長焦点深度かつ微小集光可能な半導体レーザーに関する研究 レーザは

長焦点深度かつ微小集光可能な半導体レーザーに関する研究
レーザは、情報を読み書きできる CD、DVD、ブルーレイディスクなどの光記録媒体や、
コンピュータの中枢を支える半導体素子の作製、細胞観察のための顕微鏡など、幅広い
分野で利用されています。このような光技術において、「より小さな集光点」を得るこ
とは、記録容量の増大や、より細かな素子加工、見えなかったものが見えるようになる、
といった技術発展をもたらします。しかし、Abbe の回折限界(0.6×波長/レンズ開口数)
として知られるように、光は波長程度にしか集光できず、またその焦点は、すぐにぼけ
てしまう(焦点深度が浅い)という課題がありました(図(a))。そのため、例えば光デ
ィスクは、赤色(CD)から青色(ブルーレイディスク)の光というように、使用する光の色
を変え(光の波長を短くする)、焦点ぼけに対しては、ディスク揺らぎに対して光源の位
置を制御するような光学系を導入するといった工夫がなされてきました。
一方で、北村氏は、回折限界程度の小さな集光点を得るためには、開口数の高いレン
ズが利用されること、この場合において、入射するレーザビームの有する偏光の影響を
無視することができなくなることに着眼し、レーザビーム強度分布と偏光を最適にする
というアプローチにより、従来のビームよりも小さな集光点を実現し、加えて、焦点深
度をも深くすることが可能であることを見出しました(図(b))。径偏光・狭リング形
状ビームと名付けたこのビームは、
0.4 波長と波長の半分以下まで集光することができ、
かつ 10 波長程度まで光軸上の強度が減衰しない、長焦点深度・微小集光特性を有しま
す。
また、このようなビームを発する光源が存在しなかったため、フォトニック結晶レー
ザというビームの形状や偏光をフォトニック結晶の設計によって自在に制御できる、半
導体レーザに着目し、全く新たなレーザ構造を設計・開発し、この集光特性を実証しま
した。
さらに、多くの光デバイスは、例えば、顕微鏡が集光点における物質からの透過や反
射・散乱などを、我々の目という検出器で観察しているように、集光点における光と物
質とが相互作用した結果を検出するものです。上述の集光点は、ビーム進行方向偏光と
いう、通常の直線偏光などとは異なる偏光状態であることに着目し、その集光点おける
光と物質の相互作用についても明らかにしつつあります。これまでに、通常は光を反射
する金属ナノ構造に対して、この焦点が透過するというクローキング的効果や、電場増
強効果とを理論的に示しています。現在はこのような特性を利用した、新たな微小光デ
バイスの開発を目指しているところです。
本研究成果は、多岐の光技術の高分解能化・高感度化・高精度化を導き、情報・通信、
生命科学、医療などの分野の発展に光源開発の立場から貢献できると期待されます。
本研究の遂行にあたりましては、フォトニック結晶レーザの第一人者である、京都大
学大学院工学研究科 野田進教授および野田研究室にご協力をいただきました。また、
本研究の一部は、JST ACCEL, CREST, 文科省光拠点、科研費の支援を受けました。
主要特許:特許第 5709178 号
「フォトニック結晶レーザ」
主要論文:「Sub-wavelength focal spot with long depth of focus generated by radially
polarized, narrow-width annular beam 」 Optics Express, Vol 18, No. 5,
2010 年 2 月発表
3
入射ビーム
直線偏光ビーム
(ガウシアン)
焦点面から
2波長離れた面
最大強度
10倍
波長
光軸からの距離[波長]
(a)
max
2
(b)
3
入射ビーム
0.7波長
1
0
-1
-2
min
径偏光・狭リング
形状ビーム
-3
-3
-2
0
-1
1
2
3
光軸からの距離[波長]
pp4518-4525
max
2
0.4波長
1
0
-1
-2
min
-3
-3
-2
0
-1
1
2
焦点面からの距離[波長]
焦点面からの距離[波長]
ビームの進行方向
ビームの進行方向
焦点面から
1波長離れた面
波長
焦点面から
2波長離れた面
焦点面
波長
波長
焦点面から
1波長離れた面
波長
3
焦点面
波長
波長
図 直線偏光ビームと径偏光・狭リング形状ビームを集光した場合の、焦点近傍での光強度分
布 (a) 通常の直線偏光ビームの場合、ぼけて広がった像が集光され、焦点面で1波長程度の焦
点を形成する。(b) 径偏光・狭リング形状ビームでは、焦点面から数波長離れても、波長以下
の集光像を形成する。