2 転倒予防に努めた機能改善プログラムの効果~ふまねっと運動を導入して

転倒予防に努めた機能改善プログラムの効果
~ふまねっと運動を導入して~
多摩病院
◎佐藤義幸(看護師)
石井修(看護師)
岩崎慶徳(作業療法士)
1.研究目的
高齢者人口が加速する現在、当療養病棟においても、平均年齢 65 歳と高齢化は進みつつあ
る。高齢化に伴い、身体・心理機能の低下をきたし、転倒による骨折などの二次的障がいを起
こしやすい。当病棟でも転倒のアクシデントは増えつつあり、予防策を講じたとしても、具体
策が抽象的となり対策に危惧する場合も多い。
今回取り入れた「ふまねっと運動」1)は運動機能の維持改善だけでなく、心理機能(脳への
考える刺激や活力)の改善もある事を知り、どのような効果があるのか検証する。
2.研究方法
(1)精神科療養病棟入院中の患者 5 名を対象。
(2)1 回/週のペースでふまねっと運動を行う。
(3)TUG(歩行機能の測定方法)2)を用いて測定タイムを評価。
(4)ふまねっと運動実施前後の個人転倒回数。
(5)ふまねっと運動実施後の聞きとり調査。
3.倫理的配慮
本研究を行なうにあたり、患者一人一人へ書面にて説明を行い、書面による同意を得た。ま
た、本研究によって患者個人に不利益とならない事を説明し同意を得た。
4.結果
(1)各患者の TUG 測定タイムにおいて、実施前後のタイム差を比較した。表 1
2 ヶ月後
4ヶ月後
タイム差
患者 A(60 歳女性) 11.30
8.54
7.70
-3.60
患者 B(70 歳女性) 24.08
11.55
11.10
-12.98
患者 C(70 歳女性) 12.30
11.57
11.10
-1.20
患者 D
(60 歳女性) 9.40
7.40
8.80
-0.6
患者 E(70 歳女性) 26.50
24.40
20.18
-6.32
導入前
(数値は秒とする)
(2)患者の反応。聞きとり調査より。
1)簡単だと思ったが、意外と難しい。
2)頭で分かっていても体が思うように動かない。
3)初めは面白く無かったが、やっているうちに楽しくなってきた。
4)他の人の間違いを笑ってしまったが、自分も同じ間違いをしてお互いに大笑いした。
(3)過去 2 年間の転倒回数。表 2
H24 年
H25 年
H26 年
患者 A(60 歳女性)
3 回 (Ⅱ)
3 回 (Ⅲ)
0 回 (Ⅲ)
患者 B(70 歳女性)
1 回 (Ⅱ)
0 回 (Ⅱ)
1 回 (Ⅱ)
患者 C(70 歳女性)
3 回 (Ⅱ)
0 回 (Ⅱ)
1 回 (Ⅱ)
患者 D(60 歳女性)
1 回 (Ⅰ)
1 回 (Ⅱ)
1 回 (Ⅱ)
患者 E(70 歳女性)
4 回 (Ⅱ)
2 回 (Ⅱ)
2 回 (Ⅲ)
(カッコ内の数値は当時の転倒危険度レベル)
5.考察
今回の結果において、第一に注目したのは、TUG の測定タイムの短縮である。表 1 からみ
ても分かるように、対象者 5 名の全員が月を経過する毎にタイムの短縮が測れている。TUG
測定は、椅子から立つ、歩く、方向を変える、座るといった一連の動作を測定しており、単に
歩くスピードを測定したものでは無い。起立や座位に使用する筋力や身体の向きを変えるとい
った体幹バランス等が必要となる。この一連の動作が向上したからこそタイムの短縮が図れた
のではないかと考える。
次に患者の心理機能(脳への考える刺激や活力)への影響である。北澤らは3)「視覚中枢と
身体運動の相互強調動作を改善することが、ふまねっと運動の特徴である」と述べている。聞
きとり調査の中に、
「意外と難しい」
「頭でわかっていても体が思うように動かない」という意
見があった。これは、視覚や頭の中ではでは理解しているが出来ない、頭と身体のズレを修正
しようと頭と身体を働かせている結果であるといえる。身体運動と共に「考える」という相互
強調運動が生じた結果ではないか。また、「楽しくなってきた」「同じ間違いをして大笑いして
しまった」という意見からも、心理機能への刺激、活力となっているのではないかと考える。
最後に過去 2 年間の転倒回数の比較である。データを取るに辺り、転倒回数の減少を期待し
たが、僅かに数の減少は認められたものの有意差は見られなかった。この原因としては、今回
対象とした 5 名の患者は過去 2 年間を振り返っても転倒回数が少ない事、これに伴い回数の比
較対象を行うには困難であった事、ふまねっと運動を取り入れた期間が約半年と施行期間が短
かった事、対象とした患者が少なく客観的なデータとならなかった事等が挙げられる。より多
くの参加の促しや、転倒のリスク(例えばスコアⅢを何名以上)別に対象者を集める等の対応
が必要であったと考える。
6.今後の課題
今回の研究は転倒予防に努めた取り組みであったが、データを取る上での対象患者の少なさ
や、施行期間の短さがあった。しかし、患者自体の笑顔や会話が増えた事は明らかであり、得
られるものは多かったと思う。今後は参加の促しを積極的に行い、継続して行えるよう努力し
ていきたい。
7.備考・引用・参考文献
(1)1)「ふまねっと運動」とは、50cm 四方のマス目からなる大きな網の上を、ステップに合
わせながら網を踏まないように歩く運動方法。
(2)2)TUG(歩行機能測定方法)とは、椅子に座った状態から立ち上がり、3m 先のポールま
で歩いて方向転換し、再度椅子に座るまでの時間を測定。歩行機能検査の指標となる。
(3)3)北澤一利、尚和里子
著
医学書院「精神看護」
転倒予防に劇的効果「ふまねっと
運動」実践集 Vol.12 2009
(4)北澤一利 著 医学書院 「看護学雑誌」 ふまネット運動の出自と理念について
Vol.72 2008