金融規制の変化にどう対応するべきか

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金融規制の変化にどう対応するべきか
江川 由紀雄
新生証券株式会社
調査部長
一般社団法人流動化・証券化協議会 顧問
金融機関の行動は市場動向に
影響する
金融機関に対する規制は、直接的
改廃新設して行くという傾向がみられ
型的な形態である社債や証券化商
る。たとえば、欧州の特定の国の当
品といった分野では、オリジネーター・
局の問題意識に端を発する規制案
発行体として、また、投資家としての
が、数年の時間を経て、日本国内の
銀行業界の存在が大きい。必然的
規制として導入されることもある。
に、銀行の行動が市場全体の動向
には金融機関の行動を制約し、金融
本稿では、バーゼル銀行監督委員
機関の行動の変化は多くの場合に
会における合意に基づく銀行の自己
様々な金融市場の動向に影響するこ
資本比率規制のなかで、証券化に密
とになる。このため、金融機関ではな
接に関係する内容のこれまでの変遷
い市場参加者にとっても無関係では
について概観する。そのうえで、規制
ない。金融機関は厳格な監督の対
の見直しに対して市場関係者がいか
銀行の自己資本比率規制を含む
象になっており、その行動は、法令そ
に対応するべきかについて若干の考
件税制基準規制は、日本を含む多く
の他の形態による規制ルールに拘束
察を加えてみたい。
の国々で、バーゼル銀行監督委員会
に与える影響は顕著なものになる。
バーゼル銀行監督委員会と
各国の銀行規制の関係
規制ルールの検討や考案のプロセ
における合意に概ねまたは厳格に
見直され、改正や追加が繰り返され、
スでは、市場関係者が必ずしも蚊帳
沿ったものになっている。どこまで厳
時代の変遷と共にときには大きく変化
の外に置かれる訳ではない。意見陳
格にバーゼル合意に準拠した規制を
する性質のものである。
述や政策提言を行う機会が与えられ
導入しているかは、国によって大幅に
ることもあるし、自ら積極的にそうした
異なる。バーゼル委が2012 年以降
機会を創りだすこともできる。
継続的に実施しているバーゼル合意
される。規制ルール体系は、頻繁に
規制は、誰かが何らかの意図を
もって行動する結果、検討され、考案
の 導 入 状 況 の 評 価( regulatory
され、法令規則などの形でのルール
の導入や改正によって具現化する。
金融規制に着目すべき理由
consistency assessment )で日本は
高い評価を受け続けている。日本は
近時の金融規制の見直しは、政治的
な思惑や特定の国の監督当局の意
日本では、銀行のバランスシートを
図等を背景に、国際的な会合などの
介する間接金融の規模が大きく、市
プラットフォームで何らかの合意がなさ
場機能を用いた直接金融が相対的
バーゼル委員会は国際的な監督
れ、それを元に各国が自国の規制を
に小さい。しかも、
「直接金融 」の典
権限を有しておらず、その合意文書
バーゼル合意を律儀に守る傾向がみ
られると言ってよいだろう。
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も法的拘束力を有するものではない。
スクアセット」の額に換算する。分子
確保に躍起になっていた時期である。
バーゼル合意は、各国がそれに基づ
の自己資本も、会計上の資本とはや
銀行は、貸出金( 貸付債権 )
等の資
く規制を導入することで、銀行に対す
や異なる。この比率を一定水準以上
産の証券化を行うことで、厳しい市場
る自己資本比率規制等を国際的に
に保つことを要求するのが自己資本
環境下での資金調達―手元流動性
概ね同じ内容とし、国際的な競争条
比率規制である。
の確保―を実現すると同時に、一時
件の不公平を解消しようとするもので
ある。
資本比率規制では、証券化商品に
的にせよ、自己資本比率の嵩上げが
できた。
最初の合意が成立したのは1988
ついての特別な規定はなかった。企
年であった。日本は、日本独自の自己
業向けのローンであろうが、保有する
資本比率規制として既に存在してい
証券化商品であろうが、民間向けの
た大蔵省銀行局長通達の改正の形
エクスポージャーは何であれ一律にリ
で、さっそく、1988 年から導入した。
スクウェイト100%が課されていた。こ
貸出金を証券化すると自己資本比
その後、1993 年の銀行法等改正の
のため、証券化取引を用いて、自己
率が向上してしまう問題については、
際に、銀行法等に自己資本比率規
資本比率を変化させてしまうことは容
日本の大蔵省は気付いていた。この
制の根拠条文が設けられた。大蔵
易だった。保有する100 億円の企業
ため、日本の銀行業界は、1998 年春
省通達は廃止され、それ以降は、自
向けの貸出金を証券化し、20 億円の
