Press Release 平成28年3月22日 静岡県庁社会部 各報道機関 御中 国立大学法人 静岡大学 脳の相対性理論 知覚と運動とでは正反対 ~空間情報がもたらす時間の歪み,知覚と運動とでは真逆に作用~ 静岡大学情報学部の黒田剛士研究員 (宮崎真研究室) は,タッピングのように自ら身体を動か して時間間隔を生成するときには,受動的に触刺激を与えられて時間間隔を知覚するときと異な る時空間処理の脳内プロセスが働くことを明らかにしました。 この知見は,正確な時間間隔の動作が求められる音楽演奏の教育,およびゲームデバイスなど の開発に役立つ可能性があります。 本研究の成果は,英国の Nature Publishing Group が刊行するオンライン科学雑誌 Scientific Reports において 2016 年 4 月 1 日 (英国午前 10 時,国内午後 7 時) に掲載される予定です。 <研究成果のポイント> 相対性理論は物理学の用語ですが,時間と空間の相互作用が脳内においても生じることは知覚心理学の 実験により知られていました。触 (振動) 刺激がトントンと二回同じ手に与えられるときと比較して, 各刺激が別々の手に与えられる (それゆえに二つの刺激の間に空間的な距離が加わる) ときには,二つ の刺激の間の時間間隔がより長く知覚されるようになります。 本研究では,上のように時間間隔を受動的に知覚するのではなく,タッピングのように自ら身体を動か して時間間隔を刻むときに,脳の時空間処理が正反対の現象を引き起こすことを新たに明らかにしまし た。左指-左指のように同じ指で二回ボタン押しを行って時間間隔を刻むときと比較して,左指-右指の ように二回のボタン押しを空間的に離れた身体部位で行うときには時間間隔がより速く (短く) 刻まれ てしまいます。この効果は 1 秒以上の時間間隔を刻むときに現れます。 お問い合わせ先 部局名 情報学部 担当者 黒田 剛士 (くろだ つよし) 電話番号 053-478-1450 (大学研究室) FAX番号 053-478-1450 メールアドレス [email protected] 【背景: Kappa 効果とは?】 時間は秒,距離はメートルという単位で表されるように,時間と空間は別個の概念として扱われています が,両情報は脳内で処理される際に互いに干渉し合います。例えば,触 (振動) 刺激をトントンと同じ手に 与えるときと比較して,各刺激を別々の手に与えるときには,二つの刺激の間の時間間隔がより長く知覚さ れるようになります。つまり,二つの刺激の間に空間的な距離が加わることで,時間間隔もより長く知覚さ れるようになります。知覚心理学の領域では,この現象を Kappa 効果と呼びます 1,2。 【今回新たに発見した内容】 Kappa 効果では,実験参加者は受動的に時間間隔を与えられますが,本研究では,同様の時空間相互作用 の現象が,実験参加者が自ら身体を動かして時間間隔を刻む場合にも生じるかどうかを検証しました。そし て,左指-左指のように同じ指で時間間隔を刻むとき (下図①) と比較して,左指-右指のように二回のボタン 押しを空間的に離れた身体部位 (指) で行うとき (②) に,時間間隔がより短く刻まれてしまうことを明らか にしました。この効果は 1 秒以上の時間間隔を刻むときに現れます。 ~実験の結果~ a. Kappa 効果 (既存の研究) の追試。同じ手もしく は異なる手に二つの刺激が与えられた後,実験参加者 は自身の知覚した時間間隔を片方の指でボタン押し することで再現した。二つの刺激が別々の手に与えら れたときに時間間隔がより長く知覚された。 b. 本研究で新たに明らかにされた現象。時間間隔を 受動的に知覚するのではなく,自ら指を動かして時間 間隔を刻む場合には,二回のボタン押しを空間的に離 れた身体部位 (指) で行うときに時間間隔がより短 く刻まれた。ただし,この効果が生じるのは 1000 ms 以上の時間間隔を刻むときのみであった。 ▼は 500 ms,◆は 1000 ms,▲は 1500 ms の時間間 隔が与えられた条件の結果。 【今後の展開】 以上の結果は,脳内の時空間の歪みが知覚と運動とでは正反対に作用することを示し,時間と空間を処理 する神経基盤を今後特定していくための重要な知見になります。 また,両手をまたいで時間を刻むと短くなりやすくなるという現象は,両手を使いながら正確な時間間隔 の動作が求められる音楽演奏の教育,およびゲームデバイスなどの開発に役立つと考えられます。 ◆◇著者 (所属・職)◇◆ 黒田剛士 (静岡大学情報学部・日本学術振興会特別研究員 PD 4月1日より特任助教) 宮崎真 (静岡大学情報学部・教授) ◆◇論文情報◇◆ 論文題名 Perceptual versus motor spatiotemporal interactions in duration reproduction across two hands (邦訳: 両手をまたぐ時間再生における知覚対運動時の時空間相互作用) 掲載誌名 Scientific Reports 掲載巻号 6: 23365 掲載 URL www.nature.com/articles/srep23365 (オープンアクセス) 本研究は JSPS 科研費 13J03275, 15K21195 (研究代表者: 黒田剛士) / 25242058, 26119521 (研究代表者: 宮崎真) の助成を受けて行いました。 引用文献 1Price-Williams, D. R. (1954). The kappa effect. Nature, 173, 363-364. 2Jones, B., & Huang, Y. L. (1982). Space-time dependencies in psychophysical judgment of extent and duration: Algebraic models of the tau and kappa effect. Psychological Bulletin, 91, 128-142. 国立大学法人 静岡大学 ウェブサイト http://www.shizuoka.ac.jp/ ○広報室 〒422-8529 静岡県静岡市駿河区大谷836 TEL:054-238-5179 FAX:054-237-0089
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