インドネシアの不動産投資スキーム ~インドネシア

Law, Accounting & Tax
インドネシアの不動産投資スキーム
~インドネシアのREIT制度、
不動産ファイナンスの留意点~
塙 晋
森・濱田松本法律事務所
弁護士
Robbie Julius
森・濱田松本法律事務所
インドネシア弁護士
不動産を裏付けとした資金調達の必要性が高まって
1. はじめに
いることを踏まえ、インドネシアにおいて不動産ファイナ
ンスを検討する場合の主な論点についても言及する。
近時 、日本企業によるインドネシアにおける不動産
なお、本稿で触れる不動産投資スキーム等の検討の
開発事業や不動産の取得を伴う取引が活発化してお
前提となるインドネシアにおける不動産取得に関する
り、不動産取得の実務についての関心が高まってい
実務上の留意点については、拙稿「アジア不動産
る。また、インドネシアにおける不動産投資に関連し
取得に関する実務上の留意点(インドネシア編 )
」
(本
て、インドネシア政府は、2015 年 11月、インドネシアの
誌 25 号 、共著 )
を参照されたい。
REIT 制度について重要な改正を行った。それをきっ
かけとして、インドネシアの複数の有力デベロッパー
が、インドネシアにおいて同制度を利用した不動産投
資ファンドを立ち上げることを計画しているとの報道が
なされている。
このような状況を踏まえ、本稿では、インドネシアに
2. PT PMAスキーム
現在、インドネシアにおける不動産投資において一
般的に用いられているスキームは、概要、インドネシア
に株式会社( PT:Perseroan Terbatas )
を設立し、
おいて不動産投資を行う場合のスキームについて整
当該株式会社が土地注 1を所有し、当該土地上で建
理した上で、その一つであるインドネシアのREITス
物の開発を行い又は完成建物を所有し、土地建物の
キーム及びそれに関する近時の改正の内容を紹介す
売却やテナントへの賃貸(マスターリースを介する場合
る。さらに、インドネシアの不動産投資案件において、
もある。
)
によって収入を得る事業を行うものである。株
注1
「土地」の所有及び売買等の取引についての記載は、特に断りのない限り、建設権(Hak Guna Bangunan、以下「HGB」という。)の保有及びその
売買等の取引を念頭に記載している。
110
ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.30
図1 PT PMA スキームの例
①
投資家
②
日本企業
S-REIT
オフショア
中間ビークルA
中間ビークルB
合弁契約
海外子会社
インドネシア
合弁パートナー
テナント
PT PMA
PT PMA
テナント
HGB・完成建物
HGB・開発物件
式会社は最低 2 名の株主が必要であることから、合
とを前提とし、かかるスキームのことを、以下「 PT
弁パートナーがいるような場合を除き、中間ビークルを
PMAスキーム」と呼ぶこととする。
設立して株主とするなどの対応が必要となる。例え
ば、①インドネシアの不動産を組み入れているシンガ
ポールREITにおいては、シンガポールに設立した中
3.インドネシアのREITスキーム
間ビークルを介してインドネシアの不動産を保有してい
インドネシアには、KIK-DIRE( Dana Investasi
る場合が多い。一方、②例えば開発型の案件で現
Real Estate dalam bentuk Kontrak Investasi
地の合弁パートナーがいるような場合、合弁契約にお
Kolektif )
と呼ばれるREITスキームが存 在 する。
いて、出資の前提条件や不動産保有会社のガバナン
KIK-DIREは2007 年に導入された注 2 が、特に税務
ス等について慎重に検討する必要がある。
面で使い勝手が悪く、これまでは殆ど利用されてこな
なお、一部でも外国投資家から出資を受ける株式
かった。しかし、
インドネシア政府は、後述するとおり、
会社は、外国資本会社( PMA:Penanaman Modal
2015 年 11月、KIK-DIREにおける税務の取扱いに
Asing )
に該当し、業種毎に、投資調整庁( BKPM:
ついて大きな改正を行い、それにより、KIK-DIREを
Badan Koordinasi Penanaman Modal )
から基本許
利用するメリットが大きくなった。それに伴い、Lippo
可( principle license )
を取得する必要がある。イン
などをはじめとするインドネシアの大手デベロッパー
ドネシア法上、一定の事業については外資規制が存
が、インドネシア国内においてREITを組成するため
