EAP(従業員支援プログラム)市場に関する調査を実施

2016 年 4 月 13 日
プレスリリース
EAP(従業員支援プログラム)市場に関する調査を実施(2016 年)
-ストレスチェック制度をきっかけに、サービス需要は拡大へ-
【調査要綱】
矢野経済研究所では、次の調査要綱にて国内の EAP サービス市場の調査を実施した。
1.調査期間:2016 年 1 月~2016 年 3 月
2.調査対象:EAP サービスを提供する主要事業者等
3.調査方法:当社専門研究員による直接面談、電話・e-mail によるヒアリング、ならびに文献調査を併用
<EAP とは>
EAP(Employee Assistance Program:従業員支援プログラム)とは、企業や団体などの従業員のメンタルヘルス上の
課題(職場内での問題だけでなくプライベートの悩みを含む)を、カウンセリングなどを通じて解決に導き、組織の活性
化や生産性を高める就労環境支援サービスである。
<EAP 市場とは>
本調査における EAP(サービス)市場とは、職場環境の改善を目的とした従業員のメンタルヘルス支援を請け負う
サービス事業者のアウトソーシングサービスを指し、ストレス診断や産業医カウンセリングのほか、専門医(医療機関)
紹介、復職支援・再発予防、研修・トレーニング、組織調査・分析・改善コンサルティングなどのメンタルヘルス対策に
関する周辺業務も対象として、算出した。
【調査結果サマリー】
‹ 2014 年度の EAP(従業員支援プログラム)市場は 214 億円、前年度比 2.9%増
EAP 市場はリーマンショック以降、企業のコスト見直しが影響し一時的に低迷したが、景気回復に合わ
せて再び成長軌道を描くようになった。この流れを受けて、EAP サービスを導入する企業やサービスを受
ける従業員の数が着実に増加している。一方で、EAP サービス参入事業者の増加に伴う単価の下落が
続いたことから、2014 年度の EAP 市場規模(サービス事業者売上高ベース)は、前年度比 2.9%増の 214
億円となった。
‹ 2015 年 12 月施行のストレスチェック制度は、サービス需要拡大を促すきっかけに
2015 年 12 月に施行された労働安全衛生法の改正の一つであるストレスチェック制度は、従業員 50 人
以上の事業所に対し、年に 1 回以上のストレスチェックを義務づけるものであり、EAP サービス需要の拡
大を促すきっかけになると期待されている。官公庁や大多数の企業が予算化している 2016 年度以降は、
サービス需要が本格化すると考える。
◆ 2015 年度の EAP 市場は前年度比 4.7%増の 224 億円と予測
EAP 市場は本格的な需要拡大が見込まれる 2016 年度ほどではないものの、2015 年度もストレスチェ
ック義務化の前段階でのトライアルなども兼ねたサービス導入が一部の大手企業で見られ、2015 年 12 月
の義務化後についても 12 月決算の企業などを中心に新年度予算を活用してサービスを導入する動きが
見られる。これらが押し上げ要因となり、2015 年度の EAP 市場規模(サービス事業者売上高ベース)は、
前年度比 4.7%増の 224 億円になると予測する。
‹ 資料体裁
資料名:
発刊日:
体 裁:
定 価:
「人事・総務関連業務のアウトソーシングビジネス調査レポート 2016」
2016 年 3 月 30 日
A4 判 529 頁
150,000 円(税別)
‹ 株式会社矢野経済研究所
所在地:東京都中野区本町2-46-2 代表取締役社長:水越 孝
設 立:1958年3月 年間レポート発刊:約250タイトル URL: http://www.yano.co.jp/
本件に関するお問合せ先(当社 HP からも承っております http://www.yano.co.jp/)
㈱矢野経済研究所 マーケティング本部 広報チーム TEL:03-5371-6912 E-mail:[email protected]
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2016 年 4 月 13 日
プレスリリース
