“フッ素”化合物の自在な化学合成を目指して 薬学部 江上寛通、川戸勇士、濱島義隆 “フッ素”はホタル石等の鉱物として自然界に広く存在しますが、我々生物が利用できる天然の有機 化合物中には “フッ素”はほとんど含まれておりません。一方で、我々の日常生活では“フッ素”を 含む多くの化合物が活躍しており、身近な存在となっています。医薬化学研究においても、その特異な 性質を利用した含“フッ素”化合物が多く利用されており、現在上市されている医薬品の内、約20% に“フッ素”が含まれています。 我々の研究室ではこの“フッ素”に着目し、如何にして分子に導入し新しい化合物を獲得するか、と いう観点から研究を行っております。その一環として本研究では、1つの炭素上に3つの“フッ素”を 持つトリフルオロメチル基の新たな導入法を開発致しました。今回開発した種々の反応により、生物活 性物質中に散見される複素環等の有用な分子骨格にトリフルオロメチル基を持たせる事が可能となり ました。現段階ではその適応にはいくつかの制限がありますが、実践的な応用研究への展開が期待され ます。 テーマ:トリフルオロメチル化および 18F 導入を指向した試薬開発 糖尿病治療に新たな光~インスリン分泌細胞を増やして治す?~ 薬学部 金子雪子、石川智久 2 型糖尿病は血糖降下ホルモンであるインスリンの作用不足により高血糖状態を呈する疾患です。近 年、1 型糖尿病のみならず、2 型糖尿病でもインスリン分泌細胞である膵臓 β 細胞の脱落が進み、β 細胞 量が減少していることが報告されています。したがって、β 細胞量を増加・維持することは、糖尿病を 治療する上で非常に重要です。現在臨床で用いられる糖尿病治療薬の中で、β 細胞を標的とした薬はイ ンスリン分泌を促す薬のみで、β 細胞自体を増やす薬というのはありませんでした。私たちは、β 細胞 でジアシルグリセロールを代謝する酵素(ジアシルグリセロールキナーゼ)の働きを抑えることで、β 細胞増殖が亢進し、血糖上昇を抑えることを見出しました。この研究成果は、自らの β 細胞を増やすこ とで、インスリン不足を補うという新たな視点での糖尿病治療標的となる可能性を秘めていると考えて います。 タイトル:膵 β 細胞増殖による新規糖尿病治療薬の開発を目指した脂質シグナル制御解析 -1- ポリケタイド合成酵素の発見と生理機能の解明 食品栄養科学部ケミカルバイオロジー研究室 准教授 鮒 信学 フラボノイドは抗酸化作用を有するものが多く、食品中の有効成分として日常の食事で摂取されてい る。また、フラボノイドは、サプリメントや食品添加物としても利用されている。以前、私たちは花が フラボノイド色素を作り出す酵素(カルコン合成酵素)と似た酵素が、微生物に存在することを突き止 めた。また、特に放線菌には花と同じように色素を作り出す機能があることを発見した。今回、私たち はカルコン合成酵素に似た酵素が、細菌の一種でメラニン(DHNメラニン)の合成に関与することを発 見した。 DHNメラニンはカビに広く分布するメラニンであり、一部のカビでは植物への感染に必須であ る。細菌から DHNメラニンが発見された例は今回が初めてであるが、植物病原菌の一部にも DHNメラニ ンを作り出す遺伝子があり、細菌の DH Nメラニンの生理的意義に興味が持たれる。 テーマ:放線菌由来の新規酵素の発掘研究および物質生産への応用 中国からの越境汚染の影響を調べるため 大気中のホウ素同位体を利用する 食品栄養科学部 坂田 昌弘、光延 聖 近年アジア諸国の経済発展に伴い、大量の大気汚染物質が放出されています。とりわけ中国では、一 次エネルギー消費に占める石炭の割合は約 70%となっており、石炭燃焼に由来する各種有害化学物質 (重金属や多環芳香族炭化水素など)の越境汚染による日本への影響が懸念されています。