“ひと”と“環境”に優しい ふるさと いわて農業プラン (平成 25~30 年度) 平成25年3月 (平成28年3月一部改正) 岩手県農林水産部 目 Ⅰ 次 プラン策定に当たっての基本的な考え方 ・・・・・・・・・・・ 1 Ⅱ 基本方針 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6 Ⅲ 施策の推進方向 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7 Ⅳ 推進指標 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7 Ⅴ 施策の具体的方策 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9 1 環境に優しいふるさと農業の展開 ・・・・・・・・・・・・・・ 9 ~環境と調和した農業の推進~ 2 ひとに優しいふるさと農業の展開 ・・・・・・・・・・・・・・ 13 ~全国トップレベルの「安全・安心産地」の形成~ Ⅵ 具体的な推進方策(工程表) ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 16 Ⅰ 1 プラン策定に当たっての基本的な考え方 環境保全型農業推進にかかるこれまでの取組み (1)本県では、これまで化学肥料、農薬の使用等による環境負荷の軽減に配慮した環境保全型農業*1 を推進し、特別栽培農産物*2 等の生産や持続性の高い農業生産方式の導入に取組む農業者(エコフ ァーマー*3)の拡大など、全国トップクラスの環境保全型農業の先進県を目指し、取組を進めてき ました。 (2)平成 20 年1月には、消費者等の環境保全や農産物の安全安心への関心の高まりを背景に、 「岩手 県環境と共生する産地づくり基本計画」 (以下「基本計画」という。 )を策定し、県や農業団体が生 協等と連携して「環境と共生する産地づくり運動」を展開した結果、「基本計画」で設定した推進 指標は概ね達成され、環境保全型農業や安全・安心な農業生産の取組の先進県として成果を上げる ことができました。 表1 基本計画の推進指標の達成状況 計 画 の 推 進 指 標 推進目標(H23) 実 績(H23) 計画策定時(H18) (1)環境保全型農業実践者数(人) 30,000 人 28,450 人 15,000 人 (2)農業生産工程管理(GAP)*4 導入 産地(産地) 50産地 66産地 0産地 (3)トレーサービリティシステム導入産地(産地) 50産地 62産地 15産地 (4)環境保全型農業の認知度(%) (5)環境保全型農業の取組満足度(%) 50%以上 80%以上 77% 90%(H22) 【参考】67%(H23) 47%(H20) 45%(H20) ※ (5)環境保全型農業の取組満足度は H20~22 まで「環境王国展」参加者のアンケート結果。H23 は「環境王国展」が震災のため中止となったことから「農地水環境保全向上対策セミナー」でアンケートを実施。 (3)特に、「基本計画」の期間中は、様々な、環境に配慮した農業技術が開発されたほか、環境保全 型農業の認知度・取組満足度が上昇するなど環境保全型農業を展開する農業者・産地を支援する体 制や、環境保全型農業による生産活動、安全・安心な県産農産物の販売活動を拡大していくための 基礎的な環境の整備が進みました。 (4)また、平成 25 年3月には、 「基本計画」推進指標の達成状況及び、 「基本計画」策定以降に生じ た新たな課題や情勢の変化を踏まえ、平成 25 年度から 30 年度までの6カ年にわたる本県の環境 保全型農業の推進計画として「 “ひと”と“環境”に優しいふるさと いわて農業プラン」を策定 しました。 -1- 2 岩手県における「環境保全型農業」の現状と課題 (1)岩手県の農業生産について 岩手県では、農業者の高齢化等に伴い、販売農家数が減少するとともに、販売額(農業産出額) も年々減少するなど、生産構造の脆弱化が進行しています。 ◆ 販売農家数は、昭和 60 年に比較して約1/2に減少(△5万2千戸)しています。 出典:農林水産省 農業センサス(S60~H27) ◆ 農業産出額は、昭和 60 年に比較して約2/3に減少(△1,200 億円)しています。 