漏電ブレーカ(ELB)の安全使用と漏電状況の調査 ― ELB の目的、現場での使用、誤動作及び誤不動作の対応方法と漏電状況の具体的調査例 ― 九州産業コンサルタント協会 増永秀人(労働安全コンサルタント・電気部門) 1.はじめに (漏電ブレーカとは?) 1-1.漏電現象及び発生する危険 1-2.漏電ブレーカの効果、使用に伴う問題点 2.漏電発生時のブレーカ操作による停電復旧操作 (動作した時は?) 2-1.復旧手順 2-1-1.基本的な操作手順 2-2-2.手順実施時の注意事項 2-2.復旧できない場合 2-2-1.子ブレーカ全数切でも親ELBが入らない場合 2-2-2.子ブレーカが全数投入されても親ELBが動作しない場合 a)間欠的な漏電 b)設備特性 c)もらい動作(誤動作) 2-2-3.親ブレーカが ELB ではない場合(中性線欠相保護ブレーカ等) 3.ELB の取扱い (安全に使うためには?) 3-1.動作試験 3-1-1.手動(テストボタン)での動作試験 3-1-2.試験機による試験 3-1-3.試験時の注意点 3-2.設置方法及び選定 3-2-1.二次側接続設備の最適化(一次送り) 3-2-2.逆接続 3-2-3.設定値(動作電流・時延)の選定・高調波対策等 3-3. 使用設備の接地 3-3-1.共通接地による誤動作 3-3-2.外箱等の接地不良による誤不動作 3-3-3.非接地系等 (接地システム) 4.漏電調査 (漏電個所を調べるには?) 4-1.停電しての絶縁抵抗測定・メガ 4-2.停電しないで行う測定 4-2-1.臨時に行う方法 a)クランプリークメータ b)漏電現象の記録 c)活線漏電点標定器 4-2-2.常時監視を行う方法 a)絶縁監視装置 b)漏電火災報知器 4-2-3.設備運用状態との比較検討(漏電記録の例) (date.2016/4/26) 1. はじめに 漏電災害防止のために有効な設備である「漏電ブレーカ」の使用について、現場実例をもとにしたご説 明を行います。併せて漏電現象の概要、漏電ブレーカの動作で考えなければならない接地(アース)の概 要と漏電調査の具体的な方法をご紹介します。 1-1.漏電現象及び発生する危険 漏電は、使用している電気機器、ケーブル等の故障・劣化等により、出て行った電流の一部が漏れ出し て帰ってこない現象です。帰ってこない電流(漏電電流)の大きさは、mA(千分の 1 アンペア)から、最 大で 10A 程度の大きさになります。漏電した電流は拡散して消滅することはありません。電源である発生 した変圧器へ戻ります。 漏電電流は、水回り、建屋鉄骨等の予期できないルートで流れ、途中で感電・火災の災害を起こすこと があります。mA 単位の微弱な漏電電流であっても、人体を流れると感電災害が発生します。漏電電流が継 続すれば劣化は進行し、小さな電流がどんどん大きくなり、建物等では過熱しての漏電火災が発生します。 ショート等が誘発されると、短時間に地絡短絡事故と呼ばれる災害にも進展することがあります。もう一 つの漏電の危険性が、設備外箱等に生じる電圧で電撃を受けた人の転倒、墜落等です。転倒して頭を打つ、 溺れる、高所の足場から墜落する等の重大災害が二次的に発生します。 漏電の原因には、水濡れ、コード等の被覆絶縁性の化学的・物理的劣化、小動物の食害、設備の配線間違 い、接触しないと信じ込んでいた部分への人体の接触、電気配線の結線間違いなど、災害発生までは予想 もしていなかった事例が多数あります。これらの原因は複合することがあります。ネズミがかじったケー ブルが雨漏れで濡れた、などです。発生個所も分電盤、ケーブルから電気品までのあらゆる場所です。漏 電原因を完全に予防することは極めて困難です。 1-2.漏電ブレーカの効果、使用に伴う問題点 漏電ブレーカ(ELB)は、本体内の検出部で漏電電流を常時監視し、漏電が発生した場合は漏電原因に 関係なく自動で「OFF」になるブレーカです。ELB 以降では漏電が発生しても、重大災害を停電させるこ とにより防止することができます。下図に分電盤での ELB 使用例を示します。それぞれ、親ブレーカとし て ELB が使用されています。 (リミッタ) BE 親ブレーカ 子ブレーカ B B B B B B B B B B B B B B B B 図・左は自家用(工場、事務所等)で使用される分電盤、図・中は一般用(家庭)で使用されている分電盤 の例です。電気結線図では図・右のようになります。親・BE(ELB)1 台から子・B(安全ブレーカ)が 分岐していることを示しています。漏電保護機能を持つ親ブレーカ(ELB)1 台が全体受電用として使用 され、保護機能のない子(安全)ブレーカが 10~20 台が分岐しています。子(安全)ブレーカは、分岐回 路毎のショート(コード又はコンセントにつないでいる電気品の故障) 、電気使いすぎ(タコ足配線で電気 ポットを 2 台つないだ等の過電流)による大電流による事故の防止が目的となっています。 この型の分電盤では、子ブレーカから電気が送られている設備のどこかで漏電が起きると、親 ELB が動 作し、分電盤全体を停電させることで漏電状況をなくします。漏電に対しては安全が保たれますが、漏電 していない健全な部分まで、同時に停電するという電気の使用に対しての不具合が発生します。何度も停 電して困るという現象です。ELB は電気の回路別に個別に使用することが最良ですが、経費上、特に電灯 (100V)分電盤では受電用(親)ブレーカとして使用され、コンセントなどへの分岐用(子)には漏電検 出機能の無い配線用(安全)ブレーカが使用されることが一般的です。 ※ ELB は、安全のために、設定値までに必ず「OFF」動作するように作られています。このために、実 際には、設定値以下で動作します。最少動作電流と呼ばれるもので、設定値の 1/2 です。設定値 30mA の 場合は 15mA 以上 30mA 以下で動作が正常です。過電流保護用(安全)ブレーカは設定値(例えば 20A) までは動作しないように作られています。このために、ELB は頻繁に動作しすぎると感じられることもあ ります。過電流保護用(安全)ブレーカは NFB(No-Fuse Breaker・商品名)または MCCB(Molded Case Circuit Breaker)とよばれています。 ※ 一般用電灯(家庭用)ではリミッタが親 ELB の前についています。リミッタは保安上の設備ではあり ません。設備は健全であっても、全体の電流が取引上の契約アンペアを超過すると、動作して電気の使用 を中断させます。制限する電流により色別が定められています。使いすぎの原因になった家電(ドライヤ ー、レンジ等)を停止してレバーを挙げるとそのまま入ります。自家用でも家庭 用の盤と同じ形のものが右図のように使用されています。リミッタがなく、漏電 ブレーカと分岐ブレーカになっています。自家用では基本料金がリミッタによる 契約アンペア(A)ではなく、全体の電力の実測電力量(kW)で別途決定されるた めです。小規模な動力で、 「負荷設備契約」が適用されている場合も同様です。 ※ 医療用設備等で漏電に対する安全性が必要な分電盤は、より厳しい規格で作られています。親ブレー カではなく、子ブレーカの一つ一つが ELB になっています。2-2-3 に概要を記述します。 漏電すると、電気代はどれくらい増えるのか?と尋ねられることがあります。感電防止用 ELB の動作電 流 30mA が流れても、100V での電力換算では 3W なので、電力量増加としては、ほとんど認められませ ん。逆に言えば、漏電は ELB を使用する等により検出を行わなければ、電力量増加等では知ることができ ず、災害が発生するまで全く気づくことができない危険な現象です。 100V の電線から電気が漏れるのに、少しの電流しか流れないといことは不思議ですが、これは国内の低 圧電気設備の接地(アース)が電源の系統接地と設備外箱等の機器接地を別にとるように決まっているた めです。