日本経済ウォッチ (2016 年 4 月号)

2016 年 4 月 25 日
経済レポート
日本経済ウォッチ (2016 年 4 月号)
調査部 小林真一郎 藤田隼平
【目次】
1.今月のグラフ ········································································ p.1
∼製造業の想定為替レートと業績計画の関係
2.景気概況 ············································································· p.2
∼景気は横ばい圏で推移している
3.今月のトピック:高齢化と人口減少下の個人消費
·························································································· p.3∼14
(1)進む人口減少と高齢化
(2)高齢化と個人消費
(3)個人消費の行方
ご利用に際してのご留意事項を最後に記載していますので、ご参照ください。
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1.今月のグラフ ∼製造業の想定為替レートと業績計画の関係
3 月 調 査 の 日 銀 短 観 に お い て 、2016 年 度 の 企 業 の 事 業 計 画 の 集 計 値 が 初 め て 発 表 さ れ た 。こ の う
ち 経 常 利 益 は 、 大 企 業 製 造 業 で 2015 年 度 の 実 績 見 込 み − 3.5% に 対 し − 1.9% 、 大 企 業 非 製 造 業 で
同 + 11.9% に 対 し − 2.1% と 、 い ず れ も 減 益 を 見 込 む 慎 重 な 計 画 と な っ た 。 特 に 製 造 業 で は 、 海 外
経 済 減 速 の 影 響 に 加 え 、円 安 に よ る 利 益 の 押 し 上 げ 効 果 が 剥 落 す る こ と か ら 、2 年 連 続 で 減 益 と な
る 厳 し い 内 容 で あ る 。 さ ら に 、 事 業 計 画 の 前 提 と な っ て い る 想 定 為 替 レ ー ト が 1 ド ル = 117.46 円
と 、 発 表 日 の 終 値 で あ る 1 ド ル = 112.28 円 か ら 5 円 以 上 円 高 と な っ て い た こ と か ら 、 為 替 相 場 の
実勢に合わせて、いずれ経常利益は下方修正されるとみられている。
な ぜ 、想 定 為 替 レ ー ト は 実 勢 か ら か い 離 し た 水 準 に 設 定 さ れ た の だ ろ う か 。実 勢 よ り も 円 安 水 準
に 設 定 す る こ と で 、企 業 が 少 し で も 利 益 を か さ 上 げ し よ う と し た の で あ れ ば 、計 画 の 信 ぴ ょ う 性 は
低くなってしまう。
実 は 、3 月 時 点 の 想 定 為 替 レ ー ト は 、調 査 時 点 の 為 替 レ ー ト の 実 勢 よ り も 、前 年 度 の 実 績 見 込 み
に近いレートで設定さ れる傾向がある(図表 )。たとえば、今回の 3 月調査では、3 月の 平均レー
ト で あ る 1 ド ル = 113.05 円 よ り も 、 2015 年 度 の 実 績 見 込 み 値 で あ る 119.80 円 に 近 い 117.46 円 に
設 定 さ れ て い る 。翌 年 度 の 為 替 レ ー ト を 予 測 す る こ と は 実 際 に は 難 し い た め 、計 画 を 策 定 す る に あ
た っ て は 、前 年 度 の 実 績 見 込 み に 近 い 数 字 を 翌 年 度 も 想 定 す る こ と が 多 い よ う だ 。ま た 、前 年 度 中
に 為 替 の 先 物 予 約 な ど を 積 極 的 に 行 っ た た め 、前 年 度 に 近 い 水 準 で 円 転 が で き る と い う 可 能 性 も あ
る。
も っ と も 、こ う し た 実 勢 か ら の か い 離 は 、翌 年 度 計 画 が 初 め て 集 計 さ れ る 3 月 時 点 に お け る 特 徴
であり、調査が進むに つれて、想定レートは 実勢値に近付いていく 。このため、3 月時点での事業
計 画 は 、為 替 レ ー ト 変 動 の 影 響 を 受 け な い 中 立 な 立 場 か ら の 計 画 に 近 い と 考 え ら れ る 。そ の 意 味 で
は、3 月時点の事業計画は、企業の本来業務における実力を示す貴重なデータであるといえる。
(小林
図表
真一郎)
想定為替レート(3 月調査時点)
(円/ドル)
125
3月調査
120
3月平均レート
115
前年度実績見込
110
105
100
95
90
85
80
75
05
06
07
08
09
10
11
12
(注)3月平均レートは東京市場の引値の平均
(出所)日本銀行「全国企業短期経済観測調査」
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(年度)
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2.景気概況∼景気は横ばい圏で推移している
景 気 は 横 ば い 圏 で 推 移 し て い る 。最 近 発 表 さ れ た 経 済 指 標 の 結 果 も 強 弱 が 入 り 混 じ っ た
状態にあり、明確な方向感に欠ける。
まず最近の企業部門の動向からみると、3 月調査の日銀短観において、大企業の業況判