在するが、上記の不動産事業については100% 外資
の検討を開始したとの報道がなされている。将来的
による外国資本会社にて行うことが可能である。本稿
に、
インドネシア国内におけるREITの利用が浸透し、
では、日本企業をはじめとする外資による不動産投資
一般的なものとして定着すれば、例えば PT PMAス
を念頭に置くことから、外国資本会社に該当する株式
キームで開発を行った物件の最終的なエグジット先と
会社を資産保有ビークルとするスキームを検討するこ
して、シンガポールREIT 等に加えてインドネシア国内
注2
日本の金融庁に相当する OJK(Otoritas Jasa Keuangan)の前身である BAPEPAM の 2007 年規則 IX.M.1.(以下「本規則」という。)に基づく。
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のREITも選択肢の一つになり得ると思われる。
固有財産とは分別して管理する必要があり( 本規則
以下、
KIK-DIREスキームの概要を説明した上で、
3 条 )、当該投資資産はIM 又はCBの固有資産とは
2015 年 11月の改正の内容についてより詳しく説明す
ならないとされている(本規則 2 条 d )
。
る。
KIK-DIREの運営及び資産運用は原則としてIM
が行う( 本規則 7 条 )
。但し、当該運用権限は一定
(1 )
KIK-DIREスキームの概要及び運営
の場合には制限されており、例えば当該 KIK-DIRE
KIK-DIREは、法人や信託契約に基づくスキームと
の設立又は運営に関与する者との間で取引を行う場
は異なり、包括投資契約( KIK : Kontrak Investasi
合には、公正及び透明性のある方法で取引を行う必
注3
Kolektif )
に基づくスキームと説明される 。インドネシ
要があり、かつ、ユニット保有者の総会を開催し、総
アの資本市場法( 1995 年法第 8 号 )
によれば、包括
会において当該取引を承認する決議を経る必要があ
投資契約とは、investment manager(以下「 IM 」
るとされている( 本規則 10 条 )
。スポンサーとの間の
という。
)
とcustodian bank( 以下「 CB 」という。
)
と
利益相反取引を制限する趣旨の規定と考えられるが、
の 間 で 締 結 され 、当 該 投 資 に 係 る ユ ニット
「 設立又は運営に関与する者 」や「 公正及び透明
( participation units )
の保有者の権利義務を規定
性のある方法 」の具体的内容は規定上必ずしも明確
し、それに基づいてIMが包括投資資産を運用し、
ではない。
CBが包括投資資産の保護預かりを行うものとされて
本規則上 、KIK-DIREは、基本的に、株式会社形
いる。当該スキームの実質的投資家はユニットの保
態の特別目的会社( special purpose company )
を
有者であり、IM 、CB 及びユニット保有者の三者の機
通じて不動産を保有することにより投資を行う( 本規
能・役割分担に着目すれば、実質的に、日本の投信
則2条a )
。そして、KIK-DIREは、かかる特別目的
法に基づく委託者指図型投資信託における委託者 、
会社の出資持分の99.9% 以上を保有することとされ
受託者及び受益者の関係に類似すると言える。そし
ているが( 本規則 1 条 e )、上記のとおり、株式会社
て、IM 及び CBは、KIK-DIREの投資資産を自らの
には最低 2 名の株主が必要であるため残りの0.1% 以
図 2 インドネシアの REITスキーム
( KIK-DIRE )
投資家
オフショア
インドネシア
ユニット
包括投資契約
ユニット
投資家
KIK -DIRE
IM
CB
株主
99.9%
テナント
テナント
特別目的会社(PT)
HGB・完成建物
注3
例えばフランスの fonds commun de creance 等に類似した制度と言われている。
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ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.30
0.1%
下は他の株主が保有する必要がある。しかし、当該
(3 )
ユニットの売買及び配当
他の株主を外国法人とすると、特別目的会社が外国
KIK-DIREは、公募注 5 又は私募いずれの形態も
資本会社( PMA )
となり、当局から許認可等を得る
可能であり(本規則 2 条 e 、f )、投資家は、ユニットを
必要が生じるため留意が必要である。
