Law, Accounting & Tax インドネシアの不動産投資スキーム ~インドネシアのREIT制度、 不動産ファイナンスの留意点~ 塙 晋 森・濱田松本法律事務所 弁護士 Robbie Julius 森・濱田松本法律事務所 インドネシア弁護士 不動産を裏付けとした資金調達の必要性が高まって 1. はじめに いることを踏まえ、インドネシアにおいて不動産ファイナ ンスを検討する場合の主な論点についても言及する。 近時 、日本企業によるインドネシアにおける不動産 なお、本稿で触れる不動産投資スキーム等の検討の 開発事業や不動産の取得を伴う取引が活発化してお 前提となるインドネシアにおける不動産取得に関する り、不動産取得の実務についての関心が高まってい 実務上の留意点については、拙稿「アジア不動産 る。また、インドネシアにおける不動産投資に関連し 取得に関する実務上の留意点(インドネシア編 ) 」 (本 て、インドネシア政府は、2015 年 11月、インドネシアの 誌 25 号 、共著 ) を参照されたい。 REIT 制度について重要な改正を行った。それをきっ かけとして、インドネシアの複数の有力デベロッパー が、インドネシアにおいて同制度を利用した不動産投 資ファンドを立ち上げることを計画しているとの報道が なされている。 このような状況を踏まえ、本稿では、インドネシアに 2. PT PMAスキーム 現在、インドネシアにおける不動産投資において一 般的に用いられているスキームは、概要、インドネシア に株式会社( PT:Perseroan Terbatas ) を設立し、 おいて不動産投資を行う場合のスキームについて整 当該株式会社が土地注 1を所有し、当該土地上で建 理した上で、その一つであるインドネシアのREITス 物の開発を行い又は完成建物を所有し、土地建物の キーム及びそれに関する近時の改正の内容を紹介す 売却やテナントへの賃貸(マスターリースを介する場合 る。さらに、インドネシアの不動産投資案件において、 もある。 ) によって収入を得る事業を行うものである。株 注1 「土地」の所有及び売買等の取引についての記載は、特に断りのない限り、建設権(Hak Guna Bangunan、以下「HGB」という。)の保有及びその 売買等の取引を念頭に記載している。 110 ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.30 図1 PT PMA スキームの例 ① 投資家 ② 日本企業 S-REIT オフショア 中間ビークルA 中間ビークルB 合弁契約 海外子会社 インドネシア 合弁パートナー テナント PT PMA PT PMA テナント HGB・完成建物 HGB・開発物件 式会社は最低 2 名の株主が必要であることから、合 とを前提とし、かかるスキームのことを、以下「 PT 弁パートナーがいるような場合を除き、中間ビークルを PMAスキーム」と呼ぶこととする。 設立して株主とするなどの対応が必要となる。例え ば、①インドネシアの不動産を組み入れているシンガ ポールREITにおいては、シンガポールに設立した中 3.インドネシアのREITスキーム 間ビークルを介してインドネシアの不動産を保有してい インドネシアには、KIK-DIRE( Dana Investasi る場合が多い。一方、②例えば開発型の案件で現 Real Estate dalam bentuk Kontrak Investasi 地の合弁パートナーがいるような場合、合弁契約にお Kolektif ) と呼ばれるREITスキームが存 在 する。 いて、出資の前提条件や不動産保有会社のガバナン KIK-DIREは2007 年に導入された注 2 が、特に税務 ス等について慎重に検討する必要がある。 面で使い勝手が悪く、これまでは殆ど利用されてこな なお、一部でも外国投資家から出資を受ける株式 かった。しかし、 インドネシア政府は、後述するとおり、 会社は、外国資本会社( PMA:Penanaman Modal 2015 年 11月、KIK-DIREにおける税務の取扱いに Asing ) に該当し、業種毎に、投資調整庁( BKPM: ついて大きな改正を行い、それにより、KIK-DIREを Badan Koordinasi Penanaman Modal ) から基本許 利用するメリットが大きくなった。それに伴い、Lippo 可( principle license ) を取得する必要がある。