断 D I は 、製 造 業( 1 2 月 調 査 比 − 6 )、非 製 造 業( 同 − 3 )と も に 悪 化 し た 。先 行 き 判 断 も 、
製 造 業 ( 3 月 調 査 比 − 3 )、 非 製 造 業 ( 同 − 5 ) と も 悪 化 が 見 込 ま れ て お り 、 景 気 の 先 行 き
に対する企業の警戒感は徐々に強まっている。
実 際 、 製 造 業 の 生 産 活 動 は 弱 ま り つ つ あ る 。 2 月 の 鉱 工 業 生 産 は 前 月 比 − 5.2% ( 確 報
値 )と 急 減 し 、水 準 は 安 倍 政 権 が 誕 生 す る 直 前 の 2012 年 11 月 を も 下 回 り 、東 日 本 大 震 災
に よ っ て 国 内 生 産 が 急 減 し た 2011 年 4 月 以 来 の 低 さ と な っ た 。 一 部 の 自 動 車 メ ー カ ー で
の 工 場 停 止 の 影 響 が あ っ た が 、そ れ 以 外 に も ス マ ー ト フ ォ ン 関 連 部 品 の 海 外 需 要 の 落 ち 込
み な ど が 効 い て い る 。 生 産 予 測 調 査 で は 3 月 同 + 3.9% 、 4 月 同 + 5.3% と 輸 送 機 械 工 業 を
中 心 に 持 ち 直 す 計 画 と な っ て い る が 、こ の と こ ろ 計 画 の 下 振 れ 傾 向 が 続 い て お り 、実 際 に
は横ばい圏での動きが続くであろう。
実 質 輸 出 は 、 3 月 に 前 月 比 + 1.1% と 2 ヶ 月 連 続 で 増 加 し た が 、 均 し て み る と 横 ば い 圏
に あ る 。自 動 車 な ど を 中 心 に 米 国 向 け の 輸 出 は 底 堅 さ を 維 持 し て い る が 、景 気 減 速 や ス マ
ートフォン関連部品の減少により、アジア向けの輸出が低迷している。
一 方 、 2 月 の 機 械 受 注 ( 船 舶 ・ 電 力 を 除 く 民 需 ) は 前 月 比 − 9.2% と 急 減 し た が 、 こ れ
は 大 型 案 件 に よ っ て 急 増 し た 前 月 の 要 因 が は げ 落 ち た た め で あ る 。G D P 統 計 で も 設 備 投
資 の 底 堅 さ が 確 認 さ れ て お り 、こ れ ま で の 企 業 業 績 の 改 善 を 背 景 に 、今 後 も 持 ち 直 し 基 調
が維持されるであろう。
家 計 部 門 に お い て は 、 労 働 需 給 が タ イ ト な 状 況 に 変 化 は な く 、 2 月 の 失 業 率 は 3.3% と
低 水 準 に あ り 、 同 月 の 有 効 求 人 倍 率 は バ ブ ル 期 並 み の 1 . 2 8 倍 を 維 持 し て い る 。 し か し 、1
人 あ た り の 現 金 給 与 総 額 は 3 ヶ 月 連 続 で 前 年 比 横 ば い と な っ た 後 、 2 月 に 前 年 比 + 0.9%
に上昇したが、均してみると緩やかな増加にとどまっている。
こうした中で、個人消費も均してみると弱い状態が続いている。2 月家計調査の実質消
費 支 出( 二 人 以 上 世 帯 、季 節 調 整 値 )は 、天 候 不 順 の 影 響 が 剥 落 し た こ と な ど も あ っ て 前
月 比 + 1.7% ( 前 年 比 + 1.2% ) と 持 ち 直 し た が 依 然 と し て 水 準 は 低 い 。
もっとも、物価の安定は続いており、個人消費に対する下支えが期待される。2 月の消
費 者 物 価 指 数( 生 鮮 食 品 を 除 く 総 合 )は 前 年 比 横 ば い で あ る が 、い ず れ エ ネ ル ギ ー 価 格 下
落 や 円 高 に よ る 輸 入 物 価 下 落 の 影 響 に よ っ て 、再 び 前 年 比 で マ イ ナ ス に 転 じ る 可 能 性 が 高
い。
今 後 は 熊 本 地 震 に よ る マ イ ナ ス 効 果 が 心 配 さ れ る 。早 期 に 補 正 予 算 が 組 ま れ 、い ず れ 復
旧・復 興 需 要 が 出 て く る と 期 待 さ れ る も の の 、短 期 的 に は 、① 九 州 で の 生 産 活 動 の 停 止 ・
復 旧 の 遅 れ が 、サ プ ラ イ チ ェ ー ン を 通 じ て 全 国 に 波 及 す る 可 能 性 が あ る 、② 消 費 者 マ イ ン
ド が 悪 化 し 、九 州 を 中 心 に 自 粛 ム ー ド が 高 ま る 可 能 性 が あ る な ど 、マ イ ナ ス の 影 響 が 広 が
る 懸 念 が あ る 。海 外 景 気 の 先 行 き に 対 す る 一 時 の 悲 観 的 な ム ー ド は 後 退 し つ つ あ る が 回 復
の 動 き が 鈍 い ま ま で あ れ ば 、熊 本 地 震 の 影 響 も 加 わ っ て 、景 気 の 横 ば い 圏 で の 動 き が 長 期
化する可能性がある。
(小林
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真一郎)
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3.今月のトピック:高齢化と人口減少下の個人消費
(1)進む人口減少と高齢化
2015 年の総務省「国勢調査」によると、日本の総人口は調査開始以降初めて減少に転じた。国立社会
保障・人口問題研究所(以下、
「社人研」)の「日本の将来推計人口(2012 年 1 月推計)」と合わせて見る
と、総人口は 2010 年をピークに減少傾向に転じており、足元で減少テンポは加速している。2015 年で