市場から又は相対取引により取得することができる。
売却については、相対取引による売却のほか、上場
(2 )
投資・借入制限等
KIK-DIREは、不動産 、不動産関連資産
されている場合は市場での売却 、私募の場合には
注4
並び
に現金及び現金同等物に対して投資をすることがで
きるが、以下の条件を充足する必要がある( 本規則
1 条 a 、9 条 )
。
IMによる買戻しによることも可能とされている( 本規
則2条g )
。
ユニットに係る配当については、まず特別目的会社
はその投資収益の全てをKIK-DIRE( 及び他の株
( i)
不動産が純資産の 50% 以上
主)
に対して配当する必要があり(本規則 2 条 c )、
ま
不動産及び不動産関連資産が純資産の 80%
( ii)
た、KIK-DIREは税引後利益の90% 以上をユニット
以上
(iii)
現金及び現金同等物は純資産の 20% 以下
また、KIK-DIREにはいくつかの投資制限が定め
保有者に対して配当しなければならないとされている
(本規則 18 条 )
。
(4 )
税務上の取扱い~ 2015 年11月の改正
られており、例えば、以下のいずれかに該当する投資
上記のとおり、2015 年 11月に出された新たな規
を行うことはできないとされている( 本規則 2 条 、13
則注 6 により、KIK-DIREに関する税務の取扱いが大
条)
。
きく改正された。当該規則による改正前と改正後の
( i)
更地や開発中の不動産の取得
取扱いの違いをまとめたのが表1である。なお、以下
海外の不動産又は不動産関連資産の取得
( ii)
はあくまでも原則的な場合を記載しており、一定の場
(iii)
保有期間が2 年未満の不動産の譲渡。但し、
合には一部の課税項目の適用が除外され又は税率
ユニット保有者の過半数の事前の同意がある
が異なる場合もあるため、実際の取引の内容に応じ
場合等を除く。
て課税関係を確認することが望ましい。
まず、
(i )
配当時の取扱いについては、上記のとお
なお、KIK-DIREは、デット性証券を発行すること
り、KIK-DIREにおいては株式会社形態の特別目的
はできず、借入のみ可能であるが、借入額は取得す
会社を通じて不動産の取得を行う必要があるところ、
る不動産の価値の20% 以下でなければならない( 本
同スキームにおいては、特 別目的 会 社 及び KIK-
規則 2 条 p )
。
DIREを一体として見て、一回の所得税課税注 7 がな
注4
本規則上、
「不動産」とは、土地及び土地上の建物と定義されている。また、「不動産関連資産」とは、不動産事業を主要事業とする上場又は
非上場の会社の証券と定義されている。なお、「証券(Efek)」は本規則上は定義されていないものの、資本市場法上、株式のみならず社債、約
束手形等を含むものと定義されている。
注5
公開情報によれば、現在、インドネシア証券取引所に上場している KIK-DIRE は「DIRE CIPTADANA PROPERTI RITEL INDONESIA」のみのようである。
注6
KIK-DIRE スキームを用いる納税者への課税の取扱いに関する財務省規則(No.200/PMK03/2015)(以下「財務省規則」という。)
注7
インドネシアにおける法人所得税率は、中小事業者等を除き、原則として 25% である。
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表1
課税項目(負担者 )
改正前
改正後
15%の課税
非課税
( i)
配当時
特別目的会社からKIK-DIREへの配当
KIK-DIREからユニット保有者への配当
非課税(ユニット保有者の課税所得とならない)
( ii)
不動産取得時
キャピタルゲイン課税
譲渡価格の5%
所得税(売主 )
不動産取得税(買主 )
譲渡価格の5%
付加価値税(買主 )
譲渡価格の10%
される。しかし、財務省規則による改正前は、それに
る不動産保有ビークルを借入人とするノンリコースロー
加えて特別目的会社からKIK-DIRE への配当時にも
ンの可能性を検討する例も出てきている。
課税されていたことから、結局二重に課税が生じると
以下 、本稿では、インドネシアにおける不動産ファイ
いう問題があった。この問題に対し、財務省規則は、
ナンスに関する留意点として、インドネシアの中央銀行
特別目的会社からKIK-DIRE への配当については
であるBank Indonesia( 以下「 BI 」という。
)
による
課税しないこととすることで二重の課税が生じないよう
2つの規制に触れた上 、倒産手続における不動産担
対処した。