ELB でなければ漏電事故を保護することができない理由にもなっています。後述する「3-3.ELB 使用設備の接地」に簡単な説明をつけています。 2.漏電発生時のブレーカ操作による停電復旧操作 ELB が動作した場合の応急復電処置として、分電盤のブレーカ操作による、よく利用されている方法が あります。設置されている配線用(子)ブレーカの操作で漏電個所を見つけ出し、切り離すことで停電を 復旧させる方法です。特別な装置等は必要ありません。 2-1. 基本的な操作手順 復旧の基本的な操作手順は、東北電気保安協会殿ホームページにわかりやすい説明が記載されています。 引用してご紹介します。 ・手順 1 配線用(子)ブレーカのすべてを「OFF」にし ます。漏電個所を含む全ての負荷設備が切り離されます。 ・手順 2 ELB(親ブレーカ)のレバーを一旦「OFF」位 置まで下げてから「ON」にします。漏電個所がないので 親ブレーカは入ります。 ・手順 3 配線用ブレーカを一つずつ、ELB が動作しな いことを確認しながら「ON」にします。漏電個所がつな がった配線用ブレーカが「ON」になると、数秒以内に ELB が動作します。その配線ブレーカを再度「OFF」に します。 ・手順 4 ELB を再度「ON」にして、他の配線ブレーカ をすべて「ON」にします。漏電個所以外の負荷の停電は 回復します。 (漏電個所のブレーカは「OFF」のままとし てください) 。 この方法は、事業用・家庭用ともに行うことができま す。しかしながら、かなりの割合で、この操作では復旧できない場合があります。東北電気保安協会殿ホ ームページにも、 「漏電ブレーカが動作したとき、原因を確かめないで ON にすることは危険です。ON に する前に東北電気保安協会へ必ず連絡してください。」のコメントがついています。復旧できない例を次節 2-2 にご紹介します。 ※ ELB は保安装置であるため前述したリミッタとは異なり、誤操作を防ぐために、自動「OFF」動作し た場合は、そのままでは「ON」になりません。必ず手動で「OFF」操作をしてから「ON」操作を行う 必要があります。 2-1-2.手順実施時の注意事項 ・ 操作開始前の状況確認 手順 1 では、子ブレーカに「OFF」状態のものがないかを確認して行うことが必要です。手順 3 での 「ON」操作で、漏電ではない故障等で「OFF」であったブレーカまで間違えて「ON」にして受電し、新 たな事故を発生させることがあります。平常から、 「OFF」状態のままの子ブレーカには、マークをつけて おくと安全です。 ・ 漏電表示ボタンの確認 手順 2 では、必ず、漏電表示ボタンが突出ていることを確認し、押し込ん で復帰した後に「ON」にします。通常は図・左のような表示ボタンが、図・ 右のような状態で、表面から突出します。一般的な ELB は過電流でも動作す るようになっています。次回の動作があった場合に、漏電によるものかの確 認を行うためです。漏電表示ボタンが出ていない場合は、過電流動作により 「OFF」になっている恐れがあります。過電流の場合は「ON」の前に、負荷等の安全処置をしておかな ければなりません。極めてまれですが、電灯分電盤でも小動物接触等で内部母線が短絡していることもあ ります。動力分電盤の場合は、過電流動作は常に予想しておかなければならない事態です。 ※ ブレーカを「ON」にすると「ビビビ」等の異音がして「OFF」になる場合は、漏電ではなく、短絡 等で大電流が流れた恐れがあります。二次側線間の絶縁測定が必要です。 漏電表示ボタンの色は、白、黄色が一般的ですが、メーカ等により異なります。 上図の緑矢印がいずれも動作表示です。右端のように表示ボタンではなく、表示灯となっているものもあ ります。赤矢印は、後述する手動試験用ボタンです。これも取付け場所、色共に異なります。受電中に漏 電表示の復帰忘れと勘違いして、復帰するつもりで試験ボタンを押して停電させることがあります。文字 での説明が必ずあるので、確認することが必要です。 右図は漏電専用です。漏電の場合のみ動作するので、動作表示はありません。 試験ボタンのみが表面につけられており、緑色が一般的です。短絡事故等による 過電流の遮断能力(消弧能力)は無いので、電源側に過電流保護ブレーカを取り 付けて使用する必要があります。改造等で、既設の回路に漏電保護が必要になっ た場合などに使用されます。 2-2. 復旧できない場合 漏電ブレーカに各種のものがある以上に、実際の使用状態は千差万別です。分電盤にはブレーカ以外の ものも設置されています。接続されている各種の設備の要因も複雑に関連するため、上記の復旧手順では 復旧できない状況が発生します。その内容と対応の例をご説明します。調査を実行するには、一定の知識 と経験が必要です。専門家に依頼すべきものですが、概要を理解しておくことは、安全のために必要です。 受電できない場合として、4 例を示します。 ①手順 1 で全ての子ブレーカを切っても、手順 2 の親 ELB が入らない場合 ②手順 1、手順 2 のあと、手順 3 で全ての子ブレーカを入れても親 ELB が落ちない場合 ③設備構成が異なる(親ブレーカが ELB でない)場合 ④親ブレーカが省略されている場合 ※分電盤の中扉を開くと、ブス(母線)等の充電部が露出状態になります。充電中に中扉を開いての点検・ ブレーカ操作は、裸充電部への近接作業になります。労働安全衛生法による「低圧電気取扱教育」修了 者等で行うことが必要です。 2-2-1.子ブレーカ全数切でも親 ELB が入らない場合 ・ELB と配線ブレーカの関係が違う場合 ELB が 1 台ではなく、一つの分電盤に下図のように親 ELB が二台、並列につけられていることがあり ます。二つの親ブレーカと、子ブレーカグループの関係を盤面から判断することは困難です。親子関係(親 ELB と子ブレーカの関係)は内部確認を行うとわかりますが、停電時には、その余裕はありません。間違 えて、関係のない子ブレーカを切ると、漏電回路の切り離しはできないため、親 ELB は「ON」入になり ません。 BE BE BE BE B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B B 左右分割 B 上下分割 親 ELB が二つある例 左から親 ELB 盤面 盤の内部 この盤は左右の分割なので左 ELB が左半分、右 ELB が右半分です。同様の盤では上下分割で、左 ELB が 上半分、右 ELB が上半分の場合が多いようです。日頃より盤のブレーカの関係を確認して盤面に表示し、 停電時には慌てないようにしておくことが早期の停電復帰につながります。 ・ELB の二次側から引出線がある場合 下図のように親ブレーカの二次側母線からケーブル(外線)が引き出されていることがあります。ここ では赤白黒のケーブルが引き出されています。離れた場所に孫ブレーカのある分電盤があると考えられま す。孫ブレーカに絶縁不良があると、子ブレーカの全数を「OFF」としても絶縁不良個所の切り離しはで きません。分電盤の増設工事等で、安易に電源引き出しを行ったと考えられます。 BE B B B B B B B B B B B B B B B B B B B どこかに? 結線図では「どこかに?」と書きましたが、炊事場の奥、本棚の後ろ等、見つけにくい場所にあることが普 通です。引出線をつける場合には、結線図の○印の場所に、法規により分岐ブレーカを設置することにな っていますが、節約されて直接引出になっているのが普通です。前例と同様に、平常時に確認し、分岐(子) ブレーカを設置しておくことが必要です。 ・親 ELB 不良の場合 ELB は動作しなくとも時間がたてば劣化します。概ね 15 年~20 年が更新時期とされていますが、大幅 に超過して使用されている例がよくあります。