それらの化 学物質による人の健康や生態系へのリスクを評価するためには、中国での石炭燃焼の寄与率や日本への 輸送経路を明らかにすることが重要です。それには、石炭燃焼が主要発生源であることが明確なトレー サー(追跡可能な指標物質)を利用することが有益です。そこで当研究室では、石炭の主要成分の一つ であるホウ素の同位体(実際に測定するのは質量数 10 と 11 のホウ素同位体比)に着目し、石炭燃焼起 源物質のトレーサーとしての有効性を調べています。大気中のホウ素はガス状および粒子状で存在し、 気温に依存して両者の比率や同位体比が変化することが予想されます。ホウ素同位体を上記のトレーサ ーとして利用するためには、それらの変化がどの程度であるかを明らかにする必要があります。本発表 では、静岡市(本学キャンパス)において約 1 年間にわたって観測した結果について報告します。 タイトル:大気中のガス-粒子間におけるホウ素の分配とその同位体分別 -2- 静岡発ハラールサプライチェーンモデルの構築とムスリムツーリズム振興 国際関係学部 富沢寿勇 ハラール産業はムスリム消費者に対応できる産業諸分野を指し、ムスリムにも安心な原材料を提供で きるサプライチェーンが重視されます。一般には個々のハラール企業の成立を前提にハラールサプライ チェーンを構想しますが、本研究では発想を逆転させ、日本などの非イスラーム圏ではハラールサプラ イチェーンの構築をまずめざしつつ、各企業が互いに不慣れなハラールについて情報交換し、原材料の 授受で連携・協力することで、個々のハラール企業が成長すると考えました。具体的には食品卸の富士 農商事との共同プロジェクトの成果を例示します。同社は600社近くの企業ネットワークを持つため、 ハラールサプライチェーンの構築には理想的な立場にあり、同社中心に複数の食品企業の意見・情報交 換会を重ね、ムスリムに適合した静岡特有の食品、食材は何かを共同研究しました。その成果を集約し て「ムスリム静岡おもてなしガイドブック」を作成し、地域の特色を生かしたハラール食品開発のため のサプライチェーンを例示し、これに基づいてムスリム観光誘致の地域モデルを提唱しました。これは 他地域の類例には見当たらない独創的で画期的なガイドブックになっています。 テーマ:静岡県を中心とするムスリムツーリズムとハラール産業振興のための比較研究 -3- オープンデータと SNS 解析による観光リソース適切配置のための 回遊行動モデリング 経営情報イノベーション研究科 ICT イノベーション研究センター 斉藤和巳 情報発信施設の適切な配置技術を確立するとともに、観光スポット巡り、街の食べ歩きなどする回遊者 に対し、便利かつ適切なルートを提示可能な情報推薦技術を提供し、このような回遊者の満足度を向上 させ、リピータを増やすことで、地域経済や産業の活性化を実現することを目的に、研究プロジェクト を進めています。本技術により、オープン道路網データ、ソーシャルメディアデータを利用し、Wi-Fi スポットなど情報発信施設を適切に配置し、多くのユーザが同時に興味を持つ観光スポットや店舗の組 合せの情報発信が可能になります。本研究推進においては、ICT イノベーション研究センターを中心に、 産官学民の連携活動を有機的に結合させた、より優れた研究体制の実現も目指しています。今後は、こ のような技術の応用として、地域住民にとって安全・安心な生活の基盤となる防災・減災システムの構 築に向けた基本技術の確立を目指した研究開発も積極的に展開します。 テーマ:回遊モデルに基づく観光支援システムの構築 住み慣れた地域で最期まで暮らすための最善の看護活動を目指して 看護学部 冨安 眞理、今福恵子 地域包括ケアシステムは、住まい・医療・介護・介護予防・生活支援から、地域住民を支え、地域で 最期まで暮らすための仕組みとされます。