5分 教室入り口でワークシートを配布&出欠確認 事前学習動画の内容の振り返り (ポイントと疑問点をワークシートに記入&ス 10 分 マホアプリで共有) 集まった不明点全てに対して質疑応答を繰り返す 10 ~ 20 分 *内容理解を助けるための演習問題に個人で取 3~5分/問 り組む 小グループで小型ホワイトボードを使って意 7~ 10 分/問 見交換 (時間が許せば)対面授業の振り返り 以上はあくまで方法論 になる。では、山梨大学 ではアクティブラーニン グ を ど の よ う に 定 義 し、 どのような教育を目指し ているのか? 塙教授が全面的に支持 しているのは、京都大学・ 溝上慎一教授が唱えるア 90 成績の劇的な改善の理由は 学習時間の増加 山梨大学のアクティブラーニ ングは、具体的な成果としてあ らわれている。 2016 / 4 学研・進学情報 -12- -13- 2016 / 4 学研・進学情報 このシステムではカメラが不要 する装置にi podを設置し 講義で伝えていたものは て 動 画 撮 影 す る と い う 方 法 だ。 で、パソコンとマイクさえあれ 何で伝えるか? ば、教員一人で動画を作成でき しかし、解像度が低く、画質が る。パワーポイントなどによる 悪い。視聴には適していなかっ 山梨大学がアクティブラーニ ングの導入に向けたプロジェク 教 材 資 料 は 作 る 必 要 が あ る が、 た。 トをスタートさせたのは、20 す で に 授 業 で 活 用 し て い れ ば、 この画質の問題に対し、富士 12年4月。同大大学院総合研 それを流用すればいい。ほとん ゼロックスが提案したのが、ス 究部工学域教授で教育国際化推 ど編集作業もいらない。必要で ライドキャストというシステム 進機構大学教育センター長の塙 あれば、取り直したい部分から である。これはPC上の画面を 雅典先生を中心とする共同研究 音 声 と 同 期 し て 録 画 し て い き、 戻って再度録画すればいいだけ チームを立ち上げ、議論を進め だ。 音声つきスライド風の動画を作 た。その際、富士ゼロックスの 成し、配信するというものだ。 講義動画というと、教員が画 山本忠人社長(現・会長)が同 面に向かって説明しなければい スライドキャストシステムで 大の卒業生という縁から、同社 けないという固定観念があるが、 は、まず、パワーポイントで作 の協力を仰いでいる。 成した講義用のスライドをPC 「 重 要 な こ と は 資 料 を 提 示 し な が ら 説 明 す る こ と で す。 ま た、 上に表示する。録画をスタート 当初の議論から言われていた ことは、アクティブラーニング 教室での対面授業がセットなの させたら、マウスで画面を指し のカギを握るのは動画になるだ で、教員の顔を映し出す必要は 示しながら、PCに接続したマ ろう、ということだ。 ない」と塙教授は言い切る。 イクで音声を吹き込む。これに よって解像度を落とすことなく、 塙教授らプロジェクト協力教 塙教授は説明する。 「授業でアクティブラーニン 員は、このシステムを用いて事 簡単にスライド動画を作成する グをやるとなると、今まで講義 前学習用の動画を作成。201 ことができる。 2年度後期には4科目で反転授 で伝えていたものが伝えられな このシステムには、多くのメ 業と組み合わせたアクティブ く な る と い う 懸 念 が あ り ま す。 リットがあるだろう。 ラーニングがはじまった。 そこで、講義の代わりになるも 通常、講義動画を作成すると のとして、動画がカギになると なると、ビデオカメラや三脚な 対面授業は 見られていました」 どの機材、撮影や編集のための 分単位で内容を細切れに スタッフが必要となり、多くの 試験的に講義の様子を動画で 撮影してみた。人物を自動追尾 時間とコストを要する。しかし、 事 前 学 習 か ら 対 面 授 業 ま で、 授業の4日前に15~30分の事前学習動画(時に複数)を提供 事前のノート作成を指示し,視聴状況をノートでチェック 対面授業中に動画の内容の再説明はしない(質問対応のみ) ▼▼▼ 山梨大学 教育国際化推進機構 大学教育センター長 - 習問題をプリントしたワーク ク テ ィ ブ ラ ー ニ ン グ の 定 義 で、 を出し合い、時間が余れば対面 シ ー ト を 配 布 し、 出 欠 を 確 認。 授業の振り返りを行う。 「一方的な知識伝達型講義を聴 事前学習動画の内容の振り返り くという(受動的)学習を乗り このように、 分の授業を内 として、小テストの解答例を画 越える意味での、あらゆる能動 容ごとに細切れにして進めるの 面に表示しながら解説する。次 的な学習」というものだ。この が特色だ。 に、スマートフォンのアプリを 能動的な学習とは、「書く・話す・ 塙教授は説明する。 介 し て、 そ れ ぞ れ の 疑 問 点 を 発 表 す る 等 の 活 動 へ の 関 与 と、 「 ア ク テ ィ ブ ラ ー ニ ン グ を す キーワードで集め、それをもと そこで生じる認知プロセスの外 るとき、学生がうまく動いてく に質疑応答を繰り返す。 