1.27 億人だった日本の総人口は、2035 年には 1.12 億人まで減少する見込みである(図表 1)。
また、長期的な出生率の低下から高齢化が進んでおり、2015 年時点で高齢化率は 26.7%と推計される。
この傾向は今後も続き、2035 年に高齢化率は 33.1%と約 3 人に 1 人が 65 歳以上の高齢者という状況に
至る見込みである。
図表1.日本の総人口の推移と見通し
(億人)
1.6
15歳未満
15∼64歳
65歳以上
(%)
40
高齢化率
1.4
35
予測
1.2
30
1.0
25
0.8
20
0.6
15
0.4
10
0.2
5
0.0
1960 65
0
70
75
80
85
90
95
00
05
10
15
20
25
30
35
(各年10月1日現在)
(注)実績は総務省「国勢調査」、同「人口推計」。
(注)予測は国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」における<出生中位・死
(注)亡中位>をもとに実績とのかい離をMURCにて調整の上、未発表年の欠落値を補間し
(注)たもの。
(出所)総務省「国勢調査」、同「人口推計」、
国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(2012年1月推計)」
他方、世帯数は、人口が減少に転じる中でも増加が続いている。もっとも、社人研の推計によると 2020
年頃には世帯数も減少に転じると見込まれ、日本は本格的な人口減少社会に突入することになる(図表 2)。
また、2015 年時点で世帯主の年齢が 65 歳以上の高齢者世帯は 35.7%、75 歳以上の後期高齢者世帯は
16.7%とされるが、今後、高齢者世帯はさらに増加するとみられ、2035 年には 65 歳以上は 40.8%、75
歳以上は 23.7%まで拡大しよう。
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図表2.日本の世帯数の推移と見通し
(万世帯)
6000
75∼
予測
70∼74
5000
65∼69
60∼64
4000
55∼59
50∼54
3000
45∼49
40∼44
2000
35∼39
1000
30∼34
25∼29
0
80
85
90
95
00
05
10
15
20
25
30
∼25
35
(各年10月1日現在)
(注)実績は総務省「国勢調査」
(注)予測は国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計」
(注)MURCにて未発表年の欠落値を補間したもの
(出所)総務省「国勢調査」、
国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計」
こうした人口減少と高齢化の進展は、個人消費にどのような影響を及ぼすのだろうか。図表 3 左はO
ECD加盟 34 ヶ国について、2001 年以降の実質個人消費の伸び率と人口の変化率との関係を、図表 3
右は高齢化率との関係をそれぞれプロットしたものである。
図表3.人口減少および高齢化と個人消費の関係
(実質消費変化率、%)
(実質消費変化率、%)
7
7
6
y = 0.9046x + 1.4277
R² = 0.1403
5
6
4
4
3
3
2
2
1
1
0
0
-1
-1
-0.5
0.0
0.5
1.0
1.5
(注)OECD加盟34ヶ国、2001∼2014年の平均値
(出所)OECD Statistics
2.0
y = -0.2585x + 5.8077
R² = 0.5183
5
2.5
0
(人口変化率、%)
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5
10
15
20
25
(高齢化率、%)
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まず人口の変化と個人消費の関係を見ると、右上がりの関係、つまり人口の増加率が高い国ほど消費
の伸び率は高く、逆に人口の増加率が低いまたは減少率が大きい国ほど消費の伸び率は低い傾向がある。
相関係数は 0.37 である。
次に高齢化と個人消費の関係を見ると、こちらは右下がりの関係が確認できる。高齢化が進んでいる
国ほど消費の伸び率は低く、人口構成が若い国ほど消費の伸び率は高くなっている。相関係数は 0.72 で
ある。
この様に人口減少と高齢化はともに個人消費の伸びを抑制する要因となるが、相関係数を比べると高
齢化の方が高く、関係性はより強い。そこで、以下では、高齢化と個人消費の関係についてもう少し深
く掘り下げてみたい。
(2)高齢化と個人消費
家計の消費・貯蓄行動を説明する理論には、ライフサイクルモデル、利他主義モデル、王朝モデルな
どいくつもの種類があるが、どれも現役時代は働いて得た所得をもとに消費と貯蓄を行い、引退後は現
役時代の貯蓄を取り崩して消費を行うという点は概ね共通している 1。
実際、2014 年の総務省「消費実態調査」をもとに、総世帯について世帯主の年齢階級別の年間収入(年
収)と貯蓄額を見ると、年収、貯蓄ともに年齢が上がるにつれて増加するが、年収は 50∼54 歳をピーク
に減少に転じ、貯蓄額も 60∼64 歳をピークに減少に転じている(図表 4)。
図表4.家計の年間収入と貯蓄額(2014 年・総世帯)
(万円)
2000
年間収入
貯蓄額
1800
1600
1400
1200
1000
800
600
400
200
(出所)総務省「消費実態調査」
75∼
70∼74
65∼69
60∼64
55∼59
50∼54
45∼49
40∼44
35∼39
30∼34
25∼29
∼25
0
(世帯主の年齢階級)
1
各々のモデルで異なるのは、財産を子ども世代に残すという行動についての想定である。例えば、自分の財産を、自分の面倒を見てくれ