健全な ELB は、漏電状態が継続したまま「ON」にすると、 はじかれた様な感触で「OFF」になります。劣化した ELB は、フニャフニャとした感じで「ON」になら ないことでもわかりますが、停電復旧には時間がかかります。思いもしなかったことが起きるのが事故で す。ELB も定期的な更新が必要です。 ※設備安全には、 「誤動作」と「誤不動作」の考え方があります。ELB にとっての「誤動作」とは漏電して いないのに「OFF」となること、 「誤不動作」とは漏電しているのに「OFF」にならないことです。誤不動 作では災害につながります。安全を重視する場合は、 「誤動作」は許容できても、 「誤不動作」は許容できま せん。 ブレーカは「OFF」となって、危険もしくはそれに類する事態を防止することが最大の責務です。 「ON」 にならない場合、二次側は無電圧のままなので、使用者にとっては不都合ですが、電気的には安全側です。 経年劣化等で不良になった場合は「OFF 位置」になりやすいように作られています。不良になる前の更新 が必要です。 ・ニュートラルスイッチがある場合 旧式の分電盤では 1 線切(片線切)のブレーカが使用されていることがあります。設備へ配線された 1 線はブレーカですが、他の 1 線(白線の接地側)は盤下部の黄色の集合端子(ニュートラルスイッチ)に つながっています。図の下側の黄色の部分です。スナップ型(左図)とプル型(右図)がありますが、機能 は同じです。ブレーカとブレーカに対応するニュートラルスイッチを同時に開放しなければ、2線切ブレ ーカと同様の切り離し効果は得られません。古い分電盤で使用が多く、劣化によりレバーが折れて再投入 不能になることもあります。ブレーカ操作による調査はできないと考えることが安全です。 操作の後、ニュートラルスイッチの入忘れ・投入不良があると「中性相喪失」という異常電圧が発生す る故障になり、接続されている電気品の焼損等が生じることがあります。左図ではニュートラスイッチ 2 台が運用中でも開放されています。調査後、間違えて入りとすると、事故発生の恐れがあります。通常の 2線切型ブレーカに更新することが最良です。 2-2-2.子ブレーカが全数投入されても親 ELB が動作しない場合 手順 3 のあと、そのまま親 ELB が入ったままになることがよく発生します。親 ELB を「ON」にする 時点では漏電状態がなくなっているためです。分電盤に接続されている設備が間欠的な漏電状態となる場 合、設備特性により ELB が誤動作する場合、他の個所の漏電によるもらい動作の場合等です。そのままに しておくと、再度停電することが起こります。4-2 に説明する、漏電個所調査を行うことが安全です。 a) 間欠的な漏電 ・不完全な絶縁劣化が生じている場合 停電により絶縁が回復することがあります。コンセント口の水濡れ、屋外照明灯の劣 化等が考えられます。ELB は入りますが、時間がたてば、切れてしまいます。雨漏れ、 水道等の漏水調査、ふらついている照明などの周辺調査が有効です。右図は 1/4 まで水 が溜まっていた屋外照明灯グローブの例です。この状態でも連続した漏電は発生してい ませんでした。通常は、通電しておけば絶縁は回復していきますが、そうでない場合も あります。 ・故障機器が切り離されている場合 絶縁不良の電気品を使用しようとして、コンセントに差し込んだとたんに停電したため、停電に驚いた 人がコンセントから、あわてて引き抜くことがあります。漏電原因が消滅しているため、ELB は入ったま まになります。寮等ではよくある現象です。 「電気修理が得意」な人がいないかを聞き出すことも有効です。 分電盤の中にも、制御機能のある部品が組み込まれています。下図左はリモコンリレーです。廊下壁等 にあるスイッチの入り切りで照明を個別に点灯・消灯を行います。下図右はマグネットスイッチです。外 灯等の複数を一括して入り切りすることなどに使用します。リモコンリレーが OFF 表示になっている場 合、マグネットスイッチの中央部が引込んでいない場合(OFF の状態)では、接続機器は切り離されてい ます。入り切りは他の個所に取り付けられたスイッチからの電圧信号で行います。 ※ごくまれに、勘違いして、漏電を復帰しようとして、 マグネットを指等で押しこむ人がいますが、極めて危 険な操作です。状況によっては、押し込んだとたんに墳 破する恐れがあります。漏電現象により直接動作する ものは ELB のみです。他の部分は停電による、電源が なくなったことによる OFF 動作です。 一度停電すると再度入り操作をしないと停止したままになる設備があります。絶縁不良であっても停止 状態のままになるので、漏電はなくなり、ELB は入ったままになります。スイッチなどで入りになると、 その時点で漏電が発生します。ELB を入れた後、普段は動いているのに停止しているものがないかを探す ことが有効です。動力回路では上記のマグネットスイッチ等による自己保持回路と呼ばれるものが使用さ れるため、よくある現象です。電灯回路ではスナップスイッチなど、機械的にそのままの状態となってい る場合が多いので、あまり発生しませんが、確認する必要があります。 b) 設備特性 サーバ用無停電装置等により ELB の誤動作が生じることがあります。漏電は出て行った電流が帰ってこ ない現象です。無停電装置は、ある意味で電流をため込む装置です。タイミングの関係でため込まれた電 流は帰ってこないと判断され、ELB にとっては漏電として検出されることがあります。装置の動作状態に よっては漏電として検出されないので、ELB は動作しません。ELB の漏電判断は時間的な平均値ではない ために、偶発的な誤動作になります。無停電装置の安定運用のためにも、ELB 二次への接続から、3-2-1 に 示す一次送りへの変更が必要です。同じような現象がノイズフィルタ等の静電容量分(キャパシタンス) の大きい機器でも生じることがあります。 c)他の系統からの「もらい動作」の場合 最近、電灯回路に多く発生が見られるようになった誤動作の現象です。他の設備の大きな漏電故障に伴 って偶発的に発生します。自己系統の漏電ではないため、ほとんどの場合、そのまま復帰します。設備的 には無停電装置などにみられる容量(キャパシタンス)の大きな設備等が多くなっていることが原因と考 えられます。ELB 動作としては異常ではありませんが、運用上では誤動作になります。詳細は 3-3.ELB 使用設備の接地に記述します。 2-2-3.親ブレーカが ELB ではない場合 ・ 中性線欠相専用ブレーカの使用 最近多用され始めた、子ブレーカが ELB になっている電灯分電盤の場合です。親ブレーカと子ブレーカ の配置はこれまでの分電盤と同じです。親ブレーカには動作表示ボタン等もあり ELB にそっくりですが、 ELB ではなく、中性線欠相保護付きのブレーカです。漏電ではなく、中性線欠相による線間電圧異常で動 作します。表示ボタンも中性線欠相時の異常電圧で突出します。中性線欠相を改修しなければ、再投入は できません。強引にブレーカ投入操作を行うと、電気品に異常電圧をかける場合があります。矢印の白色 リード線が欠相検出用のリード線で、ブレーカ出側の中性相母線(対地電圧 0V)に接続されています。分 解可能なブスである場合は、それ以上は分解できない末端部が正常な接続位置です。 左:ブレーカ全体配置 中:親ブレーカ(中性相欠相保護)右: 子ブレーカ(配線用 ELB) 一目見ただけではわかりにくい、さまざまな形のブレーカがあります。混同を防止するためには、親ブ レーカの横に「ELB ではない」等の表示をつけておくと安全です。親ブレーカの漏電動作による停電は無 いので、次節の 3-2-1 の「一次送り」の配線は不要です。左図でも一次送りブレーカが取り付けられる個所 は空になっています。分岐ブレーカ上段の動作禁止用の赤キャップが付いているところが非常灯等の回路 です。