に、大蔵省告示の解釈を変え、証券
己資本比率規制の詳細は大蔵省告
劣後トランシェを自ら保有しつつ、80
化については、劣後トランシェを保有
示( 後に金融庁告示 )
で定める運用
億円の優先トランシェを外部に売却
していれば、
“ low level recourse ”
がなされている。
し、現金に換える。現金はリスクウェイ
扱い、すなわち、買戻条件付又は求
バーゼル合意に基づく銀行の自己
トがゼロである。現金を用いて負債を
償権付の債権譲渡・資産売却扱いと
資本比率規制は、かつては「 BIS
弁済し、バランスシートを圧縮すること
することにした。こうした大蔵省告示
規制 」と呼ばれていた。バーゼル委
もできる。保有するエクスポージャー
の解釈の変更は、全国銀行協会を
員 会の事 務 局は国 際 決 済 銀 行
は、企業向け貸出金であろうが証券
始めとする銀行業界団体が自らの会
( BIS )
に置かれているからであろう。
化商品であろうが、証券化商品であ
員に向けて発出する「通達 」の形で
最近では「バーゼル3」
(または、
ロー
れば優先トランシェであろうが、劣後ト
周知徹底された。オフバランス化され
マ数字表記で「バーゼルIII 」)
と呼
ランシェであろうが、リスクウェイトはど
たエクスポージャーにかかるリスクア
ばれることが多い。
れも同じ100%なので、こうした単純な
セットとオンバランスとなっている劣後ト
証券化取引を行う結果、
リスクアセット
ランシェの12.5 倍(国内基準行にあっ
の額を80 億円圧 縮でき、その分 、
ては25 倍 )
のうち、どちらか小さい方
「自己資本比率 」を引き上げることが
をリスクアセットとして分母に算入し、
できた。
自己資本比率を計算することにした
リスク量を勘案した「自己資本
比率 」の算出とその最低要求
水準の規制
52
最初のバーゼル合意に基づく自己
1998年―自己資本比率を無意
味にするとして証券化を糾弾
いくつもの邦銀が1997 年から1998
のである。このように告示の解釈が
バーゼル合意に基づく自己資本比
年に掛けて、オリジネーターとして資
変更されたのは1998 年 3月期からで
率規制の対象となる「自己資本比
産の証券化に取り組み、実績を作っ
あった。その直前まで日本の大手行
率 」は、単純に貸借対照表上の自己
た。この頃は、邦銀の不良債権問題
が盛んに行っていた企業向け貸付債
資本を総資産で割った計算結果では
が強く意識され、一部の金融機関に
権の証券化では、劣後比率が20%を
ない。分母となる資産等のエクスポー
ついて信用不安が起き、いくつかの
超える水準となるものが一般的であっ
ジャーは、その種類等に応じて「リス
金融機関は破たんし、大型の企業倒
た。劣後比率を8%未満に抑えること
クウェイト」と呼ぶ掛け目を用いて「リ
産が発生し、銀行が手元流動性の
は容易ではなかった。日本において
ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.30
金融規制の変化にどう対応するべきか
は、1998 年 3月末以降は、銀行が貸
capital arbitrage ”
(規 制 資 本 裁
含め、3回にわたる市中協議が行わ
付債権を証券化して「自己資本比
定 )、
日本語で「レギュラトリー・アービ
れ、2004 年 6月に「バーゼル2」の最
率 」を引き上げることは困難になった。
トラージ」と呼ぶようになった。これは
終案がまとまった。日本は、他の主要
バーゼル委による証券化攻撃はこ
“ arbitrage ”
( 裁定 )
の正しい用法
先進諸国に先駆けて2007 年 3月末
の時期から始まった。バーゼル委が
ではなく、
“ gaming ”
(ゲーム)
が適
自己資本比率規制の抜本見直しに
切な表現だろうと筆者は考えている。
「バーゼル2」では、
「 証券化エク
ところで、
「レギュラトリー・アービト
スポージャー」という新たな信用リスク
翌 1999 年 4月にバーゼル委は初の
ラージ」といったことばを口にしていた
のカテゴリーが設けられ、企業向けエ
ワーキングペーパーとして Capital
人たちは、どのような信念なり世界観
クスポージャー等とは全く異なる扱いと
requirements and bank behaviour:
を有していたのだろうか。筆者が想
なった。また、銀行がリスク管理に用
the impact of the Basle Accord
像するに、金融機関というものは、規
いている高度なモデルを自己資本比
(必要な自己資本と銀行の行動―バー
制の抜け穴を必死に探し、そこに全
率規制でも利用することは好ましいと
ゼル合意の衝撃 )
と題する文書 注1を
精力をつぎ込むものだ、という思い込
の考え方に基づき、銀行の内部モデ
発表した。この1998年のバーゼル委
みがあったのではないだろうか。「自