人口規模が小さい市区町村における地域包括ケアの課題とし て「地域住民のニーズと比べて、利用できるサービスが少ない」、 「24 時間・緊急時対応という考え方が、 実態と一致しない」等があげられています。 こうした地域包括ケアの課題をもつ人口 3 万人の地域で働く看護職とともに「参加型アクションリサ ーチ」を行う機会を得ました。質的調査結果から、在宅療養支援の課題 ①退院支援の課題 ②退院調 整の課題 ③本人と家族の在宅療養を支える資源開発の課題、が明確となり、最善の看護活動として、 地域特性を考慮した本人と家族の意思を尊重した支援を研修プログラムに位置づけることができまし た。この報告では、看護職連携研修会、事例検討会の実施とその評価や行政の事業計画へのフィードバ ックといった取り組みのプロセスをお示ししたいと思います。 テーマ:住み慣れた地域で最期まで暮らすための最善の看護活動に関する研究 -4- 健康寿命延伸のためのヘルスケアポイントを用いた歯科保健プログラム 短期大学部・講師 森野 智子 経営情報学部・准教授 東野 定律 静岡県健康福祉部健康増進課 坂本友紀 短期大学部・講師 山本 智美 看護学部・准教授 冨安 眞理 静岡県歯科医師会理事 山本 繁 我が国では、感染症対策や環境衛生の改善をはじめとする様々な公衆衛生・保健医療施策の推進や社 会経済の発展を受けて人々の寿命が延伸した結果、超高齢社会の進展による医療・介護費などの社会保 障費増加や仕事と介護の両立困難による働き盛り世代の介護離職などの様々な問題が深刻化している。 このような問題の改善・解決を目指す健康長寿社会の実現に当たっては、医療技術の向上や社会保障施 策の充実といった政治の側面からの対策だけでなく、人々が、具合が悪くなったら受診するという受動 的医療依存の生活から脱却し、経済的負担の少ないセルフケアによる健康増進が促進されるような社会 システムを構築することも必要不可欠だといえる。 本研究で取り扱う「ヘルスケアポイントを用いた歯科保健推進プログラム」とは、そのような観点に 立った新たな施策であり、歯科健診や定期受診などの歯科保健行動に対してポイントを付加し、蓄積さ れたポイントが歯科衛生用品として還元されるというものである。ポイントシステムの「お得と楽しさ」 を歯科保健行動の契機として、そのポイントを健康と結び着けることによって自身の保健行動が健康に 及ぼす影響を自覚し、ヘルスケアに対する態度の変容や継続的な利用へと導く方策であると考えられる。 テーマ:健康寿命延伸のための住民参加型高齢者歯科保健推進プログラムに関する研究 静岡県立大学が、「しずおか」のために出来ること —地(知)の拠点としての挑戦 「ふじのくに」みらい共育センター(C OCセンター)長、兼食品栄養科学部長 合田敏尚 文部科学省「地(知)の拠点整備事業(COC事業)」の一環として、CO Cセンターが中核となり、 「ふ じのくに『からだ・こころ・地域』の健康を担う人材育成拠点」の形成に取り組んでいる。本事業は、 しずおか」の健康長寿社会と文化を支え、地域コミュニティの中核的存在となるための静岡県立大学の 挑戦である。 教育面では「しずおか学」科目群の充実を図り、学部横断による多職種連携演習を実施した。研究面 では「健康づくり」、 「人口減少問題」、 「地域づくり」の3つのテーマごとに分野や立場を超えたワーキ ンググループ(WG)を作り、地域志向研究プロジェクトを開始した。健康づくり WGでは、静岡市及び 牧之原市と連携し、在宅医療・介護における専門職チームの課題や地域高齢者の食事支援ニーズを整理 し、研修教材を開発した。