当然ですが、ELB は使用されていません。 ※ 中性相欠相時の現象 中性線欠相が生じると、電灯 100V 配線の線間電圧は不安定になり、最大 200V までになり、接続され します。単相 3 線式は右図のように、電源変圧器の単相 200V の中 点を強制的に接地して作られます。中性線が健全な場合は V1 と V2 200V R2 100V この現象は電灯 100V に単相 3 線式が使用されているために発生 電源変圧器 V1= は接地効果により、共に 100V ですが、中性線が断線(欠相)する と、負荷の抵抗分である R1 と R2 で分圧された電圧になります。 V2 します。 R1 100V 保護付きブレーカは線間電圧が概 135V 以上になると「OFF」動作 V1 た電気品によっては絶縁破壊による損傷等が生じます。中性線欠相 R1 × 200 R1+ R2 B種 接 地 R1>>R2 の場合、V1≒200V になります。R1≒R2 の場合は欠相しても 100V 近くが維持できると考えら れますが、不要な設備も点灯したままにする必要がある等の対策が必要となり、実用上困難です。 ※欠相の原因には、ケーブル断線、ボルト緩み、工事後の忘れ等、漏電同様に思いもかけない多数のもの があります。古い設備が混在していて、写真右のナイフスイッチが残っている場合は、歯 受けの緩み、中性相ヒューズの緩み・劣化断線で中性線欠相が多発していました。このた めに、中性線はヒューズではなく、断線のない銅線が多用されるなどの対策も取られてい ました。当時は、中性線欠相が生じても電球が切れる程度の事故でしたが、最近は待ち受 け状態の電子基板が焼損する等の大きな損害が発生します。ブレーカに更新することが安 全です。現在、内線規程 1375-2 により、単相三線式に使用する ELB は中性線欠相保護付 きとするようになっています。 ※ 中性相欠相と漏電が同時に発生すると、非常に大きな事故になることがあります。 例として、ナイフスイッチの爪付きヒューズの中性相ネジ緩みによる 2 00 V R1 右図のように、中性線が欠相(断線)した状態で、漏電により片線が接地 1 00 V 欠相、屋上分電盤の雨漏れによる漏電が同時に発生した場合を示します。 干の電圧異常が発生していたとは考えられますが、漏電の発生により最 電源変圧器 大電圧がかかったと考えられます。この事例では、漏電していない異常電 圧がかかったと考えられる回路側で、タイムカード、コンピュータ等の電 R2 ある 200V になった恐れがあります。漏電発生までも中性相欠相による若 1 00 V 状態となり、漏電していない側の対地電圧は電源変圧器の全発生電圧で 漏電 B種 接 地 子回路使用の設備がほぼ全数破損となっています。 100V の片側のみを使用する単相 2 線式とすれば、中性線欠相でも線間電圧は 100V が保たれますが、対 地電圧は 100V 以上になる恐れがあり、電子基板等では絶縁破壊する恐れがあります。電源変圧器の利用 率、配線損失等により不経済な方法です。単相 3 線式の電灯回路では、機器の端子間にかかる線間電圧と、 端子と大地間にかかる対地電圧は中性相が健全な場合は共に 100V ですが、中性相欠相事故の場合には 200V までの間で変化することを知っておくことが重要です。生活環境での 100V 配電は、200V 配電に比 べて安全なシステムですが、中性相が健全であることが絶対条件です。 200V 機器(動力 200V、照明単相 200V)は相間電圧 200V なので、この問題は発生しません。しかしな がら 1 線が喪失のまま運用すると、電動機等では欠相運転と呼ばれる故障大電流による電動機焼損等の事 故が発生します。ブレーカでは三相同時遮断になるので、この事故は発生しません。三相 200V の場合も 残存しているナイフスイッチはブレーカに更新することが安全です。 ・親ブレーカが省略されている場合 もっとも困るのが、親(受電)ブレーカがない分電盤です。下写真の左がその例で、端子台で直接接続さ れています。経費節減のための簡略化によると考えられます。分電盤からの設備が停電した場合は、電源 部(キュービクル配電盤等)のブレーカを探し出す必要があります。 受電ブレーカがないための事故も発生します。下写真の右は事故例です。分電盤受電のまま内部改修を 行い、母線短絡をさせたための大電流により盤内が焼損したものです。この写真は、二次側の応急修理を 行った後のものですが、事故の激しさはわかります。受電端子一次側ケーブルが発火しなかったので、キ ュービクルまでの延焼がなかったのが、不幸中の幸いでした。受電ブレーカがあれば、ブレーカのトリッ プでのみで終わっています。過電流、中性線欠相、漏電の保護を含めて、事故は絶対にないと過信するの ではなく、受電ブレーカを設置することが安全のために必要です。 ※親ブレーカ、子ブレーカ共に ELB が使用されていない電灯分電盤もあります。頻繁な停電は操業に悪影 響を与えるという理由のようですが、同様に不安全な設備です。 「分岐」盤として設置された後、ブレーカ が増設されて分電盤同様になっていることがあります。注意が必要です。 3.ELB の取扱い ELB は本体内に電気的な漏電検出機能を持つため、配線用ブレーカにはない注意点があります。安全に 使用するためには、取扱いの概要を知っておくことが有効です。 3-1.動作試験 3-1-1 手動(テストボタン)での動作試験 実使用(受電)状態で本体表面のテストボタン(一般的には赤又は灰色ボタン)を押すと実働での「OFF」 の試験ができます。負荷側が停電してもよい状態での試験になります。テストボタンは軽く・短く推すこ とが必要です。模擬電流を流すスイッチなので、強く押しても効果はありません。テストボタンを押しつ けたままにすると、本体が焼損することがあります。テストボタンを押した状態で「OFF」にならないと、 制御装置が通電状態のままとなり、過熱するためです。 テストボタンの色と位置は前述したように各種のものがあります。必ず日本語の表示があるので、ボタ ンの近くに「テスト」等と書いてあることを確認することが必要です。1 か月に 1 回程度の試験がメーカ 推奨ですが、ほとんど実施されていないのが現状です。 3-1-2 試験機による試験 手動試験は、検出部に既定の模擬電流を流して動作するかしないかの試験です。漏電していないはずな のに、動作しているのではないか?等の疑問がある場合は専用の試験機による特性試験が必要です。ELB が古くなると必ず発生する疑問です。 ELB が正常であるかは、試験機を使用すると判定することができま す。動作電流と動作時間を測定することができるもの、動作時間のみ の測定ができるものなど、各種のものがあります。右図は受電状態で、 全自動で動作電流と時間を測定して、ELB の良否を判定する試験機で す。15mA、30mA、50mA、100mA、200mA、500mA が設定できま す。電池式なので黒プローブを電源側、赤プローブを負荷側に当てることで全ての試験が終了します。試 験により負荷側が停電することは、手動試験と同様です。 3-1-3 試験時の注意点 ELB 試験は、電圧と電流の 2 要素が必用な試験です。前節の試験は、電源側に定格電圧があることで電 圧要素を確立しています。電流要素は、手動では ELB 本体の ZCT に組み込まれた試験線で、試験機では 主配線に模擬電流を流すことで行います。ELB が停電した状態で実施する場合は、電源側を解線して常用 電圧を印可しなければならないので、補助電源機能を持つ試験機を使用します。 現場試験では、ELB の機械的な劣化が大きいと、電気的(制御装置)又は機械的 (ラッチ機能)の動作不良で主接点が開放不能になり、本体が焼損することがあり ます。右図は動力用 ELB の試験機による試験で、不良判定が出た後に発煙し、そ のまま焼損した例です。