ルを利用できる「内部格付手法 」と、
初のワーキングペーパーで、日本人を
己資本比率 」を嵩上げすることを主
利用できない「標準的手法 」
を設け、
含む複数の執筆者らは、日本の銀行
眼に行われた証券化取引は皆無で
「 標準的手法 」が不利に扱われるよ
を含む主要国の大手行が証券化取引
はなく、筆者も具体例をいくつか想起
うな体系を採用した。
を用いて自己資本比率の意味を失わ
できるが、ある特定の時代に、特定
信用リスクの移転を伴うことや、優
せていると証券化を激しく糾弾した。
少数の大手金融機関が集中的に
先劣後の関係にある複数の階層に切
このバーゼル委のワーキングペー
行った取引だったと総括できると思っ
り分けられている(トランシェ分けされ
パーは、その大半のページを、証券
ている。証券化を「レギュラトリー・アー
ている)
ことなどが証券化取引や証
化取引の自己資本比率に及ぼす影
ビトラージ」だと断定するような議論
券化エクスポージャーの定義規定に
響についての説明と分析に費やして
は、多面性を持つ現実の証券化取引
盛り込まれた。自己資本比率規制
いる。銀行による貸出金等の証券
の一部について、そのある側面につ
上、何が「証券化エクスポージャー」
化、すなわち、CLOタイプの証券化
いてのみ指摘しているに過ぎない見
に該当し、何が該当しないかは、や
取引では、オリジネーターが劣後トラン
解である。
や込み入っている。一般的にみられ
着手したのは1998 年 3月であった。
シェを保有しており、信用リスクの外
部移転が行われた訳でもないのに、
リ
スクアセットの大幅な圧縮が可能にな
ることなどを、いくつもの図表や試算例
る証券化商品のうち、住宅ローンの
2004年合意・2007年導入―
バーゼル2で証券化の特別扱
い開始
(いくつかの架空の取引事例 )
を示し
て力説した。
にバーゼル2を導入した。
証券化商品( RMBS )や、自動車
ローンの証券化商品(オートローン
ABS )
は「証券化エクスポージャー」
扱いとなるが、投資法人の投資口は
バーゼル委は、
1999 年 6月に、後に
原則としてそうはならない。不動産担
自己資本比率を変化させてしまう
「新 BIS 規制 」または「バーゼル2」
保のノンリコースローンは、該当する
銀行による証券化取引のことを後に
と呼ばれることになる見直し案の第1
場合とそうではない場合に分かれる。
バーゼル委 関 係 者は“ regulatory
次市中協議文書を発表した。これを
「バーゼル2」における「証券化エ
注1
Capital requirements and bank behaviour: the impact of the Basle Accord, April 1999 http://www.bis.org/publ/bcbs_wp1.htm
余談になるが、英語では、スイスの都市、バーゼルは、現在ではドイツ語表記と同じく Basel と綴られるが、このペーパーが出た頃までは Basle と表記さ
れていた。
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クスポージャー」の扱いとしては、たと
であった可能性もある。
えば、オリジネーターが自ら保有する
バーゼル2に盛り込まれた証券化
の 大 手 格 付 会 社 が サブプライム
劣後トランシェ等については、内部格
牽制のルールはこれだけではない。
RMBSの大量一斉大幅格下げを開
付手法採用行については格付けが
銀行がオリジネーターとなる証券化取
始し、8月には、フランスの大手銀行
BB-(ダブルBマイナス)格未満また
引 に 基 づく「 証 券 化 エクスポー
BNPパリバが窓口で販売していた投
は無格付けの場合に、標準的手法
ジャー」に関しては、証券化時の会
資信託のうち、アメリカの証券化商品
採用行については BBB-(トリプルB
計上の債権譲渡益がなかったかのよ
を運用資産に組み入れていたものに
マイナス)格未満または無格付けの
うに「 証券化に伴い増加した自己資
つき、基準価格が算出できないとして
場合に、それぞれ、自己資本控除扱
本の額 」を自己資本から控除計算せ
解約を停止した。これがパリバショッ
いとされた。なお、後にバーゼル3へ
ねばならなくなった。オリジネーターと
クである。
の移行に伴い、自己資本控除扱いは
して証券化取引を行った瞬間以降、
改められ、
リスクウェイト1250%扱いに
その銀行は、会計上の自己資本から
乱が生じ、証券化をバッシングするこ
変更された。
控除せねばならない金額を継続的に
とが世界的に大流行した。こうした
そのうえで、標準的手法採用行に
算出する必要が生じる。会計上、資
中、バーゼル委が2009 年に発表した
ついては、自己資本から控除される
産計上されているものを、一部、な
文書(後に「バーゼル2.
