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解禁時間(ラジオ・テレビ・WEB):平成28年4月5日(火)午前1時(日本時間)
(新聞):平成28年4月5日(火)付 朝刊
[PRESS RELEASE]
平
成
2 8 年
4 月
4 日
原発閉塞隅角緑内障に関連する新規5染色体領域の同定
1 概
要
本研究成果のポイント
○国際共同研究の下、原発閉塞隅角緑内障1)患者10,404検体、非緑内障健常者29,343検
体を収集し、大規模なゲノムワイド関連解析2)を実施した
○原発閉塞隅角緑内障に関連するバリアント3)が存在する染色体領域として、新たに5領
域(EPDR1、GLIS3、DPM2-FAM102A、CHAT、FERMT2)同定することに成功した
○同定したバリアント/遺伝子は、原発閉塞隅角緑内障の病因・病態の分子メカニズムの
解明の糸口になることが期待される
2 研究の背景
緑内障は網膜の神経節細胞が障害され発症し、視神経障害および視野障害が不可逆的
に進行し、最終的には失明に至る。我が国における中途失明原因の第1位の疾患である。緑
内障のリスクファクターとして眼圧の上昇があり、眼圧降下剤が点眼薬として処方されてい
るが、緑内障の進行を抑制できるものの根治療法ではない。日本人の大規模な疫学調査
(多治見スタディ)によると、40歳以上の有病率は約5%(約376万人に相当、2型糖尿病に次ぐ
規模。病型別にみると原発開放隅角緑内障が3.9%、原発閉塞隅角緑内障は0.6%を占め
る)と高く、更に70歳台では有病率が10%にも上昇することから、少子高齢化社会を迎えて
いる我が国にとっては深刻な疾患である。従って、緑内障の発症メカニズムの解明を起点と
した分子標的薬の創生が強く望まれる。
我々はこれまでに緑内障の病型のうち、原発開放隅角緑内障および落屑緑内障に特有
なゲノム配列の違い(バリアント)を同定し、緑内障の発症に関連する遺伝的要因の解明を
進めてきた。原発開放隅角緑内障のうち正常眼圧緑内障のゲノムワイド関連解析では世界
1位で論文発表し、他グループの追試によって正しい結果と認定されているほか、落屑緑内
障では発表時期は世界で2番であるが重要な知見を得てきた。本研究では、緑内障の重要
な病型の一つである原発閉塞隅角緑内障について検討を加えた。
3 研究の内容
本研究では、原発閉塞隅角緑内障患者に特有なバリアントを同定するために、国際共同
研究の下、大規模なゲノムワイド関連解析およびその再現性取得実験を実施した。
従来の報告よりも統計学的検出力を向上させるために、アジア、オーストラリア、ヨーロッ
パ、南北アメリカ諸国(合計24カ国)から原発閉塞隅角緑内障患者(ケース)・10,404検体、非
緑内障健常者(コントロール)・29,343検体を、各国各施設での倫理承認とインフォームドコン
セントのもとに収集した。ゲノムワイド関連解析による1次スクリーニングでは、ケース・6,525
検体・コントロール19,929検体について、イルミナ社のDNAマイクロアレイ2)により586,697個の
高精度なジェノタイプデータを取得し、相関解析を実施した。次に、P<1×10-6を示した染色体
上の10領域由来のバリアントについて、ケース・3,879検体・コントロール9,414検体を用いて
再現性を検証した結果、8領域のバリアントが再現された( P<5×10-8 )。このうちの3領域
( PLEKHA7 、 COL11A1 、 PCMTD1-ST18 )は既に報告されていたが、残りの5領域( EPDR1 、
GLIS3、DPM2-FAM102A、CHAT、FERMT2)は新規であった(図1)。
図1.ゲノムワイド関連解析と再現性取得実験のメタ解析結果.既報の3領域(下線)に加えて新た
に5領域同定することに成功した.FNDC3B領域は再現性取得実験において再現されなかった.
一方、これらの遺伝子は主要なヒト眼組織(虹彩、毛様体、線維柱帯、角膜、水晶体、網
膜、脈絡膜、視神経乳頭、視神経)における発現が検出されたことから、原発閉塞隅角緑内
障の病因や病態に関与していることが示唆された。
4 まとめと今後の展開
国際共同研究の下、総計39,747検体にもおよぶ原発閉塞隅角緑内障の大規模ゲノムワ
イド関連解析を実施した結果、既に疾患との関連が報告されている3染色体領域に加えて新
たに5領域を同定するに至った。原発閉塞隅角緑内障の病因・病態の分子メカニズムを解明
するために必須な基盤的研究成果である。
5 用語解説
1) 原発閉塞隅角緑内障
眼の中を循環している房水の排水溝である隅角が、他の明らかな要因なく遺伝的背景や加齢によ
り閉塞し、房水の排水が悪くなることで眼圧が上昇する結果、緑内障に至る病気。
2) ゲノムワイド関連解析
何十万個ものオリゴヌクレオチドプローブ(20-30塩基から成るDNA断片)が基盤(チップ)やビーズ
上に固相化されたDNAマイクロアレイを用いる。ヒトのバリアント(用語解説3参照)を検出する場合に
は、プローブ配列の中央にバリアントの配列を配置し、ヒトゲノム由来のDNA断片とプローブとの相
補鎖形成の有無を検出することによって、その検体が有するバリアントを決定(ジェノタイピング)でき
る。このようにして網羅的に取得したジェノタイプデータを用いてケース・コントロール相関解析を実施
することによって統計学的にケース(疾患)群に関連するバリアントを同定する一連の手法をゲノムワ
イド関連解析という。
3) バリアント
生物どうしの個体差を規定する遺伝的な塩基配列の違いの総称。バリアントには、一塩基だけ異
なるもの(本研究の解析対象、別名 SNP)や数塩基から数千塩基にもおよぶ挿入や欠失、同じ配列
が繰り返される回数の違い等の種類がある。
6 論文情報
○論文名: Genome-wide association study identifies five new susceptibility loci for primary
angle closure glaucoma
○著者: 中野正和1(共筆頭著者)、池田陽子2、上野盛夫2、森和彦2、木下茂2、田代啓1(共責
任著者)他 国際共同研究メンバー・全226名
○ 所属: 京都府立医科大学大学院・1 ゲノム医科学、2 視覚機能再生外科学 他 全24カ国・
116施設
○掲載載誌: Nature Genetics (IF: 29.352) [平成28年4月5日(日本時間)オンライン速報版]
○参照URL: http://www.nature.com/ng/journal/vaop/ncurrent/full/ng.3540.html
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感覚器未来医療学
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