下部の黒い箱の部分(制御装置)の黒化とその上の主接点 にアークの跡が認められます。制御装置故障であっても、主接点まで故障する例 が多いようです。手動試験でも、試験ボタンを押して動作しなかったあと、数分後 に焼損する事例があります。押釦から電撃を受けた、火炎噴出で驚いて点検台を踏 み外して転倒しケガをするなどの二次災害の例があります。 私は、試験を行うときは火炎噴出に備えて、斜め前に立つことにしています。手動試験での試験ボタン を押しても動作しない場合を含めて、試験で動作しない場合はレバーによる手動での機械的な「OFF」操 作をすることが安全です。 3-2.ELB の設置方法および選定 3-2-1 二次側接続設備の最適化(一次送り) 前述したように、ELB はサーバ用無停電電源などの正常動作を漏電と判断して動作し、分電盤を停電さ せることがあります。ELB 二次回路は、漏電が発生した場合に速やかに遮断して安全を確保しないといけ ない機器を接続するための電源です。誤動作による停電は安全側として許容されると考えられます。サー バ専用回路のように人間が触れることがなく、ELB の誤動作を誘発する特性を持ち、停電での障害が大き い機器が接続される回路を接続することは不適です。火災報知器、誘導灯等など漏電時でも最後まで機能 を維持することが必要な設備はサーバ用も含めて、ELB 二次(出側)ではなく、一次(入側)から電源を 引き出す、一次送りとしておくことが安全です。 サーバ運用の面からも、他の回路(例えば炊事場コンセント)と並列に接続することで、サーバの不要 の停電が多発することがあります。炊事場用コンセント とサーバが並列になっているためにサーバ停電が多発 した例を右図に示します。炊事場ポットからの漏水→壁 コンセントの水濡れ→漏電→ELB 動作で分電盤全停電 →サーバ停電が多発しました。絶縁劣化した機器が接続 された場合、天井裏ファンコイルなどが結露した場合な ども ELB は動作します。サーバの新増設等で電源増設 が必要となり、空いているブレーカから安易に電源が引 ポット 漏電 停 電 BE B B B B B B B B B B B B B B B B 水漏れ コンセント 炊事場 パソコン室 き出され、このような配線になったと考えられます。 ELB の一次送りには、ブレーカを別の場所に取り付ける方法(A)と B 子ブレーカの一部の配線を変更する方法(B)とがあります。概要を右図 BE に示します。 (B)は配線がわかりにくいことが多いので注意が必要です。 A B B B B の目的での使用はできないようにしておくことが必要です。例えば予備 B B のコンセント口はつけない等の対策が有効です。 B B B B B B B B B B いずれの場合も漏電に対する保護は無くなるので、専用電源として、他 ※ 2-2-3 の親ブレーカが ELB ではない場合は、一次送りの概念は不要 です。サーバ等が接続される、漏電による遮断が必要でない回路、又は 誘導灯等の保安回路には ELB ではないブレーカを使用することで対応 B されています。 3-2-2 逆接続 ブレーカは原則として上(一次)側が電源、下(二次)側が負荷ですが、分電盤の スペースの関係等で反対位置となっていることがあります。ブレーカの下側が電源、 上側が負荷となる、逆接続と呼ばれる配置です。逆接続はブレーカ動作時に制御電源 切の機能をもつ「逆接続可」の表示がある物を使用する必要があります。右図がその 例です。テストボタンの下に「逆接続可能」の表記があります。 下図に逆接続使用具体的な例を示します。左側が単線結線図、右側が実際の例です。 単線結線図では面倒な接続のように見えますが、実際の配線では、すっきりとして電線も節約されたもの になります。 電源 上 上 BE BE 下 電源 下 B B B B B B B B B B B B B B B 通常接続 B 逆接続 逆接続可でない ELB を逆接続に使用した場合、漏電発生により ELB が焼損することがあります。漏電 保護動作を行うための制御電源を下側(一般的な二次側)からとっているためです。通常の接続では、動 作すると下側である制御電源も停電しますが、逆接続では、ブレーカ動作の場合も充電されたままとなり ます。このために制御回路が過熱しての焼損が発生します。 右図は逆接続可能形でないブレーカ表面にある、制御回路説明の表示例です。漏電 検知器動作又は試験ボタンでトリップコイル(TC)に電圧がかかり、ブレーカの機 械部分を駆動して OFF になることがわかります。漏電が発生しても機械的不具合で ブレーカ動作がないと、TC は電圧がかかったままになり、過熱焼損になります。こ のブレーカでは、逆接続はできません。 逆接続では、ブレーカ切位置でも下側は充電のままです。ブレーカを切ると、ブレ ーカの下側は停電していると思いこむことが多く、絶縁測定等の作業時に危険が生じます。作業安全のた めには、逆接続は避けるほうが安全です。 3-2-3 設定値の選定・高調波対策等 ・ELB 設定(動作電流・時延)設の選定 ELB の一般的な動作電流設定(感度)は、15、30、 (50) 、100、200、500mA があります。JIS 規格的 では、これ以外にも各種の感度がありますが、通常はほとんど見かけません。ELB には感電防止用と幹線 保護用があります。家庭では感電保護用の 15mA(浴室等の水濡れがある場所)又は 30mA(その他)が使 用されます。事業所では漏電火災の防止、設備の保護等として幹線保護用も使用されます。幹線保護用は 設備容量、ケーブル状況、負荷特性等を考慮した設定が必要です。先に説明した事業所分電盤の受電用は 通常は幹線保護用です。動作電流設定は感電保護用では固定ですが、幹線保護(漏電火災防止)用では下 図のように 100、200、500mA の切り替え式になっているものがあります。ドライバ等で現場での切り替 えが可能です。写真では、いずれも最小値の 100mA に設定されています。右端の写真の青矢印のように、 「時延」の数値が調整できるものもあります。 ※ ELB の設定値の根拠としては感電した場合の、人体通過電流に対する安全限界の考えがあります。資 料を末尾の参考資料にご紹介します。 時延は ELB に流れる漏電電流が動作感度以上になってから「OFF」動作するまでの動作時間の設定で す。感電保護用は高速型(0.1 秒以内固定) 、幹線保護用には時延型(一般的には 0.3 秒又は 0.8 秒の固定 又は可変)となっています。時延の設定は、複数の ELB が直列に接続されている場合に、停電範囲を限定 させる場合に有効です。 右図のように、電流設定は受電 ELB が 200mA、分岐 ELB が 30mA で差があっても、動作時間は同じく高速型の場合を考えま す。200mA 以上の漏電電流が発生した場合、受電用、分岐用とも に同時に「OFF」動作に入ります。受電用が早く動作する場合も発 生し、分岐用 ELB が設置されているにも関わらず、分電盤の全停 200mA 0.1s( 高 速 型 ) 変更 0.3s( 時 延 型 ) 電となります。漏電電流の変動は 4-2-3.設備運用状態との比較検 討例の記録例にも示しますが、瞬時に発生することがよくありま す。200mA 感度の ELB の最少動作電流は 100mA であるため、 100mA 以上の漏電電流から発生する恐れがあります。分岐用 ELB を活用して停電範囲を限定するためには時延の調整が必要です。 30mA 0.1s( 高 速 型 ) 漏電 この場合は受電用を高速型ではなく時延型 0.3s にすれば、受電 用の不動作時間 0.15s より前に分岐用 0.1s が動作して分電盤の全停電は発生しなくなります。電源に対し て並列であっても、もらい動作予防のためには、時延の協調がとられるよう、適切な組合せを行う必要が あります。