大学ベンチャーキャピタル(VC)の展開

PPPニュース 2016 No.2 (2016 年4月 25 日)
大学ベンチャーキャピタル(VC)の展開
2013 年9月、官民ファンドの運営に係るガイドラインが閣議決定されている。そこでは、
「日本経
済を停滞から再生へ、そして成長軌道へと定着させるため、成長戦略により、企業経営者の、そして
国民一人ひとりの自信を回復し、
「期待」を「行動」へと変えていき、澱んでいたヒト・モノ・カネ
を一気に動かしていく。大胆な新陳代謝や新たな起業を促し、研究開発を加速し、地域のリソースを
活用し、農林水産業を成長産業にし、日本の産業と企業のグローバル化を促進し、社会資本整備等に
民間の資金や知恵を導入する。これらの施策を推進するために、財政健全化、民業補完に配意しつつ、
官民ファンドが効果的に活用されることが期待されている。
」としている。この官民ファンド活用の
ひとつとして、国立大学法人が一定の要件を満たしたベンチャーキャピタル等への出資を可能にする
ことで研究成果の活用を図り、大学発ベンチャーを効果的に支援することを可能にする制度が行われ
ている。具体的には、国立大学法人等による出資範囲の拡大措置であり開発を推進するとし、2012
年度補正予算でベンチャーキャピタル等への出資原資として官民連携の実績が顕著である4大学に
1,000 億円の国からの出資が行われている。国立大学が、世界最高水準の独創的な研究開発に挑戦し、
その成果を新産業の創出までつなげ日本社会の発展に寄与することを目的とし、国からの出資額は東
北大学 125 億円、東京大学 417 億円、京都大学 292 億円、大阪大学 166 億円である。
これらの大学は、投資事業開始までに①国立大学法人の申請として文部科学省・経済産業省に特定
研究成果支援事業計画の認定を申請し、財務省協議を経てベンチャーキャピタルへの出資認可を文部
科学省に行い、ベンチャーキャピタルを設立、さらに当該ベンチャーキャピタルは文部科学省・経済
産業省に投資事業有限責任組合(ファンド)認定を求め、財務省協議を経て文部科学省にファンドへ
の出資認可を経ることで投資事業が本格スタートする。すでに、大阪大学が 2015 年6月、東北大学
が 2015 年8月、京都大学が 2015 年 11 月にそれぞれファンドへの出資認可を文部科学省から得て投
資事業をスタートさせている。東京大学は、2016 年1月にベンチャーキャピタルへの出資認可を文
部科学省から得ており、今後は後半のベンチャーキャピタル自身の申請手続きを進める。先行してい
る大阪大学、東北大学の 2015 年度上期案件をみると、大阪大学は「OUVC1 号投資事業有限責任組
合」を設立し、大学からの出資額 100.1 億円(無限責任 0.1 億円、有限責任 100 億円)と民間金融機
関を中心とした民間出資 18 億円を加えた 118.1 億円のファンド総額で、大阪大学の研究成果を活用
したスタートアップ・アーリーステージ案件を投資対象の中心に置き、共同研究先企業とのジョイン
トベンチャーや地域活性化につながる中堅・中小企業等の案件に対して支援することを事業としてい
る。本投資事業では、マイクロ波化学株式会社(MWCC)に3億円の支援決定を行っている。MWCC
は、大阪大学に設置したマイクロ波化学共同研究講座の研究成果を基礎として設立された研究開発型
ベンチャー企業で、民間企業との合弁による工場の建設等を目指している。また、東北大学は、
「THVP-1 投資事業有限責任組合」を設立し、大学からの出資額 70.8 億円(無限責任 0.8 億円、有
限責任 70 億円)
と民間金融機関を中心とした民間出資 22 億円を加えた 92.8 億円のファンド総額で、
東北大学の研究に基づく技術を事業化して新産業創出に結び付けることを意図している。官民ファン
ドが民間資金の呼び水として効果的に活用されるためには、①各々の政策目的に応じた投資案件の選
定・採択が適切に行われていること、②投資実行後のモニタリングが適切に行われていること、③投
資実績が透明性を持って情報開示されており、監督官庁及び出資者たる国及び民間出資者に適時適切
に報告されていること、④成長戦略の観点から特に重視すべき、創業・ベンチャー案件への資金供給
について特段の配慮がなされていること、⑤官民ファンドが民業圧迫になっておらず、効率的に運用
されていること、等が重要であるとされている。以上の財政措置は本政策のトリガー的位置づけであ
り、他大学でも自らの資金を原資にベンチャーキャピタル等に出資することは可能である。このため、
地域の資源と地元大学の研究を融合させ、新たな地域産業を育成する選択肢となる。
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