るから残すのか、それとも、子どもに対する愛情から残すのか、もしくは「家」の存続を望んだ結果として残すのか、という具合である。こうし
た想定の違いは遺産の額にも影響を及ぼすと考えられる。
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他方、世帯主の年齢階級別に家計の消費額(月額)を見ると、消費額も年齢が上がるにつれて増加し、
50∼54 歳でピークをつけるが、その後は減少に転じている(図表 5)。消費額の水準を比較すると、60∼
64 歳と 40∼44 歳、65∼69 歳と 35∼39 歳、70∼74 歳と 30∼34 歳、75 歳以上と 25∼29 歳とが、概ね同
程度となっている。高齢者世帯の年収は低いものの、消費額が著しく抑えられているわけではない。
図表5.世帯主の年齢階級別の消費額(2014 年・総世帯)
(万円)
35
30
25
20
15
10
5
(出所)総務省「消費実態調査」
75∼
70∼74
65∼69
60∼64
55∼59
50∼54
45∼49
40∼44
35∼39
30∼34
25∼29
∼25
0
(世帯主の年齢階級)
また、家計の消費性向 2を世帯主の年齢階級別に見ると、年齢の上昇とともに消費性向は低下し、40
歳頃には一旦底を打っている(図表 6)。しかし、その後、60 歳になり定年退職する人が増加すると、消
費性向は大きく切り上がる。最近は定年退職の年齢引き上げや退職後の嘱託採用も行われているが、そ
れでも年齢が上がるにつれて退職者は徐々に増えるため、それにつれて消費性向も上昇することになる。
図表6.世帯主の年齢階級別の消費性向(2014 年・総世帯)
(%)
75
70
65
60
55
50
(注)消費性向=消費額÷収入として計算
(出所)総務省「消費実態調査」
75∼
70∼74
65∼69
60∼64
55∼59
50∼54
45∼49
40∼44
35∼39
30∼34
25∼29
∼25
45
(世帯主の年齢階級)
2
本稿では分析の都合から消費性向を「年間消費額÷年間収入」として計算している。なお、一般的には分母を年間収入ではなく、可処分
所得とすることが多い。
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個人消費における高齢者の存在感は年々増している。総務省「消費実態調査」における世帯主の年齢
階級別の世帯構成を見ると、1989 年時点で 65 歳以上の割合は 13.5%、75 歳以上の後期高齢者は 3.2%
であったが、2014 年には 65 歳以上が 39.7%、75 歳以上が 15.2%まで上昇している(図表 7)。少子高齢
化が進む中で、今後、高齢者の消費行動がマクロベースで見た個人消費に与える影響も拡大していくと
考えられる。
図表7.世帯主の年齢階級別の世帯構成比(2014 年・総世帯)
100%
75∼
90%
70∼74
80%
65∼69
70%
60∼64
60%
55∼59
50∼54
50%
45∼49
40%
40∼44
30%
35∼39
20%
30∼34
10%
25∼29
0%
1989
∼25
1994
1999
2004
2009
2014
(年)
(出所)総務省「消費実態調査」
そこで、高齢化の進展が個人消費に与える定量的な効果を考えてみよう。図表 8 は、各年齢階級の消
費額が 2014 年から変化しないと仮定した上で、単純に世帯の年齢構成の変化のみが家計の消費額に与え
る影響を試算したものである。将来の世帯の年齢構成については、社人研「日本の世帯数の将来推計」
をもとに総務省「消費実態調査」の 2014 年の値を延長した。試算結果を見ると、2014 年時点で 25.4 万
円だった家計の消費額は、高齢化の進展により緩やかに減少していくが、そのテンポは前年比−0.1%程
度と比較的小さい。しかも 1970 年代生まれの団塊ジュニア世代が消費額の最も高い 50 歳代に近付く中
で押し下げ効果は徐々に縮小し、2024、25 年にはプラスに転じるなど、一旦は消費額が下げ止まると予
想される。ただし、その後はピークアウトし、再び消費額は減少傾向に転じることになる。
この様に世帯単位で見ると、高齢化が個人消費に与える影響は決して大きいとは言えない。しかし、
社人研の推計では世帯数も 2020 年には減少に転じる見込みであり、マクロベースで見ると、消費に対す
る構造的な下押し圧力は徐々に強まっていくと考えられる。そこで、高齢化の影響に加え、世帯数の減
少も考慮した場合、GDPベースで見た名目個人消費がどの様に推移するかをシミュレーションしたも
のが図表 9 である。これを見ると、目先は世帯あたりの消費額が減少する中でも世帯数は増加を続ける
ため、マクロベースで見た個人消費は増加を続けるものの、2019 年には減少に転じ、そのテンポは徐々
に拡大していく見通しである。前年比で見ると、下押し圧力は 2020 年には−0.1%程度にとどまるもの
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の、25 年には−0.3%、30 年には−0.6%、35 年には−0.8%と、シミュレーション期間後半になるにつ
れて次第に大きなものとなっていく。
図表8.高齢化が家計の消費額へ与える影響(総世帯)
(万円)
(前年比、%)
25.5
0.05
消費額(総世帯)
前年比(右目盛)
25.4
0.00
25.3
-0.05
25.2
-0.10
25.1
-0.15
14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35
(暦年)
(注)2014年の消費額を前提に年齢構成比だけが変化した場合の影響。
