新生ストラテジーノート 第 225 号 2016 年 4 月 18 日 調査部長 江川 由紀雄 [email protected] (03) 6880-6035 ポルトガルにおける銀行破綻処理を巡る騒動に思う 一旦受皿銀行に継承させたシニア債を破綻銀行に戻す処置のその後の展開 ポルトガルの銀行の破綻処理を巡って、今月(2016 年 4 月)、投資家が同国の銀行監督当局 兼中央銀行であるポルトガル銀行を訴えるという事態に発展している。ポルトガルの中堅銀行、 Banco Espirito Santo (BES)は、2014 年 8 月 3 日(日曜日)に、ポルトガル銀行の管理下に置 かれ、破綻処理が開始された。この時点では、BES の大半の資産と預金債務およびシニア債にか かる債務を受け皿銀行である Novo Banco に継承させ、預金債務にもシニア債務にもデフォル トが生じない形で営業を継続した。 劣後債務は BES に残った。受け皿銀行に対してはポルトガル政府およびポルトガルの金融機 関が拠出する負担金を原資に約 49 億ユーロの資本注入が行われた。これが 2014 年に起きた ことである。現在も Novo Banco として営業を続けている。 それから 1 年以上が経過した 2015 年 12 月 29 日に、ポルトガル銀行は、Novo Banco が 継承したシニア債を BES に戻す決定をした 1。 欧州連合(EU)加盟国では、BRRD (Bank Recovery and Resolution Directive)に基づくベ イルインツール(銀行監督当局が銀行の債務を帳消しにする等の「ベイルイン」を行える権限を持 つ枠組み)が 2016 年 1 月 1 日に導入されることとなっていた。ポルトガル銀行による Novo Banco から BES へのシニア債の差し戻しは、銀行の破綻処理において、劣後債に加え、シニア 債も「ベイルイン」してしまうことに近い行為であるものの、ポルトガル銀行による 2015 年 12 月 29 日の前述の処理は、BRRD に基づく処理ではない。シニア債は、劣後債と違って、2014 年 8 月 3 日に債務が受け皿銀行である Novo Banco に継承され「救われた」はずのものであったと ころ、2015 年のクリスマスを過ぎた 12 月 29 日に、その処理が覆され、やはり BES の債務であ るという扱いになったという訳である。BES は銀行免許を保有したまま、存続している。 投資家が団結して関係者を訴えようとしているとの報道は、1 月中旬には流れ飛んでいた 2。そ 1 例 Financial Times, ECB under fire as Portugal hits Novo Banco bondholders, January 7, 2016 http://www.ft.com/intl/cms/s/0/9f276d60-b55b-11e5-b147-e5e5bba42e51.html 2 例 Reuters, Bond holders team up to challenge bail-in for Portugal's Novo Banco, January 14, 2016 http://www.reuters.com/article/portugal-novo-banco-bonds-idUSL8N14Y4K920160114 1 1 新生ストラテジーノート 新生証券株式会社 調査部 して、4 月、運用会社 14 社がポルトガル銀行を訴えた 3。また、別途、BES に対してローンを出し ていた米国系金融機関も訴訟を提起しているとの報道 4もみられる。 この騒動をどう解釈するか―銀行破綻処理のあり方を考える事例として この一連の騒動をどう解釈するべきだろうか。銀行監督当局が一部の債権者に損失負担を求 めたという点で、日本における 1997 年の北海道拓殖銀行の処理を連想させるものがある。日本 では、翌 1998 年に金融機能安定化措置法が制定され、その法律に基づき、日本長期信用銀行 と日本債券信用銀行の破綻処理が行われた。時限立法であった金融機能安定化措置法は、後 に、預金保険法の一部(同法 102 条 1 項等)として恒久化された。その後の日本における銀行破 綻処理は、預金保険法または民事再生法が提供する手法に則り透明性の高い形で行われるよう になった。 ポルトガルの BES のシニア債の処理は、BRRD に基づくベイルインツール導入前の段階での同 国の銀行監督当局(同国の中央銀行)による処置であり、当局がある程度のフリーハンドをもって (悪く言えば恣意的に)処理しようとした点で、1997 年以前の日本における銀行破綻処理に似て 2 いるとも考えられる。 筆者の個人的な見解だが、注目に値するのは、こうした処置によって、損失負担を求められた 債権者またはそのフィデューシャリーは、BES の処理の件に関しては、泣き寝入りする訳ではなく、 銀行監督当局を相手に訴訟を起こしているということである。振り返って、1990 年代の日本で、 そういうことが起き得ただろうか、と想像を巡らしてみる。こうした観点から、銀行の破綻処理はど うあるべきかを考えさせられる事例だと思っている。また、銀行を債務者とする債権は、預金であ れ、社債であれ、債権者にとっては財産であり、銀行監督当局にどこまでその財産を処理する権 限を与えるべきかについても考える材料を提供している事例であるように思う。 (調査部長 江川 由紀雄) 3 Reuters, Fund firms sue Portugal's central bank over Novo Banco debt, April 5, 2016 http://www.reuters.com/article/funds-lawsuit-novo-banco-idUSL5N1781TN 4 Reuters, Auditor warns on Novo Banco legal, Angola risks as sale looms, April 13, 2016 http://www.reuters.com/article/portugal-novobanco-risks-idUSL5N17G2IG 2 新生ストラテジーノート 新生証券株式会社 調査部 3 名称 :新生証券株式会社(Shinsei Securities Co., Ltd.) 金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第95号 所在地 :〒103-0022 東京都中央区日本橋室町二丁目4番3号 日本橋室町野村ビル Tel : 03-6880-6000(代表) 加入協会 :日本証券業協会 一般社団法人金融先物取引業協会 一般社団法人日本投資顧問業協会 一般社団法人第二種金融商品取引業協会 資本金 :87.5 億円 主な事業 :金融商品取引業 本書に含まれる情報は、新生証券株式会社(以下、弊社)が信頼できると考える情報源より取得されたものですが、弊社 はその正確さについて意見を表明し、または保証するものではありません。情報は不完全または省略されたものである ことがあります。本書は、有価証券の購入、売却その他の取引を推奨し、または勧誘するものではありません。本書は、 特定の商品やサービスの勧誘・提供を行う目的で作成されたものではありません。本書で言及されている投資手法や取 引については、所定の手数料や諸経費等をご負担いただく場合があります。また、これらの投資手法や取引について は、金融市場や経済環境の変化もしくは価格の変動等により、損失が生じるおそれがあります。本書に含まれる予想及 び意見は、本書作成時における弊社の判断に基づくものであり、予告なしに変更されることがあります。弊社またはその 関連会社は、本書で取り扱われている有価証券またはその派生証券を自己勘定で保有し、または自己勘定で取引する ことがあります。弊社は、法律で許容される範囲において、本書の発表前に、そこに含まれる情報に基づいて取引を行う ことがあります。弊社は本書の内容に依拠して読者が取った行動の結果に対し責任を負うものではありません。本書は 限られた読者のために提供されたものであり、弊社の書面による了解なしに複製することはできません。 信用格付に関連する注意 本書は、金融商品取引契約の締結の勧誘を目的としたものではありません。本書で言及ま たは参照する信用格付には、金融商品取引法第 66 条の 27 の登録を受けていない者による無登録格付が含まれる場 合があります。 3 著作権表示 © 2016 Shinsei Securities Co., Ltd. All rights reserved.
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