鹿野達史の日本経済の視点 - 三菱UFJモルガン・スタンレー証券

平成 28 年熊本地震で被災された方々に心よりお見舞い申し上げま
すとともに、被災地の一日も早い復旧・復興を祈念いたします。
景気循環研究所
鹿野達史の日本経済の視点
2016 年 4 月 21 日
熊本地震が経済に及ぼす影響
~4 月の生産を 2%押し下げ、観光消費は半年で 2000 億円減少の可能性~
●自動車の生産停止で、鉱工業生産を2%押し下げ。
部品メーカーの生
熊本地震の発生から 1 週間が経過し、なお活発な地震活動が続く中、経
産停止で部品供給
済活動への影響も懸念されている。熊本県やその周辺には、エレクトロニ
網が途切れ、影響
クス産業や自動車関連産業が集積しているが、生産拠点を構える企業は、
は全国に及ぶ。
被害状況の確認などのため生産ラインを止めている。さらに、熊本などの
部品供給メーカーの生産が止まったことから、部品供給網(サプライチェ
トヨタ自動車は、
生産停止で 8 万台
ーン)が途切れ、影響が全国に及んでいる。
熊本の部品供給メーカーの被災で、部品調達ができず、三菱自動車が、
岡山の水島製作所の軽自動車の生産を停止したほか、トヨタ自動車も、15
減産。
日以降、全国の完成車工場の生産を段階的に停止している。20 日、トヨ
嶋中 雄二
景気循環研究所長
鹿野 達史
景気循環研究所副所長
タは、25 日の生産再開を発表したが、一部生産ラインの停止は継続し、
一連の停止による減産規模は 8 万台程度と報じられている(表 1)。
表 1.
熊本地震の影響:トヨタ自動車の主な工場の生産
シニアエコノミスト
03-6213-5224
九州
トヨタ
自動車
4月15日
~23日
生産
全面停止
25~28日
停止継続
shikano-tatsushi1@
sc.mufg.jp
愛知
堤工場
4月19日
~23日
生産
全面停止
25日
稼働再開
愛知
田原工場
4月20日
~23日
生産
全面停止
東北地区
の工場
4月22日
~23日
生産
全面停止
宮嵜
浩
シニアエコノミスト
03-6213-6573
miyazaki-hiroshi@
sc.mufg.jp
福田
圭亮
シニアエコノミスト
03-6213-2608
5万台減産の可能性
24日
休業日
26日
稼働再開
岩手第2:25日
岩手第1、宮城:26日
稼働再開
合わせて
8万台減産の
可能性
(資料)日本経済新聞(16/4/18、4/21付け)、トヨタ自動車資料などをもとに三菱UFJ モルガン・スタンレー証券
景気循環研究所作成
fukuda-keisuke@sc.mufg.jp
景気循環研究所
東京都千代田区丸の内
2-5-2
三菱ビルヂング
3 月下旬時点における 4 月のトヨタの生産計画は、28 万台程度とみられ
ており、3 割近く(28.6%)下振れすることになる(表 2)。愛知製鋼の事故
による部品調達の滞りを受けた、2 月の大幅減産ののち、挽回生産を計画
していたが、4 月は再び減少する(図 1)。その他のメーカーも含め、9 万
1
2016 年 4 月 21 日
台の減産とすると、全体の国内生産台数は 10%以上落ち込み(12.2%減、
当研究所推計)、さらに、自動車部品なども同率で減少すると想定した場
合、鉱工業生産は 2.0%押し下げられる(表 2)。
表 2. 熊本地震の生産活動への影響
320
○ 4月の自動車生産
トヨタ自動車の
生産台数 8万台下振れ
図 1.トヨタ自動車の国内自動車生産台数
(千台)
→
3月下旬時点
の計画
300
計画比 28.6%
下振れ
生産台数
280
その他を含め
9万台の減産
→
全体の生産台数は
12.2%下振れ
自動車部品も同率(12.2%)
落ち込むと想定
→
鉱工業生産を
2.0%押し下げ
260
240
220
200
○ 3、4月の鉱工業生産
生産予測指数:3月 前月比3.9%増、4月同5.3%増
4月の自動車、同部品などの
減産(12.2%)
予測指数に対する鉱工業生産
実績の下振れ
熊本地震後の減産を
勘案した生産台数
180
2014/01
2015/01
→
4月の鉱工業生産を
2.0%押し下げ
3月下旬時点の生産計画
3月 前月比33.0%増 4月同12.9%増
→
見込み→実績:▲2.3ポイント
予測→実績:▲1.5ポイント
4月の8万台程度下振れを勘案すると、
→
2016/01
5月同10.7%減
(年、月)
6月同1.8%増
4月の生産台数は計画比28.6%下振れ、前月比19.4%減
(注)景気循環研究所推計の季節調整値。
鉱工業生産 : 3 月 前月比1 .6 %増、4 月同1 .8 %増とな る可能性
(資料)自工会、トヨタ資料、各種報道などをもとに三菱UFJ モルガン・スタンレー証券景気循環研究所作成
(資料)自工会、トヨタ、経産省資料、報道などをもとに三菱UFJ モルガン・スタンレー証券景気循環研究所作成
自動車以外の増産
ただ、生産活動については、2 月の大幅減ののち、生産予測指数では、3、
で、鉱工業生産の
4 月と大幅増産が見込まれていた。自動車を中心とした輸送機械以外の業
増加が続く可能性