(出所)総務省「消費実態調査」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の
(出所)将来推計」をもとにMURC試算。
図表9.高齢化と人口減少がGDPベースで見た個人消費へ与える影響
(兆円)
300
(前年比、%)
民間最終消費支出(名目GDPベース)
前年比(右目盛)
0.2
295
0.0
290
-0.2
285
-0.4
280
-0.6
275
-0.8
270
-1.0
14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35
(注)2014年の消費額を前提に年齢構成比だけが変化した場合の値。
(出所)総務省「消費実態調査」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推
計」、内閣府「GDP統計」をもとにMURC試算。
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(暦年)
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(3)個人消費の行方
政府は 2020 年の名目GDP600 兆円の実現を目標に掲げている。個人消費はGDPの約 6 割を占める
ことから、単純計算で目標達成には個人消費を 360 兆円程度まで増やす必要がある。これは 2016 年∼20
年の 5 年間で年率+4.3%で消費が増えることを意味する。この間、世帯数は年率+0.1%で増加が見込
めることから、1 世帯あたりの消費額は年率+4.2%で増加する必要がある。これはかなり野心的な目標
であり、達成は容易ではないと言える。
日本はすでに人口減少社会に突入しており、こうした中で今後課題となるのは、1 人あたりの消費額を
いかにして増やしていくかということである。所得が増えれば 1 人あたりの消費額も増えることから、
所得改善の進みやすい経済環境を維持するのはもちろんのこと、企業側としても、各年齢、各世代のニ
ーズに合った商品やサービスを提供していくことができるかどうかが、今後の重要なカギを握る。
図表 10 は、図表 5 で見た世帯主の年齢階級別の消費額の内訳について、その構成比を表したものであ
る。これを見ると、年齢によって各品目への支出割合は異なっており、例えば、「食料」や「住居」、「光
熱・水道」など生活に必要な基礎的品目では、現役世代の支出割合が低い一方、高齢世代は高くなって
いる。他方、
「その他の支出」は年齢の上昇とともに支出が増えるものの、50 歳後半からは横ばいとなっ
ている。この様に年齢によって消費者の行動は異なっており、傾向を上手く読み取ることが求められる。
もっとも、現役世代が高齢者になったときに、今の高齢者と志向が同じであるとは限らない。
図表 10.世帯主の年齢階級別に見た消費額の内訳(2014 年・総世帯)
100%
その他の支出
90%
教養娯楽
80%
70%
教育
60%
交通・通信
50%
保健医療
40%
被服及び履物
30%
家具・家事用品
20%
光熱・水道
10%
住居
(出所)総務省「消費実態調査」
75∼
70∼74
65∼69
60∼64
55∼59
50∼54
45∼49
40∼44
35∼39
30∼34
25∼29
0%
食料
(世帯主の年齢階級)
一般的に、人々の消費行動は、年齢の上昇による変化(年齢効果)だけでなく、生まれた世代によ
る志向の違い(世代効果、コーホート効果)や時代の変化による効果(時代効果)といったものにも
左右される(図表 11)。そこで、本稿では、①年齢効果、②世代効果(コーホート効果)、③時代効果
ご利用に際してのご留意事項を最後に記載していますので、ご参照ください。
(お問い合わせ)調査部
TEL:03-6733-1070
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9 /15
の 3 つの効果について品目ごとに分解し、今後の消費者行動の変化を試算した 3。
図表 11.年齢効果・世代効果・時代効果の概念図
調査年
年齢階級
1989
94
99
2004
09
14
∼25
時代効果
25∼29
30∼34
35∼39
40∼44
45∼49
50∼54
世代効果
(コーホート効果)
55∼59
60∼64
65∼69
年齢効果
70∼74
75∼
(出所)内閣府「高齢社会対策に関する調査(平成20年度)、日本銀行「最近の高齢者の消費動向について」などを参考にMURC作成。
図表 12 は消費支出に占める各品目の比率を要因分解したものである。ここでは、時代効果は 1989 年、
年齢効果は 25∼29 歳、世代効果は 1960 年∼64 年生まれを基準に、各年、各年齢、各世代が、基準点と
比較して消費割合の押し上げまたは押し下げにどの程度寄与しているかを示している。以下、順を追っ
て確認しよう。
まず「食料」を見ると、年齢効果が 45∼49 歳以上で押し下げに寄与しており、年齢の上昇は食料への
消費を減らす方向に働く。他方、世代効果については、若い世代ほど食料への支出割合が小さい。また、
時代効果はこれまで消費割合の押し下げに効いてきたが、2014 年には押し上げに転じている。時代効果
には各年の物価水準の変化などが含まれることから、足元の食料品価格の上昇が反映されている可能性
がある。
次に「住居」であるが、年齢効果は概ねマイナスであり、年齢の上昇とともに住居への支出割合は徐々
に低下する傾向がある。他方、世代効果は 1960∼64 年生まれより前の世代では住居への支出割合が高い
ものの、それ以後の世代では明らかな差異は確認できない。
3
総務省「消費実態調査」の 1989 年∼2014 年までの計 6 回の調査を使用し、各調査年における世帯主の年齢階級別の各品目に対する