保ローンの処遇とノンリコースローンの可能性につい
これに対し、
( ii )
不動産取得時については、財務
て述べる。
省規則による改正前は、不動産の売主は譲渡価格
の5%を所得税として支払う必要があったところ、改
正後は、当該不動産のキャピタルゲインについて所得
(2 )
BIによる規制①~外貨建てオフショア債務に
対する規制
税課税がなされることとなった。これにより、含み益の
現状 、インドネシア現地における借入は利息が高い
大きい不動産の譲渡については改正がむしろ不利に
ことから、実務上 、海外からの外貨建オフショアローン
注8
働く結果となるため留意が必要である 。
が検討される場合が多い。かかるオフショアローンに
関し、BIは、2014 年 10月及び 12月に出した規 則
4. 不動産ファイナンスの留意点
(1 )
不動産ファイナンスのニーズの高まり
近時、
インドネシアの不動産開発・投資案件におい
( 16/20/PBI/2014 及 び 16/21/PBI/2014 )により、
いわゆる( i )ヘッジ比率規制 、
( ii )流動性比率規
制 、及び( iii )格付取得義務の3つからなる外貨建
てオフショア債務に関する規制を導入した。これらの
て、不動産を裏付けとした資金調達の必要性が高
うち( i )及び( ii )
については2015 年 1月1日から、
まっている。例えば、日系デベロッパーによるレジ開発
( iii )
については2016 年 1月1日から施行されている。
案件において、プロジェクト期間中、開発に要する資
これらの規制の概要は以下のとおりである。
金の一部を金融機関等から外部調達するニーズが
(i )
ヘッジ比率規制
ある。また、インドネシアを始めとする東南アジア各国
各四半期末日から3か月以内 /3~ 6か月以内
の不動産を投資対象とするファンドを組成する動きも
に弁済期が到来する外貨建流動資産・負債に
みられ、かかるスキームにおいてはインドネシアにおけ
基づく債務超過額について25%の為替ヘッジ
注8
報道によれば、インドネシア政府は、KIK-DIRE による不動産取得時の所得税や不動産取得税について、さらに緩和することを検討中とのことで
ある。
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ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.30
をする必要がある
( ii )
流動性比率規制
の対応として、テナントとの契約において、あくまで支
払通貨はルピア建てとしつつ、当初賃料を設定した
各四半期末日から3か月以内に弁済期が到
時点から為替が変動した場合 、当該変動と同比率で
来する外貨建流動負債について70%の外貨
ルピア建ての賃料が変動することとするような合意が
建流動資産を確保する必要がある
される場合がある。但し、かかる合意が実質的に上
( iii )
格付取得義務
記 BI 規則に違反するものでないかは慎重な検討が
インドネシアの民間企業( 銀行を除く)
は、外
必要である。なお、各テナントとの間で上記のような
貨建オフショアローンによる借入をするには外
合意を取得することが難しい場合 、実質的なスポン
部格付機関から“ BB ”相当以上の格付を取
サーがマスターレッシーとして間に入り、マスターレッ
得する必要がある
シーから不動産保有ビークルへの賃料について上記
のような合意をすることで対応する例もある。しかし、
本稿で触れたPT PMAスキームやKIK-DIREス
上記のとおりかかる合意がBI 規則違反でないかはや
キームにおいてオフショアローンを検討する場合 、上
はり問題となり、また、かかるスキームはマスターレッ
記のうち( i )及び( ii )
については、PT PMAや特
シーの信用リスクも負担することとなる。
別目的会社に対する貸付契約の財務制限条項にお
いて上記基準を常に遵守するよう制限を課し、また、
上記規制の及ぶ期間を踏まえて元本の最終弁済期
(4 )
倒産手続における不動産担保ローンの処遇と
ノンリコースローンの可能性
限や不動産処分時期を設定すること等は検討に値す
インドネシアにおいて、不動産から生み出される
ると思われる。また、
( iii )
については格付取得の可
キャッシュフローのみを引き当てとする証券等(ノンリ
否を検討する必要があると思われるが、例外として、
コースローンを含む。)
を発行し、投資家に販売するよ
親子ローン若しくは親会社による保証がある場合、又
うな仕組みは、現時点において殆ど存在しないように
は、新設会社の場合( 操業開始から3 年間 )、親会
見受けられる。しかし、今後 、スポンサーのオフバラ