種をみても、機械、化学などで大幅増の見通しとなっている。前述の自動車
がある。
の減産の影響に加え、予測指数に対する実績の下振れを勘案しても、鉱工
業生産は、水準が低いながら増加が続く可能性がある(表 2、図 2)。
図 2. 鉱工業生産の推移
(10年=100)
104
予測指数を
もとにした推計
102
鉱工業生産
100
98
96
トヨタなどの減産、
予測指数からの下振れを
勘案した推計
94
92
2014/01
2015/01
2016/01
(年、月)
生産予測指数(4/10時点)
3月 前月比3.9%増 4月同5.3%増
4月に自動車生産が、トヨタ(8万台程度)を含め9万台下振れると想定し、
予測指数に対する鉱工業生産実績の下振れ(直近6カ月)を勘案すると、
3月の鉱工業生産は前月比1.6%増、4月は同1.8%増となる可能性
(資料)経産省資料、報道などをもとに三菱UFJ モルガン・スタンレー証券景気循環研究所作成
本資料は信頼できると思われる各種データに基づいて作成されていますが、当確性、完全性を保証するものではなく、利用に際してはお客様ご自身でご
判断くださいますようお願い申し上げます。巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。
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2016 年 4 月 21 日
●訪日外客数の落ち込みで、観光消費は半年で2000億円減少も。
好調なインバウン
好調なインバウンド需要への影響も懸念されている。報道によれば、熊
ド需要への影響も
本地震の発生後、中国政府は、熊本県への渡航を禁止し、九州地方への渡
懸念される。
航も、慎むよう通知している。中国に加え、韓国、台湾でも、九州旅行の
キャンセルが相次いでいることが報じられている。
半年間で訪日外客
1995 年 1 月の阪神・淡路大震災後をみると、訪日外客数(全国)は、当
数が 114 万人減少
研究所推計の季節調整値でみると、2 月以降、7 月まで半年間、減少基調
の可能性。
が続き、2~7 月は、前年比 6.1%減と落ち込んでいる。2011 年 3 月の東
日本大震災時には、直後の 6 カ月間(3~8 月)は前年比 44.4%減となっ
実質GDPを
0.1%押し下げ。
政府による適切な
対応が必要。
ている(表 3)。
15 年の訪日外客数は 1974 万人で、このうち九州地方は 283 万人となっ
ている。仮に、九州地方の訪日外客数が、東日本大震災後並みに落ち込ん
だ場合(前年比 44.4%減)、半年間で 63 万人減少することになる。一方、
九州地方以外の訪日外客数(15 年:1691 万人)については、阪神・淡路
大震災後並みの減少(前年比 6.1%減)と想定すると、52 万人減となり、
合わせて 114 万人減少する(表 3)。
また、15 年の訪日外国人 1 人あたりの旅行支出額は 17.6 万円となって
いる。訪日外客数の 114 万人減で、支出総額は 2013 億円減少する。これ
は、11.6%の落ち込みとなり、実質GDPを 0.1%押し下げることになる
(表 3)。
以上は、あくまでも 1 つの試算であり、数値の大きさは、幅を持って考
えるべきである。いずれにせよ、こうした状況下では、補正予算をはじめ、
復旧・復興へ向けてのあらゆる部面で、政府による適切な対応が必要とさ
れることは、改めていうまでもない。
表 3. 訪日外客数、支出総額に及ぼす影響
訪日外客数
震災後半年間の訪日外客数
阪神・淡路大震災後 1995年2~7月 前年比▲6.1%
東日本大震災後 2011年3~8月 前年比▲44.4%
15年 九州の訪日外客数 283万人
半年間 東日本大震災後並みの落ち込み
(前年比▲44.4%)となった場合
→
63万人減少
15年 九州以外の訪日外客数 1691万人
半年間 阪神淡路大震災後並みの落ち込
み(前年比▲6.1%)となった場合
→
52万人減少
合わせて、半年間で114万人減少
訪日外客の支出総額
15年 1人あたり消費額
17.6万円
→
訪日外客数114万人減少で
2013億円減少
訪日外客の支出総額を
11.6%押し下げ
→
実質GDPを0.1%程度
押し下げ
(資料)観光庁資料、各種報道などをもとに三菱UFJ モルガン・スタンレー証券景気循環研究所作成
(以
(16.4.21
上)
鹿野 達史)
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判断くださいますようお願い申し上げます。巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。
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2016 年 4 月 21 日
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引業協会
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