受電用に時延型を使用する場合には、感電の危険性がある回路には感電防止用の高速型の分岐 用 ELB の設置が必要になります。 ※ 時延設定の調整は保護協調曲線によれば、わかりやすくなります。末尾の資料 2 にご紹介します。 ・高調波対策等 動力設備ではインバータの動作で、漏電電流が見かけ上、実際より大きく検出されることがあります。 このために漏電していないのに、ELB が動作することがあります。インバートのスイッチング動作により 発生する高調波で、配線ケーブルの静電容量等に流れる電流が検出されるためです。ELB の漏電検出部に フィルタ等の対策が取られている、 「高調波対応型」と表示されている ELB を使用すると不要の停電がな くなります。生産設備を NC 機器に更新したが電源設備は旧来のまま使用している、場合等にはよく発生 します。生産設備の更新に併せて、電源設備の見直しも必要です。 同じく、「衝撃波不動作型」があります。スイッチを入れた時の起動電流が大きい場合等に使用します。 最近のものはほとんど対応済みです。雷がなった場合に動作する、スイッチを入れたとたんに動作する場 合等は取替の検討が必要です。 3-3.ELB 使用設備の接地 ELB は、設備の絶縁不良を直接検出するものではなく、絶縁不良により発生した零相電流と呼ばれる電 流成分を検出して動作します。安定動作のためには、電源を供給している設備に最適な接地(アース)が 取られていることが必須条件になります。接地の状態により誤動作、誤不動作が発生します。 3-3-1.共通接地による誤動作 最近、電灯回路に多く発生が見られるようになったもらい動作と呼ばれている誤動作の現象です。他の 設備の大きな漏電故障に伴って偶発的に発生します。容量(キャパシタンス)の大きな設備等が多くなっ ていることが、要因の一つとして考えられます。もっとも可能性の高い、ELB でないブレーカ(MCCB) に接続された設備の漏電での ELB の誤動作の現象例を示します。 ①MCCB の負荷設備で漏電発生 ②ELB ではないため大きな漏電電流が流れ続ける ③接地抵抗に流れる電流で接地母線の電位 MCCB が上がり、それぞれの負荷設備の対地電位が ELB 漏電電流 上がる 誘導電流 ④設備 2 の対地静電容量により対地間に漏 電電流が流れる ⑤この電流は ELB を通過する ELB動 作 設備1 設備2 絶縁不良による漏電電流ではありませんが、 分別ができないため、電流値が感度以上とな れば、漏電と判断されて ELB が動作します。 漏電 電位上昇 漏電電流 電位上昇 対地静電容量 ELB 機能としては正常ですが、運用上では 誤動作になります。 漏電電流 負荷設備 1 のブレーカが ELB である場合 誘導電流 D種 接地抵抗 も漏電感度の違いにより、発生することがあ ります。ELB が動作した回路のみでなく、他 の回路でも不具合が無いかの確認が必要です。4-2-2 で後述する絶縁監視装置が設置されている場合は、全 数の変圧器の漏電記録を確認し、設備全体としての運用状態を把握することが必要です。 もらい動作を防止する方法として、D 種接地 の分離があります。ELB 使用設備の接地を右図 ELBでない設備 ELB使用設備 のように、ELB 専用接地極にとる方法です。 ELB でない設備での漏電が発生しても、 ELB 用 漏電 電位上昇 電位上昇なし 接地極には電流が流れず、電位上昇はなく、対 漏電電流 対地静電容量 地電流は流れません。 最近の設備、特に医療用設備では ELB 専用 の D 種接地極が設置されているものが増えてい 漏電電流 D種 接地抵抗 ELB専 用 D種 接地抵抗 ます。写真下の左は、ELB 用(黒→)と、他機 器用(緑→)の二つの接地極がある一般的な接 地極の例です。中は、より安全なために雷撃時の電位差防止のための避雷器(SPD)がある例です。分電 盤盤での D 種接地端子も ELB 用途他機器用の2本のブスに分離されています。ブレーカ増設等の場合に、 間違えた接地線接続をしないように注意することが必要です。 もらい動作には、D 種接地の影響の他に、変圧器の B 種接地による電位上昇も考える必要がある場合が あります。同様に近隣で落雷があった場合には、接地系の大きな電位上昇で、複数の ELB が同時に誤動作 することがあります。B 種、D 種接地抵抗等の、接地系最適化が重要です。 3-3-2.外箱等の接地不良による誤不動作(仮設工事等) 分電盤に ELB が使用されているのにビリっときたという現象の原 電源 因の一つです。ELB が電源である使用設備であっても、外箱等の接地 が取られていないと、絶縁不良で設備の電位は上がりますが、接地線 →D 種接地→B 種接地→電源への電流経路がないため、ELB を動作さ せるだけの漏電電流が流れません。接触電位の上昇という現象が生じ B種接地 D種接地 たままになります。人が外箱に触れ、大地との間に電流通路ができ、 「感電」したための電流が流れて初めて動作します。ELB の設定が適 正であると、重大災害となる前に遮断ができますが、予防の面からは ELB 接地端子 不適です。右図に、分電盤の接地極が D 種の接地母線に接続されてい ない例を示します。使用設備の外箱等に、接地極からの接地線が正常 漏電 に取り付けられていても、接地母線に接続されていないために、外箱 に設置が取られていない状態になります。この状態でも ELB のテス 電位上昇 トボタンによる試験は良好です。ELB のテストボタンは 3-2-2 に示すように、本体内部での模擬試験電流 による動作をさせるためです。ELB が安全に動作するかは、接地系統を含めたシステムとして考えること が必要です。 工事等で仮設分電盤を使用する場合に、接地母線への接続不良が生じやすくなります。例として、仮設 プレハブの分電盤があります。プレハブ本体がブロックなどで大地から絶縁された状態では、設備の絶縁 不良部がプレハブに接触すると、ELB は動作できず、プレハブに触った人が感電する事態にもなります。 分電盤の接地極が良好であることの確認は接地抵抗の測定が最良ですが、接地測定のための補助極が得ら れない場合、本体設備の停電ができない場合などの応急的対策として、次のような方法を提案しています。 ・ELB 実動作による方法 使用状態での ELB 二次極性側と接地極間に試験電流を流し、ELB の実働試験を行う方法です。設定電 流で ELB が動作すれば、ELB が良好であることと同時に、接地極が接地母線につながっていることが確 認できます。試験電流を流すためには、3-1-2 で示す試験機の使用、模擬抵抗の使用などがあります。極性 と接地間に実電流を流すため、上流側に設定の近い ELB があれば不要動作を行う恐れがあります。 ・模擬信号を使用する方法 中性線と接地極間を短絡させて、4-2-1 c)に示す活線漏電点標定器等により B 種接地線に試験信号を印加 した状態で、短絡線の探査を行う方法です。接地極が D 種接地母線に接続されていると、試験信号が短絡 線に流れて、探査機が反応します。数値としての結果は出ませんが、多数の盤の接地極を調査する場合は 有効です。 3-3-3.非接地系 低圧の配電系統には、発変電所等の技術員が常駐している場所で使用される非接地系と呼ばれる、変圧 器の B 種接地を行わない方式があります。機器の安全のために、絶縁不良が発生しても漏電電流が流れに くくしているためです。ELB 動作等(地絡過電流)での絶縁不良検出はできないため、地絡により発生す る電圧異常(地絡過電圧)を検出する装置が使用されます。非接地系は発変電所のみでなく、爆発性粉体 がある環境等で絶縁変圧器を使用する場合にも使用されます。 変圧器二次側は必ず一線に B 種の接地が取られているものではなく、接地がない場合にはどのようにな るかを理解しておくことは、安全作業のために役立ちます。