人口減少問題 WGでは、伊豆市、島田市、牧之原市をモデルとして、子育て 支援、独自の QOL指標による魅力の発信、高大市連携による学生支援の視点から解決策を提言した。地 域づくり WGでは、静岡及び牧之原の「みらい交流サテライト」における課題解決の端緒を探るワーク ショップ等の実施により、交流の場づくりを加速化させた。 テーマ:持続可能な健康長寿社会とその担い手づくりとしての大学の役割 -5- パンデミックウイルス予備軍に迫る! H7N9 型鳥インフルエンザのノイラミニダーゼの性状解析 高橋忠伸 1、紅林佑希 1、田本千尋 1、河岡義裕 2、鈴木 隆1 1 静岡県立大学薬学部生化学分野、2東京大学医科学研究所・ウィスコンシン大学獣医学部 2013年の 3月、中国で H 7N9型鳥インフルエンザウイルスの人への最初の感染が確認されて以来、200 人以上にこのウイルスの感染が確認され、5 0人以上が死亡しています。この H7 N9型ウイルスは人から 人への感染伝播は確認されていないものの、今後、世界規模の大流行(パンデミック)を発生させる危 険性があります。このウイルスの性状を解析することは、世界規模の公衆衛生上、極めて重要です。そ こで、現在臨床で利用されている抗インフルエンザ薬の標的になっているノイラミニダーゼと呼ばれる ウイルス表面糖タンパク質の性状について、ほぼ毎年流行が見られる季節性の人インフルエンザウイル スと過去にパンデミックを起こした人インフルエンザウイルスのノイラミニダーゼの性状と比較しま した。ノイラミニダーゼの性状が人のウイルスに近いのか、鳥のウイルスに近いのかを判断することで、 H7N9型鳥インフルエンザウイルスが今後パンデミックを起こしやすいのかが分かるかもしれません。 テーマ:2013 年に中国でヒトに感染した H7N9 型トリインフルエンザウイルスのノイラミニダーゼおける、 ウイルス増殖性およびパンデミック発生に関与する「酸性安定性」の性状解析 次世代医薬品の新しい血中薬物濃度分析法をつくる 薬学部 轟木堅一郎,東京農工大・工 池袋一典, 岐阜薬大・薬 林 秀樹,静岡厚生病院 坪井声示 最近のガンや関節リウマチなどの薬物治療では,次世代型医薬品である抗体医薬の利用が進んでいま す。抗体医薬は疾患部位に対する選択性が高く,副作用も少ないのですが,その反面,非常に高額であ るという問題があります。そのため,有効治療域濃度の維持や投与計画の設定,適正使用などを目的と した血中薬物濃度分析の必要性が高まっています。低分子医薬品とは異なり,抗体医薬の血中濃度分析 は非常に難しく,従来法では高額な分析装置などが必要となります。これに対し私達は,抗体や DN Aア プタマーなどといった薬物を選択的に認識する分子を捕捉剤とした新しい分析法を開発しました。開発 した分析法は大掛かりな装置を必要とせず,十分な感度で簡便かつ高精度に血中薬物濃度分析が可能と であったことから,将来,臨床診断や製薬研究などでの利用が期待でき ます。 研究テーマ:分子認識素子の新規探索技術 F-SELEX 法の開発と臨床薬物濃度解析への適用 -6- 肥満の根本的原因から予防・改善法の確立を目指す 薬学部・助教 山口賢彦 糖尿病やメタボリック症候群の発症には、内臓脂肪の蓄積が深く関係していることが最近の研究から 明らかとなってきています。肥満に伴って内臓脂肪が蓄積する原因の 1 つは脂肪組織にいる幹細胞(以 下、脂肪幹細胞と呼びます)が増殖して脂肪細胞になることです。したがって脂肪幹細胞をターゲット とし、その増殖と脂肪細胞への分化を抑えることで肥満を予防・改善する新たな方法が確立できると考 えられます。そこで最初に生体内では脂肪幹細胞の数と性質がどのようなメカニズムで制御されている のか解明することを目指しました。