【 調査結果の概要 】
1.EAP 市場の歴史的背景
EAP(Employee Assistance Program:従業員支援プログラム、以下 EAP)やメンタルヘルスの概念は、
日本国内では 1984 年に過労自殺を理由とした労災が初めて認定されるまで、一般企業にほとんど認知
されていなかった。しかし、この過労による自殺者の労災認定がもとで、労働安全衛生法(以下、安衛法)
が改正され、企業の努力義務として従業員の健康保持増進措置の一つにメンタルヘルス対策が盛り込ま
れたことで、「社員の精神的な健康状態」に社会的な関心が集まるようになった。
1990 年代に入ってからは、バブル崩壊後の経済低迷を端緒とする社会不安や労働者の負担増加によ
り「過労死」や「過労うつ」の問題がクローズアップされるとともに、過労自殺による遺族訴訟で企業が多額
の賠償を支払う判決がくだり、企業は労務・メンタルの両面から従業員の健康管理にコストをかけるように
なった。それに伴い法整備が進められ、「健康相談」を主軸とした EAP サービスが浸透していくとともに企
業のメンタルヘルス対策が推進されるようになった。
2005 年の改正安衛法では、企業に長時間労働者に対する医師等の面接指導と対策・措置が義務づ
けられ、2007 年制定の労働契約法では、企業による安全配慮義務が明文化された。これにより、企業側
に要求される労働契約上の安全配慮が努力義務から法的義務になり、メンタルヘルス対策への対応を怠
る企業の社会的な責任が問われることになった。時を同じくして、グローバリゼーションの進展により激し
い競争環境に晒されている労働者のメンタルヘルス対策への意識が高まったことも、EAP サービスへの
需要が拡大していった大きな要因とされる。このように、2005 年の改正安衛法と改正法に対応した企業側
のコンプライアンス意識の高まりを受けて、EAP サービスは浸透していった。
近年の動きでは、2010 年に厚生労働省の職場におけるメンタルヘルス対策検討会がまとめた報告書
を契機に、従業員に対する「ストレスチェック」やメンタルヘルス不調者への面接指導をすべての企業に
義務づけるという新たなメンタルヘルス対策を盛り込んだ法整備(労働安全衛生法の改正、通称「ストレス
チェック義務化法案」)に向けて準備が進められることになった。
2.EAP 市場の概況と予測
EAP 市場は 2008 年のリーマンショック以降、企業のコスト見直しが影響し一時的に低迷したが、景気回
復に合わせて再び成長軌道を描くようになった。この流れを受けて、EAP サービスを導入する企業やサ
ービスを受ける従業員の数が着実に増加しているが、一方で、参入事業者の増加に伴う単価の下落が続
いたことから、2014 年度の EAP 市場規模(サービス事業者売上高ベース)は、前年度比 2.9%増の 214
億円となった。
図 1. EAP(従業員支援プログラム)市場規模推移
(単位:億円)
250
200
189
188
2008年度
2009年度
194
196
2010年度
2011年度
202
208
214
224
150
100
50
0
2012年度
2013年度
2014年度
2015年度
予測
矢野経済研究所推計
注 1.サービス事業者売上高ベース
注 2.2015 年度は予測値
注 3.EAP 市場とは、職場環境の改善を目的とした従業員のメンタルヘルス支援を請け負うサービス事業者のアウトソーシ
ングサービスを指し、ストレス診断や産業医カウンセリングのほか、専門医(医療機関)紹介、復職支援・再発予防、研修・ト
レーニング、組織調査・分析・改善コンサルティングなどのメンタルヘルス対策に関する周辺業務も対象として、算出した。
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2016 年 4 月 13 日
プレスリリース
ストレスチェックを義務化する改正安衛法は 2014 年 6 月に再提出され国会で成立、2015 年 12 月に施
行された。これと連動し、2014 年頃からストレスチェックやそのアセスメントをサービスラインに加える既存