私が非接地系の事業所で勤務していたころ、 街工事(接地系工事)を専門で行っている工事店は、中性線が設置されていると信じ込んでいるのであぶ ない、というのが先輩から受けたアドバイスでした。 非接地系では各相の対地電圧は、各相配線の対地キャパシタンス配分で発生するため、各相共に対地電 圧が発生します。いずれかの相の対地電圧が極度に小さい場合は、その相の絶縁が劣化している(劣化部 により接地されている)可能性が大となります。3-2-3 での中性相欠相で漏電が発生した場合と同様の状 態と考えればわかりやすくなります。 ※ 接地システム 接地には系統接地と機器接地があります。系統接地は高圧低圧の混触による低圧回路の電圧上昇防止を 防止するための接地です。国内では B 種として、混触時に低圧系統が 150V 以上にならないような抵抗値 で接地されています。高圧配電線の 1 線地絡電流が 2A~3A になるように系統切り分けが行われているの で、電気設備技術基準により、B 接地抵抗は 75Ω(150÷3)~50Ω(150÷3)以下が一般的です。機器接 地は、機器本体の外箱等が低圧回路の絶縁不良による異常電圧になることを防止するための接地です。D 種又は C 主として、同じく技術基準により使用電圧により 100Ω又は 10Ω以下で接地されています。 系統接地と機器接地の組み合わせは大きく分けて、系統接地と機器接地が別に取られている場合(TT 接 地系) 、系統接地がなく機器接地のみが取られている場合(IT 接地系) 、系統接地と機器接地が同一である 場合(TN 接地系)の三種類に分けられています。3-3-1 と 3-3-2 は TT 接地系での現象です。3-3-3 の非接 地系統は IT 接地系です。他に国外で使用される系統接地と機器接地が共用される TN 接地系があります。 低圧部での漏電検出装置としては、それぞれの低圧絶縁の劣化により生じる現象が異なるので、TT 接地 系で ELB、IT 接地系で OVGR、TN 接地系で OCR が漏電検出に使用されます。TN 接地系(国内ではほ とんどない)では漏電時に大電流が流れるので、漏電が電力量の増加としても現れると考えられます。 小容量の受電キュービクルでは A・D 種と B 種の接地極で、下左図の矢印のように「ワタリ」があり、 系統接地である B 種接地線と機器接地である D 種接地線が結合されていることがよくあります。実質的に は TN 接地系に近いと状態です。接地抵抗の絶対値としては基準を満足していますが、良い方法ではない と考えられます。最近の設備では、下右図のように、B 種と A・D 種とは接地極も含めて区分されていま す。ELB 用 D 種接地が分離している場合を併せて、接地の違いにより、ELB の動作にも差が出ることに 留意が必要です。 等電位ボンディング 接地が法規(電気設備技術基準)の適正な場合であっても、漏電時には電撃を感じることがあります。 小さな電撃も防止するためには、人が触れる可能性のある金属部を同一電位にする、等電位ボンディング と呼ばれる対策を行う必要があります。 4.漏電調査 漏電原因である絶縁不良個所の調査には、停電しての直接の絶縁測定と、停電しない(使用中のままで の)での漏れ電流等による間接測定があります。停電は操業等に支障を及ぼすため、漏電の疑いがある場 合には、間接測定が優先されるようになっています。 4-1.停電しての絶縁抵抗測定 絶縁抵抗測定器(メガ)による直接測定です。絶縁抵抗をメグオーム(MΩ)単位で測定して絶縁不良を 検出します。メガは、使用交流電圧に適合した直流電圧を発生させて抵抗を測定する測定器です。JIS では 運用中の低圧設備については、電灯 100V は DC125V で測定して 0.1MΩ以上、動力 200V は DC250V で 0.2MΩ以上で良好と規定されています。 下図左、中に低圧用メガの例を示します。左はアナログ表示(25-50-125-250V 切替) 、中はデジタル表 示(50-125-250-500V 切替)型です。プローブはいずれも、分電盤用の細いものを装着しています。右端 は絶縁抵抗測定ができると勘違いされることの多いテスタです。テスタでの抵抗測定は内部電池の電圧を そのまま使用するため、絶縁抵抗の測定としては不適です。 単電圧ではなく、測定電圧を切替できる型が主流となっています。メガも低い電圧まで対応可能なもの になってきています。現場分電盤より負荷側の絶縁不良個所特定には、JIS 規定電圧の半分程度の電圧で の測定が安全です。100V 部分を 50V で測定しても、絶縁不良があれば間違いなく検出ができます。最近 は半導体等使用の設備が多く、必要以上の電圧で測定すると、絶縁破壊を起こすことがあります。測定時 に測定器を ON 位置としたまま、プローブを接触させる、又は離すとサージによる異常電圧がかかること があるともされています。測定器 OFF 位置として内部抵抗による放電終了後にプローブを離す等の注意も 必要です。 他に、高圧用メガがあります。直流 1000V 以上を発生するため、低圧部に使用すると即座に機器の絶縁 破壊を生じます。低圧部には使用禁止です。 4-2.停電しないで行う測定 漏電の疑いがある場合などに臨時に行う方法と、自家用設備(事業所)等の電源変圧器の B 種接地線に 固定設置して、常時監視を行う方法があります。 4-2-1. 臨時に行う方法 a) クランプリークメータ mA 単位の電流を測定できるクランプリークメータを使用して、ブレーカ出のケーブル全数をクランプ して(挟み込んで) 、電流の差分を測定します。漏電していないかどうかの確認をしたい場合にも使用でき る、最も簡単な方法です。漏電電流がなければ(帰ってこない電流がなければ)、ブレーカ二次側の電流出 入りは同じで電流差は無い、漏電があれば電流差が発生するという、ELB と同じ測定原理になります。零 相電流、Io とも呼ばれる漏電分電流を測定する方法です。 場所により適した大きさのクランプメータを使用します。左図の分電盤の子ブレーカ出の例では 2 線式 であるため 2 本をクランプしています。中図のキュービクル配電盤の例では単相 3 線式であるため 3 本を 一括してクランプしています。動力用(200V)三相三線式であるために、必ず 3 本一括のクランプになり ます。右図は動力大口径ケーブル一括を専用の大口径アダプタの出力を使用して測定している例です。用 具の選定でほとんどの測定ができます。 b)漏電現象の記録 漏電現象は間欠的に発生することも多く、記録をとると原因追究に役立ちます。リーククランプメー タに記録用出力があれば、連続記録を行うことができますが、記録計と一体となった市販品を使用すれば より簡単です。最近の記録装置は USB 接続になっているので、専用ソフトをパソコンにインストールする だけで簡単に使用できます。 現場分電盤での、測定例を図に示します。大きなケー ブルが分電盤電源、細いケーブルが疑わしい設備への分 岐ケーブルです。平行して記録すると確認が容易です。 測定記録例を右図に示します。上側のグラフが電源、下 側が分岐です。分岐部に間欠的な漏電があることがわか ります。この場合は、接続されている機器に劣化があり、 間欠的に運用されていると考えられます。 変圧器の B 種接地線に取り付けると、その変圧器に接続されている設備全体による漏電量の記録ができ ます。記録例を 4-3 に紹介します。 c)活線漏電点標定器 前述の測定が、配線が複雑などで適用できない場合、又は多数の点数を短時間に行う場合は活線漏電点 標定器の使用が有効です。後述する固定式絶縁監視装置の Igr 方式と同じ原理による測定です。信号発生 器で B 種接地線等に基準信号を注入して、漏電点へ向かって流れる信号を専用検出器で探査します。写真 左が測定器全体で、信号発生器、注入トランス、検出器です。写真中が B 種接地線に信号を注入している ところ、写真右がケーブルを探査しているところです。 