原子炉物理学(炉物理)とは? 千葉 豪

原子炉物理学(炉物理)とは?
千葉 豪
エンリコ・フェルミ(1901-1954):
イタリア、ローマ出身の物理学者。統計力学、核物理学お
よび量子力学の分野で顕著な業績を残しており、放射性元
素の発見*で1938年**のノーベル賞を受賞。実験家と理論
家との2つの顔を持ち、双方において世界最高レベルの業
績を残した、史上稀に見る物理学者であった。
(Wikipedia)
*「中性子衝撃による新放射性元素の発見
と熱中性子による原子核反応の発見」に
よる(中性子が原子核実験に有効なことに
着目したことが重要)。
**核分裂反応の発見は1年後の1939年。
エンリコ・フェルミ(1901-1954):
・正確な計算ではなく、おおよその値を計算する「概算」の達
人であったといわれる。
・アラモゴードの最初の原爆実験での爆発力を評価した(紙
を落として爆風にさらし、飛んだ距離から爆弾の爆発力を算
出)という逸話が残っている。
エンリコ・フェルミ(1901-1954):
・1942年、シカゴ大学で世界最初の原子炉「シカゴ・パイル
1号」を完成させ、核分裂連鎖反応の制御に史上初めて成
功。
・中性子と原子核との反応
(核分裂や中性子の減速)と
いう微視的な現象と、ウラン
と減速材との集合体での核
分裂連鎖反応という巨視的
な現象を共に理解することに
より、原子炉を実現(精緻な
実験データや高性能の計算
機が無い時代に!)*。
*神田幸則「フェルミの天才性について」、
核データニュース、No.81, p.94 (2005).
仁科芳雄(1890-1951):
日本の物理学者である。日本に量子力学の拠点を作るこ
とに尽くし、宇宙線関係、加速器関係の研究で業績をあげ
た。日本の現代物理学の父である。(Wikipedia)
・光子のコンプトン散乱の有効
断面積を計算し、クライン=
仁科の公式を導出。
・速い中性子による対称核分
裂の発見(1940年)。
原子炉:原子力発電のエネルギーの源
原子炉
この限られた空間で膨大なエネルギーを産み出す。
原子炉:原子力発電のエネルギーの源
原子炉
ここで起こっていることの理解が原子力利用には必須であ
り、それを可能とする唯一の学問体系・技術体系が「原子
炉物理学(炉物理)」である。
なぜ、原子炉「物理」学?
放射性捕獲
複合核
β、α
放射性崩壊
核分裂
複合核
核分裂
①中性子と原子核との相互作用(いわゆる「原子物理学」)
に基づいているから、ということが言えるかもしれない。
なぜ、原子炉「物理」学?
②原子炉という巨視的なシステムで起こっている物理現象
を理解するための学問であったから、ということが言えるか
もしれない。
現在の原子炉物理学では、現象を支配する方程式
は既知である。
また、中性子と原子核との相互作用は、物理定数と
して取扱う(陽に考えない)。
なので、「物理」とは言えないかもしれない。
定常状態の中性子輸送方程式:
定常状態の中性子輸送方程式:
ただし、この方程式の正しい解を得ることは容易ではない。
→ 原子炉物理学の分野において種々の近似理論・
モデルが開発され、実用に供されてきた。
→ 現在では、計算機の高性能化に沿って、理論・
モデルの改良が図られている。
空間の取扱い:原子炉の複雑な炉心構造
中性子のエネルギー(速度)の取扱い:
中性子と原子核との反応確率が中性子エネルギーに依存
ウラン238の中性子捕獲反応断面積
中性子のエネルギー(速度)の取扱い:
中性子と原子核との反応確率が中性子エネルギーに依存
中性子束のエネルギー分布
中性子の進行方向の取扱い:
P.T.Petkov, et al., J. Nucl. Sci. Technol., 35, p.874 (1998).
時間依存の問題の取扱い
原子炉の状態が時間とともに変動する場合、それによっ
て原子炉内で起こっている物理現象も変わってくる。
→ 時間に対する依存性も考慮しなくてはならない
原子炉の安全性を担保するための事故解析・実験も必要であり、そ
こに原子炉物理学が必要となる(→SPERT等の動画)。
原子核の変換の取扱い
中性子と原子核の反応により、原子炉内の物質の組成
が時間とともに変動することを考慮しなくてはならない。
定常問題については、最近は、計算機能力の著しい向上
により、近似を導入することなく、直接方程式を解く方法も
可能となりつつある。
名古屋大学・
山本章夫研究室HPより
計算機の有効活用とともに、実際の原子炉を用いた「実験
原子炉物理学」も変わらず重要である(下の写真は京都大
学原子炉実験所での風景)。
定常状態の中性子輸送方程式:
ただし、この方程式の正しい解を得ることは容易ではない。
→ 原子炉物理学の分野において種々の近似理論・
モデルが開発され、実用に供されてきた。
→ 現在では、計算機の高性能化に沿って、理論・
モデルの改良が図られている。
定常状態の中性子輸送方程式:
この講義では、主に、下記で示した「種々の近似理
論・モデル」について解説を行います。
基礎的な数学、物理学に立脚したこれらの理論・モ
デルは、実際に原子炉で起こっている物理現象を理
解する上で極めて有益です。
→ 「原子力の物理」を勉強しましょう!
ただし、この方程式の正しい解を得ることは容易ではない。
→ 原子炉物理学の分野において種々の近似理論・
モデルが開発され、実用に供されてきた。
→ 現在では、計算機の高性能化に沿って、理論・
モデルの改良が図られている。