(2016/4/18)ポルトガルにおける銀行破綻処理を巡る騒動に思う

新生ストラテジーノート 第 225 号
2016 年 4 月 18 日
調査部長 江川 由紀雄
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ポルトガルにおける銀行破綻処理を巡る騒動に思う
一旦受皿銀行に継承させたシニア債を破綻銀行に戻す処置のその後の展開
ポルトガルの銀行の破綻処理を巡って、今月(2016 年 4 月)、投資家が同国の銀行監督当局
兼中央銀行であるポルトガル銀行を訴えるという事態に発展している。ポルトガルの中堅銀行、
Banco Espirito Santo (BES)は、2014 年 8 月 3 日(日曜日)に、ポルトガル銀行の管理下に置
かれ、破綻処理が開始された。この時点では、BES の大半の資産と預金債務およびシニア債にか
かる債務を受け皿銀行である Novo Banco に継承させ、預金債務にもシニア債務にもデフォル
トが生じない形で営業を継続した。
劣後債務は BES に残った。受け皿銀行に対してはポルトガル政府およびポルトガルの金融機
関が拠出する負担金を原資に約 49 億ユーロの資本注入が行われた。これが 2014 年に起きた
ことである。現在も Novo Banco として営業を続けている。
それから 1 年以上が経過した 2015 年 12 月 29 日に、ポルトガル銀行は、Novo Banco が
継承したシニア債を BES に戻す決定をした 1。
欧州連合(EU)加盟国では、BRRD (Bank Recovery and Resolution Directive)に基づくベ
イルインツール(銀行監督当局が銀行の債務を帳消しにする等の「ベイルイン」を行える権限を持
つ枠組み)が 2016 年 1 月 1 日に導入されることとなっていた。ポルトガル銀行による Novo
Banco から BES へのシニア債の差し戻しは、銀行の破綻処理において、劣後債に加え、シニア
債も「ベイルイン」してしまうことに近い行為であるものの、ポルトガル銀行による 2015 年 12 月
29 日の前述の処理は、BRRD に基づく処理ではない。シニア債は、劣後債と違って、2014 年 8
月 3 日に債務が受け皿銀行である Novo Banco に継承され「救われた」はずのものであったと
ころ、2015 年のクリスマスを過ぎた 12 月 29 日に、その処理が覆され、やはり BES の債務であ
るという扱いになったという訳である。BES は銀行免許を保有したまま、存続している。
投資家が団結して関係者を訴えようとしているとの報道は、1 月中旬には流れ飛んでいた 2。そ
1
例 Financial Times, ECB under fire as Portugal hits Novo Banco bondholders,
January 7, 2016
http://www.ft.com/intl/cms/s/0/9f276d60-b55b-11e5-b147-e5e5bba42e51.html
2
例 Reuters, Bond holders team up to challenge bail-in for Portugal's Novo Banco,
January 14, 2016
http://www.reuters.com/article/portugal-novo-banco-bonds-idUSL8N14Y4K920160114
1
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して、4 月、運用会社 14 社がポルトガル銀行を訴えた 3。また、別途、BES に対してローンを出し
ていた米国系金融機関も訴訟を提起しているとの報道 4もみられる。
この騒動をどう解釈するか―銀行破綻処理のあり方を考える事例として
この一連の騒動をどう解釈するべきだろうか。銀行監督当局が一部の債権者に損失負担を求
めたという点で、日本における 1997 年の北海道拓殖銀行の処理を連想させるものがある。日本
では、翌 1998 年に金融機能安定化措置法が制定され、その法律に基づき、日本長期信用銀行
と日本債券信用銀行の破綻処理が行われた。時限立法であった金融機能安定化措置法は、後
に、預金保険法の一部(同法 102 条 1 項等)として恒久化された。その後の日本における銀行破
綻処理は、預金保険法または民事再生法が提供する手法に則り透明性の高い形で行われるよう
になった。
ポルトガルの BES のシニア債の処理は、BRRD に基づくベイルインツール導入前の段階での同
国の銀行監督当局(同国の中央銀行)による処置であり、当局がある程度のフリーハンドをもって
(悪く言えば恣意的に)処理しようとした点で、1997 年以前の日本における銀行破綻処理に似て
2
いるとも考えられる。
筆者の個人的な見解だが、注目に値するのは、こうした処置によって、損失負担を求められた
債権者またはそのフィデューシャリーは、BES の処理の件に関しては、泣き寝入りする訳ではなく、
銀行監督当局を相手に訴訟を起こしているということである。振り返って、1990 年代の日本で、
そういうことが起き得ただろうか、と想像を巡らしてみる。こうした観点から、銀行の破綻処理はど
うあるべきかを考えさせられる事例だと思っている。また、銀行を債務者とする債権は、預金であ
れ、社債であれ、債権者にとっては財産であり、銀行監督当局にどこまでその財産を処理する権
限を与えるべきかについても考える材料を提供している事例であるように思う。
(調査部長 江川 由紀雄)
3
Reuters, Fund firms sue Portugal's central bank over Novo Banco debt, April 5,
2016
http://www.reuters.com/article/funds-lawsuit-novo-banco-idUSL5N1781TN
4
Reuters, Auditor warns on Novo Banco legal, Angola risks as sale looms, April 13,
2016 http://www.reuters.com/article/portugal-novobanco-risks-idUSL5N17G2IG
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新生証券株式会社 調査部
3
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