クランプメータでは検出されない、中性相の絶縁不良にも対応します。前述したニュートラルスイッチ 式の場合も対応可能です。しかしながら、絶対値での測定結果表示はできないので、発信機の出力、検出 器の感度等の調整に、 「感」と「経験」が最も必要とされる調査です。100mA 程度以上の漏電電流が流れ る絶縁不良でなければ判定が困難です。信号発生器は分電盤の取付けもできます。 ※ 接地されている中性相は、対地電圧が 0 であるため、絶縁劣化しても対地間には電流は流れません。41 の絶縁測定を行う場合にも、絶縁監視装置が付いている場合は、必ず中性相の測定を行う必要があり ます。中性相以外の劣化は B 種接地線の Io 増加につながり、絶縁監視装置で検出できますが、中性相 の場合には変化しない為です。中性相のみが劣化している場合には、現状では漏電は発生しませんが、 他の相の絶縁が劣化する恐れが極めて大きい状態であると考えられます。 4-2-2.常時監視を行う方法(高圧需要家の場合) 高圧自家用電気設備は 6.6kV を構内キュービクルで変圧器により電灯 100V と動力 200V に変成してい ます。変圧器二次側(低圧側)は 1 線が中性相として B 種接地されています。絶縁不良での漏電が発生す ると、漏電電流は大地等を通じて B 種接地線に帰ってきます。変圧器の B 種接地線(緑色の線)の電流を 監視することで、変圧器単位での低圧側絶縁不良を推定することができます。 a) 絶縁監視装置 変圧器 B 種接地線に流れる漏電成分電流の変動により低圧部の絶縁状態を推測する 装置です。電気事業法により、自家用設備の保安管理を外部委託している場合は、月次 点検頻度を 1 回/1 月から 1 回/2 月に変更する要件ともなっています。変圧器方式、負 荷設備の状況により Io 方式、Ior 方式、Igr 方式と呼ばれるものが選定されています。 Io 方式は漏れ電流成分の全体を測定するもの、Ior 方式は配線ケーブルのキャパシタ ンスの影響を演算により除去するもの、Igr 方式は B 種接地線に模擬信号を挿入して 中性相を含む絶縁不良検出するものです。 図の黄色丸印右側が B 種接地線取付けられている漏電成分電流検出部 (CT)です。CT は絶縁監視用(後付け)と、次に記述する漏電火災警報 器用(左側、固定)が並んで取り付けられていることがあります。警報は一 般的に 50mA(漏電)と 200mA(高漏電)の 2 段になっており、発生時に は管理技術者等に伝送されます。記録が残るので、3-2-1 のもらい事故の確 認にも役立ちます。絶縁監視装置は後付けであるため、電源は予備ブレー カからとるか、他の電源からの分岐となっています。 絶縁監視装置では検出されない漏電現象もあるので注意が必要です。分電盤等での ELB の正常動作があ った場合は、絶縁監視装置での警報発生前に漏電現象がなくなり、警報発生が無い事があります。設備に 「絶縁変圧器」が使用されていると、負荷側に絶縁不良が生じても B 種接地線には漏電電流は帰ってこな いので、漏電としては検出されません。絶縁変圧器二次側は、前述した非接地系になっているためです。 絶縁監視装置は絶縁そのものを監視しているのではなく、絶縁不良による変圧器 B 種接地線に流れる電流 の変動を監視していることを理解しておくことが、事故発生時の原因解明のためには必要です。 右図はネオンサイン設備で、絶縁変圧器で高圧に昇圧された高圧ネオンケ ーブルが建物に触れてショート焼損したものです。ケーブルの絶縁被覆が損 傷して芯線が建物金属に触れても漏電はほとんど発生しません。もう一方の ケーブルが損傷した時に短絡したと考えられます。同様に接地系の一部が非 接地系となっている例としては、より安全な低い電圧に変換されて使用され ているプール用照明等があります。 b) 漏電火災警報器(LGR) 原理的には絶縁監視装置と同じですが、消防法による漏電災害防止の装置 です。キュービクル製造時に取り付けられるので、検出部(CT)は固定とな っています。警報設定は 100mA 以上の可変設定となっているものが一般的 です。右例では設定値は 100、200、400、600mA になっています。インバ ータ等の高調波の影響を受けやすいので、負荷設備の状態を見て余裕のある 設定にすることが必要です。古い設備では、ごくまれに経費節減のために、 複数の変圧器の B 種接地線を 1 台の LGR で監視しているものがあります。 警報を他所に伝送する無電圧接点が、一般的には別置された端子台に引き出されています。結線されて いる場合は事務所等に設置されている警報盤等に表示されますが、ほとんどは結線されていません。キュ ービクル、電気室現場等で動作(鳴動、表示灯点灯)を確認することになります。受電設備建設時からの保 安設備であるために電源はキュービクル等の内部(専用ブレーカ)で取られています。また、ワタリとし て他に電源を供給することもありません。 4-2-3.設備運用状態との比較検討(漏電記録の例) 漏電にもいろいろなパターンがあります。漏電値の大きさ、発生・復帰時刻等の状態を把握し、設備の 運用状態と比較検討することでも絶縁不良個所の推定ができます。ここでは変圧器の B 種接地線を 4-2-1 bに示した記録計により作成した例を示します。 ・ホール天井電灯回路の不良の例 ELB が入っていない電灯 100V 回路での漏電例です。最高値は 600mA です。朝夕の玄関天井灯の入り 切りと一致しました。日中は(どこかで)スイッチが切れているため判定不良でした。天井灯回路の不良 と判断できたので、場所特定での点検で不良が見つかりました。人が触れない場所であっても、ELB を設 置すれば安全です。 ・充電器不良?の例 動力 200V 回路での連続漏電例です。終業後漏電現象が発生し、始業時に終了しています。最高値は約 12A、その後時間とともに下がりました。フォークリフトのバッテリー充電時間と一致しました。このよう に夜間に発生する場合は記録が重要です。機器特性であり、絶縁不良ではない可能性もありまが、漏電と 同様に大地を帰路とする電流であることは間違いありません。建物鉄骨が帰路となり、接合部の電気抵抗 による過熱が発生し、火災の原因ともなることもあります。 停電しての絶縁測定時には、充電コンセントのプラグが外されていたためか、まったく異常はありませ んでした。詳細原因はわかりませんでしたが、フォークリフトの点検後、漏電現象は消滅しました。 ・クレーン不良の例 動力 200V 回路での簡潔漏電例です。クレーン運転と同時に秒間隔での 1A 程度の漏電が頻発しました。 巻き上げモータの不良が発見されました。短い時間ですが、感電墜落事故等の人的災害を引き起こすには 十分な時間です。 ※ この節での測定方法は、安全対策・測定器取扱に専門知識が必要です。漏電原因は複合的です。漏電測 定も使用機器の特性を含めて、不安定な現象になることがほとんどです。一種類の測定のみではなく、 絶縁測定を含めた各種の測定を行い、結果を総合的に判定することが重要です。例えば、絶縁抵抗ゼロ でも漏電電流は流れない等、不思議な現象が日常的に存在します。実施については工事店殿、電気管理 技術者等の専門家へ依頼することが安全・効果的です。 参考資料 資料 1・感電電流安全限界 「接地・等電位ボンディング設計の基礎知識」 P.16 高橋竜彦 オーム社 ISBN978-4-274-94330-0 資料 2・時延による協調 「配線用遮断器と漏電遮断器による過電流、地絡協調の考え方と保護協調曲線」 オーム 2015 年 12 月号 P.13 浜田桂伸 資料3・漏電ブレーカの構造など 日本電気技術者協会、技術講座 http://www.jeea.or.jp/course/contents/08105/
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