5」と呼ばれ
額に上限を設けなかった。このため、
かったかのように計算せねばならな
ることになるもの)
に基づき、証券化エ
バーゼル2導入後(日本においては、
い。控除せねばならない金額は、時
クスポージャーは、
トレーディング勘定
2007 年 3月末以降 )は、住宅ローン
間 が 経 過し、証 券 化 エクスポー
で保有していても、バンキング勘定で
であれ企業向け貸付債権であれ、標
ジャーの償還が進むに従い、減少し
保有する場合と同等の資本賦課する
準的手法採用行がオリジネーターと
て行く。対応するためには、勘定系
(つまり、市場リスクとしてではなく信
なって証券化を行おうとすれば、自己
システムの開発や事務フローの追加
用リスクとしてリスクアセットに換算す
資本比率の低下を免れることは難しく
に伴うコスト負担が発生する。
る)
ことになった。同時に、バーゼル
欧米を中心に、金融市場の大混
なった。証券化取引の結果、オリジ
金融庁が「リレーションシップバン
委は、
「 再証券化 」なる新しい概念
ネーターが負担する信用リスクは、減
キングの機能強化に関するアクション
を導 入し、
「 再 証 券 化 エクスポー
ることがあっても、増えるとは考え難
プラン」( 2003 年 3月)
を公表し、証
ジャー」については、そうではない証
い。オリジネーターが劣後トランシェを
券化等に関する積極的な取組みを
券化エクスポージャー対比、2 倍ない
継続保有することによって、裏付資産
求めた後、多くの地域金融機関が証
し4 倍の資本賦課を行うこととした。
に内包される信用リスクの大部分を
券化を行ったが、
日本におけるバーゼ
この案は、日本の金融庁の職員が中
濃縮した形で負担し続けたとしても、
ル2導入の前年、2006 年頃までには
心になって考案した。日本では、バー
その信用リスク量は、裏付資産に内
そうした証券化の動きがほとんど止
ゼル2.5は2011 年 12月に銀行の自己
包される信用リスクの総量を超えない
まってしまった。
資本比率規制に導入され、これと実
筈だ。こうしたルールがバーゼル2に
盛り込まれたことからは、バーゼル委
がいかに証券化を毛嫌いまたは敵視
していたかを窺い知ることができる。
質的に同じものが2012 年 3月末から
2009年に考案・2011年導入―
「再証券化 」、リスクウェイトを
2倍~4倍に
なお、こうした扱いは、標準的手法に
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年であった。その年の7月には米国
限ったものであるため、標準的手法
アメリカのサブプライム住宅ローン
から内部格付手法に移行させようと
に多くの延滞が生じていることが広く
するインセンティブを意図したルール
知られ騒がれるようになったのは2007
ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.30
は証券会社を含む金融商品取引業
者の単体自己資本規制比率の計算
方法にも採用された。
金融規制の変化にどう対応するべきか
14の「 STC 要件 」に3 要件を独自
証券化の扱いの抜本見直し
着手は2011年
2014年以降―証券化バッシン
グから証券化再評価への転向
に追加したうえで、
これらの17の要件
を全 て 満 た す 証 券 化 エクスポー
ジャーのリスクウェイトを引き下げる案
バーゼル3は、主に2009 年のバー
証券化バッシングの嵐は、2011 年
ゼル合意に基づき、2013 年から段階
頃に終息した。アメリカでは運用会
導入の過程にある。証券化の扱い
社が運用指図するファンド仕立ての
の抜本見直しが開始されたのは2011
CLOを中心に証券化市場が再活性
今年( 2016 年 )
中に最終化を目指す
年 からであった。 バーゼル委は、
化し、欧州ではギリシャをはじめとする
ことになるであろう。既に2014 年に
2012 年 12月、2013 年 12月と、二度に
一部のEU 加盟国の財政問題とソブ