イン などをはじめとするインドネシアの大手デベロッパー ドネシア法上、一定の事業については外資規制が存 が、インドネシア国内においてREITを組成するため 在するが、上記の不動産事業については100% 外資 の検討を開始したとの報道がなされている。将来的 による外国資本会社にて行うことが可能である。本稿 に、 インドネシア国内におけるREITの利用が浸透し、 では、日本企業をはじめとする外資による不動産投資 一般的なものとして定着すれば、例えば PT PMAス を念頭に置くことから、外国資本会社に該当する株式 キームで開発を行った物件の最終的なエグジット先と 会社を資産保有ビークルとするスキームを検討するこ して、シンガポールREIT 等に加えてインドネシア国内 注2 日本の金融庁に相当する OJK(Otoritas Jasa Keuangan)の前身である BAPEPAM の 2007 年規則 IX.M.1.(以下「本規則」という。)に基づく。 March-April 2016 111 のREITも選択肢の一つになり得ると思われる。 固有財産とは分別して管理する必要があり( 本規則 以下、 KIK-DIREスキームの概要を説明した上で、 3 条 )、当該投資資産はIM 又はCBの固有資産とは 2015 年 11月の改正の内容についてより詳しく説明す ならないとされている(本規則 2 条 d ) 。 る。 KIK-DIREの運営及び資産運用は原則としてIM が行う( 本規則 7 条 ) 。但し、当該運用権限は一定 (1 ) KIK-DIREスキームの概要及び運営 の場合には制限されており、例えば当該 KIK-DIRE KIK-DIREは、法人や信託契約に基づくスキームと の設立又は運営に関与する者との間で取引を行う場 は異なり、包括投資契約( KIK : Kontrak Investasi 合には、公正及び透明性のある方法で取引を行う必 注3 Kolektif ) に基づくスキームと説明される 。インドネシ 要があり、かつ、ユニット保有者の総会を開催し、総 アの資本市場法( 1995 年法第 8 号 ) によれば、包括 会において当該取引を承認する決議を経る必要があ 投資契約とは、investment manager(以下「 IM 」 るとされている( 本規則 10 条 ) 。スポンサーとの間の という。 ) とcustodian bank( 以下「 CB 」という。 ) と 利益相反取引を制限する趣旨の規定と考えられるが、 の 間 で 締 結 され 、当 該 投 資 に 係 る ユ ニット 「 設立又は運営に関与する者 」や「 公正及び透明 ( participation units ) の保有者の権利義務を規定 性のある方法 」の具体的内容は規定上必ずしも明確 し、それに基づいてIMが包括投資資産を運用し、 ではない。 CBが包括投資資産の保護預かりを行うものとされて 本規則上 、KIK-DIREは、基本的に、株式会社形 いる。当該スキームの実質的投資家はユニットの保 態の特別目的会社( special purpose company ) を 有者であり、IM 、CB 及びユニット保有者の三者の機 通じて不動産を保有することにより投資を行う( 本規 能・役割分担に着目すれば、実質的に、日本の投信 則2条a ) 。そして、KIK-DIREは、かかる特別目的 法に基づく委託者指図型投資信託における委託者 、 会社の出資持分の99.9% 以上を保有することとされ 受託者及び受益者の関係に類似すると言える。そし ているが( 本規則 1 条 e )、上記のとおり、株式会社 て、IM 及び CBは、KIK-DIREの投資資産を自らの には最低 2 名の株主が必要であるため残りの0.1% 以 図 2 インドネシアの REITスキーム ( KIK-DIRE ) 投資家 オフショア インドネシア ユニット 包括投資契約 ユニット 投資家 KIK -DIRE IM CB 株主 99.9% テナント テナント 特別目的会社(PT) HGB・完成建物 注3 例えばフランスの fonds commun de creance 等に類似した制度と言われている。 112 ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.30 0.1% 下は他の株主が保有する必要がある。しかし、当該 (3 ) ユニットの売買及び配当 他の株主を外国法人とすると、特別目的会社が外国 KIK-DIREは、公募注 5 又は私募いずれの形態も 資本会社( PMA ) となり、当局から許認可等を得る 可能であり(本規則 2 条 e 、f )、投資家は、ユニットを 必要が生じるため留意が必要である。 市場から又は相対取引により取得することができる。 