消費額の比率を被説明変数、各効果を表すダミー変数と年齢階級別の完全失業率を説明変数とする回帰式を作成した。完全失業率は景
気変動が消費に与える影響をコントロールするために使用している。また、推計にあたり、技術的な問題から、1914 年以前の生まれと 1915
∼19 年生まれの世代効果を同一であると仮定した。失業率についても 70 歳以上のデータしかないため、70∼74 歳と 75 歳以上は同じ値を
用いた。
ご利用に際してのご留意事項を最後に記載していますので、ご参照ください。
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10 /15
-6
(%ポイント)
時代効果
(1989年からの乖離)
(%ポイント)
4
2
時代効果
(1989年からの乖離)
(お問い合わせ)調査部
TEL:03-6733-1070
(%ポイント)
0.4
1
0.2
0
時代効果
(1989年からの乖離)
-0.4
-0.6
消費額に占める割合(被服及び履物)
時代効果
(1989年からの乖離)
世代効果
(1960∼64年生まれからの乖離)
15
消費額に占める割合(交通・通信)
世代効果
(1960∼64年生まれからの乖離)
年齢効果
(25∼29歳からの乖離)
-15
6
消費額に占める割合(保健医療)
年齢効果
(25∼29歳からの乖離)
0
-2
世代効果
(1960∼64年生まれからの乖離)
-0.8
(%ポイント)
14
12
10
8
6
4
2
0
-2
-4
-6
0
0
-5
-2
-4
-6
-10
-8
15
10
-15
時代効果
(1989年からの乖離)
(%ポイント)
8
6
4
2
年齢効果
(25∼29歳からの乖離)
(%ポイント)
20
時代効果
(1989年からの乖離)
-10
ご利用に際してのご留意事項を最後に記載していますので、ご参照ください。
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∼1919
1920∼24
1925∼29
1930∼34
1935∼39
1940∼44
1945∼49
1950∼54
1955∼59
1960∼64
1965∼69
1970∼74
1975∼79
1980∼84
1985∼89
年齢効果
(25∼29歳からの乖離)
0.6
∼1919
1920∼24
1925∼29
1930∼34
1935∼39
1940∼44
1945∼49
1950∼54
1955∼59
1960∼64
1965∼69
1970∼74
1975∼79
1980∼84
1985∼89
25∼29
30∼34
35∼39
40∼44
45∼49
50∼54
55∼59
60∼64
65∼69
70∼74
75∼
時代効果
(1989年からの乖離)
∼1919
1920∼24
1925∼29
1930∼34
1935∼39
1940∼44
1945∼49
1950∼54
1955∼59
1960∼64
1965∼69
1970∼74
1975∼79
1980∼84
1985∼89
世代効果
(1960∼64年生まれからの乖離)
89
94
99
04
09
14
10
∼1919
1920∼24
1925∼29
1930∼34
1935∼39
1940∼44
1945∼49
1950∼54
1955∼59
1960∼64
1965∼69
1970∼74
1975∼79
1980∼84
1985∼89
年齢効果
(25∼29歳からの乖離)
(%ポイント)
∼1919
1920∼24
1925∼29
1930∼34
1935∼39
1940∼44
1945∼49
1950∼54
1955∼59
1960∼64
1965∼69
1970∼74
1975∼79
1980∼84
1985∼89
-20
消費額に占める割合(光熱・水道)
-20
25∼29
30∼34
35∼39
40∼44
45∼49
50∼54
55∼59
60∼64
65∼69
70∼74
75∼
2
世代効果
(1960∼64年生まれからの乖離)
25∼29
30∼34
35∼39
40∼44
45∼49
50∼54
55∼59
60∼64
65∼69
70∼74
75∼
3
-10
89
94
99
04
09
14
4
∼1919
1920∼24
1925∼29
1930∼34
1935∼39
1940∼44
1945∼49
1950∼54
1955∼59
1960∼64
1965∼69
1970∼74
1975∼79
1980∼84
1985∼89
-2
89
94
99
04
09
14
5
∼1919
1920∼24
1925∼29
1930∼34
1935∼39
1940∼44
1945∼49
1950∼54
1955∼59
1960∼64
1965∼69
1970∼74
1975∼79
1980∼84
1985∼89
(%ポイント)
∼1919
1920∼24
1925∼29
1930∼34
1935∼39
1940∼44
1945∼49
1950∼54
1955∼59
1960∼64
1965∼69
1970∼74
1975∼79
1980∼84
1985∼89
0
25∼29
30∼34
35∼39
40∼44
45∼49
50∼54
55∼59
60∼64
65∼69
70∼74
75∼
-10
25∼29
30∼34
35∼39
40∼44
45∼49
50∼54
55∼59
60∼64
65∼69
70∼74
75∼
5
0
25∼29
30∼34
35∼39
40∼44
45∼49
50∼54
55∼59
60∼64
65∼69
70∼74
75∼
-4
2
89
94
99
04
09
14
5
年齢効果
(25∼29歳からの乖離)
89
94
99
04
09
14
10