社の格付をもって代替可能とされている。
ンス取引の要請 、安定したキャッシュフローを生むア
セットの増加 、不動産担保執行の確実性の上昇等
(3 )
BIによる規制②~ルピア使用義務
の諸々の状況によっては、将来的に、かかるスキーム
また、BIは、2015 年 3月に 出した 規 則( 17/3/
のニーズ及び許容性が高まる可能性もある。かかる
PBI/2015 )により、一 定の適用除 外 取引を除き、
スキームを検討する場合 、証券等が対象資産の信
2015 年 7月1日からは非現金取引についてもルピアの
用力のみを引き当てとすることを法的に確保するため
使用を義務づけた(それ以前は、現金取引について
には、日本における議論を参照すると、①当該資産
のみルピア使用が義務づけられていた。
)
。当該規則
の生み出すキャッシュフローが対象資産の原保有者
上、オフショアローンは適用除外取引に含まれるため、
(オリジネーター)
の倒産リスク・信用リスクから隔離さ
ルピア以外の通貨による貸付は可能である。しかし、
れることに加え、②対象資産を保有するビークル自体
不動産投資スキームにおいて保有する不動産におい
の倒産リスクを極小化する必要がある。①は、オリジ
て、テナントからの賃料収入がルピア建てである場
ネーターから資産保有ビークルへの資産譲渡に係る
合 、スキームとして為替変動のリスクを負うこととなる。
いわゆる真正譲渡性の問題として議論される。これ
かかる為替リスクへの対応としては、まず為替ヘッ
に対し、②の点は、一般に、資産保有ビークルの倒
ジを組むことによる対応が考えられるものの、現状 、ル
産状態自体の発生を防止する措置( 倒産予防措
ピアの為替ヘッジは非常にコストが高いため、スキー
置)
及び倒産状態が発生していても倒産手続を開始
ム全体の収益性に対して大きな負担となる。その他
させないようにする措置( 倒産手続防止措置 )
とし
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て、法令上どのような対応が可能かを検討するもの
ならない( 同法 6 条 6 項 、8 条 5 項 )。かかる破産手
である。以下 、本稿では、②に関する議論の前提と
続において、担保権者は、破産宣告後最長 90日間
してインドネシアの倒産手続における不動産担保ロー
は原則として担保権の実行が禁止されるが、当該待
ンの処遇について触れ、その他の議論については別
機期間を除いては原則として特段の制限なく、破産
稿に委ねることとする。
手続によらないで担保権の実行及び債権回収を図る
不動産投資スキームにおいて資金調達を行う場
ことが可能である。これに対し、
( ii )支払猶予手続
合 、借入ビークルの保有する不動産に対して抵当権
は、債務不履行等に陥った債務者が、事業活動を
を設定することが想定される。不動産担保ローン一
継続しつつ、債権者との間で今後の弁済の仕方に
般に関する実務上の留意点については、拙稿「ア
ついて協議する機会を持つことを目的として、一定期
ジア不動産取得に関する実務上の留意点(インドネ
間の支払猶予を申し立てる制度である。同手続は、
シア編 )
」( 本誌 25 号 、共著 )
を参照されたい( 特
債務者が債務不履行に陥っている場合又は陥ること
に、不動産担保権の実行に際しては、事実上の執
が予見される場合に、債務者又は債権者が申し立て
行妨害等により執行が困難な場合がある点はご留
ることができる(同法 222 条 )。裁判所は、債務者に
意頂きたい。)。本稿では、かかる不動産担保ローン
より支払猶予の申立てがなされた場合 、申立てが登
に関し、資産保有ビークルが倒産手続に至った場合
録されてから3日以内に一時的な支払猶予( 暫定支
に、不動産担保ローンがどのように処遇されるか -
払猶予 )
を宣告しなければならず( 同法 225 条 )、そ
すなわち、債権者は日本の破産手続における別除権
の後 45日以内に開催される第 1 回債権者集会にお
のように倒産手続外で担保権を行使することができ
いて、弁済計画案又はその後の最大 270日間の継
るか、それとも日本の会社更生手続における更生担
続的な支払猶予( 確定的支払猶予 )
について決議
保権のように担保権者も手続に組み込まれ、権利内
する( 同法 228 条 )。かかる支払猶予が効力を有し
容の縮減も含むような制約を受けるか - につき、以
ている期間中は、上記破産手続における待機期間
下言及する。
同様担保権の実行が禁止されるが、当該待機期間
インドネシアの倒 産 法( 2004 年 法 第 37 号 )は、
