資料(PDF 302KB)

2016/4/27
東京都新宿区本塩町 22-8
TEL: 03-5919-9341(直通)
URL:http://www.tdb.co.jp/
特別企画:国内タクシー業者 3376 社の経営実態調査
減車政策のなか総収入高は微減にとどまる
~中小規模の再編、加速の兆し~
はじめに
ここ数年でタクシー業界を取り巻く環境が変化している。2002 年の道路運送法改正でタクシー
事業者の参入規制が免許制から許可制に緩和され、タクシー業界に新規参入が増加した。リーマ
ン・ショック以降、輸送人員が減少するなか、一定の地域ではタクシー車両の大幅増加で経営環
境が悪化。運転手の賃金低下や安全性が問題視され、車両数を規制する動きとなった。これを受
けて 2009 年にタクシー特別措置法が制定され、特定地域では減車に向けた話し合いが進んでいる。
2020 年の東京五輪開催に伴うインバウンド需要など多様化したニーズに対応すべく、タクシー
業界はタクシー・ハイヤーの「配車アプリ」や、スマートフォンを活用した「Uber(ウーバ
ー)」などの配車サービスを開始するなど、IT化の波が訪れている。今後はこうしたIT化に加
えて、一般ドライバーがマイカーを利用し有料で客を送迎する「ライドシェア」の流入で、業者
間の競合が激化する可能性がある。
帝国データバンクは、2016 年 4 月時点の企業概要データベース「COSMOS2」(146 万社
収録)の中から、2015 年(2015 年 1~12 月期)決算の年収入高が判明した国内タクシー業者 3376
社を抽出し、収入高総額・収入高推移、地域別、業歴別、従業員規模別、合併動向について分析
した。同様の調査は今回が初めて。
調査結果(要旨)
1.国内タクシー業者 3376 社のうち、2014 年および 2015 年の年収入高が判明した 2946 社を対
象に年収入高総額を比較すると、2015 年は1兆 1053 億 8200 万円となり前年比 20 億 7700
万円減(0.2%減)の微減となった
2.2015 年、2014 年、2013 年の年収入高が判明した 2803 社の動向をみると、2015 年は「増収」
企業が 527 社(構成比 18.8%)、「減収」企業が 822 社(同 29.3%)となり、「横ばい」企業
が 1454 社(同 51.9%)と半数以上を占めた
3.2015 年および 2014 年の年収入高が判明した 2904 社を都道府県別でみると、増収企業の割
合が最も高かったのは「石川県」(9 社、構成比 37.5%)となり東京を抜いてトップ
4.業歴別では、「50~100 年未満」
(2174 社、構成比 64.5%)が最多
5.合併件数では 2015 年に 16 件の合併が行われ、資本金別にみると、「1000 万円~5000 万円
未満」の中小クラスの合併が目立つ
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特別企画:国内タクシー業者 3376 社の経営実態調査
1.収入高状況
総収入高は微減にとどまる
国内タクシー業者 3376 社のうち、2014 年
および 2015 年の年収入高が判明した 2946 社
収入高総額
(百万円)
を対象に各年の年収入高総額をみると、2015
2014年
2015年
年は1兆 1053 億 8200 万円となり前年比 20
前年比
(%)
1,107,459
1,105,382
-
▲ 0.2
億 7700 万円(0.2%減)の微減にとどまった。
2002 年の道路運送法の改正で、タ
クシー事業者の参入規制が免許制か
業績比較
2014年
ら許可制に変更され、タクシー事業へ
社数
の参入が相次ぎ車両数が増加した。リ
ーマン・ショック以降、輸送人員の減
少が続くなかで、車両の過剰供給が問
題視され、輸送の安全と運転者の質を
確保すべく、国は 2009 年にタクシー
増収
減収
横ばい
合計
640
857
1,306
2,803
構成比
(%)
22.8
30.6
46.6
100.0
2015年
社数
527
822
1,454
2,803
構成比
(%)
18.8
29.3
51.9
100.0
※3期連続で年収入高が判明している企業を集計
特別措置法を制定した。これにより、
都市部などの特定地域で減車が進められた影響で、実働 1 日1車あたりの運送収入が上昇したが、
全体の総収入高は微減にとどまった。
2015 年、2014 年、2013 年の年収入高が判明した 2803 社の動向をみると、2015 年は「増収」
企業が 527 社(構成比 18.8%)で、
「減収」企業が 822 社(同 29.3%)となり、
「横ばい」企業が
1454 社(同 51.9%)と全体の半数以上を占めた。加えて、
「2 期連続増収」企業は 216 社(構成
比 7.7%)となる一方で、
「2 期連続減収」企業は 330 社(同 11.8%)となった。
また、2015 年の年収入高別に損益を比較すると、規模が大きくなるほど黒字企業の割合が高く
なり、小規模になるほど赤字企業の割合が増える傾向がみられた。
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特別企画:国内タクシー業者 3376 社の経営実態調査