「最終規則 」
として確定している2018
わたる市中協議を実施し、2014 年 12
リンリスクが問題視されるようになっ
年から導入予定の新しい証券化の
月に証券化エクスポージャーの扱いを
た。欧州の2 大中央銀行、欧州中央
枠組みの導入前の改訂の形を採るこ
最終化し、規則文書を発表した。
銀行( ECB )
とイングランド銀行が共
とになる。
バーゼル委の2014 年証券化最終
を市中協議文書として公表し、意見
募集を行った。
この市中協議に盛り込まれた案は、
同で2014 年にEUの証券化市場復
証券化の役割の再評価と
考えられるか
規則は、2018 年から導入することが
興について論じるペーパーを公表し、
文書中に明記されている。この規則
一定の要件を満たす証券化商品を
では、現行の規則体系( 主にバーゼ
規制上優遇するべきだと主張し始め
ル2、一部にバーゼル2.5で導入され
た。同じ頃、証券監督者国際機構
バーゼル委は、1998 年から2004 年
たもの)
に見られる「クリフ効果 」
(格
( IOSCO )
とバーゼル委に共同タスク
にかけて、証券化は銀行の自己資本
付けや劣後比率がわずかに違うだけ
フォースが設置され、証券化市場の
比率の操作に使われる好ましくないテ
でリスクウェイトが大幅に異なることに
調査と検討に着手した。共同タスク
クニックであるとの認識で、証券化取
なることに起因する影響 )
の軽減の観
フォースは2014 年 12月に“ simple,
引を行うことによって自己資本比率の
点から、格付会社の格付けを用いる
transparent and comparable ”
な
嵩上げができなくなるようなルール作り
場合であれば、高格付けのトランシェ
(シンプルで、透明性が高く、比較が
を進めた。「 標準的手法 」を採用す
のリスクウェイトが大幅に引き上げら
容易な)証券化商品の要件(「 STC
る銀行がオリジネーターとして資産を
れ、投資適格中低位格付けのトラン
要件 」)案を公表し、意見募集を経
証券化すると、ほとんどの場合に自己
シェのリスクウェイトは引き下げされるこ
て、
2015 年 7月にSTC 要件の最終化
資本比率が低下してしまうようなルー
とになる。ただ、リスクウェイトが引き
を行った。
ル作りを行った。サブプライム問題の
下げられるような水準の格付けの証
欧州銀行監督局( EBA )が2015
勃発やリーマンショックを契機に、2009
券化商品は、多数のトランシェ分けを
年 7月に欧州委員会( EC )
に対して
年に「 再証券化 」という概念を導入
行う商品のメザニントランシェ等に限ら
証券化商品に対する差別的な規制
し、再証券化に該当するものについて
れ、それほど多くはない。更に、証券
の見直しを提言し、それを受けて、
リスクウェイトを大幅に引き上げた。そ
化エクスポージャーに係るリスクウェイ
2015 年 9月からはEUの銀行自己資
して、2014 年に最終化され2018 年に
トのフロアとして15%を設定した。こう
本規制規則の改正が動き始めた。
導入予定となっているバーゼル委の
したこともあり、高格付け・シニアトラン
E U の 「 S T S 要 件 」( s i m p l e ,
証券化エクスポージャーの扱いの最
シェを中心に証券化商品を保有する
transparent and srandardised )
は、
終規則では、クリフ効果の軽減やモ
銀行にとって、証券化商品の資本賦
「 STC 要件 」と酷似しているが、同
デルリスクへの対処といった大義名分
課が全般的に現行規則対比、大幅
一ではない。バーゼル委は、2015 年
で、比較的安全性の高い高格付け・
に重たくなる体系となっている。
11月に、共同タスクフォースが定めた
高劣後比率(アタッチメントポイント)
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の証券化商品のリスクウェイトが大幅
に引き上げられることになっている。