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を除いては、原則として特段の制限なく担保権の実
(i )
破産手続 、及び 、
( ii )支払猶予手続( PKPU:
行が可能である。以上のとおり、破産手続及び支払
Penundaan Kewajiban Pembayaran Utang )の
猶予手続のいずれの場合にも、一定期間担保権の
2 つの手続を定めている。前者は、日本の破産手続
実行が禁止されることはあり得るが、担保権の権利
に類似する制度である。これに対し、後者は、債務
内容自体の縮減を含むような制約を受けるものではな
者に対して一時的に弁済の猶予の機会を与え、弁
く、原則として、最終的には当該担保権の把握する
済計画案を作成し、それに基づいて弁済をさせるた
担保価値に相当する債権回収を図ることが可能であ
めの手続であり、再生型の手続である。まず、
(i )
イ
ると考えられる。
ンドネシアの破産手続は、債務者が、① 2 名以上の
現時点においては、上記のとおり、インドネシアに
債権者に対して債務を負っていること、かつ、②弁
おける不動産投資スキームにおいてローンを実行す
済期が到来した1 つ以上の債務について履行しな
る場合 、資産保有ビークルの倒産隔離性が議論さ
かったこと、を原因として債権者又は債務者が申し立
れることは殆どないように見受けられる。その背景に
てることができる( 倒産法 2 条 1 項 )。支払不能や債
は、上記倒産手続における担保権に対する制約の
務超過を必要としない点で、非常に要件を満たしや
程度如何に関わらず 、そもそもの担保権の執行の
すいのが特徴と言える。破産の申立てが登録された
不確実性等の事情もあり、現状 、結局はスポンサー
後 、20日以内に第 1 回目の債権者集会を開催し、裁
保証をとることによりリコースローンとして仕組む( 仕
判所は、60日以内に破産宣告の判断を下さなければ
組まざるを得ない )
のが殆どであるという事情がある
ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.30
ようである。ただ、上記のとおり将来的にノンリコース
か 、また、インドネシアの法令及び実務上どのような
ローンのニーズ及び許容性が高まった場合 、インドネ
措置が可能なのか注 9 については、今後の実務の動
シアの不動産投資スキームにおける資産保有ビーク
向も注視しつつ引き続き検討していく所存である。
ル( PT PMAスキームにおけるPT PMA や KIK
※本稿の作成に当たっては、インドネシアの法律事務所であるSSEKの
DIREにおける特別目的会社 )
について、具体的に
どの程度の倒産隔離措置が要求されることになるの
Michael S. Carl 弁護士 、Fahrul S. Yusuf 弁護士 、D. Savitri Reni
弁護士及び Miftahul Khairi 弁護士の協力を得た。ここに感謝申し上
げる。
注9
基本的には、上記の倒産予防措置及び倒産手続防止措置として、それぞれインドネシア法上どのような対応が考えられるかにつき、日本にお
ける一般的な対応と対比しつつ検討することになると思われる。
はなわ すすむ
ロビー・ジュリアス
2003 年東京大学法学部卒業、2004 年森・濱田松本法律事務所入
所。2012 年シンガポール国立大学及びニューヨーク大学卒業(Dual
Degree LL.M.)
。2012 年 ベト ナ ム LCT Lawyers 法 律 事 務 所、
2013 年インドネシア SSEK 法律事務所にて執務、同年帰国。
駐在経験のあるインドネシア、ベトナムを中心に、日系企業による東南
アジア諸国への進出やクロスボーダー取引を多く手掛ける。また、不
動産の証券化や REIT業務などの不動産ファンド、不動産ファイナンス
分野にも造詣が深く、近時は、インドネシア、ベトナム等の東南アジア
諸国の不動産投資案件に積極的に取り組んでいる。
2009 年国立インドネシア大学法学部卒業(LL.B.)
。同年よりジャ
カルタで有数の大手法律事務所のアソシエイトとして企業・商取引
プラクティスグループに所属し、様々な国のクライアントに対して
アドバイスを行った経験を有する。2014 年に森・濱田松本法律事
務所シンガポールオフィスへ入所し現在に至る。2015 年インドネ
シア弁護士登録、2016 年シンガポール外国法弁護士登録。不動産
案件を含む外国直接投資、クロスボーダー M&A、会社設立、ジョ
イントベンチャー、コンプライアンスに関するアドバイス及び雇用
法を含む企業法務全般を取り扱っている。
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