脂肪幹細胞において豊富に存在し、かつ、機能的に働いている因子 を探索したところ、Nuclear receptor 4a1/2/3 (Nr4a1/2/3) と呼ばれる核内受容体を発見しました。 Nr4a1/2/3 は cAMP シグナルによって発現量が増加し、細胞の増殖と脂肪細胞への分化を抑制するこ とが明らかとなりました。今後は Nr4a1/2/3 の量や機能を調節する化合物を食品成分などから探索する ことで、脂肪幹細胞の制御による肥満予防法の開発が期待されます。 テーマ:脂肪幹細胞(間葉系幹細胞)の未分化性維持における核内受容体 Nr4a の機能解明 代表的な小児呼吸器ウイルスを短い時間で簡単に検出! しかもウイルス分離も楽に! 高橋忠伸 1、紅林佑希 1、上り口 敬 1、鈴木千尋 1、大坪忠宗 2、池田 潔 2、南 彰 1、鈴木 隆 1 1 静岡県立大学薬学部生化学分野、2広島国際大学薬学部 小児呼吸器ウイルスとして代表的なヒトパラインフルエンザウイルスは、5歳未満の小児ウイルス性 肺炎の原因の 2割を占める病原ウイルスです。少子化社会の日本では、医療上の重要度が増しているウ イルスです。ヒトパラインフルエンザウイルスの仲間には、感染した細胞が死ににくいためにはっきり とした感染細胞が見られず、ウイルスの検出や分離が難しいものがあります。そのため、このウイルス のワクチンや薬は無く、研究もあまり進んでいません。今回、ヒトパラインフルエンザウイルスが持っ ている酵素を利用して、速くて簡単に感染細胞を光らせる方法を開発しました。感染細胞を生かしたま まで光らせることで、ウイルスの分離も楽になりました。この方法はヒトパラインフルエンザウイルス の検出や分離を簡単にすることで、今後のウイルスの研究や治療法の開発に大きく役立っていくものと 期待されます。 今回開発した方法でヒトパラインフルエンザウイルスの感染細胞(左)と 感染細胞の集団(右)を光らせた写真 テーマ:シアリダーゼ活性の蛍光染色剤を利用したヒトパラインフルエンザウイルスの簡便で迅速な 検出技術および分離技術の確立 -7- 地域の誰もが気軽に集う居場所づくり ~災害時には要援護者の小地域支え合い福祉避難所を目指して~ 短期大学部 江原勝幸 少子高齢化が進む我が国は、家族構造が大きく変わり、家庭や地域の力が弱まることにより、孤独や 孤立などが社会問題化しています。プライバシーが重視され、人々のライフスタイルが大きく変化する 中で、お互い様やおすそ分けなど隣近所の関係も脆弱化し、地域社会のありようが問われています。 そこで注目されているのが「地域の居場所」です。地域の「茶の間」 「縁側」 「居場所」など呼び方は 様々ですが、地域の住民誰もが集い、語らい、和み、つながる交流の場として様々な形で展開されてい ます。現在の福祉サービスは、高齢者、障がい者、児童など縦割りのサービス提供が行われ、要件に満 たないとサービスが受けられません。サービス内容も画一的です。地域の居場所は、対象を絞らず、い つ来ても、誰が来ても暖かく迎えられ、地域の誰もが気軽に集い、お茶を飲みながら気兼ねなく自由に 過ごせる寄り合い処です。 また、地域の大きな課題のひとつは、災害時の高齢者や障がい者など要援護者の支援です。平時には 居場所として地域住民が交流し、ここに集まる方々の顔の見える関係を活かして災害時には地域の要援 護者支援の拠点として機能する仕組みづくりを目指しています。 テーマ:地域の居場所「カフェ蔵」を活用した災害時要援護者支え合い支援モデルの構築 静岡発!