2. 地域別
北陸新幹線の広告プロモーション効果で石川県が増収企業比率トップ
国内タクシー業者 3376 社のうち本店所在地を都道府県
別でみると、
「東京都」が 308 社(構成比 9.1%)と最多
都道府県別 社数トップ10
となった。次いで、「北海道」(199 社、同 5.9%)、「福岡
都道府県別
社数
心に観光客が増加していることが背景にある。その他の地
東京都
北海道
福岡県
千葉県
神奈川県
大阪府
沖縄県
広島県
埼玉県
新潟県
308
199
171
127
124
113
113
112
101
100
構成比
(%)
9.1
5.9
5.1
3.8
3.7
3.3
3.3
3.3
3.0
3.0
域でも、人気観光地を有するエリアがランクインしており、
全国合計
3,376
100.0
県」
(171 社、同 5.1%)となり、都市圏が大半を占めてい
る。
3376 社のうち、2015 年および 2014 年の年収入高の業
績比較が可能な 2904 社を都道府県別でみると、増収企業
の割合が最も高かったのは「石川県」
(9 社、構成比 37.5%)
となり東京を抜いてトップとなった。2015 年 3 月に北陸
新幹線が開通前後の広告プロモーション効果で、金沢を中
観光・インバウンド需要が追い風となっている。
一方、減収企業の割合が高かったのは「奈良県」(8 社、同 44.4%)となった。2014 年にタク
シーの適正化及び活性化に関する特別措置法が改正され、タクシー会社間の話し合いで車両を減
らす「特定地域」が設定されている。2015 年は全国 638 の営業地域のうち、供給過剰の状況が見
られる地域として 19 地域が設定され、減車に向けた話し合いが進められている。減収企業構成比
率のトップ 10 のなかでは、「北海道」
「秋田県」「長野県」「奈良県」「大分県」の 5 道県が特定地
域として設定されている。供給過剰のおそれがある地域として準特定地域が 130 あることから、
今後さらなる減車に向けた取り組みが加速する可能性があり、こうした地域では車両の効率的適
用による乗客確保が課題となるだろう。
増収企業構成比率 トップ10
都道府県別
社数
石川県
東京都
滋賀県
京都府
大阪府
島根県
富山県
和歌山県
沖縄県
徳島県
9
86
4
8
27
9
6
6
29
5
構成比
(%)
37.5
34.4
33.3
32.0
28.7
28.1
26.1
26.1
25.7
25.0
全国合計
550
18.9
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減収企業構成比率 トップ10
都道府県別
社数
奈良県
長野県
岐阜県
静岡県
愛知県
北海道
岩手県
佐賀県
大分県
秋田県
8
19
7
29
25
68
24
13
15
12
構成比
(%)
44.4
43.2
41.2
40.3
37.9
37.6
36.9
36.1
34.9
34.3
全国合計
850
29.3
3
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特別企画:国内タクシー業者 3376 社の経営実態調査
3. 業歴別
50~100 年未満が最多
国内タクシー業者 3376 社のうち、業歴が判明した
3373 社をみると、
「50 年~100 年未満」が 2174 社(構
業歴別
社数
成比 64.5%)となり、次いで「30 年~50 年未満」が
10年未満
10~30年未満
30~50年未満
50~100年未満
100年以上
合計
651 社(同 19.3%)となった。全体でみると、業歴 30
年以上が 83.9%を占めている。
業歴が判明している 3373 社のうち、2015 年および
2014 年の年収入高が判明した 2904 社をみると、増収
企業は「10 年未満」
(40 社、構成比 31.3%)が最多と
198
346
651
2,174
4
3,373
構成比
(%)
5.9
10.3
19.3
64.5
0.1
100.0
なる一方で、減収企業は「50~100 年未満」
(610 社、同 32.2%)がトップとなった。規制緩和な
どで新規参入企業の勢いが増し、競合が激化するなか、老舗企業が苦戦を強いられている状況が
うかがえる。
業歴別業績比較
業歴別
増収 構成比 減収 構成比 横ばい 構成比
(%)
(%)
(%)
10年未満
40
31.3
23
18.0
65
50.8
10~30年未満
70
24.2
59
20.4
160
55.4
30~50年未満
107
18.2 158
26.9
323
54.9
50~100年未満 333
17.6 610
32.2
953
50.3
100年以上
0
0.0
0
0.0
3 100.0
合計
550
18.9 850
29.3 1,504
51.8
4. 従業員規模別
合計
128
289
588
1,896
3
2,904
中小・零細企業が 8 割占める
従業員数が判明した 3376 社をみると、
「10~100 人未満」が 2051 社(構成比 60.8%)となり、
次いで「100~1000 人未満」が 737 社(同 21.8%)となった。従業員数が 100 人未満の中小・零
