平成28年度大学院入学式 式辞 新入生の皆さん、筑波大学大学院への

平成28年度大学院入学式 式辞
新入生の皆さん、筑波大学大学院への入学おめでとうございます。教職員一同、皆さんを心
より歓迎し、お祝い申し上げます。また、ご両親をはじめとするご家族の皆様、関係者の方々
にも心よりお祝いを申し上げます。
大学の使命は、学問の自由を尊重し、真理の探究に基づく知の創造を行うことであり、同時
にこれを継承する人を育てることです。大学院での学びには、学士課程に比べて「知の創造」
という部分により重みが置かれます。大学は、君たちのそのための活動を支援し、鞭撻し、そ
して喜びをもたらす場所です。その大学が置かれたグローバル化し、激動する社会は何処に向
かっていくのでしょうか。その方向を決めるのは皆さんなのです。
我々の世界は、今、どのような状況にあるのでしょうか。たとえば、昨年の内外の情勢を振
り返ってみるだけで、多くの顕著な事例を見ることができます。イスラム過激派組織 ISIL な
どによる国際的なテロが相次ぎました。そのために中東やアフリカから欧州に難民が殺到し、
欧州難民危機も起きています。サイバーテロも頻発しています。中東呼吸器症候群(MERS)
の感染が拡大し、アジアでは多数の感染者と死者を出しました。地球の気候変動も激しくなっ
ています。世界各地で異常な気象による甚大な被害が出ています。環太平洋連携協定(TPP)
の妥結など国際的にも大きな動きがありました。この他にも、エネルギー・天然資源の問題、
人口動態や社会構造に関する問題などもあります。そして日本人も日本もこうした出来事の渦
中にあります。これらの問題に共通する重要な2つのポイントがあります。その一つは、すべ
ての問題が国境を超えて押し寄せる難題だということです。もう一つは、これらの難題を生じ
させたメカニズムに、便利で快適な社会を産んできた科学、技術、産業・経済などの発展が深
く関わっているということです。
一方、皆さんが、大学院を修了して出て行く将来の世界はどのような世界でしょうか。さら
に、皆さんが社会の中心で活躍する未来はどのような社会でしょうか。そこには、現在存在し
ている職業や仕事、あるいは様々な社会システムや社会インフラが継承されているでしょうか。
大きく変わっているか、あるいはなくなっているものもあるのではないでしょうか。たとえば、
携帯電話と公衆電話のことを考えてみてください。また、Google が会社組織となったのは 1998
年です。皆さんが保育園や幼稚園などに通っていた頃です。Google が日本語でのサーチエンジ
ンとして使われるようになったのは 2000 年のことです。
今、
当たり前のことが 10 数年前には、
なかったということです。
このような現在と未来の世界に思いを馳せながら、大学院での生活を始めてください。筑波
大学は研究大学です。本学は常に研究活動の先端で世界と競い合いながら、真理探究を進め、
また社会に還元できる研究成果を産んできています。皆さんは、大学院で、誰も解いたことの
ない課題に挑戦することになります。課題の多くは世界中のその分野の研究者が十分に理解し
ていることかもしれませんから、寸暇を惜しんで研究に励んでも、一足先に成果が報告されて、
悔しい思いをするかもしれません。しかし、今日の研究成果はやがてその位置を次の研究成果
に譲ることになることもありますし、必ず次の研究目標を生み出します。我々学徒は、常に謙
虚で、真摯な態度で学問に向かわなければなりません。
「知の創造」には幾つかの重要なポイントがありますが、最も大切なポイントは新たな学問
分野の開拓と国際的な研究視野であり、これらはまさに本学が目指しているところでもありま
す。本学にはノーベル賞を受賞された先生がいらっしゃいました。先生や学生達の中にはオリ
ンピックのメダリストがいますし、箱根駅伝は本学前身校が始めました。今では多くの大学が
取り入れるようになった国際関係論や情報工学を先駆的に展開してきた大学です。宇宙誕生や
生命システムの謎の解明に向けた研究が進んでいます。ロボットスーツやオイルを産む藻類の
開発などの社会に還元できる研究も展開されています。陽子線や中性子線を用いた治療の開発
研究も進められています。本学は、開学以来の「新構想大学」を「未来構想大学」という新し