売却については、相対取引による売却のほか、上場 (2 ) 投資・借入制限等 KIK-DIREは、不動産 、不動産関連資産 されている場合は市場での売却 、私募の場合には 注4 並び に現金及び現金同等物に対して投資をすることがで きるが、以下の条件を充足する必要がある( 本規則 1 条 a 、9 条 ) 。 IMによる買戻しによることも可能とされている( 本規 則2条g ) 。 ユニットに係る配当については、まず特別目的会社 はその投資収益の全てをKIK-DIRE( 及び他の株 ( i) 不動産が純資産の 50% 以上 主) に対して配当する必要があり(本規則 2 条 c )、 ま 不動産及び不動産関連資産が純資産の 80% ( ii) た、KIK-DIREは税引後利益の90% 以上をユニット 以上 (iii) 現金及び現金同等物は純資産の 20% 以下 また、KIK-DIREにはいくつかの投資制限が定め 保有者に対して配当しなければならないとされている (本規則 18 条 ) 。 (4 ) 税務上の取扱い~ 2015 年11月の改正 られており、例えば、以下のいずれかに該当する投資 上記のとおり、2015 年 11月に出された新たな規 を行うことはできないとされている( 本規則 2 条 、13 則注 6 により、KIK-DIREに関する税務の取扱いが大 条) 。 きく改正された。当該規則による改正前と改正後の ( i) 更地や開発中の不動産の取得 取扱いの違いをまとめたのが表1である。なお、以下 海外の不動産又は不動産関連資産の取得 ( ii) はあくまでも原則的な場合を記載しており、一定の場 (iii) 保有期間が2 年未満の不動産の譲渡。但し、 合には一部の課税項目の適用が除外され又は税率 ユニット保有者の過半数の事前の同意がある が異なる場合もあるため、実際の取引の内容に応じ 場合等を除く。 て課税関係を確認することが望ましい。 まず、 (i ) 配当時の取扱いについては、上記のとお なお、KIK-DIREは、デット性証券を発行すること り、KIK-DIREにおいては株式会社形態の特別目的 はできず、借入のみ可能であるが、借入額は取得す 会社を通じて不動産の取得を行う必要があるところ、 る不動産の価値の20% 以下でなければならない( 本 同スキームにおいては、特 別目的 会 社 及び KIK- 規則 2 条 p ) 。 DIREを一体として見て、一回の所得税課税注 7 がな 注4 本規則上、 「不動産」とは、土地及び土地上の建物と定義されている。また、「不動産関連資産」とは、不動産事業を主要事業とする上場又は 非上場の会社の証券と定義されている。なお、「証券(Efek)」は本規則上は定義されていないものの、資本市場法上、株式のみならず社債、約 束手形等を含むものと定義されている。 注5 公開情報によれば、現在、インドネシア証券取引所に上場している KIK-DIRE は「DIRE CIPTADANA PROPERTI RITEL INDONESIA」のみのようである。 注6 KIK-DIRE スキームを用いる納税者への課税の取扱いに関する財務省規則(No.200/PMK03/2015)(以下「財務省規則」という。) 注7 インドネシアにおける法人所得税率は、中小事業者等を除き、原則として 25% である。 March-April 2016 113 表1 課税項目(負担者 ) 改正前 改正後 15%の課税 非課税 ( i) 配当時 特別目的会社からKIK-DIREへの配当 KIK-DIREからユニット保有者への配当 非課税(ユニット保有者の課税所得とならない) ( ii) 不動産取得時 キャピタルゲイン課税 譲渡価格の5% 所得税(売主 ) 不動産取得税(買主 ) 譲渡価格の5% 付加価値税(買主 ) 譲渡価格の10% される。しかし、財務省規則による改正前は、それに る不動産保有ビークルを借入人とするノンリコースロー 加えて特別目的会社からKIK-DIRE への配当時にも ンの可能性を検討する例も出てきている。 課税されていたことから、結局二重に課税が生じると 以下 、本稿では、インドネシアにおける不動産ファイ いう問題があった。この問題に対し、財務省規則は、 ナンスに関する留意点として、インドネシアの中央銀行 特別目的会社からKIK-DIRE への配当については であるBank Indonesia( 以下「 BI 」という。 ) による 課税しないこととすることで二重の課税が生じないよう 2つの規制に触れた上 、倒産手続における不動産担 対処した。 