時代効果
(1989年からの乖離)
∼1919
1920∼24
1925∼29
1930∼34
1935∼39
1940∼44
1945∼49
1950∼54
1955∼59
1960∼64
1965∼69
1970∼74
1975∼79
1980∼84
1985∼89
1.5
1.0
0.5
0.0
-0.5
-1.0
-1.5
-2.0
-2.5
-3.0
-3.5
25∼29
30∼34
35∼39
40∼44
45∼49
50∼54
55∼59
60∼64
65∼69
70∼74
75∼
4
∼1919
1920∼24
1925∼29
1930∼34
1935∼39
1940∼44
1945∼49
1950∼54
1955∼59
1960∼64
1965∼69
1970∼74
1975∼79
1980∼84
1985∼89
(%ポイント)
25∼29
30∼34
35∼39
40∼44
45∼49
50∼54
55∼59
60∼64
65∼69
70∼74
75∼
-3
25∼29
30∼34
35∼39
40∼44
45∼49
50∼54
55∼59
60∼64
65∼69
70∼74
75∼
89
94
99
04
09
14
-8
25∼29
30∼34
35∼39
40∼44
45∼49
50∼54
55∼59
60∼64
65∼69
70∼74
75∼
-2
89
94
99
04
09
14
-1
89
94
99
04
09
14
-6
89
94
99
04
09
14
-4
89
94
99
04
09
14
(%ポイント)
6
消費額に占める割合(食料)
図表 12.消費支出に占める各品目の比率の要因分解
15
消費額に占める割合(住居)
年齢効果
(25∼29歳からの乖離)
-5
世代効果
(1960∼64年生まれからの乖離)
-15
1.0
消費額に占める割合(家具・家事用品)
0.8
世代効果
(1960∼64年生まれからの乖離)
時代効果
(1989年からの乖離)
-0.2
0.0
年齢効果
(25∼29歳からの乖離)
消費額に占める割合(教育)
年齢効果
(25∼29歳からの乖離)
世代効果
(1960∼64年生まれからの乖離)
消費額に占める割合(教養娯楽)
世代効果
(1960∼64年生まれからの乖離)
時代効果
(1989年からの乖離)
25
消費額に占める割合(その他の支出)
世代効果
(1960∼64年生まれからの乖離)
5
-5
0
年齢効果
(25∼29歳からの乖離)
(出所)総務省「消費実態調査」、「労働力調査」をもとにMURC試算。
11 /15
続いて「光熱・水道」を見ると、年齢効果は概ねマイナスであり、年齢の上昇とともに光熱・水道代
への支出割合は低下する傾向がある。他方、世代効果は上の世代ほど消費割合が高く、下の世代ほど小
さい。また、時代効果は上昇傾向にあり、光熱・水道料金が長期的に上昇していることが影響している
とみられる。
「家事・家具用品」については、時代効果や年齢効果はばらついており、時の変化や年齢の上昇によ
る一律の効果は確認できないが、世代効果を見ると、1950∼54 年生まれよりも前の世代で消費割合が高
まる傾向が読み取れる。
また、「被服及び履物」は、年齢効果は確認できないが、時代効果が低下傾向にあるほか、1980∼84
年生まれ以後の世代では消費割合が高まる傾向が確認できる。
「教育」に関しては、年齢効果は概ねプラスであり、年齢が上がるにつれて支出割合は上昇し、45∼
49 歳でピークをつけている。ただし、50 歳以降もプラス効果は持続していることから、子どもの教育費
だけではなく、自らの学習意欲も高いと考えられる。また、下の世代ほど教育への支出意欲は高く、時
代効果は緩やかな低下傾向が確認できる。
次に「交通・通信」を見ると、年齢効果はプラスであり、年齢の上昇にともなって支出割合は上昇し
ている。他方、世代効果は、下の世代ほど消費割合が大きい傾向がある。また、時代効果については緩
やかな低下傾向が見て取れる。
「教養娯楽」については、年齢効果は概ねマイナスであり、年齢が上昇するにつれて支出割合は低下
する傾向が確認できる。他方、世代効果を見ると、上の世代ほど支出割合が高くなっている。また、時
代効果はこれまで上昇が続いてきたが、足元では頭打ちとなっている。
「保健・医療」では、年齢効果はマイナスであり、年齢の上昇にともなって消費割合は低下する傾向
があるが、50 歳以降はマイナス幅が横ばいとなっている。これは、1 人あたりの医療費は年齢が上昇す
るにつれて増加するものの、自己負担額については負担割合の違いから 65 歳頃に頭打ちとなることが反
映されていると考えられる。他方、世代効果を見ると、上の世代ほど消費割合が高く、時代効果も上昇
傾向にある。世代効果は育ってきた衛生環境の違いが、時代効果は高額な最先端医療の登場・普及など
が影響している可能性がある。
最後に「その他の支出」については、年齢効果はプラスであり、年齢が上がるにつれて消費割合は増
える傾向がある。下の世代ほど消費割合は高いが、時代効果は低下している。
こうした品目ごとの特徴を踏まえ、消費割合の先行きを考えてみると、成長が期待できるのは、1940
∼44 年生まれよりも下の世代になるにつれて消費割合が増える品目、年齢上昇による押し上げ効果が大
きい品目、時代効果が上昇傾向にある品目ということになる。そこで、時代効果と世代効果を過去のト
レンドを延長し 4、今後の各品目の消費割合の推移をシミュレーションしたものが図表 13 である。これ
を見ると、予測最終年である 2034 年において、2014 年と比較した場合に家計の消費割合が高まるのは「食
料」(24.4%→28.6%)、「交通・通信」(14.8%→17.2%)、「光熱・水道」(7.0%→10.3%)、「家具・家
4
