景気循環研究所レポート 米国大統領予備選挙、指名争いの行方 2016 年 4 月 18 日 サンダース氏善戦も、ク リントン氏の指名獲得は 堅い 米国では、民主、共和両党において、大統領候補の指名争いが佳境を 迎えている。民主党では、バーニー・サンダース氏が予想以上の善戦を 見せており、直近実施された予備選では、8州のうち7州で、ヒラリー・ クリントン氏に勝利した。しかし、選挙制度上、サンダース氏が民主党 の指名を獲得することは極めて難しい。 大統領候補の指名争いは、各州に割り当てられた「代議員」を獲得す るレースである。代議員は、夏の全国党大会で州を代表して、大統領候 補に投票する。民主党の代議員には、各州の予備選などの結果が反映さ れる「一般代議員」と、党の重鎮から選ばれる「特別代議員」の2種類が 存在する。この特別代議員が、圧倒的にクリントン氏を支持している。 図1では、各候補が既に獲得した代議員数と、残りの戦いで獲得する とみられる代議員数の予想を示した。クリントン氏とサンダース氏を比 べると、一般代議員数は、接戦といえるが、特別代議員数を加えると、 クリントン氏が代議員総数の過半数を確保することは確実といえよう。 特別代議員は、党大会で自由に投票できるため、サンダース氏が一般 代議員の数でクリントン氏を上回れば、特別代議員の票がサンダース氏 に流れるとの見方もあるが、一般代議員数ですら、逆転は難しい。これ から迎えるNY、カリフォルニアなど代議員数の多い6州は、クリントン氏 嶋中 雄二 景気循環研究所長 鹿野 達史 景気循環研究所副所長 シニアエコノミスト が強く、残り14州をサンダース氏が70%の得票率で圧勝すると仮定して も逆転できない。クリントン氏の指名獲得は堅そうである。 図1.米国大統領候補の代議員数の獲得結果と予想 民主党 宮嵜 浩 シニアエコノミスト 03-6213-6573 miyazaki-hiroshi@sc.mufg.jp (人) 2500 福田 圭亮 2000 シニアエコノミスト 03-6213-2608 1500 fukuda-keisuke@sc.mufg.jp 1000 本レポートは、嶋中雄二の見方に基づ き、宮嵜・福田が執筆を担当しています。 景気循環研究所 東京都千代田区丸の内 2-5-2 三菱ビルヂング 500 特別代議員 (予想) 必要な 特別代議員 代議員数 205 (獲得済) 2383 469 一般代議員 7 (予想) 797 31 一般代議員 850 (獲得済) 1289 1038 0 共和党 (人) 必要な 代議員数 1273 1,500 1,200 900 390 240 600 300 代議員 (予想) 757 536 0 クリントン サンダース (注)予備選の残り20州のうち 、NYなど 6州は世論調査(支持率) を 元に比例配分。 14州については、サン ダース氏が70%の 代議員を 獲得する と仮定した。 (出所)RealClearPolitics, 景気循環研究所 1 トランプ クルーズ 代議員 (獲得済) 108 143 ケーシック (注)予備選の残り16州のうち 、12州は、支持率と選挙方式を 勘案して予想。 4州については、全米ベースの支持率を 、各州の支持率と仮定した。 (出所)RealClearPolitics, 景気循環研究所 2016 年 4 月 18 日 トランプ氏、現状で 他方、3 人の候補が残る共和党の指名争いでは、ドナルド・トランプ氏が、 は、代議員総数の過 代議員総数の過半数を獲得できるかが、焦点となっている。過半数を獲得で 半数獲得は難しい きれば、夏の全国党大会において、決選投票なしで、共和党の大統領候補に 指名される。 前頁図1では、残りの予備選挙について、世論調査の支持率と選挙方式を 勘案して、最終的な代議員数の結果を予想した。不透明な要素は多いものの、 現時点の世論調査から推測すると、トランプ氏が過半数を獲得することは難 しそうである。トランプ氏が、予備選挙で代議員総数の過半数を獲得できな かった場合、上述の通り、決選投票となる 1。 第 1 回決選投票では、各州の代議員は、州の投票結果に拘束されるため、 トランプ氏が 1 位を獲得するとみられるものの、得票数が過半数に達しない ため、再投票となるとみられる。第 2 回決選投票以降では、多くの代議員は、 州の投票結果に束縛されず、自由に候補者を選択できるようになる(図 2)2。 このためトランプ氏が敗北する可能性が出てくる。 1856 年以降、共和党において決選投票となったケースは、10 回あり、その うち 7 回は、最多代議員数を獲得できなかった候補が党の候補に選出されて いる 3。エイブラハム・リンカーン大統領も、予備選挙では、最多の代議員数 を獲得できず、1 位と大差の 2 位だった。 第 2 回決選投票以降では、トランプ氏が不利との見方が少なくない。その 大きな要因は、代議員の選出プロセスにある。代議員の大半は、これまで熱 心に党員活動を行って来た一般の共和党員から選出される。つまり、共和党 の理念に反する発言の多いトランプ氏は、熱心な共和党員の支持を得ていな い。