消防大学校と危険物科の紹介

最 近 の
消防大学校と危険物科の紹介
行政の動き
消防庁消防大学校
はじめに
消防庁消防大学校は、設立以来、時代の要請
に応じて、学科等の再編や教育内容の見直しを
進めながら、消防のリーダーとなる優秀な人材
を育成してきており、これまでに
万
千人を
越える卒業生を送り出しています。
危険物科に関しては、危険物災害の増加に伴
う危険物保安担当者の専門育成の必要性から、
従来「予防科」の中で行っていたものを、平成
18年度より独立した専科教育の学科として設置
消防大学校本館
し、現在まで366名の学生が卒業して全国各地
⑶
で活躍しています。
訓練施設
スチームとスモークマシンを併用し、濃煙
熱気の環境下での訓練が可能な屋内火災防御
消防大学校の紹介
訓練棟及び地下
消防大学校は、東京都調布市に位置し、国及
階、地上11階の高層訓練塔
び都道府県の消防の事務に従事する職員又は市
に加え、コンテナ内で木材を燃やし、実際の
町村の消防職員及び消防団員に対し、幹部とし
火災現場と同様の環境の変化を体験すること
て必要な高度な教育訓練を行うとともに、都道
ができる実火災体験型訓練施設を設けていま
府県の消防学校等に対し、教育訓練に関する必
す。
⑷
要な技術的援助を行っています。
172人収容の南寮と52人収容の北寮があり
消防大学校には、教育訓練施設として本館ほ
ます。
か訓練施設等を次のとおり設けています。
⑴
寄宿舎
本館
教育訓練の実施状況は、
平成27年度において、
250人収容の大教室のほか、 つの教室、視
聴覚教室、理化学燃焼実験室、図書館等のほ
総合教育
か、様々な災害現場を模擬体験して指揮者と
防長・学校長科、消防団長科)
、専科教育
しての指揮能力を養成する災害対応訓練室を
第
学科
(警防科、救助科、救急科、予防科、危険物科、
設けています。
⑵
学科(幹部科、上級幹部科、新任消
本館
300人収容の講堂のほか、救急訓練室、特別
教室、屋内訓練場を設けています。
火災調査科、新任教官科)の計11学科・定員
1,158名のほか、実務講習として、緊急消防援助
隊教育科
コース(指揮隊長コース、高度救助・
特別高度救助コース、NBC コース、航空隊長
コース)
、危機管理・防災教育科
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コース(危機
管理・国民保護コース、自主防災組織育成コー
ている者で、次のいずれかに該当する者
ス、自主防災組織育成短期コース、消防団教育
ア
訓練推進者養成コース)の計
門学校において化学に関する学科若しく
コース・定員704
は課程を修めて卒業した者又はこれと同
名の構成で実施しています。
等以上の学力を有する者
卒業生の数は、前身である消防講習所の創設
以来、平成26年度までで延べ
学校教育法による大学若しくは高等専
イ
万5,876名となっ
消防学校において危険物専科教育を受
講した者
ています。
ウ
なお、平成28年度からは、消防における女性
年以上
の者
の活躍を促進するため、女性専用コースを開設
するとともに、各学科等において定員の
危険物保安業務の実務経験が
②
%を
消防学校
消防学校において危険物保安業務に関す
女性優先枠として設けることとしています。
る教科を担当している者又はその予定者
また、消防大学校では、消防学校等に対する
⑷
技術的援助として、消防学校長・教官に対し、
教育内容
最近の危険物行政の動向を踏まえて、座学、
教育指導者としての必要な教育を行っているほ
か、消防学校等からの要請により警防、予防、
実習を通して法制に関する高度な知識及び技
救急、救助等の消防行政・消防技術について講
術を専門的に修得させるとともに、危険物保
師の派遣を行っており、平成27年度は延べ118
安実務において即戦力となる当該業務のリー
回の派遣を予定しています。
ダー育成を主眼とした構成で実施しました。
ア
このほか、消防学校等において使用する初任
者用教科書の編集も行っており、平成27年
座学
最新の危険物行政の動向や法制をはじ
月
め、危険物施設での対策が急務である危険
現在で21種類の教科書を発行しています。