保ローンの処遇とノンリコースローンの可能性につい これに対し、 ( ii ) 不動産取得時については、財務 て述べる。 省規則による改正前は、不動産の売主は譲渡価格 の5%を所得税として支払う必要があったところ、改 正後は、当該不動産のキャピタルゲインについて所得 (2 ) BIによる規制①~外貨建てオフショア債務に 対する規制 税課税がなされることとなった。これにより、含み益の 現状 、インドネシア現地における借入は利息が高い 大きい不動産の譲渡については改正がむしろ不利に ことから、実務上 、海外からの外貨建オフショアローン 注8 働く結果となるため留意が必要である 。 が検討される場合が多い。かかるオフショアローンに 関し、BIは、2014 年 10月及び 12月に出した規 則 4. 不動産ファイナンスの留意点 (1 ) 不動産ファイナンスのニーズの高まり 近時、 インドネシアの不動産開発・投資案件におい ( 16/20/PBI/2014 及 び 16/21/PBI/2014 )により、 いわゆる( i )ヘッジ比率規制 、 ( ii )流動性比率規 制 、及び( iii )格付取得義務の3つからなる外貨建 てオフショア債務に関する規制を導入した。これらの て、不動産を裏付けとした資金調達の必要性が高 うち( i )及び( ii ) については2015 年 1月1日から、 まっている。例えば、日系デベロッパーによるレジ開発 ( iii ) については2016 年 1月1日から施行されている。 案件において、プロジェクト期間中、開発に要する資 これらの規制の概要は以下のとおりである。 金の一部を金融機関等から外部調達するニーズが (i ) ヘッジ比率規制 ある。また、インドネシアを始めとする東南アジア各国 各四半期末日から3か月以内 /3~ 6か月以内 の不動産を投資対象とするファンドを組成する動きも に弁済期が到来する外貨建流動資産・負債に みられ、かかるスキームにおいてはインドネシアにおけ 基づく債務超過額について25%の為替ヘッジ 注8 報道によれば、インドネシア政府は、KIK-DIRE による不動産取得時の所得税や不動産取得税について、さらに緩和することを検討中とのことで ある。 114 ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.30 をする必要がある ( ii ) 流動性比率規制 の対応として、テナントとの契約において、あくまで支 払通貨はルピア建てとしつつ、当初賃料を設定した 各四半期末日から3か月以内に弁済期が到 時点から為替が変動した場合 、当該変動と同比率で 来する外貨建流動負債について70%の外貨 ルピア建ての賃料が変動することとするような合意が 建流動資産を確保する必要がある される場合がある。但し、かかる合意が実質的に上 ( iii ) 格付取得義務 記 BI 規則に違反するものでないかは慎重な検討が インドネシアの民間企業( 銀行を除く) は、外 必要である。なお、各テナントとの間で上記のような 貨建オフショアローンによる借入をするには外 合意を取得することが難しい場合 、実質的なスポン 部格付機関から“ BB ”相当以上の格付を取 サーがマスターレッシーとして間に入り、マスターレッ 得する必要がある シーから不動産保有ビークルへの賃料について上記 のような合意をすることで対応する例もある。しかし、 本稿で触れたPT PMAスキームやKIK-DIREス 上記のとおりかかる合意がBI 規則違反でないかはや キームにおいてオフショアローンを検討する場合 、上 はり問題となり、また、かかるスキームはマスターレッ 記のうち( i )及び( ii ) については、PT PMAや特 シーの信用リスクも負担することとなる。 別目的会社に対する貸付契約の財務制限条項にお いて上記基準を常に遵守するよう制限を課し、また、 上記規制の及ぶ期間を踏まえて元本の最終弁済期 (4 ) 倒産手続における不動産担保ローンの処遇と ノンリコースローンの可能性 限や不動産処分時期を設定すること等は検討に値す インドネシアにおいて、不動産から生み出される ると思われる。また、 ( iii ) については格付取得の可 キャッシュフローのみを引き当てとする証券等(ノンリ 否を検討する必要があると思われるが、例外として、 コースローンを含む。) を発行し、投資家に販売するよ 親子ローン若しくは親会社による保証がある場合、又 うな仕組みは、現時点において殆ど存在しないように は、新設会社の場合( 操業開始から3 年間 )、親会 見受けられる。しかし、今後 、スポンサーのオフバラ 社の格付をもって代替可能とされている。 