2014年10月29日にスリランカ国で発生したコスランダ地すべり

砂防学会誌,Vol.
6
8,No.
2,p.
4
1−4
4,2
0
1
5
災害報告
2
0
1
4年1
0月2
9日にスリランカ国で発生したコスランダ地すべり災害報告
Disaster report of Koslanda Landslide in Sri Lanka on October 29, 2014
判 田 乾 一*1
原
龍 一*2
Kenichi HANDA
Ryuichi HARA
大河原
彰*3
Akira OHKAWARA
島 野 敏 行*4
Toshiyuki SHIMANO
Abstract
On October 29, 2014 during a heavy rain event, a large landslide occurred in Kosland, Badulla District, Central Sri
Lanka. The landslide and associated debris flow destroyed several local houses and killed more than 30 people.
Following the landslide, an aerial reconnaissance by helicopter on November 5, 2014 and field observation between 19
th and 20 th November, 2014 were undertaken by JICA Project Team to understand the occurrence mechanism of the
landslide and identify further hazard of the landslide. This report summarizes the observation results conducted by JICA
Project Team, presents the geological explanation of the mechanism and causes of the landslide, and gives suggestion
on emergency mitigation measures for further movement of the landslide.
Key words:landslide, debris flow, aerial survey
Maha)は北東からモンスーンが吹き込み,島の東側に
1.はじめに
降雨をもたらす。3∼4月(インターモンスーン期)に
2
0
1
4年1
0月2
9日に,スリランカ国中央部のウバ州
は赤道低圧帯の北上に伴い,南西地域を中心ににわか雨
バドゥラ県コスランダ市(図−1参照)で地すべり災害
や雷雨が頻繁に発生する。5∼9月(南西モンスーン期:
が発生した。JICA スリランカ事務所とスリランカ政府
Yala)には,モンスーンが中央高地にぶつかってもたら
と協力し,
ヘリ調査および現地調査を行ったので報告する。
される降雨により,南西部で年間平均1,
0
0
0∼3,
5
0
0mm,
中央高地で3,
0
0
0∼4,
0
0
0mm の降雨がある。1
0∼1
1月
コスランダ市は,スリランカ中央部の山岳地帯の南端
部に位置する。スリランカの年間の降水パターンは,年
(インターモンスーン期)は,サイクロンの発生により,
島全域に降雨がもたらされる。
2回訪れるモンスーンの影響を大きく受けており,4つ
こういった気候の影響によって,スリランカでは山岳
の期間に分けられる。1
2月∼2月(北東モンスーン期:
地域においては年間平均約5
0箇所程度の土砂災害が発
生している(National Building Research Organization :
NBRO のデータによる)
。
コスランダは,このうち北東モンスーンの影響を受け
て1
2月∼2月頃が雨季となり,この時期に地すべりや
土石流などの土砂災害が発生している。
筆者のうち,判田,原,大河原は,「スリランカ国土
砂災害対策強化プロジェクト」で現地派遣中であり,
JICA スリランカ事務所島野,およびスリランカ政府災
害管理省(Ministry of Disaster Management : MDM)災
害管理センター(Disaster Management Centre : DMC)と
国家建築研究所(NBRO)職員各1名と災害発生直後の
1
1月5日にヘリ調査1),2)を行った。その後さらに詳細を
確認するために,1
1月1
9∼2
0日に現地調査3)を行った。
2.地すべり発生の経緯と被害の状況
地すべり発生の経緯は,現地調査および住民からの聞
き取り(未確認・伝聞情報も含む)によれば,以下のと
図−1 コスランダ地すべり位置図
*1 正会員 スリランカ民主社会主義共和国災害管理省国家建築研究所 JICA 専門家(国土交通省砂防部砂防計画課付) Member, JICA
Expert, National Building Research Organization, Ministry of Disaster Management, Democratic Socialist Republic of Sri Lanka (Sabo Planning
Division, Sabo Department, MLIT)(kenpanda4918@gmail.com) *2 (株)
地球システム科学 Earth System Science Co., Ltd. *3 日本工営
(株) Nippon Koei Co., Ltd. *4 (独)
国際協力機構スリランカ事務所 Japan International Cooperation Agency Sri Lanka Office
―4
1―
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8 No.