時代効果は 2014 年と 2009 年の差を用いて、2019 年以降もその差が続くと仮定して延長した。同じく世代効果も、1990∼94 年生まれ以
降は、1985∼89 年生まれと 1980∼84 年生まれの世代効果の差が今後も続くと仮定して延長した。
ご利用に際してのご留意事項を最後に記載していますので、ご参照ください。
(お問い合わせ)調査部
TEL:03-6733-1070
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12 /15
事用品」(3.4%→4.4%)、「教育」(3.6%→4.0%)、の 5 品目である。このうち「食料」、「光熱・水道」、
「家具・家事用品」に関しては年齢効果や世代効果よりも時代効果による押し上げが大きく、今後、各
品目の価格が上昇し、家計の生活コストが増加することを意味している。他方、
「交通・通信」と「教育」
については、年齢効果と世代効果による影響が大きい。特に「交通・通信」は年齢が上がるほど、また、
下の世代ほど支出割合が高く、今後、一層のニーズ拡大が見込まれる。
図表 13.消費支出に占める各品目の比率の見通し
予測
100%
その他の支出
90%
保健医療
80%
教養娯楽
70%
交通・通信
60%
教育
50%
被服・履物
40%
30%
家具家事用品
20%
光熱・水道
10%
住居
0%
1989
食料
94
99
2004
09
14
19
24
29
34
(年)
(出所)総務省「消費実態調査」、国立社会保障・人口問題研究所「日
本の世帯数の将来推計」をもとにMURC試算。
なお、
「交通・通信」については、
「自動車等関係費」と「通信」のウエイトが大きい。そこで、この 2
品目について、他の品目と同様、時代効果と、年齢効果、世代効果の 3 つに分解してみる(図表 14)。ま
ず「自動車等関係費」を見ると、時代効果は徐々に低下消しているが、年齢効果は概ねプラスであり、
世代効果も下の世代ほど大きいことが分かる。他方、
「通信」については、時代効果は年々上昇し、世代
効果も下の世代ほど大きいが、年齢効果については 60∼64 歳をピークにアーチ型を描いている。
図表 14.自動車等関係費と通信費の要因分解
(%ポイント)
消費額に占める割合(自動車等関係費)
2.5
世代効果
(1960∼64年生まれからの乖離)
時代効果
(1989年からの乖離)
5
1.5
1.0
0
0.5
-5
0.0
-0.5
∼1919
1920∼24
1925∼29
1930∼34
1935∼39
1940∼44
1945∼49
1950∼54
1955∼59
1960∼64
1965∼69
1970∼74
1975∼79
1980∼84
1985∼89
25∼29
30∼34
35∼39
40∼44
45∼49
50∼54
55∼59
60∼64
65∼69
70∼74
75∼
89
94
99
04
09
14
-1.5
-2.0
時代効果
(1989年からの乖離)
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年齢効果
(25∼29歳からの乖離)
∼1919
1920∼24
1925∼29
1930∼34
1935∼39
1940∼44
1945∼49
1950∼54
1955∼59
1960∼64
1965∼69
1970∼74
1975∼79
1980∼84
1985∼89
-1.0
-15
25∼29
30∼34
35∼39
40∼44
45∼49
50∼54
55∼59
60∼64
65∼69
70∼74
75∼
年齢効果
(25∼29歳からの乖離)
-10
-20
世代効果
(1960∼64年生まれからの乖離)
2.0
89
94
99
04
09
14
10
消費額に占める割合(通信費)
(%ポイント)
15
13 /15
この結果をもとに「交通・通信」の見通しの内訳を試算すると 5、交通・通信の 2014 年から 34 年にか
けての増加率+2.4%のうち、
「自動車等関係費」が+1.9%ポイント、
「通信」が 0.0%ポイント、
「交通」
が+0.5%ポイントとなる(図表 15)。若者の車離れが心配されているが、試算結果によれば、今後も自
動車への支出割合は高まっていく見通しである。
図表 1 5.交通・通信費の見通しの内訳
(%)
20
18
自動車等関係費
通信費
予測
交通
16
14
12
10
8
6
4
2
0
1989
94
99
2004
09
14
19
24
29
(注)各品目の時代効果は一定と仮定し、計算結果のウエイトで「交通・通信」の試算
結果を分解した。
(出所)総務省「消費実態調査」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の
将来推計」をもとにMURC試算。
34
(年)
(藤田 隼平)
(参考文献)

チャールズ・ユウジ・ホリオカ(2002)「日本人は利己的か、利他的か、王朝的か?」、日本経済国
際共同センター

内閣府(2005)「経済財政白書(平成 17 年度版)」

橋本拓摩(2005)「消費市場の質的変化を促す団塊マネー」、第一生命経済研究所

高久玲音(2010)
「2030 年の消費構造変化-「年齢・世代」効果による分析」、日本経済研究センター

白木紀行・中村康治(2012)「最近の高齢者の消費動向について」、日本銀行
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技術的な問題から、当該 3 品目に関しては予測期間中の時代効果を 2014 年と同一と仮定したうえで、消費割合の変化を予測し、それら
の値をウエイトに「交通・通信」の試算結果を分解した。
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