ンス取引の要請 、安定したキャッシュフローを生むア セットの増加 、不動産担保執行の確実性の上昇等 (3 ) BIによる規制②~ルピア使用義務 の諸々の状況によっては、将来的に、かかるスキーム また、BIは、2015 年 3月に 出した 規 則( 17/3/ のニーズ及び許容性が高まる可能性もある。かかる PBI/2015 )により、一 定の適用除 外 取引を除き、 スキームを検討する場合 、証券等が対象資産の信 2015 年 7月1日からは非現金取引についてもルピアの 用力のみを引き当てとすることを法的に確保するため 使用を義務づけた(それ以前は、現金取引について には、日本における議論を参照すると、①当該資産 のみルピア使用が義務づけられていた。 ) 。当該規則 の生み出すキャッシュフローが対象資産の原保有者 上、オフショアローンは適用除外取引に含まれるため、 (オリジネーター) の倒産リスク・信用リスクから隔離さ ルピア以外の通貨による貸付は可能である。しかし、 れることに加え、②対象資産を保有するビークル自体 不動産投資スキームにおいて保有する不動産におい の倒産リスクを極小化する必要がある。①は、オリジ て、テナントからの賃料収入がルピア建てである場 ネーターから資産保有ビークルへの資産譲渡に係る 合 、スキームとして為替変動のリスクを負うこととなる。 いわゆる真正譲渡性の問題として議論される。これ かかる為替リスクへの対応としては、まず為替ヘッ に対し、②の点は、一般に、資産保有ビークルの倒 ジを組むことによる対応が考えられるものの、現状 、ル 産状態自体の発生を防止する措置( 倒産予防措 ピアの為替ヘッジは非常にコストが高いため、スキー 置) 及び倒産状態が発生していても倒産手続を開始 ム全体の収益性に対して大きな負担となる。その他 させないようにする措置( 倒産手続防止措置 ) とし March-April 2016 115 て、法令上どのような対応が可能かを検討するもの ならない( 同法 6 条 6 項 、8 条 5 項 )。かかる破産手 である。以下 、本稿では、②に関する議論の前提と 続において、担保権者は、破産宣告後最長 90日間 してインドネシアの倒産手続における不動産担保ロー は原則として担保権の実行が禁止されるが、当該待 ンの処遇について触れ、その他の議論については別 機期間を除いては原則として特段の制限なく、破産 稿に委ねることとする。 手続によらないで担保権の実行及び債権回収を図る 不動産投資スキームにおいて資金調達を行う場 ことが可能である。これに対し、 ( ii )支払猶予手続 合 、借入ビークルの保有する不動産に対して抵当権 は、債務不履行等に陥った債務者が、事業活動を を設定することが想定される。不動産担保ローン一 継続しつつ、債権者との間で今後の弁済の仕方に 般に関する実務上の留意点については、拙稿「ア ついて協議する機会を持つことを目的として、一定期 ジア不動産取得に関する実務上の留意点(インドネ 間の支払猶予を申し立てる制度である。同手続は、 シア編 ) 」( 本誌 25 号 、共著 ) を参照されたい( 特 債務者が債務不履行に陥っている場合又は陥ること に、不動産担保権の実行に際しては、事実上の執 が予見される場合に、債務者又は債権者が申し立て 行妨害等により執行が困難な場合がある点はご留 ることができる(同法 222 条 )。裁判所は、債務者に 意頂きたい。)。本稿では、かかる不動産担保ローン より支払猶予の申立てがなされた場合 、申立てが登 に関し、資産保有ビークルが倒産手続に至った場合 録されてから3日以内に一時的な支払猶予( 暫定支 に、不動産担保ローンがどのように処遇されるか - 払猶予 ) を宣告しなければならず( 同法 225 条 )、そ すなわち、債権者は日本の破産手続における別除権 の後 45日以内に開催される第 1 回債権者集会にお のように倒産手続外で担保権を行使することができ いて、弁済計画案又はその後の最大 270日間の継 るか、それとも日本の会社更生手続における更生担 続的な支払猶予( 確定的支払猶予 ) について決議 保権のように担保権者も手続に組み込まれ、権利内 する( 同法 228 条 )。かかる支払猶予が効力を有し 容の縮減も含むような制約を受けるか - につき、以 ている期間中は、上記破産手続における待機期間 下言及する。 同様担保権の実行が禁止されるが、当該待機期間 インドネシアの倒 産 法( 2004 年 法 第 37 号 )は、 116 を除いては、原則として特段の制限なく担保権の実 (i ) 破産手続 、及び 、 ( ii )支払猶予手続( PKPU: 行が可能である。