岩手県の農業産出額の推移 出典:農林水産省 生産農業所得統計 -2- (2)環境保全型農業の導入状況について 環境負荷低減技術の実証展示や研修会の開催などの取組を通じて、生産者の理解が進み、環境保 全型農業に取り組む産地が着実に増加しています。一方、地球温暖化防止や生物多様性に効果の高 い取組は、目標の 78%に留まっており、一層の取組拡大が課題となっています。 ◆ ○ 県内の米や野菜の主要産地において、環境保全型農業の取組みが拡大しています。 環境保全型農業に取り組む産地数 年度 H22 H23 H24 H25 H26 進捗率 (実績/目標) 目標 実績 - 33 40 34 50 35 60 55 71 64 90% ※H26 目標は本プラン策定時に設定 ※出典:岩手県(農業普及技術課)調べ 補給型施肥*5 に取組む産地数は、生産量の減少懸念を払拭するための現地実証や生産者を対象とし た説明会の開催により、補給型施肥に対する理解が進み、増加しています。 ○ 補給型施肥を導入する産地数 ◆ 年度 H22 H23 H24 H25 H26 進捗率 (実績/目標) 目標 実績 - 10 28 22 46 27 64 57 82 68 83% ※H26 目標は本プラン策定時に設定 ※出典:岩手県(農業普及技術課)調べ ◆ ○ 地球温暖化防止や生物多様性保全の取組が伸び悩んでいます。 「地球温暖化防止」や「生物多様性」に効果の高い生産技術の導入面積(ha) 年度 H22 H23 H24 H25 H26 進捗率 (実績/目標) 目標 実績 - - 280 676 2,700 1,574 2,800 2,573 3,000 2,336 78% ※H26 目標は本プラン策定時に設定 ※出典:岩手県(農業普及技術課)調べ エコファーマーの累積認定数(新規認定)は、近年では毎年 100 名程度増加しています。 また、認定数は、計画期間(5年間)が終了した農業者が、高齢化等を背景に再認定申請を行わなかっ たこと等により減少しています。 ○ エコファーマーの認定数と全国順位の推移 ◆ 年度 H19 H20 H21 H22 H23 H24 H25 H26 認 定 数 9,515 9,461 8,775 8,806 7,879 6,774 5,757 2,317 3位 5位 7位 8位 8位 11位 11位 22位 10,536 11,212 11,548 11,721 11,864 11,976 12,150 12,257 全国順位 累積認定数 ※出典:岩手県(農業普及技術課)調べ 今後は、地球温暖化防止や生物多様性保全に効果の高い営農活動など、 環境と調和した農業生産の取組を促進していくことが必要です。 -3- (3)環境保全型農業により生産された農産物の販売について 消費者は、環境保全型農業により生産された農産物に、安全や健康など消費者自身に直接的にプ ラスに働く効用を期待しており、環境保全を通じた社会貢献(エシカル志向)を目的とした消費活 動が浸透していない状況です。 このため、農業者が課題とする販路確保等にあたっては、環境保全型農業がもたらす多様な効果 について、消費者への理解増進を図り、エシカル消費の拡大に繋げるなど、環境保全型農業により 生産された農産物の需要を高めていくことが必要です。 ◆ 消費者が環境に配慮した農産物を購入する理由として、安全との回答が最も多く、環境保全への貢献は約 1割と少ない状況です。また、有機農産物は消費者の8割に認知されていますが、特別栽培農産物やエコフ ァーマーを認知している消費者は半数に満たない状況です。 ○環境に配慮した農産物(野菜)を購入した理由 ※出典:農林水産省 ○環境に配慮した農産物の基準や表示制度の認知度 環境に配慮した農産物に関する意識・意向調査結果(H24) ◆ 農業者が環境保全型農業に取り組む場合の課題として、概ね半数の農業者が「販売価格が評価されていな いこと」や「販路の確保が難しいこと」を挙げている。 ○環境保全型農業に取り組む場合の課題 % ※出典:岩手県(農業普及技術課)H26 農業者アンケート 環境保全型農業に対する消費者等の理解増進を図ることが必要です。 -4- 3 『ひとと環境に優しいふるさといわて農業プラン』の策定について (1) 目的 農業者(産地)が「ふるさとを守る農業」を展開し、消費者が農業者(産地)の取組を評価し 応援する仕組みづくりを進めることで、祖先から受け継いだ「ふるさと」 (農地土壌・生産環境) を、まご子につないでいくことができる産地の実現を目的とします。 (2) プランの進め方 ① 環境に優しいふるさと農業の展開 ~環境と調和した農業の推進~ 環境保全型農業に必要な「知恵」と「技」を持つ農業者が、持続性の高い「ふるさとを守る農 業」を展開する産地づくりを進めます。 ② ひとに優しいふるさと農業の展開 ~全国トップレベルの「安全・安心産地」の形成~ 農業者と消費者の双方向コミュニケーション活動を促進し「ふるさとを守る農業」の評価を高 めるとともに産地の応援団を増やします。 ③ 「有機農業の推進に関する法律」に基づく「都道府県の推進計画」としての位置づけ 基本計画では、環境保全型農業は、有機農業*6 を含めて、総合的に推進することが効果的であ るとし、「有機農業の推進に関する法律」 (平成 18 年 12 月制定)に基づいた有機農業を環境保全 型農業の一形態として推進することとしていました。 本プランでも、同様の考え方で有機農業を推進することとし、引き続き、本プランを「有機農 業の推進に関する法律」 (平成 18 年 12 月制定)に基づく「都道府県の推進計画」と位置づけます。 (3)プランの期間 本プランは、 「いわて県民計画」 (平成 21 年 12 月策定)など、関係する対策の実施期間等との整 合性を考慮し、平成 30 年度までを対象期間とします。 (4)プランの見直し 本プランは、環境保全型農業を取り巻く情勢の変化、目標の達成状況、施策の推進状況等によっ て必要な場合に、見直しを行います。 -5- Ⅱ 基本方針 基本方針1 環境に優しいふるさと農業の展開 ~環境と調和した農業の推進~ 1 まご子につなぐ健康な土づくり 施肥による環境への負荷を軽減するため、土壌養分の蓄積状況を検証し、たい肥等有機物を活用 した土づくりや補給型施肥基準などの導入など、農業生産の基本である健康な土づくりに意欲を持 って取り組む産地や農業者を支援します。 2 知恵と技のスマートな病害虫管理 病害虫防除による環境への負荷を軽減するため、予察情報や防除要否判断技術を活用した効率的な防 除を実践するとともに、耕種的防除、生物的防除、部分防除技術などによる化学合成農薬に過度に頼らな い総合的防除技術に意欲を持って取り組む産地や農業者を支援します。 3 ふるさと農業を守る協働の産地づくり 環境に優しいふるさと農業を確立するため、自然環境の保全に資する農業の生産方式の導入や産地を 支える人材の育成など、産地が自律的に発展できる体制づくりを進め、関係機関団体が密接に連携した協 働の産地づくりに取り組みます。 基本方針2 ひとに優しいふるさと農業の展開 ~全国トップレベルの「安全・安心産地」の形成~ 1 安全の「きずな」づくり 消費者や実需者に安全な本県農産物を安定的に供給する「安全のきずな」を深めるため、生産段 階における農産物の安全性確保や環境保全などに有効な手段であるGAP手法の導入を促進します。 2 安心の「きずな」づくり 消費者や実需者の本県農産物に対する「安心のきずな」を深めるため、安全・安心な栽培などにかかる 「こだわり情報」を産地や農業者が主役となって県内外の消費者・実需者に対して情報発信する取組や新 商品開発などの産地のイメージアップ活動を支援します。 また、産地と消費地との交流やシンポジウムの開催等により本県農業が環境保全に貢献していることを消 費地に理解・評価してもらうなどなど、生産者と消費者の距離を近づける取組を展開し、信頼関係・共感関 係の構築を進めます。 -6- Ⅲ 施策の推進方向 施策の推進方向の体系図 基本方針 1 環境に優しいふるさと農業の展開 施策の展開方向 (1) まご子(次世代)につな ぐ健康な土づくり ○ たい肥等の有機物を活用した土づくり、補給 型施肥などの施肥技術の導入促進 (2) 知恵と技のスマートな (賢い)病害虫管理 ○ 天敵や生物資材等を活用した総合的防除 技術(IPM)の普及 (3) ふるさと農業を守る協働 の産地づくり ○ 環境保全型農業技術の開発・普及 ~環境と調和した農業の推進~ ○ 環境保全型農業推進体制の構築 2 ひとに優しいふるさと農業の展開 (1) (消費者との)安全の 「きずな」づくり ○ 岩手県版農業生産工程管理(GAP)の普及 拡大 ~全国トップレベルの「安全・安心 産地」の形成~ ○ 高度なGAP手法の導入やステップアップへ の支援 (2) (消費者との)安心の 「きずな」づくり Ⅳ 推進指標 年度目標値 現状値 (H26) (H27) (H28) (H29) 計画目標値 (H30) 自然環境の保全に資する農業の生産方式 を導入した農地面積 2,428ha 3,500ha 4,000ha 4,500ha 5,000ha 補 1 環境保全型農業直接支払制度における ○ 岩手県特認取組※等数(取組)[累計] 5 7 9 11 13 69 75 80 85 90 2 2 2 2 4 指 ◎ ○ 産地と消費地の双方向コミュニケーションに よる環境保全型農業の理解増進 標 補 2 GAP 導入産地の割合(%) ○ 補 3 JGAP※導入経営体数 ○ (経営体)[累計] 【目標値の考え方】 ◎ 化学肥料・化学合成農薬の使用低減、地球温暖化防止や生物多様性保全の取組を促進し、環境保全型農業 の導入面積の増加を目標とするもの。 ※岩手県特認取組:岩手県の化学合成農薬低減技術を利用した「生物多様性保全」に効果の高い営農活動等につ いて、環境保全型農業直接支払制度の対象取組として国に認められた取組。 ※JGAP :日本の気候等の条件に合わせて策定した国際的なレベルを満たしているGAP。 -7- 【用語の解説】 【*1 環境保全型農業】 農業の持つ物質循環 機能を生かし、生産性 との調和などに留意し つつ、土づくり等を通 じて、化学肥料及び農 薬の使用等による環境 負荷の軽減に配慮した 持続的な農業 【*2 特別栽培農産物】 国のガイドラインに基づき、通常の栽培方法(慣行栽培)に比べ、化学合成農薬と化学肥料の使用量を 5 割以上減 じて栽培された農産物。 【*3 エコファーマー】 平成11年7月に制定された「持続性の高い農業生産方式の導入の促進に関する法律(持続農業法)」に基づき、持 続性の高い農業生産方式の導入計画の認定を受けた農業者。 持続性の高い農業生産方式とは、農地の生産力の維持増進、その他良好な営農環境の確保に資すると認められる 合理的な農業の生産方式であって、「有機質資材施用技術」「化学肥料低減技術」「化学合成農薬低減技術の技術」 のすべてを用いて行われるものをいう。 【*4 農業生産工程管理(GAP)】 食品安全、環境保全、労働安全等を目的とする、栽培準備から出荷・調製まで農産物生産の各段階で農業者が守 るべき管理基準とその実践のこと。 EUにおいては、品質保証のひとつの目安として広く普及したことが契機となり、世界に取組みが波及している。英 語の Good Agricultural Practice から GAP(ギャップ)と略称されている。 【*5 補給型施肥】 耕地土壌での土壌養分の蓄積実態を踏まえ、土壌から持ち出された肥料成分を施肥で補給する施肥体系 【*6 有機農業】 化学的に合成された肥料及び農薬を使用しないこと並びに遺伝子組換え技術を利用しないことを基本として、農業 生産に由来する環境への負荷をできる限り低減した、農業生産の方法を用いて行われる農業。(有機農業の推進に 関する法律 第 2 条より) -8- 基本 方針 Ⅴ 1 施策の具体的方策 環境に優しいふるさと農業の展開 ~ 環境と調和した農業の推進 ~ 1 目指す姿 ○ 農業生産の基本である健康な土づくりに意欲を持って取り組む農業者・産地が、良好な土壌環 境を次世代へつなぐため、無駄な施肥を行わないなど、環境に優しい農業生産活動を実践してい ます。 ○ 化学合成農薬に過度に頼らない防除に意欲を持って取り組む農業者・産地が、良好な生産環境 を次世代へつなぐため、環境負荷の小さい防除を行うなど、環境に優しい農業生産活動を実践し ています。 ○ 環境への負荷を軽減する新たな農業技術の開発・普及や産地を支える人材の育成など、産地や 関係機関団体が連携した「ふるさと農業を守る協働の産地づくり」の展開により、「環境と調和 した農業を実践する産地」の形成が促進しています。 ○ 放射性物質にかかる影響防止などの生産管理対策が徹底され、安全・安心な農産物が生産され ています。 