れ な い と 言 う 先 生 が い ま す が、 化を伴う」としている。 成功のポイントは、内容をでき その後、ワークシートの演習 書いたり、話したり、発表し 問 題 を 個 人 で 取 り 組 ん だ 上 で、 るだけ細切れにすることと指示 たり、自分が理解したことや疑 グループになり意見交換を行う。 を明確にすることだと思います。 問に思ったことを外化する能動 このとき各グループにある小型 的な学習を展開すること。これ 一つひとつの内容が長いと気持 ホワイトボードが活躍する。最 が、アクティブラーニングの目 ち が ゆ る ん で し ま い ま す し 、 指 後に、全体でそれぞれの解答例 指す姿となる。 示が曖昧だと何をやればいいの か把握するまで時間がか しかし、能動的な学習に重点 を置くと、知識伝達の部分がお かってしまうからです」 ろそかになる。そこで同大では、 アクティブラーニングとは とても簡便な方法によって、講 あらゆる能動的な学習 義動画を事前に視聴させる反転 授業を組み合わせた。この点が、 同大のアクティブラーニングの 画期的なところだろう。 図表1 対面授業の流れ 山梨大学では、学生の能動的な学びを引き出すため、アクティブラーニングの導 入を進めている。技術的な面で注目されるのは、事前学習用の動画だ。時間もコス トもかかる動画作成の課題を、あるシステムによって解決し、反転授業と組み合わせ たアクティブラーニングを比較的簡単に実現している。その教育方法と効果を探る。 どのような流れになるのか。一 例として、塙教授の「通信議論 Ⅰ」の流れを見てみよう(図表 1) 。 学生にはあらかじめ事前学習 の 動 画( ~ 分 ) を 提 供 し、 動画を視聴し、講義ノートを作 成してくるように指示する。 「 動 画 の 視 聴 は 大 前 提 で す。 授業中に動画の内容の再説明は しません。視聴していない学生 のために再説明すると、視聴し てきた学生にとって無駄な時間 になります。再説明したことで 反転授業に失敗した例もありま す」 (塙教授) 以前は視聴状況を講義ノート でチェックしていたが、手間が かかるため、現在はむしろ動画 に組み込んだ小テストを課して チェックしているという。 対面授業では、まず最初に演 30 動画を活用した反転授業で 「わかる」を実感させる 15 山梨大学のアクティブラーニング 特別 ト レポー ●特別レポート 山梨大学のアクティブラーニング ●特別レポート 山梨大学のアクティブラーニング 8 8 7 30 - 39 6 9 9 20 - 29 7 9 9 8 8 7 5 5 5 4 3 2 1 0 50 - 59 1 3 4 9 5 4 3 2 1 1 1 40 - 49 8 7 6 5 4 2 2 1 0 0 80 - 89 0 1 2 2 4 4 6 6 7 7 7 8 白い”ということを実感させて あげることがとても重要」と力 説する。 そのためには、教員の側が変 わる必要がある。塙教授は、反 転 授 業 に よ っ て、「 教 員 の 役 割 が 変 わ っ た 」 と 言 う。 教 員 は、 N=50 平均値 80.4 中央値 86.5 N=56 平均値 64 中央値 63.5 00 100 学習態度が激変 る。 もう一人のI君の場合も、反 転 授 業 で「 わ か る 」「 面 白 い 」 を 実 感 し、「 情 報 通 信 Ⅰ 」 は 満 点で合格した。学部4年で卒業 する予定だったが、親を説得し て大学院進学を決意。入学試験 では、トップで合 格。現在4年次な がらすでに学会で 2度発表し、国際 会議で発表する準 備 を 進 め て い る。 将来は通信技術者 を目指している。 この二人は、反 転授業を契機に成 長した顕著な例で ある。能動的な学 習 に よ っ て、「 わ か る 」「 面 白 い 」 という実感を得た ことをきっかけに、 さらに自ら研究 テーマを見つけて 能動的に学ぶよう になった。 塙 教 授 は、「 学 生に“わかる” “面 3 0 90 - 99 0 0 1 1 2 2 4 4 5 6 7 7 7 8 8 8 9 9 9 45 やり、教室でも 分の授業を受 塙教授が2013年度前期に 開いた「情報通信Ⅰ」では、全 けます。学習時間が増えている ての授業を反転授業とした結果、 ので、成績が良くなるのは当然 中間試験の結果が前年度比で劇 です」(塙教授) 的に改善した(図表2) 。 ノートの取り方の変化も見逃 せない。授業中に説明を聞きな 低得点者が 人から8人に減 り、高得点者が 人から 人に がらノートを取るには、それな 大幅増となった。 りに高度なスキルが求められる が、事前学習の動画では、途中 なぜこれほどの効果があらわ れたのか? で 止 め た り し な が ら、 自 分 の 「これは当たり前のことなん ペ ー ス で 進 め る こ と が で き る。 ですが、事前学習をしてきてい この意味でも、動画を活用した るからです。これまで予習なし 事前学習にはメリットがある。 で講義を受けていた学生が、反 「わかる」 「面白い」で 転授業で事前学習を1~2時間 テストの点数だけでなく、学 生の学習態度にも明らかな変化 が起きている。