2(3
1
9)July 2
0
1
5
中部斜面(土石流上部区間)
:
おりと推定される。
1)2
0
0
5年に地すべり活動が活発化し,地方政府より
幅約1
5
0m,元地形からの堆積厚さ約5m(道路上の
住民に対し,危険を知らせている。また,NBRO に
平坦面付近での推定値)
,長さ約3
3
0m。中部斜面での
よる現地確認が当時行われ,報告書が作成されてい
上部から供給された移動土塊の堆積土量は,約1
5万 m3
る。
(推定)となり,上部斜面から供給された土砂の大半は,
2)地すべり発生の3日前には,地すべり頭部の道路面
ここで停止したと考えられる。堆積土砂には5m 程度
に,クラックが生じ始めた。また,発生当日までの
の巨礫が含まれている。
3日間雨量は,3
0
0mm 超との情報があるが,未確
下部斜面(土石流下部区間)
:
認である。
幅約3
0∼4
0m,平均流下厚さ約3m(渓岸浸食から
3)被災当 日(1
0月2
9日)の6時0
0分 頃,頭 部 側 部
推定)
。中部斜面で巨礫が停止したことにより,下部斜
の道路面が,1フィートほど隆起し始めた。その直
面での移動土塊の性状は土砂および流水が主体であった
後に,直上斜面の巨岩が,斜面を転落した。
と考えられる。移動土塊の先端は,渓岸浸食を伴いなが
4)道路下の立木がゆっくり転倒し始めるのと同時に,
ら最下部の本川に達している。さらに下流部への土砂流
滑落崖より板状の巨大な土塊が剥がれ落ちた。
下は認められない。
5)7時1
5分頃,斜面上部(地すべり末端部付近)で,
4)
地下水の噴出 と斜面崩壊が発生。
以上より,地すべりおよび土石流発生のメカニズムは,
以下のとおりと考えられる(図−3,図−4参照)
。
1)今回発生した地すべりは,幅約2
8
0m の過去の地
6)続いて,地すべりの土塊全体が,ゆっくりと斜面下
すべり痕跡を示す地すべり地形東側側部にあたる。
方に移動を開始。
2)斜面上部の急斜面最上部は,プレカンブリア時代の
7)斜面中央部付近で,豊富な地下水,地表水と相まっ
変成岩である黒雲母片麻岩の露出する岩盤急斜面と
て一気に土塊が流動化。
8)流動化した地すべり土塊が土石流となり,斜面下方
なっており,集水地形となっている。前日までの豪
に向かって一気に移動(土石流(上部区間)
)
。
雨による地表水,地下水が地すべり斜面上部から供
給された(写真−2参照)
。
9)径5m 以上の巨礫を含む土石流が,斜面中央部付
3)地すべり土塊内部が地下水により飽和状態となり,
近にあった,寺,職員住宅を破壊し,斜面下部を横
斜面の不安定化が急速に進み,斜面上部の道路付近
断する道路付近に到達。
での引張亀裂の発生と拡大,地すべり末端部付近で
1
0)横断道路上部の平坦面付近(旧製茶工場およびクリ
ケットグラウンド)に相当量の土砂が堆積したが,
の地下水噴出と崩壊発生がほぼ同時(7時1
5分頃)
さらに土砂の一部は,斜面下部の谷地形に沿って流
に起こり,地すべりが発生した。
4)発生した地すべりは,斜面中部に向かって滑動し,
下し,本川に到達し,停止(7時3
0分頃)
。
1
1)7時1
5分以降の時間経過については,複数の異な
豊富な地下水,地表水と相まって土石流化し,斜面
る目撃情報があり,実際の終息時間については,異
下方に存在する寺,職員住宅,人家等を一気に破壊
し,斜面下部の道路付近に到達した(写真−3参照)
。
なる可能性もある。
1
2)その後の救助活動により,職員住宅(3軒長屋)や
5)道路上部には,比高差約1
0m の地形的高まり(樹
旧クリケット場だった平場付近で,複数の犠牲者が
木が残存している)と平坦地形(旧クリケットグラ
発見された。最新のデータでは,死者1
3名,行方
ウンド)が存在している(写真−4参照)
。移動速
不明者2
4名の合計3
7名が犠牲者数である(2
0
1
5
度の低下した土石流土塊(径5m 程度の巨礫を含
年2月2
0時点)
。
む)の大半は,そこでほぼ停止したが,流水を多く
含む流動性の高い土砂は道路を横断し,渓岸浸食を
3.地すべりの規模と発生のメカニズム
伴いながらそのまま沢地形に沿って流下し,斜面最
下部の本川に達した(写真−5参照)
。
地すべりの発生した斜面は,現地調査結果や地形状況
から,以下の大きく3つに区分される(図−2,写真−1
6)本川に達した土量は極めて少量であり,本川での天
然ダムの形成や,さらに下流部への土砂流下は認め
参照)
。
られない。
上部斜面(地すべり)
:
幅約1
0
0m,平均移動深さ約1
5m(頭部滑落崖高さ
7)地すべり発生斜面の上部,および両側部を含む周辺
2
0∼3
0m による)
,長さ約2
6
0m,地すべり移動土塊量
斜面には,過去の地すべり痕跡を示す地すべり地形
約2
6万 m3(推定)
。地すべり前後の地形変化(図−3参