物流出事故の主たる要因である腐食・防食
の発生プロセスとその対策、企業防災、各
危険物科の概要
消防大学校における教育訓練は、毎年度策定
消防本部の違反処理事例の紹介・解説、消
する消防大学校教育訓練計画に基づいて実施し
防行政訴訟、職場のメンタルヘルス等、危
ており、平成27年度の危険物科教育の実施概要
険物保安業務に関する指導者として必要不
は次のとおりです。
可欠となる知識、
技術の修得に努めました。
⑴
目的
危険物保安業務に関する高度の知識及び技
術を専門的に修得させ、危険物保安業務の教
育指導者等としての資質を向上させる。
⑵
入寮期間、卒業生数
ア
入寮期間 平成27年 月23日から 月23日
イ
卒業生数
⑶
①
42名(うち女性
名)
入校・受講資格
消防本部
座学講義の様子
上限年齢を45歳とし、消防士長以上の階
級にあり、かつ、危険物保安業務に従事し
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イ
要領について理解を深めました。
実習・演習
また、課題研究では、学生が日頃、危険
腐食と防食についての実験、燃焼理論、
査察・違反処理実習、課題研究等を実施し
物施設関係者への指導などで抱えている疑
ました。
問や問題を課題として、班ごとに討議を重
腐食と防食についての実験では、危険物
ねた結果を発表し、活発な質疑や適切なア
施設での対策が急がれている腐食と防食の
ドバイスがなされ、今後の危険物施設関係
原理について実験を通じて理解を深めまし
者への指導や各所属での研修などに多いに
た。
活用できるものとなりました。
燃焼理論では、危険物の性状について、
ウ
その特徴と燃焼状況、消火方法等の実験を
校外研修
校外研修では、JX 日鉱日石エネルギー
株式会社根岸製油所、株式会社タツノ横浜
通じて理解を深めました。
査察・違反処理実習では、模擬立入検査
工場及び東京消防庁消防技術安全所等にお
を実施し、立入結果通知書の作成を通して
いて、大規模危険物施設、給油取扱所の設
実践的対応力の養成を図るとともに、違反
備、危険物判定等についての知識を深めま
処理に際しての質問調書、命令書等の作成
した。
危険物の性状実験の様子
立入検査実習の様子
危険物科の授業内容
科
目
時間数
一般教養
消防法制
内
容
学校長講話、審議官講話等
11
危険物行政、危険物規制、特殊災害行政、行政手続法、
消防実務法規
等
消防管理
消防実務管理、職場のメンタルヘルス
消防運用
75
許可申請審査要領、コンビナート規制、査察・違反処理、
危険物事故分析、危険物火災対応、危険物事故防止対策、
危険物化学、指定可燃物、腐食・防食、燃焼理論、火源
管理、土木工学、材料工学、企業防災
等
演
17
課題研究の発表と討議
施設研修
16
JX 日鉱日石株式会社・株式会社タツノ、東京消防庁消防
技術安全所、東京地方裁判所
等
その他
17
効果測定、入校式、卒業式
習
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等
等
等
また、東京地方裁判所への視察では、実
めて、総合的に有益であり、自らが設定した目
際の公判を傍聴することにより、自らが証
標についても概ね達成できたという意見が多く
人になる可能性があることを認識しまし
寄せられました。
た。
おわりに
危険物施設は年々、減少傾向にありますが、
卒業した学生の感想
危険物科での研修を終えた学生からは、
「様々
一方で危険物施設における火災及び事故は増加
な分野の講師から講義を受けることができ、新
の一途をたどっています。ひとたび事故が発生
たな知識や知見を得ることができた。」
、「全国
すれば社会的影響の大きい危険物施設におい
の消防本部の方々と交流を深められ、他の消防
て、今後ますます危険物保安対策の推進が求め
本部の危険物規制の取り組み、抱えている問題
られている中、消防大学校は今後も常に時代の
点についての検討ができ多くの意見交換ができ
要求に即した教育訓練を実施していきます。
た。」等、教育訓練全般及び学生相互の交流を含
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