介護職員のキャリアパス(キャリアを積む道)を支える 研修パッケージの開発 短期大学部社会福祉学科 講師 鈴木俊文 この研究は、介護職員のキャリア開発にかかわる実務者の「手ごたえある経験」や「困りごと」等を 事業種別・経験年数毎に比較し、その結果を基にキャリア形成過程で芽生える研修二―ズの類型化と、 それに対応した研修パッケージの開発を目指しています。介護サービスの多様化は、介護ニーズの多様 化・高度化であると同時に、介護人材のキャリアパスの多様性も伴っています。こうしたなか、静岡県 ではいち早く「キャリアパス導入支援」に踏み出し、介護事業所がキャリアパス導入に乗り出せるよう 支援的な環境整備を進めてきました。しかし、キャリアパスは、小規模事業所では扱いにくい等の課題 や、キャリアパスに係る研修体系も年々量的な充実度を増す一方で「事業種別」や「経験年数」の特性 からなる実務の実態をふまえたモデル化の検討は十分に行われてきませんでした。本研究は、こうした 課題に対応するために、介護職員のキャリア形成過程とそれに伴う実務の変化を実態的に捉え、それら を支える研修パッケージの開発を静岡県社会福祉協議会、静岡県介護福祉士会と連携し取り組んでいま す。 テーマ:介護職員のキャリアニーズに基づく研修パッケージ(静岡モデル)の開発 -8- 日本語文章作成力 UP で、学習と就職に差をつける! 国際関係学部 坂巻静佳・竹部歩美・米山優子 大学のレポートや卒論で、就職活動で、そして卒業後も、文章のみで相手に伝えなければならない場 面は数多くあります。文章を書くには、その前提として、その言語における文章の書き方のルールとマ ナーを知る必要があります。それは外国語のみならず母語でも同じことであり、日本人が日本語で文章 を書く場合にも当然にあてはまります。 とりわけ文章の書き方のルールとマナーは、単語や文法と異なり、日常的な会話のなかで必ずしも身 に着けられるものではないので、意識的な学習が必要となります。これらの技術は、知れば誰もが使う ことのできるものです。そして、この技術を知っているか否かで、文章の読みやすさも、相手に伝わる 度合いも大きく変わってきます。 私たちは、国際関係学部生の日本語作文の基礎を短期間で鍛えることを目指し、独自のテキストを作 成して、「日本語作文ワークショップ」を開催しました。おかげさまで、参加した国際関係学部生から は、レポート・卒論に役立つとの高い評価をいただきました。この経験を踏まえて、テキストや教え方 を改善し、今後も日本語作文能力向上のための効率的かつ実践的な教授法を追及していきたいと考えて います。 テーマ:日本語作文の実効的教授法 日本の開発経験の途上国への支援 — ODA による民間セクター支援のインパクト分析 静岡県立大学国際関係学部准教授 島田剛 イ) アジア型開発モデルが発展途上国へ適用可能かどうかについてはこれまで多くの研究がなされてきてい るが、近年、産業分野、経営的人的資本に特化した研究が盛んに行われている。本件研究は、そうした 流れの中で日本的経営の一つの特徴であるカイゼンを経営的人的資本の一つとして焦点をあて、途上国 への適用可能性について JICA(国際協力機構)よりデータの提供などを受けつつ定量的に研究を行った ものである。経営的人的資本の重要性は Bruhn et al. (2010)および McKenzie and Woodruff (2012)がその重 要性を強調して以来、経済成長にとっての主要な要素として見直されてきている。 ロ) 本件研究はこうした状況に鑑み、スケールアップをいかにするかという観点から定量的なインパクト分 析(必要に応じて定性的分析も)を行ったもの。その結果、賃金の上昇、雇用の確保、労働環境の改善 など、これまでの論文で研究されてこなかった社会的側面へのインパクトが明らかになった。 ハ) 今後、さらに分析を続けるとともに将来的な日本の ODA(政府開発援助)政策へのフィードバックする ことを目的としている。 