今後の原子力エネルギー 研究開発の進め方 近藤駿介 東京大学大学院工学系研究科 原子力エネルギー開発利用 原子力長計における考え方 原子力発電はエネルギー供給システムを安定性に優れ、 二酸化炭素排出量の少ないものとするのに寄与でき、 しかも経済性もあるから、基幹電源に位置付け、技術の 高度化を図りつつ、最大限に活用していくべき。 市場の自由化によりエネルギー間競争を促進することは 国際競争力を維持するために重要だが、並行して外部不 経済の内部化を図るなど適切な規制,誘導政策を通じて、 電源構成に占める原子力発電等の割合を公益の観点から 適切なレベルに維持していくべき。 国は、原子力エネルギー技術を含む公益性の高い技術の 研究開発を人類の持続的発展に貢献するべく、長期的観 点に立って推進すべき。 背景にある問題意識 現在、エネルギー資源価格が低位かつ安定に推移し ていて、世界的には、エネルギー供給業者にとって、 設備費がコストに占める割合の大きい原子力発電の 新設は、資本回収期間が長いため経営リスクが大き いとして魅力に欠けるとされる。わが国は島国で事 情が同じではないが、自由化の進展で、そうした判 断に傾くことが多くなると予想される。 現在のCO2排出削減策は効率向上と石炭からガスへ の燃料転換が中心。これが一巡すると、世界的にも 再生可能エネルギーと原子力への期待が高まると予 感。環境影響に係る外部性の内部化は、この動きを 加速する効果がある。 背景にある問題意識 (続き) 将来のエネルギー供給を支えるのは再生可能エネル ギーと原子力。炭素回収技術が実用化すれば炭化水 素資源は利用可能であるが、それは炭化水素資源の 便利さを阻害するので、大規模集中利用に限定。 移動体に便利な燃料を巡る競争の予感。 国が使命感をもって、長期的観点からの研究開発活 動を実施することはわが国の望ましい生き方。 原子力研究開発は、人類の将来の選択肢を豊かにで きる、競争力の高いエネルギー供給技術を産み出す 可能性を多く内包するので、国はこれの研究開発を 継続することが適切。 使命指向のエネルギー研究開発 が留意すべきこと 研究開発にはリスクがある: 課題は必ず達成されるわけではない。 課題が達成されても、市場条件が変化して当初 期待された効果が実現できないこともある。 使命達成の可能性に係るリスク管理が必要: 評価:研究開発の進展に伴う課題達成の見通し や市場条件の展望の評価を定期的に行い、 管理:その結果を踏まえて各課題に対する投資 規模、その優先順位を変更していくこと 研究開発のポートフォリオをどうするか 短、中、長期の時間的枠組み別課題の積み上げ 短期課題 : 中期課題: 既存の資産を有効に使うための技術導入活動 タフネス、決意、細部への配慮が求められる 既存の資産を代替する次世代技術の実用化活動 リスクを賭して資本を活用する意思が求められる 長期課題: 新市場開拓を目指す技術や将来の代替技術の探索活動 想像力と技術的冒険心が求められる 新しい情勢 総合科学技術会議の設置による研究開発活 動の目標管理の充実 国の科学技術研究開発費に占めるエネルギーや原 子力研究開発予算の割合の妥当性の論議 5年毎の見直し:早期のリターンの要求、その可能 性に基づく優先順位づけと長期課題の位置付け 原子力研究開発組織の単一化と独立行政法 人化の決定 中期計画の明確化の要請:研究開発は不確実性が 高いーこの現実をどう反映させ、評価するか。 資金の確保 わが国の科学技術研究支出( 2000 年、単位:億円) 年、単位:億円) エネルギー研究開発の重要性 2050年の世界のエネルギー需給見通しの例 需要:18Gtoe(2000年の倍) 供給:石油 3.5、 天然ガス 4.5、 石炭 ルギー 1.5、原子力 4 4.5 、再生可能エネ 環境保護に貢献し、経済性があり、信頼できること。 エネルギー供給系統に特殊な条件を課さず、分散 電源、ネットワーク化社会、水素社会と共存 炭素固定技術、再生可能エネルギーと競争・協調 (相互補完)できること 米国における技術トレンド予測 TOP Strategic Technologies for 2020 Battelle by Genetic-based medical and health care High-power energy packages GrinTech ( green integrated technology) Omnipresent computing Nanomachines Personalized public transportation Designed foods and crops Intelligent goods and appliances Worldwide inexpensive and safer water Super sense (virtual reality) S&T issues of national importance on which Bush administration should focus policy attention, prepared by RAND Safety and Security Issues Strengthen the national aviation system Review US export controls on sensitive technologies Reassess national missile defense options Continuing Challenges to America Rethink global climate change policy Anticipate energy crises Improve education research S&T issues of national importance on which Bush administration should focus policy attention, prepared by RAND (2) New Challenges That Require Greater Government Attention Protect critical infrastructures Manage the capabilities of genomic technologies Meet the governance challenges posed by emerging technologies The remaining challenge Coordinate federal research priorities to best serve the public interest. 科学技術と社会 科学技術の進歩はこれからも激しい。同時に科学技術の 役立つ分野は益々拡大、深化。特に異分野の共同作業、 生物原理の応用が注目され、基礎研究と応用研究が フィードバックを繰り返して発展する。 基礎と応用の仕分けがし難くなり、異分野交流が重要: 異分野が共進化することを踏まえて、マトリックス型 フィードバックモデルに従う知識の発展の時代に相応 しいマトリクス型ポートフォリオを。 これらを支えるのは基礎研究。目的指向研究の重要性、 効果性の高まりのなかで、これを、特にリスクの高いそ れの推進体制を守ることが重要。 科学技術と社会 政府の役割は、長期基礎研究、資本を要する長期的に 利益のある応用研究、国家枢要技術インフラの整備。 しかし、 特定産業分野・技術の支援は公益⇔市場選択の阻害 短期に結果を求める声に押され応用研究への傾斜傾向 それ故進む基礎研究分野の国際共同作業は国益に適うか。 研究と応用の結びつきの強まり、公衆の投資に対する関心の 高まりを踏まえれば、使命達成のためのポートフォリオ管理 の強化は重要。 研究開発組織は、成果が社会規範からみた正当性や人々 の大事にする価値に整合するよう、開発過程において 公衆とのネットワーキングを通じて相互学習すること が重要。 3層構造の研究開発ポートフォリオ 戦略1:革新技術(ET*)の探索活動 戦略2:革新技術(ET)の実用化活動 原子力技術に革新をもたらす技術候補の原理の実 証、プロトタイピング活動 競争力を高める革新技術の実用化活動 戦略3:現在技術(PT)の改良・高度化活動 現在技術を最大限に利用するための改良・高度化 技術の開発活動 *有望技術(Enabling Technology) 結 論 原子力を長期にわたって人類の選択肢とするための研 究開発をエネルギー研究開発の重要な構成要素として、 長期的観点に立って推進すべき。 そのポートフォリオはETの探索、ETの実用化、PTの 持続とすべきだが、科学技術の進歩が今後も著しいこ と、及び、その有用性が異分野の共同により実現され ることに留意して課題探索を怠らぬことが重要。 ポートフォリオ管理には、技術目標達成可能性に加え て、環境保護に貢献し、利益があり、信頼でき、民主 的という新しい時代の要請を学習し、これに応える技 術、炭素固定技術、再生可能エネルギーと競争・協調 (補完)できる技術という視点が重要。
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