が集中しており,周辺斜面全体が,地すべり地形で
照)から推定すると,地すべり土塊の約半分程度(推定)
形成されている。今回発生した地すべりの滑落崖近
は,なお上部斜面に残存している(2
0
1
4年1
1月1
9日
傍には新しい亀裂が残存しており,滑落崖周辺での
の現地調査時点の目視での見積もりによる)
。地すべり
小規模な崩壊の可能性はあるが,上部斜面を含む周
土塊には,最大1
0m 以上の巨岩塊が含まれている。
辺の地すべり地形には,周辺踏査,対岸からの観察,
―4
2―
判田ら:2
0
1
4年1
0月2
9日にスリランカ国で発生したコスランダ地すべり災害報告
写真−2 地すべり頭部に流入する伏流水と,頭部引張域に
形成された沼(2
0
1
4年1
1月1
9日撮影)
写真−1 対岸からの地すべり全景
(2
0
1
4年1
1月2
0日撮影)
図−2 コスランダ地すべり平面図
(ヘリコプターからの空撮写真を基に作成,2
0
1
4年
1
1月5日撮影)
図−4 コスランダ地すべり移動土塊流下状況
(ヘリコプターからの空撮写真,2
0
1
4年1
1月5日撮影)
図−3 コスランダ地すべり断面図
(発生前:AW3D の DEM データから作成,発生後:図2の等高線図から作成)
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3―
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2(3
1
9)July 2
0
1
5
地元住民からの聞き取りの範囲内では,顕著な変状
は発生していないように見られた。
4.今後の対応(提案)
今回の調査結果を基に,調査団より応急・緊急対応と
して,以下の提案を災害管理省次官他へ行った。
【ハード対応】
・地すべり地内外の雨水を速やかに排除するために,地
すべり地内,地すべり地周囲への水路の設置
・地すべり斜面の横断道路(写真−4参照)の仮復旧(電
線等のライフラインの復旧を含む)
・横断道路山側への応急土止構造物(布団籠など)の設
置と土砂を補足するポケットの確保
写真−3 土石流により破壊された職員住宅(斜面中腹部)
(2
0
1
4年1
1月1
9日撮影)
【ソフト対応】
・雨量計設置および雨量基準設定による,道路交通の仮
復旧(基準雨量以上の場合は,横断道路を通行止めに
するなどの対応)
・豪雨時の住民避難計画の策定(情報伝達ルートの確認,
具体的な避難場所の設定など)
・地元住民および製茶工場労働者への防災教育の実施
(地すべり対策を実施するまでの間の当面の対応に関
して)
そ の 後,2
0
1
5年1月2
3∼2
4日 に DMC,NBRO 職 員
とこの現場をフィールドとして地形判読研修の一環で現
地調査を行う機会があった。このような災害後の現地調
査の経験はこれまでほとんどなかったようであり,引き
写真−4 土石流上部区間の横断道路沿いの高まり(植生状
況から残存部)
(2
0
1
4年1
1月1
9日撮影)
続き日本として協力を行っていきたいと考えている。
参考文献
1)JICA スリランカ事務所:スリランカ民主社会主義共和
国における土砂災害被害に対する空中からの調査の実施,
http : / / www. jica . go . jp / srilanka / office / information / press /
141107.html,参照2
0
1
5―0
2―2
4,2
0
1
4
2)JICA ス リ ラ ン カ 事 務 所:Koslanda Landslide Aerial
Survey by JICA Sri Lanka, https : //www.youtube.com/
watch?v=sICaNBZHyQo,参照2
0
1
5―0
2―2
4,2
0
1
4
3)JICA スリランカ事務所:スリランカ民主社会主義共和
国における土砂災害被害に対する現地調査の実施,http :
//www.jica.go.jp/srilanka/ office / information / press / 141125.
html,参照2
0
1
5―0
2―2
4,2
0
1
4
4)vajira yasarathna : Koslanda landslide srilanka live visuals,
https : //www.youtube.com/watch?v=U1c4sdYopBQ,参照
2
0
1
5―0
2―2
4,2
0
1
4
(Received 30 March 2015;Accepted 22 April 2015)
写真−5 土石流下部区間の流下状況,河床から約3m の高
さまで浸食されていた(2
0
1
4年1
1月2
0日撮影)
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