EAP サービス事業者、EAP 市場へ参入する新規事業者が見られるようになった。EAP 市場は本格的な需
要拡大が見込まれる 2016 年度ほどではないものの、2015 年度もストレスチェック義務化の前段階でのトラ
イアルなども兼ねたサービス導入が一部の大手企業で見られ、2015 年 12 月の義務化後についても 12
月決算の企業などを中心に新年度予算を活用してサービスを導入する動きが見られる。これらが押し上
げ要因となり、2015 年度の EAP 市場規模(サービス事業者売上高ベース)は、前年度比 4.7%増の 224
億円になると予測する。
3.注目すべき動向
3-1.企業・各種団体における EAP(従業員支援プログラム)サービスの導入状況
EAP サービスのメインユーザーは従業員 500 人以上の大企業であるが、景気の回復や新規導入アプ
ローチを行う EAP サービス事業者が増えた数年前からは、数万人規模の従業員を抱える大企業への導
入も普及・浸透している。産業医を自社で抱える大企業では、これまでメンタルヘルス対策を自社内で実
施するケースが多かったが、精神疾患領域に対応可能な医師の数が少ないことから、メンタルヘルス対
策部分を EAP サービス事業者に委託するケースもみられるようになっている。民間企業においては、大
企業の系列企業や中堅企業にも EAP サービスを活用するところが増えている状況にある。
また、大口受注先となる官公庁・地方自治体などの公的機関や、学校法人、健康保険組合、教職員組
合などの各種団体のカウンセリング需要の取り込みも進展している。学校法人や教職員組合は、メンタル
不調者の割合が他の業種に比べて高いと言われ、EAP サービスを導入する団体が年々増えており、アウ
トソーシング需要が広がりを見せている。その他、外食産業などへの導入も進展している状況にある。
3-2.労働安全衛生法の改正
2015 年 12 月施行の改正安衛法では、従業員 50 人以上の事業所に対し、年 1 回以上のストレスチェ
ックを義務づける一方で、50 人未満の事業所は努力義務にとどまることとなった。当初案の全事業所へ
の実施義務づけからは大幅にトーンダウンしたが、新規アウトソーシング需要の顕在化を後押しし、市場
活性化につながる動きであることに変わりはなく、EAP サービスへの新規参入事業者も交えて受注獲得
に向けた動きが活発化している。
実際のストレスチェック項目では、従業員のストレス状況を把握するため「仕事のストレス要因」、「心身
のストレス反応」、「周囲のサポート」の 3 領域を盛り込むことを必須要件に定めている。その他、ストレスチ
ェック結果は本人に通知され、本人の同意なくチェック結果を見ることができなくなったため、カウンセリン
グなどのアフターフォローはチェック結果の内容が分からないことを前提に行わなければならなくなった。
これにより、産業医などの社内の産業保健スタッフは、メンタル不調者に対し、ストレスチェック結果を踏ま
えて適切な対応が行えない可能性が出てきたことから、メンタルヘルス対策を自社内で実施してきた企業
においても、第三者の活用(外部委託)に踏み切るところが増えてくるとの期待が高まっている。
また、EAP サービス事業者のサービス内容に関しては、企業のサービス需要がリスクを最小限にとどめ
る方向に向いていることから、ストレスチェックを含むストレス診断や組織診断、各種研修(セルフケア研修
やラインケア研修)などの早期段階から取り組むサービスメニュー需要が今後ますます拡大していくとみら
れる。
こうした予防領域のサービスは効果測定が難しいため、企業はこれまで積極的にサービス導入をして
来なかったが、昨今の人手不足(就職の売り手市場化)という局面においては、人材確保に向けた「健康
対策」や「メンタルヘルス対策」、「福利厚生」などといった従業員向けサービスに積極的に取り組んでいる
姿勢を示したいという企業側の意向が強く働いており、サービス需要も増している。そうした意味において
も、EAP サービス事業者にとっての今後数年間は、事業拡大に向けたまたとない好機と捉えることができ
る。
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