ろう。
バーゼル委は、複数の国々の様々
券業協会も意見を提出した事例もあ
証券化をより厳しく扱う方向で見直し
な意図や政治的背景を持つ中央銀
る。バーゼル合意を日本国内の規制
やルールの追加が繰り返されてきたの
行と銀行監督当局者の集まりであり、
として導入するプロセス―たとえば、
である。
ひとつの統一された意思で動いてい
金融庁による告示の改正のプロセス
バーゼル委員会による一定の要件
るものではない。こうした集まりに参加
―でも、こうした団体は、金融庁に対
を満たす証券化エクスポージャーに
している人物は時間の経過と共に入
して意見表明を行ってきた。こうした
限って、リスクウェイトを引き下げようと
れ替わる。参加者の意図や政治的
団体は、ルールの見直し案(たとえ
する見直しの背景には、数次にわた
な背景は、その国の事情を反映した
ば、バーゼル委による「 市中協議文
る自己資本比率規制上の証券化の
ものにならざるを得ないだろうし、時代
書 」)
が発表された後に、意見をとりま
扱いの変遷の中で、
「 証券化エクス
の影響を強く受けることになろう。バー
とめて文書として提出しているだけで
ポージャー」の扱いを厳しくし過ぎたと
ゼル合意の内容は意見が完全には
はない。バーゼル委に参加している
いう認識があるのかもしれない。ま
一致しない人たちのその時々におけ
金融庁および日本銀行の職員らと接
た、証券化取引は多様であり、
「レ
る妥協の産物なのである。それを踏
触し意見交換を行い、海外の業界団
ギュラトリー・アービトラージ」だとして
まえても、1998 年頃以降、一貫して
体等と交流し協調するといった活動も
牽制するばかりでは、銀行システムに
証券化を悪者だと見て厳しく扱う方
行っている。
よる市場機能も活用しながら実体経
向性しか持たなかったバーゼル委
自己資本比率規制を含む金融規
済の成長に資するような資金供与に
が、一昨年( 2014 年 )
以降、証券化
制ルールは、
「与えられるもの」と考え
支障が生じるとの認識があるのかもし
を正当に評価し、自己資本比率規制
るべきではないだろう。多くは監督当
れない。
における「 証券化エクスポージャー」
局主導で考案策定されるが、業界団
の扱いを是正しようとしていることは、
体等を介して表明した意見が、規制
大いに注目に値する。
ルールの策定プロセスで尊重され、
証券化は、当事者の様々な目的や
動機で組成される。オリジネーターの
動機としては、資金調達や住宅ロー
ンの繰り上げ返済リスクを含む金利リ
出来上がるルールに反映されることも
市場関係者が果たせる役割
スク等の外部移転を主な狙いとして
ある。もちろん、業界や市場関係者
の意見や提言は、無視され、却下さ
組成される証券化取引が大半であろ
本稿で言及したこれまでのバーゼ
う。銀行が自己資本比率の恣意的
ル委員会による自己資本比率規制の
明をしなければ、確実に無視される。
な操作に用いる好ましくない取引形
見直しのプロセスでは、バーゼル委の
市場参加者がルール見直しに際し
態であるとか、モデルエラーやリスク
意見募集に対して、全国銀行協会、
て、当事者意識を持ち、積極的に
評価の不確実性を考慮し一律にリス
流動化・証券化協議会をはじめ、いく
ルール作りに参加することは可能なの
クが高いものとして扱うべきだという
つかの日本に所在する団体や金融機
である。
見解は、
もはや適切なものではないだ
関等が文書の形で意見を提出してい
えがわ ゆきお
新生証券株式会社 調査部長
日本リース、長銀証券、日本長期信用銀行(現新生銀行)
、ムーディーズ、クレディス
イス証券、ドイツ証券、日本銀行等での勤務を経て、2010 年 新生銀行入行・新生
証券へ出向。2011 年 4 月 より現職。一般社団法人流動化・証券化協議会 顧問。埼
玉学園大学大学院経営学研究科客員教授 1962 年 福岡県生まれ。
56
る。最近の見直し事例では、日本証
ARES 不動産証券化ジャーナル Vol.30
れることも多々ある。しかし、意見表