代議員は、第 1 回決選投票では、州の投票結果に拘束されトランプ氏に 投票するものの、第 2 回決選投票では、他の候補に投票する可能性が高い。 図2.共和党の決選投票の流れ 第1回決選投票 第2回決選投票 5%の代議員は州の結果等に拘束されず に党大会で投票できる。 州の結果に 拘束されない 代議員 5% 州の結果に 拘束される 代議員, 95% 第3回決選投票 第2回決選投票では、6割近い代議員が州 の結果に拘束されず投票が可能となる。 第3回決選投票では、8割近い代議員が州 の結果に拘束されず投票が可能となる。 州の結果に 拘束される 代議員, 20% 州の結果に 拘束される 代議員, 41% 過半数を獲得する候補が いなかった場合、第2回決 選投票へ 州の結果に 拘束されない 代議員 59% 過半数を獲得する候補が いなかった場合、第3回決 選投票へ 州の結果に 拘束されない 代議員 80% (出所)NYタイムズ等を参考に景気循環研究所作成 1 2012 年に決められた決選投票へ進む条件は、最低でも 8 州で代議員の過半数を獲得することであった。今回も同条件 が適用されるなら、決選投票へ進むのは、トランプ氏とクルーズ氏となるが、党指導部は条件緩和を画策している。 2 NY タイムズによると、第 2 回投票では、59%の代議員が投票結果にかかわらず自由に候補を選ぶことができるようになる。第 3 回投票では、投票結果による拘束が緩和され、80%の代議員が自由に候補を選ぶことができるようになる。 3 Federalist『Brokerd GOP Conventions Often Produce A Winning President』 巻末に重要なお知らせを記載していますので、ご参照ください。 2 2016 年 4 月 18 日 決選投票なら、共和 既に、上述のような結果となる予兆がいくつも確認できる。例えば、コロ 党候補は、クルーズ ラド州が典型例である。同州は、全米でも珍しく予備選挙や党員集会を行わ 氏の可能性 ない。コロラド州で選出された 34 人の代議員は、既に全員、クルーズ氏を支 持することを表明している。仮に同州で予備選挙が行われていれば、トラン プ氏はかなりの代議員数を確保できていたとみられる。 決選投票となれば、理論上、主流派のケーシック氏や共和党指導部が擁立 を目指すポール・ライアン下院議長が票を集める可能性もある。しかし、全 国党大会で投票するのは、共和党指導部ではなく、あくまでも各州から選ば れた代議員である。 クルーズ氏指名な このようにみると、トランプ氏が代議員総数の過半数を獲得できなければ、 ら、トランプ氏独立 クルーズ氏が決選投票で勝利し、共和党の大統領候補に指名される可能性が 候補に。ヒラリー・ 高そうである。ただし、その場合は、トランプ氏は 11 月の大統領本選に、独 クリントン大統領誕 立候補として出馬するものとみられる。そうなると、共和党の票が割れ、ヒ 生へ ラリー・クリントン大統領が誕生することになるだろう。つまり、共和党に は、党としての意志を曲げてトランプ氏を候補に選出し勝負を託すか、ある いは敗北の道しか残されていないようにみえる。 図3.共和党候補者の代議員数の獲得結果と予想 比例割当 比例割当 勝者総取り 比例割当 比例割当 比例割当 比例割当 比例割当 比例割当 比例割当 比例割当 比例割当 比例割当 比例割当 比例割当 比例割当 比例割当 7 11 50 14 36 11 16 0 42 22 8 13 33 48 8 17 1 9 9 17 18 0 11 12 25 25 0 0 ク ル ズ ケ ル ビ オ イ 日程 シ 州・地域 ク 8 3 0 6 13 12 15 34 18 4 13 15 16 7 1 2 4 0 0 7 1 1 0 5 0 9 0 0 0 16 0 8 8 17 0 12 0 9 0 104 3 0 0 0 8 8 16 5 9 1 0 12 0 2 24 6 1 15 7 7 18 5 0 0 23 0 7 1 0 20 0 0 15 0 0 17 0 17 0 10 9 1 0 0 3月15日 Ohio ルビオ地元 Florida Illinois Missouri North Carolina Northern Marianas 3月19日 Virgin Islands 3月22日 American Samoa Arizona Utah 4月2日 North Dakota 4月5日 Wisconsin 4月19日 New York 4月26日 Connecticut Delaware Maryland Pennsylvania Rhode Island 5月3日 Indiana 5月10日 Nebraska West Virginia 5月17日 Oregon 5月24日 Washington 6月7日 California Montana New Jersey New Mexico South Dakota 代議 員数 66 99 69 52 72 9 9 9 58 40 28 42 95 28 16 38 71 19 57 36 34 28 44 172 27 51 24 29 (注)見通しは主要な世論調査を参考に景気循環研究所作成、”勝者総取り※”は比例割当方式とのハイブリッド。 