いコンセプトに発展させて、
「地球規模課題の解決に向けた知の創造とこれを牽引するグロー
バル人材育成」を使命として、教育研究を推進しているところです。今年は、1973 年(昭和
48 年)の開学から 43 年目を迎えます。本学の前身は 1872 年(明治 5 年)に明治政府によって
我が国で最初の高等教育機関として創立された師範学校に遡り、その後東京高等師範学校を経
て東京教育大学までの 101 年の長い伝統と実績を持った大学です。本学は、あらゆる意味で「開
かれた大学」であり、
「学際的な協力の実をあげながら基礎と応用の科学を推進する」ことを
理念とし、新しい学問分野の開拓を続けています。新しい科学と技術の進歩には、様々な学問
分野の協業が必要です。現在ではそれぞれが確立したディシプリンとなっている様々な学問分
野も、それらの発生以前の種々の学問分野が統合・融合および分離を繰り返して成立してきた
ものです。そしてその場所の中心は大学でした。本学は他に類を見ない幅広い学問分野を持つ
総合大学であり、専門分野を深化させながら、学際的・融合的な教育研究を積極的に展開し、
数々の顕著な研究成果を上げ、研究・教育拠点としての高い評価を得ています。
本学は国際性豊かな大学であり、国際的に存在感の高い大学の一つです。本学の創基である
師範学校から東京高等師範学校に移りゆく中、
23 年余に亘り校長を勤められた嘉納治五郎先生
は我が国で初めて諸外国の学生に高等教育の門戸を開かれ、学んだ留学生は数千人にのぼりま
した。その伝統は今に繋がっており、本学は国が進める「スーパーグローバル大学事業」にト
ップ型 13 大学の一つとして採択され、さらなる国際化を推進しています。筑波大学には、110
ヶ国から、2,589 名の外国人留学生を受け入れています。本学は、学生数に比して最も多くの
留学生が学ぶ国立大学ですので、留学生と日常的に接する機会も多いはずです。研究学園都市
では数多くの海外からの研究者との出会いもあるはずです。皆さんは、地球の様々な場所で暮
す人たちの考え方、生活、文化を理解し、情報や想いを共有し、連携することができる新たな
地球感を身につけることができるはずです。本学は 13 ヶ所の海外オフィスを有し、また 61 の
国と地域及び国際連合大学と合計 310 件余の交流協定を結んでおり、海外との共同研究も広く
展開されており、数多くの大学院生もそのような共同研究に参加しています。
このように本学は、国の間の壁、学問分野間の境を超えての連携・協働を進めています。国
内においても、大学と企業、大学と大学、大学と研究所などの間にも思わぬほどの壁がありま
す。本学は、こうした国境や機関などの間にある壁を超えて、世界中の教育研究に関わる資源
を積極的に活用する「トランスボーダー大学」を目指しています。具体的な例として、海外研
究機関からの研究ユニット招致や研究者・教員のジョイントアポイントメントなどによる協働
を通じて構築されている多様なトランスボーダーな教育研究体制を挙げることができます。既
存の分野を融合させて新たな学問分野を生み出すことも、またトランスボーダーな試みです。
皆さんは大学で一歩ずつしっかり学びながら、得られた知識を各自の視点で体系化することが
重要です。体系化には、各自の独自の理論や仮説が必要です。つまり、自分なりの考え方に基
づいて咀嚼した理解を持たなければなりません。新たな学問分野の開拓への挑戦にはしっかり
とした自分の専門分野を持つことが基盤です。一方、研究の過程では、往々にして狭い専門分
野に閉じこもってしまう場合もあります。問題解決には、特にイノベーション創出を考える場
合には、異分野との協業は必須ですから、広い視野を持つ努力も怠ってはなりません。
最後になりますが、研究型大学の本学で学ぶ皆さんには、修了時には、新しい時代の先駆者
として社会を牽引する力が期待されています。教職員は本学の特性を誇りとし、使命感を持っ
て、皆さんを心から応援したいと考えています。皆さんが、本学で幅広い学識と深い専門力を
身に付け、やがて世界に飛び出し、ヒトと地球の未来を切り拓く先導者となることを期待して、
私の式辞といたします。
平成二十八年四月七日
筑波大学長 永田 恭介