細企業が全体の 77.9%を占めている。
従業員規模別
ゼロ
1~10人未満
10~100人未満
100~1000人未満
1000人以上
合計
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社数
92
485
2,051
737
11
3,376
構成比
(%)
2.7
14.4
60.8
21.8
0.3
100.0
4
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5. 合併動向
2016 年は前年を上回るペースで推移
合併件数をみると、2015 年は 16 件の合併が行われている。2016 年に入ってからは前年を上回
るペースで推移しており、タクシー業者の合併が高水準でうかがえる。資本金別にみると、
「1000
万円~5000 万円未満」の中小規模の合併が最多となっており、中小規模の合併・再編が増加の兆
しがうかがえる。
2002 年の規制緩和で新規参入企業が相次ぎ、都市圏を中心に競合が激化していたなか、タクシ
ーの特別措置法が改正され、車両数の再規制の動きが出てきている。2014 年にタクシーの適正化
及び活性化に関する特別措置法の改正で、国は減車を進めていく意向のため、今後は新規参入や
増車が厳しくなることから、同業者間のM&Aが活発化していくことが考えられる。
タクシー業界全体の問題として、2010 年以降、タクシー車両数や輸送人員が減少している。さ
らに、燃料コストの上昇に加え、乗務員数の減少・高齢化が深刻化しており、中小規模のタクシ
ー業者は経営難に陥っている企業も少なくない。雇用の維持や事業基盤のスケールメリットを狙
い、大手グループの傘下や同業との合併で生き残りをかける業者が増えてきている。
資本金規模別 合併件数推移
業歴別
2013年
1000万円未満
1000万円~5000万円未満
5000万円~1億円未満
1億円以上
合計
※2016年は4月1日時点の件数
(両)
6
8
0
0
14
構成比
(%)
35.3
32.0
0.0
0.0
29.8
2014年
2
7
1
0
10
構成比
(%)
11.8
28.0
20.0
0.0
21.3
2015年
6
6
4
0
16
2016年
構成比 (1月~4月) 構成比 合計
(%)
(%)
35.3
3
17.6
17
24.0
4
16.0
25
80.0
0
0.0
5
0.0
0
0.0
0
34.0
7
14.9
47
ハイヤー・タクシーの車両数・輸送人員推移
280,000
車両数
輸送人員
270,000
(百万人)
3,000
2,500
260,000
2,000
250,000
1,500
240,000
1,000
230,000
500
220,000
0
2000 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14
(年度)
※国土交通省調べ
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特別企画:国内タクシー業者 3376 社の経営実態調査
6.まとめ
国内タクシー業者 3376 社のうち、2014 年および 2015 年の年収入高が判明した 2946 社を対象
に各年の年収入高総額をみると、2015 年は1兆 1053 億 8200 万円となり前年比で 20 億 7700 万
円の減少(0.2%減)となった。2002 年の道路運送法改正でタクシー事業者の参入規制が緩和さ
れ、タクシー事業への参入が相次ぎ車両数が増加。一定の地域では車両の過剰供給が問題視され、
2009 年にタクシー特別措置法が制定された。運転手の労働環境と安全性を改善すべく、都市部な
どの特定地域で減車が進められ、実働 1 日1車あたりの運送収入が上昇したものの、全体の総収
入高は減少している。
地域別では、北陸新幹線の開通による広告プロモーション効果とインバウンド特需の恩恵を受
けた「石川県」が、増収企業の割合が最多となった。一方、減収企業の割合が多かった 10 都道府
県のうち、「北海道」「秋田県」「長野県」「奈良県」「大分県」の 5 道県が 2015 年に特定地域とし
て設定されている。多くの観光地を有するエリアでの減車は、タクシー利用者の利便性に影響を
及ぼす可能性も否めない。
近年では、資本金「1000 万円~5000 万円未満」クラスの合併が増加傾向にあり、2015 年は 16
件の合併が行われ、2016 年は前年を上回るペースで推移している。タクシー運転者は労働時間が
長いうえに年間所得が 300 万円前後とも言われ、若手の乗務員志望者が少なく、運転手の高齢化
が進んでいる。2020 年の東京五輪に向けて、
「配車アプリ」や自家用車を利用する「ライドシェア」
が普及する可能性があり、中小規模のタクシー業者は経営悪化で市場からの撤退や合併、廃業を
余儀なくされる業者が増加するおそれがあり、今後は高齢化による市場の変化を見据えた対応が
求められる。
【内容に関する問い合わせ先】(株)帝国データバンク
東京支社情報部
担当:田中 祐実
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