2 現状と課題 (1)効率的な施肥体系への転換 近年、県内農地土壌中のリン酸・カリウムなどの養分が蓄積傾向にあることなどから、平成 21 年 9 月に、岩手県では、土壌から持ち出された肥料成分を施肥で補給する「補給型施肥基準」を策定し 「施肥基準」や「減肥基準」と併せて技術体系化したところです。 県内の主要産地では、 「補給型施肥技術」の理解が進み、導入する産地が拡大してきております。 引き続き、農業者・産地に対し、これら施肥技術の理解・習得を進め、無駄な施肥を行わないよ う、施肥体系の転換・見直しを促進していく必要があります。 (2)効率的な病害虫防除の推進 県内の一部産地では、生産部会自らが病害虫の発生予察を行い、効率的な防除を実施しています が、多くの産地では、スケジュール散布が行われているのが実情です。 また、本県では、同一薬剤の連用により、抵抗性を獲得した害虫・病原菌・雑草が発生している ため、各産地では、使用する農薬の種類や散布回数等を随時見直すなど、薬剤抵抗性の発達を未然 に防止する取組が不可欠となっています。 このようなことから、今後は、農業者・産地を対象に、防除要否判断技術や農薬の適正使用等の 理解・習得を進めるなど、病害虫の発生状況に応じた防除技術や化学合成農薬に過度に依存しない 管理技術の普及を推進する必要があります。 -9- (3)本県の環境保全型農業をリードする農業者・産地の育成 岩手県では、農業者の高齢化などの影響で、販売農家数や農業産出額が年々減少しており、今後、本 県の産地が、 「ふるさとを守る農業」を継承する産地として持続的に発展していくためには、生産性や収 益性を確保しつつ、より環境に配慮した持続性の高い生産方式に転換していくことが重要となっていま す。 このため、収益性が高く、環境への負荷が少ない農業技術の開発・普及を進めるとともに、環境保全 型農業に必要な高度な知識と技術の習得に意欲を持つ農業者の育成が必要です。 (4)放射性物質影響防止対策の徹底 東京電力の原子力発電所事故により、生産環境中に飛散した放射性物質に対して、農産物等の放射性 物質濃度検査の実施や、農作物への吸収・移行を低減する生産管理対策を徹底しているところですが、 今後とも、安全・安心な農産物を消費者へ供給できるよう、放射性物質の影響防止に関する対策を推進 する必要があります。 3 目指す姿を実現するための取組 (1) たい肥等の有機物を活用した土づくり、補給型施肥などの施肥技術の導入促進 ・ 土壌分析診断結果のモニタリングにより、土壌養分の蓄積状況を把握し、生産部会や施肥設計 アドバイザー等による、定期的な産地の施肥体系の検証・見直しを促進します。 ・ 各産地が行う、土壌養分の過剰蓄積防止となる補給型施肥技術や鶏ふん肥料等有機物の有効活 用による化学肥料低減技術の実証・展示など、環境に配慮した施肥体系への転換に向けた活動を 支援します。 ・ 産地を支える中核的な担い手を対象として、施肥設計アドバイザー等の協力を得た施肥技術研 修会等を開催し、産地全体の施肥技術のスキルアップを支援します。 ・ 堆肥の利用率向上を図るため、県内堆肥製造者が製造する堆肥の種類や成分等をリスト化し、 ホームページ等で公開します。 (2)天敵や生物資材等を活用した総合的防除技術(IPM)の普及 ・ 化学合成農薬に過度に頼らない病害虫防除を促進するため、「多様な防除を組み合わせた総合的 な管理技術」の普及と農業者や産地の病害虫等防除に関する知識習得を促進します。 ○耕種的防除:排水対策、輪作体系や抵抗性品種の導入、伝染源の除去等の耕種的防除により病害 虫・雑草が発生しにくい環境づくりによる予防的な防除。 ○生物的防除:病原菌に対する拮抗微生物、害虫に対する天敵昆虫、雑草に対する病原微生物の活 用など、抵抗性発達のおそれが少なく、環境への負荷が少ない防除。 ○物理的防除:防虫ネットの利用や機械除草など、物理的な力により害虫や雑草の発生を抑制する 防除。 ○部 分 防 除:隔年防除や額縁防除など、病害虫の発生状況から、防除の要否や実施時期を検討す る必要最小限の防除。 - 10 - ・ 病害虫防除員等による発生予察や病害虫防除の要否判断技術を活用した、必要最小限で効率的 な防除体系を導入しようとする産地を支援します。 ・ 産地を支える中核的な担い手を対象として、防除技術研修会等を開催し、産地全体の防除技術 のスキルアップを支援します。 ・ 地域における病害虫発生生態の解明を進めるとともに、高精度な発生予察システムの開発を促 進します。 (3) 環境保全型農業技術の開発・普及 ・ 鶏ふん肥料等地域未利用資源の有効活用を目的に、高窒素鶏ふん肥料の開発・普及を進めます。 ・ 県内に流通する家畜由来有機物を原料とした肥料の窒素肥効を評価し、化学肥料代替施用技術 を確立します。 ・ 病害虫防除の判断基準となる要防除水準や天敵製剤など生物農薬を活用した防除など、化学合 成農薬に過度に頼らない防除技術の開発・普及を進めます。 ・ 「環境保全型農業直接支払制度(H23~) 」の活用を促進し、地球温暖化防止や生物多様性保全 に効果のあるIPM等の生産技術の導入拡大を図ります。 ・ 産地が自ら、新たに開発された環境負荷低減技術の実証に取り組むとともに、技術導入の是非 を判断する仕組みづくりを進めます。 (4) 環境保全型農業推進体制の構築 ・ 土壌分析、土壌診断を自ら行うことができる施肥設計アドバイザー等を育成・支援し、産地が 農地土壌の養分の蓄積状況を自ら把握できる仕組みづくりを進めます。 ・ 農薬管理使用アドバイザー等を活用し、産地の農薬適正管理・使用に関する知識の習得を支援 します。 ・ 産地の環境保全型農業に関する取組を促進するため、産地ぐるみでのエコファーマー認定の取 組を支援します。 ・ 農業者の知識と技術の習得を促進させることを目的に、産地が自ら、環境負荷低減技術などに 関する「学びの場」や「教えの場」を設置し、農家及びその後継者を育成する仕組みづくりを進 めます。 ・ 県内の有機農業に関する取組事例を県 HP で紹介するなど、有機農業に取り組む農業者・地域を 支援します。 ・ 環境保全型農業の促進に関連する各種制度・補助事業の導入を促進します。 ・ 環境保全型農業の意識啓発セミナーを開催し、農業者が環境に優しい農業への関心を高める啓 発活動を行います。 - 11 - 4 取組に当たっての協働と役割分担 農業者・産地は、生産性や収益性を確保しつつ、環境負荷の小さい施肥、防除を行うなど、持続性 の高い農業を展開し、安全・安心・高品質な農産物を生産します 産地では、新たな環境負荷低減技術の実証や勉強会の開催など、自ら「学びの場」 「教えの場」を設 置し、産地の技術力の向上に努めます。 農業協同組合等関係機関・団体においては、環境保全型農業の普及啓発や生産技術指導を行います。 県では、環境保全型農業に関する技術の開発・普及を進めるほか、農業者のスキルアップや産地が 自律的に環境負荷低減技術の実証や導入の検討を行う仕組みづくりを支援します。 県以外 の主体 (農業者・産地) (団体等) ・ 安全・安心・高品質な農産物の生産 ・ 環境保全型農業の普及啓発 ・ 環境に配慮した生産技術の習得、導入、実践 ・ 環境保全型農業実践農家の支援 ・ 新技術導入に係る実証展示圃の設置 ・ 環境に配慮した生産技術の指導 ・ 施肥・防除技術勉強会によるスキルアップ ・ 産地を支える中核的農業者の育成支援 ・ 産地を支える中核的農業者の育成 ・ 放射性物質影響防止対策の周知・情報提供 ・ 放射性物質影響防止対策の実践 ・ 環境保全型農業の普及啓発 ・ 環境保全型農業実践農家の支援 ・ 環境保全型農業に関する技術の開発・普及 県 ・ 施肥・防除技術講習会の開催等による農業者のスキルアップ支援 ・ 産地が自発的に環境負荷低減技術の実証や導入の検討を行う仕組みづくりの支援 ・ 産地が自ら農家及びその後継者を育成する仕組みづくりの支援 ・ 放射性物質影響防止対策の周知・情報提供 - 12 - 基本 方針 Ⅴ 2 施策の具体的方策 ひとに優しいふるさと農業の展開 ~全国トップレベルの安全・安心産地の形成~ 1 目指す姿 ○ 全ての産地の生産工程に、安全性や品質等の「チェック」~「改善」のサイクルが定着し、GA P等リスク管理手法が導入されることで、消費者や実需者に「県産農産物は安全で信頼できる」 ことが広く浸透するなど、産地と消費地の「安全のきずな」が深まるとともに産地の販売力の 強化・安定化が図られています。 ○ 農家・産地が、「ふるさとを守る農業の取組」を情報発信し、都市の消費者や企業等が、岩手 の自然環境や農家の人情、地域資源などに触れながら、双方向コミュニケーションを展開する ことで、信頼関係・共感関係が構築され、「ふるさとを守る農業」を支える都市の応援団が増加 するなど、産地と消費地の「安心のきずな」が深まるとともに産地の販売力の強化・安定化が 図られています。 2 現状と課題 (1)農業者・産地と実需者・消費者をつなぐ「安全のきずな」の構築 農産物の安全性・品質確保や環境保全などについて、消費者等の信頼を得るために有効な手法と して、岩手県では、平成 19 年度に県版GAPを策定し、関係機関・団体と連携して普及・定着を推 進してきましたが、GAP導入の推進にあたっては、農業者からGAP導入のメリットがわかりづ らいとの声が多く、園芸産地を中心にGAPの定着が進んでいない状況にあります。 このため、今後は、 「いわての農産物は安全で安心できる」ことを更に広く消費者や実需者に浸透 させるため、全ての主要産地で県版GAP導入を目指し、GAPの目的・意義の理解促進を進める とともに、収量・品質を高め収益性を向上させる技術改善にGAP手法・PDCAサイクルを取り 入れるなど、産地や農業者が導入効果をより実感できる取組を推進する必要があります。 (2)農業者・産地と実需者・消費者をつなぐ「安心のきずな」の構築 環境への負荷が少ない生産方式へ転換する場合、一般的に、商品化率の低下や労働費の増加など による減収リスクが高まりますが、 「環境保全型農業」により生産された農産物の価格は、農業者が 期待するほど付加価値がつかない傾向があるなど、 「環境保全型農業」に対する流通業者や消費者の 理解が十分進んでいません。 今後、この意識のズレを埋めていくためには、農業者が消費者のニーズを理解するとともに、消 費者が「農作物を持続的に育む土の力を保つ」 「豊かな生態系を育む」等「ふるさとを守る農業」の取 組について共感してもらうなど、農業者と消費者の距離を近づけることが不可欠です。 このため、今後は、安全・安心な栽培などにかかる産地の取組や志を産地・農業者が主役となって 消費者等へ伝える活動を強化し、双方向コミュニケーションによる産地と実需者・消費者の共感関 - 13 - 係の構築を通じて、消費者の県産農産物に対する安心感や信頼感・満足感を高めていく必要があり ます。 3 目指す姿を実現するための取組 (1)「岩手県版農業生産工程管理(GAP)」の普及拡大 ・ GAP未導入の産地に対し、GAPの考え方、導入効果等に関する説明会や啓発活動を行うな ど、GAPの導入・定着を推進します。 ・ 特に、導入が進んでいない園芸産地では、品質管理チェックシートを導入し、クレーム情報の 原因究明及び生産工程の改善を短時間で確実に行うなど、産地が実施するGAP手法を活用した 品質向上対策を支援します。 ・ GAPを導入した産地に対しては、GAPの自己点検と栽培管理のチェックを並行して行うな ど、生産工程の改善による品質・収益性の向上等GAP導入のメリットが、より農業者に実感でき る手法の普及により県版GAPの導入を推進します。 ・ 県版GAPを導入した産地を対象に、PDCAサイクルを導入し、産地が自ら生産工程の課題 や問題点に気づき、改善していく仕組みづくりを進めます。 ・ JA営農指導員や生産部会リーダー等を対象にGAP指導員の育成を進めます。 (2)高度なGAP手法の導入やステップアップへの支援 ・ 県版GAPを導入した産地を対象に、自己点検から農業者が互いの生産工程をチェックし合う など第 3 者が点検する「農場点検方式」への転換を進め、より精度の高いリスク管理手法へのス テップアップを推進します。 ・ 販路拡大や契約取引のためJGAPなど認証を伴うGAPへの取組を志向する法人等に対し、 認証に向けた助言・指導を行います。 ・ JGAPなど高度なGAP指導にも対応可能なGAP指導員の育成を進めます。 (3)生産者・実需者・消費者の連携による環境保全型農業の理解増進を図るための基盤づくり ・ ふるさとを守り育てる心や環境保全に対する姿勢等、産地の志をとりまとめた「産地紹介資料」 を県内の主要産地全てで作成し、実需へのPR・産地紹介ツアーでの説明に活用するなど、産地 や農業者が自ら行う情報発信活動を支援します。 ・ 産地の志を直接消費者へ伝えることができる県産農産物のフェアや取引店舗での対面販売など により、外見や価格だけでは伝わらない「信頼」 「納得」「満足」を提供するなど、消費者の「ふ るさとを守る農業」に対する理解・評価を高める活動を促進します。 ・ 産地が、食品加工や商品作りの専門家、実需者等と連携して行う、環境負荷低減技術で生産さ れた農産物の付加価値を高め、安全・安心な産地イメージを向上させる特産品の開発や開発され た特産品のPR活動を支援します。 ・ 環境保全型農業の見える化や、シンポジウムやコンクールの開催を通じて、より多くの農業者、 消費者に「ふるさとを守る農業」に関する取組事例を紹介し、相互理解の促進を図ります。 - 14 - ・ 岩手県有機農業連絡協議会と連携し、SNS等を立ち上げや、オーガニックフェスタ、セミナ ーの開催などを通じた双方向コミュニケーションにより、生産者、消費者等の理解増進を図りま す。 4 取組に当たっての協働と役割分担 安全の「きずな」づくりについて、農業者・産地は、GAPの導入などにより安全で高品質な農産 物の生産に取り組みます。 また、団体や県においては、産地のGAP手法や品質管理チェックシートの導入など安全性や品質 の向上に向けた取組を支援します。 安心の「きずな」づくりについて、農業者・産地は、積極的に実需者・消費者へ環境保全型農業の 取組状況など「産地のこだわり情報」の発信や交流会等により、消費者等との相互理解の促進に取り 組みます。 また、団体及び県は、実需者・消費者の交流やマスメディア等を通じ、 「いわての農産物は安全で安 心できる」イメージを定着させるよう取り組みます。 (農業者・産地) (団体等) ・ GAPや品質管理チェックシートなどの導 ・ 産地へのGAP・品質管理チェックシート導入支援 入による安全・高品質な農産物の生産 県以外 の主体 ・ GAP指導員の育成 ・ 産地紹介資料の作成及び市場・消費地に対 ・ 対面販売や特産品の開発・PRなどによる産地プロ する情報発信 モーション活動の支援 ・ 消費者等を対象とした農産物の生産現場に ・ 消費者等を対象とした農産物の生産現場における交 おける交流会等の企画・実施 流会等の支援 ・ 産地へのGAP・品質管理チェックシート導入支援 ・ GAP指導員の育成、高度な GAP 手法導入支援 ・ 産地紹介資料の作成や特産品の開発・PRなどによる産地プロモーション活動の支援 県 ・ 県産農産物のフェア、ホームページ、メールマガジン等による情報発信 ・ 環境保全型農業に関するシンポジウム、優良事例表彰の支援 ・ 消費者等を対象とした農産物の生産現場における交流会等の支援 - 15 - Ⅵ 具体的な推進方策(工程表) 具体的な推進方策 工程表(4年間を中心とした取組) H28 H29 H27 ~H26 H30 ① 環境と調和した農林水産業の推進 目標 ・環境保全型農業直接支払制度における岩 手県特認取組※等数(取組)[累計] H26 5 H27 7 H28 9 H29 11 H30 13 補給型施肥 の普及 適切な施肥技術の普及啓発 (実証展示圃の設置・簡易分析手法の確立・事例集作成等) IPM技術 の確立 IPM技術の確立と普及 (技術の体系化・実証展示圃の設置・事例集作成等) 岩手県有機農業連絡協議会と連携した生産者の技術研鑽 や情報交換会の開催による消費者等の理解増進 ② 全国トップレベルの「安全・安心産地」 の形成 目標 ◎GAP導入産地の割合(%) H26 69 H27 75 H28 80 H29 85 H30 90 GAP指導員・JGAP産地リーダーの育成 産地点検や優良事例研修会等の開催による普及啓発 GAPの高度化支援 ・JGAP※導入経営体数[累計] H26 2 H27 2 H28 2 H29 2 H30 4 シンポジウム開催等による実需者・消費者の理解増進 ※岩手県特認取組:岩手県の化学合成農薬低減技術を利用した「生物多様性保全」に効果の高い営農活動等について、環境保全型農業直 接支払制度の対象取組として国に認められた取組。 ※JGAP :日本の気候等の条件に合わせて策定した国際的なレベルを満たしているGAP。 - 16 -
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