テーマ:アジア型開発モデルの発展途上国への適用可能性への検討 – 民間セクター開発における制度構築を中心とした分析 -9- 地域の宝・在来作物の継承と活用を目指して 国際関係学部助教・松浦直毅 在来作物は、地域の気候風土に適し生活や文化に深く根ざした作物であり、それぞれの地域で農家自 らが「たねとり」をすることによって代々継承されてきました。しかし、少子高齢化と農業人口の減少 によって後継者が不足しており、その多くが消滅の危機にあります。その一方で、画一化された栽培品 種が優勢する現代において、独自の価値をもつ地域資源として再評価もされており、その保全と継承が 重要な課題となっています。 本研究では、作物としての特性だけでなく作物をめぐる地域文化の諸相を明らかにすることを目的に、 中山間地域を中心とする静岡県内の在来作物を対象に、現地調査をおこなってきました。また、調査の 成果をふまえて、掛川市横須賀地区を重点地区と位置づけ、他大学をふくむ教員・学生、民間関係者、 地域住民の方々とともに、在来のサツマイモであるニンジンイモを活用した地域デザインを考案するこ とを目指した取り組みも進めています。 テーマ:静岡県中山間地域における文化/自然資源の継承と活用に関する研究 大航海時代における日西交流と静岡――カトリック世界宣教と多文化主義 国際関係学部准教授 松森奈津子 2013年から2 014年にかけて、徳仁親王、フェリペ皇太子(のち国王)を名誉総裁とする「日本スペイ ン交流400周年事業」が展開され、各地で日西関係をめぐる事業が多数開催されました。これは、1613 年に仙台藩が本邦初の公的使節団(慶長遣欧使節団)をスペインに派遣したことを記念し、相互理解の 促進を目的になされたものです。 こうした日西関係興隆の気運を受けて、本県でも、「徳川家康公顕彰400 周年記念事業」の一環とし て、2016年4 月に「歴史」と「健康長寿」をテーマとする「日本・スペインシンポジウム」を開催し、 両国の学界・政財界関係者の知的交流を図ることが予定されています。これは、家康が房総半島沖で難 破したスペイン船の乗組員を厚遇し、フェリペ3世から返礼として金時計を贈られたとされる史実に基 づき、交流の源としての静岡をアピールするものです。 本研究は、いわゆるグローバリゼーションの端緒として脚光を浴びている大航海時代の日西関係を、 とりわけスペインによるカトリック世界宣教の観点から考察する試みです。同時に、仙台や長崎以外に も意義ある日西交流史が存在したことを、静岡から発信することを目的としています。 テーマ:大航海時代における日西交流と静岡――カトリック世界宣教と多文化主義 - 10 - 歌人吉井勇の流離時代の研究―手稿ノート・書簡資料をもとに 国際関係学部 細川光洋 伯爵歌人吉井勇は、妻の醜聞事件に関連して、昭和 9 年から足かけ5年に及ぶ流離隠棲の時代を過ご した。その中で、昭和 11 年末から同 12 年の春にかけて静岡の風流人士のグループ「可美古会」の招き を受け、静岡市中田に仮寓し「迷悟庵」時代とよばれる一時期を過ごしたことはあまり知られていない。 この駿河の地で、吉井勇は若山牧水に次ぐ数の「富士の歌」を詠んでいる。本研究は、県内各所に残さ れた吉井勇の書簡や揮毫資料をもとに「迷悟庵」時代を検証し、その足跡や歌を文化的な財産として継 承していくことを目的とする。併せて、本年生誕 130 年を迎える吉井勇の研究動向について、新たに発 掘された資料などをもとに発表したい。 テーマ:吉井勇の静岡「迷悟庵」時代の研究並びに静岡近代文学資料の調査・ - 11 -
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