以上のとおり、破産手続及び支払 Penundaan Kewajiban Pembayaran Utang )の 猶予手続のいずれの場合にも、一定期間担保権の 2 つの手続を定めている。前者は、日本の破産手続 実行が禁止されることはあり得るが、担保権の権利 に類似する制度である。これに対し、後者は、債務 内容自体の縮減を含むような制約を受けるものではな 者に対して一時的に弁済の猶予の機会を与え、弁 く、原則として、最終的には当該担保権の把握する 済計画案を作成し、それに基づいて弁済をさせるた 担保価値に相当する債権回収を図ることが可能であ めの手続であり、再生型の手続である。まず、 (i ) イ ると考えられる。 ンドネシアの破産手続は、債務者が、① 2 名以上の 現時点においては、上記のとおり、インドネシアに 債権者に対して債務を負っていること、かつ、②弁 おける不動産投資スキームにおいてローンを実行す 済期が到来した1 つ以上の債務について履行しな る場合 、資産保有ビークルの倒産隔離性が議論さ かったこと、を原因として債権者又は債務者が申し立 れることは殆どないように見受けられる。その背景に てることができる( 倒産法 2 条 1 項 )。支払不能や債 は、上記倒産手続における担保権に対する制約の 務超過を必要としない点で、非常に要件を満たしや 程度如何に関わらず 、そもそもの担保権の執行の すいのが特徴と言える。破産の申立てが登録された 不確実性等の事情もあり、現状 、結局はスポンサー 後 、20日以内に第 1 回目の債権者集会を開催し、裁 保証をとることによりリコースローンとして仕組む( 仕 判所は、60日以内に破産宣告の判断を下さなければ 組まざるを得ない ) のが殆どであるという事情がある ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.30 ようである。ただ、上記のとおり将来的にノンリコース か 、また、インドネシアの法令及び実務上どのような ローンのニーズ及び許容性が高まった場合 、インドネ 措置が可能なのか注 9 については、今後の実務の動 シアの不動産投資スキームにおける資産保有ビーク 向も注視しつつ引き続き検討していく所存である。 ル( PT PMAスキームにおけるPT PMA や KIK ※本稿の作成に当たっては、インドネシアの法律事務所であるSSEKの DIREにおける特別目的会社 ) について、具体的に どの程度の倒産隔離措置が要求されることになるの Michael S. Carl 弁護士 、Fahrul S. Yusuf 弁護士 、D. Savitri Reni 弁護士及び Miftahul Khairi 弁護士の協力を得た。ここに感謝申し上 げる。 注9 基本的には、上記の倒産予防措置及び倒産手続防止措置として、それぞれインドネシア法上どのような対応が考えられるかにつき、日本にお ける一般的な対応と対比しつつ検討することになると思われる。 はなわ すすむ ロビー・ジュリアス 2003 年東京大学法学部卒業、2004 年森・濱田松本法律事務所入 所。2012 年シンガポール国立大学及びニューヨーク大学卒業(Dual Degree LL.M.) 。2012 年 ベト ナ ム LCT Lawyers 法 律 事 務 所、 2013 年インドネシア SSEK 法律事務所にて執務、同年帰国。 駐在経験のあるインドネシア、ベトナムを中心に、日系企業による東南 アジア諸国への進出やクロスボーダー取引を多く手掛ける。また、不 動産の証券化や REIT業務などの不動産ファンド、不動産ファイナンス 分野にも造詣が深く、近時は、インドネシア、ベトナム等の東南アジア 諸国の不動産投資案件に積極的に取り組んでいる。 2009 年国立インドネシア大学法学部卒業(LL.B.) 。同年よりジャ カルタで有数の大手法律事務所のアソシエイトとして企業・商取引 プラクティスグループに所属し、様々な国のクライアントに対して アドバイスを行った経験を有する。2014 年に森・濱田松本法律事 務所シンガポールオフィスへ入所し現在に至る。2015 年インドネ シア弁護士登録、2016 年シンガポール外国法弁護士登録。不動産 案件を含む外国直接投資、クロスボーダー M&A、会社設立、ジョ イントベンチャー、コンプライアンスに関するアドバイス及び雇用 法を含む企業法務全般を取り扱っている。 March-April 2016 117
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