勝者総取り 勝者総取り 勝者総取り※ 勝者総取り※ 比例割当 勝者総取り 勝者総取り 勝者総取り 比例割当 勝者総取り※ 比例割当 比例割当 勝者総取り 勝者総取り※ 勝者総取り※ 比例割当 勝者総取り※ 勝者総取り 比例割当 比例割当 比例割当 勝者総取り※ 勝者総取り 勝者総取り 比例割当 勝者総取り 4月14日時点 代議員総数 2472 (出所)The Green Papers,RealClearPolitics,景気循環研究所作成 選挙方式 到達予想 ト ラ ン プ ク ル ズ シ ク 0 0 66 0 0 0 9 0 5 15 0 0 27 6 9 0 0 0 1 2 0 1 - 0 0 - 0 40 - 0 -- -- -36 17 - 21 5 - 8 6 - 7 6 - 4 0 36 - 0 15 11 - 7 13 9 - 6 20 14 - 10 87 68 - 45 27 51 12 12 29 757 536 173 143 1,147 776 173 251 (16.4.18 3 イ 0 99 54 37 29 9 1 1 58 0 -6 57 15 16 38 58 9 (以 巻末に重要なお知らせを記載していますので、ご参照ください。 ケ ル ビ オ 上) 福田) 見通し 比例割当 比例割当 比例割当 比例割当 比例割当 比例割当 比例割当 比例割当 ト ラ ン プ ッ 30 23 50 30 50 28 40 37 76 42 38 43 58 155 16 49 29 23 40 46 46 23 19 32 40 59 19 9 選挙方式 ー Iowa New Hampshire South Carolina Nevada Alabama Alaska Arkansas Colorado Georgia Massachusetts Minnesota Oklahoma Tennessee クルーズ地元 Texas Vermont Virginia Wyoming 3月5日 Maine Kansas Kentucky Louisiana 3月6日 Puerto Rico 3月8日 Hawaii Idaho Mississippi Michigan 3月12日 District of Columbia Guam 代議 員数 ッ 2月1日 2月9日 2月20日 2月23日 3月1日 州・地域 ー 日程 2016 年 4 月 18 日 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 本資料は信頼できると思われる各種データに基づいて作成されていますが、当社はその正確性、完全性を保証するものではありません。本 資料で直接あるいは間接に採り上げられている有価証券は、価格の変動や、発行者の経営・財務状況の変化およびそれらに関する外部評価 の変化、金利・為替の変動などにより投資元本を割り込むリスクがあります。ここに示したすべての内容は、当社の現時点での判断を示している に過ぎません。本資料は、お客様への情報提供のみを目的としたものであり、特定の有価証券の売買あるいは特定の証券取引の勧誘を目的と したものではありません。本資料にて言及されている投資やサービスはお客様に適切なものであるとは限りません。また、投資等に関するアドバ イスを含んでおりません。当社は、本資料の論旨と一致しない他のレポートを発行している、或いは今後発行する場合があります。本資料でイン ターネットのアドレス等を記載している場合がありますが、当社自身のアドレスが記載されている場合を除き、ウェッブサイト等の内容について当 社は一切責任を負いません。本資料の利用に際してはお客様ご自身でご判断くださいますようお願い申し上げます。 当社および関係会社の役職員は、本資料に記載された証券について、ポジションを保有している場合があります。当社および関係会社は、 本資料に記載された証券、同証券に基づくオプション、先物その他の金融派生商品について、買いまたは売りのポジションを有している場合が あり、今後自己勘定で売買を行うことがあります。また、当社および関係会社は、本資料に記載された会社に対して、引受等の投資銀行業務、 その他サービスを提供し、かつ同サービスの勧誘を行う場合があります。 三菱UFJモルガン・スタンレー証券の役員(会社法に規定する取締役、執行役、監査役又はこれらに準ずる者をいう)が、以下の会社の役員 を兼任しております:三菱UFJフィナンシャル・グループ、三菱倉庫。 債券取引には別途手数料はかかりません。手数料相当額はお客様にご提示申し上げる価格に含まれております。 本資料は当社の著作物であり、著作権法により保護されております。当社の事前の承諾なく、本資料の全部もしくは一部を引用または複製、 転送等により使用することを禁じます。 c 2016 Mitsubishi UFJ Morgan Stanley Securities Co., Ltd. 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