塙教授の教え子 の二人のケースを紹介しよう。 まずT君の場合は、3年次に 塙教授の反転授業を受け、学ぶ ことが「面白い」ということを 実感。学部4年で卒業するつも りでいたが、大学院進学を決意 した。4年次のうちに学会でも 発表。現在は大学院修士1年で、 自ら研究テーマを設定し、国際 会議で発表する準備を進めてい 0-9 塙教授は話す。 業の回数を増やすことができる ようになった。その結果、従来 ところで、反転授業で事前学 習を課す科目が増えていったと よりも格段に優れた指導案が作 き、学生側の負担増という新た 成できるようになったという。 な問題は生じないのか? 共通科目の総合英語の授業で 前提として、大学教育の単位 は、事前学習として ~ 分の 制度は、1単位あたり 時間の 動画資料を提供している。動画 というe 学修時間を想定しており、それ の な か で は、 Moodle ラーニングのソフトを使った小 には授業の事前の準備学修・事 テストを課し、その解答に対し 後の準備復習を合わせたものと て教員が授業中に説明している。 なっている。なので、事前学習 また、グループ活動で英訳の作 を課す仕組み自体には何ら問題 成 や デ ィ ス カ ッ シ ョ ン を 行 い、 はない。ただ、現実に学生の負 ひたすら英語を使う活動で効果 担 が 増 え る よ う に な れ ば、「 カ を上げているという。 リキュラム設計に問題があるの で、見直すべき」と塙教授は言 能動的な学習態度を う。 早期に身につける 一方で、全ての科目を反転授 業にすべきかというと、そこま 学内でアクティブラーニング をさらに広めていくため、塙教 でやる必要はないという。塙教 授らは、教員向けの研修会を年 授 は、 1・2 年 生 の う ち に 反 転 2回開いている。そのなかでよ 授業を行うことで、能動的に学 り重点を置くようになっている ぶ態度が根づいてくることを期 のが、授業設計の方法だ。 待しており、次のように語る。 「 ア ク テ ィ ブ ラ ー ニ ン グ は、 「 一 番 大 事 な こ と は、 学 習 に 興 動画の作り方だけ覚えてもでき 味を持ち、学ぶことが面白いと ません。むしろ、全体的な授業 思って、能動的に学習する態度 設計を理解することの重要性が が身に付くことです」 (取材・文/沢辺有司) 増していると感じています」と 9 6 4 4 4 3 1 0 70 - 79 1 1 16 6 9 高得点者大幅増 (12人→33人) 9 8 7 7 6 6 5 4 3 2 1 0 60 - 69 4 5 8 90 従来のように学生に一方的に教 にディスカッションさせたいの えるという立場から、学生と共 であれば、必要な知識を事前に に学ぶ立場になる。 動画で提供し、調べ学習をして も ら う。 そ れ を も と に 教 室 で また、学生の側に歩み寄る態 度も求められる。事前学習を課 ディスカッションすることがで すにしても、本を読ませるので きます。やり方はいくらでも考 はなく、学生がより学びやすい えられます」(塙教授)。 教材として動画を提供するなど、 では、各学部で行われている さまざまな工夫が必要なのだ。 アクティブラーニングの事例を 「 学 生 に と っ て み る と、 動 画 いくつか紹介しよう。 のなかで教員が自分たちのため 医学部の産婦人科の課外実習 にわかるように解説しているこ では、事前学習の動画を活用し とが肝心なんです」と塙教授は た反転授業を導入している。以 説明する。 前は事前学習なしで実習に参加 していたので、学生のパフォー どんな学習 内 容 に も マンスが非常に悪かったという。 応用可能 しかし、事前学習をすることで、 パフォーマンスが向上し、また 時間内に実習を終えられるよう になった。動画を準備する労力 と効果を比べても、効果が上回 るという評価が得られている。 教育人間科学部の図画工作論 では、図工の授業の指導案を作 成する活動で反転授業を取り入 れ、より充実化させている。事 前学習の動画を提供することで、 授業中の説明の時間が節約でき、 代わりに、指導案の書き直し作 5 10 - 19 低得点者大幅減 (24人→8人) 2013 年度(反転授業あり) 得 点 2012 年度(反転授業なし) 20 24 12 2015年度、山梨大学では 科目でアクティブラーニング が実施された。内訳は、工学部 科目、教育人間科学部5科目、 生命環境学部4科目、医学部3 科目。工学部が中心ではあるが、 全学的な取り組みへと広まって いる。 塙教授の考えでは、アクティ ブラーニングは、学習内容に関 わらず実施可能だという。 「 例 え ば、 文 学 の 授 業 で 学 生 図表2 反転授業導入後の成績の上昇 15 33 アクティブラーニング室。少人数のグループに分かれ、小型 ホワイトボードを使ったディスカッション等が行われる。 2016 / 4 学研・進学情報 -14- -15- 2016 / 4 学研・進学情報 36 24
© Copyright 2024 ExpyDoc