日本海側の地形特性に対応した津波堆積物の構築による

平成24年度
新潟大学長
新潟大学プロジェクト推進経費研究経過報告書(中間まとめ)
殿
申 請 者
所 属
災害・復興科学研究所
代表者氏名
卜 部 厚 志
本年度、交付を受けたプロジェクト推進経費について、現時点までの研究の進行状況等を報告し
ます。
プロジェクトの種目:発芽研究
プロジェクトの課題:日本海側の地形特性に対応した津波堆積物の認定法の構築による津波履歴の解明
プロジェクトの代表者:災害・復興科学研究所,准教授,卜部厚志
分担者 0 名
プロジェクトの成果:
2011 年 3 月 11 日の東北地方太平洋沖地震以降,地層に記録された津波の痕跡(堆積物)を認定して,
過去の津波の履歴を探る重要性が高まっている.日本海側では,太平洋沿岸と異なり,海岸部に高い砂丘
列が発達する地形特性から,津波は河口部から内陸に侵入することが予測され,河口付近の低地に津波の
痕跡(津波堆積物)を残す可能性がある.しかし,河川による砂層と津波による砂層の区分は容易でなく,
これらの区分・認定手法の確立が必要である.また,岩石海岸や加茂湖のような潟湖での津波堆積物の認
定手法の確立も必要である.よって,本プロジェクトでは,太平洋側とは異なる日本海側の地形環境に対
応した津波堆積物の認定手法を確立し,日本海側における津波履歴や津波規模の特定を行うことを目的と
した.
本プロジェクトでは,日本海側の地形環境に対応した津波堆積物として,岩石海岸タイプと河口
遡上タイプ(河口から遡上して内陸の低湿地に痕跡を残すタイプ)の検討を行った.
岩石海岸タイプの調査は,佐渡市の大佐渡,小佐渡の沿岸部をすべて検討し,大佐渡の大野亀と
相川北部,相川南部の 3 地点で礫質な堆積物から構成される津波堆積物を発見した.このうち,大
野亀地点では,標高 5m 程度の平坦な地形を形成する堆積物の中に,海浜を起源とする 6 層の円礫
層が認められた.各礫層間の地層は,有機物を多く含む粘土層である.現在は,海岸浸食により海
岸線が後退しているが,礫層間の地層は,海浜背後の低湿地の堆積環境を示しており,堆積時は海
岸線から数十から 100m 以上離れた地形環境に堆積したことが推定できる.海岸から離れた内陸ま
で海浜を構成する円礫を運搬するためには,冬期の高波による営力では不可能であり,津波による
営力によってのみ運搬が可能であると考えられる.
相川南部の春日崎地点では,標高 5m 程度の平坦な地形を形成する堆積物の中に海浜を起源とする
2 層の円礫層を発見した.春日崎地点では,野外での観察から水田土壌を示す泥層の上位に津波を起
源とする礫層が重なっている.また,礫層は内陸側まで分布することが確認できた.年代測定の結
果,水田土壌は約 1000 年前のものであり,津波堆積物には製塩土器の破片や高坏破片などの考古遺
物も含まれている.古代の海岸付近に立地していた水田が津波の襲来を受けたものと考えられる.
これら岩石海岸タイプの津波堆積物の認定は,○海浜を構成している円礫を含む,○内陸部まで
分布することなどの津波によって運搬された物質の起源や粒度,堆積構造の特徴に加えて,○津波
(注)報告書は2枚程度とする。別紙による場合も同じ。
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間の堆積物の堆積環境の復元が重要であることが明らかとなった.岩石海岸タイプの堆積物の場合
は,冬期の高波(波浪)による堆積物との区分が重要であり,運搬される海浜起源の物質の特徴だ
けでなく,津波間の堆積物から堆積環境を復元し,高波が及ぶような地形環境であるかを検討する
ことが高波による堆積物との区分の根拠となる.津波による堆積物に着目しがちであるが,津波間
の堆積物の堆積環境の解析も重要であり,今後,津波堆積物,津波間の堆積物の解析や年代測定を
行う予定である.
河口遡上タイプ(河口から遡上して内陸の低湿地に痕跡を残すタイプ)の検討のため,村上市の
岩船地区での検討を行った.岩船地区は海岸部に砂丘列が発達するが,石川が砂丘列を横断して日
本海に流下している.また,砂丘列の内陸側には岩船潟と呼ばれた低湿地が広がっていた.岩船潟
は江戸時代の初期から排水事業が行われ,現在は排水機の整備により水田地域となっている.1964
年の新潟地震の際には,石川河口部から津波が遡上し,河口に近い部分の水田が冠水した記録があ
る.よって,1964 年新潟地震の津波浸水範囲を参考として,旧岩船潟の西縁部でボーリング調査(深
度 25m)を行い,津波堆積物の検討を行った.コアの層相の概要を以下に示す.
深度25m~約24.3m:本層位は,岩船潟が形成される以前の陸成の河川環境を示しているものと考
えられる.深度約24.3m~約13.5m:河川起源の砂層も含む生物擾乱や小さい生痕化石の発達した砂
質シルト層を主体とする.海進初期の汽水~海水域の内湾の堆積環境を示している.深度約13.5m
~約8m:本層位は,生物擾乱や生痕化石を伴うシルト層からなる.下位層準よりは,生物擾乱や生
痕化石が多く認められる.全体にシルト層が主体であり,葉理や層理がみられることもある.生物
擾乱はあるがシルト主体であることから,やや深い内湾(汽水)の堆積環境であると推定できる.
深度約8m~約1m:生物擾乱が激しく,大型の生痕化石を多産する砂質シルトを主体とする.汽水の
潟湖である環境であるが,下位層準と比較して生物活動が活発化しており,水深が浅くなったもの
と推定できる.
岩船潟の堆積環境は,海進初期以降に汽水域となり継続して内湾の環境が続き,年代測定から約
5000 年前にはほぼ埋積作用が終焉し約 3000 年前以降はほとんど堆積していない.よって,本地域
での津波堆積物の検討は約 9000 年前から約 3000 年前までの限定された期間の検討となる.
コア観察の結果,やや淘汰の悪い極細粒砂層の薄層は比較的多く挟在されており,津波のような
イベント堆積物ではなく,潟湖が小さいために一般的な堆積作用の中でもたらされたものと考えら
れる.岩船潟地域の場合は,全体の層相からみて特徴のある淘汰のよい極粗粒砂層が,津波による
イベント堆積物である可能性が高いものと判断し,A~D までの確実度で区分した.
全体として,T1(IWF-T1)からT5(IWF-T5)までの5層準が認定できた.このうちIWF-T3とIWF-T4
は確実度が低いため,堆積物の特徴での検証が必要である.年代測定の結果,T1からT5までの津波
堆積物の年代の中央値は,それぞれ2845,7083,7150*,8046*,8577年前を示しており,確実度が
低いものや堆積速度が遅い層準を考慮すると,約500年~1500年程度が岩船潟地域での津波襲来間隔
である可能性がある.
今後,津波堆積物と通常の堆積物の粒度組成を明らかにし,津波堆積物の粒度特性を数値化する
予定である.また,津波堆積物は,海起源の物質を含む砂層という一義的な定義ではなく,地域(そ
の場)の堆積環境の中で通常時に堆積しているものと,イベント堆積物として特異なものを識別・
認定していく作業が重要であることがわかった.
プロジェクト成果の発表(論文名,発表者,発表紙等,巻・号,発表年等)
2013 年 5 月の地球惑星連合大会で公表予定
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