ECBの新たなバズーカ砲の威力は?

EU Trends
ECBの新たなバズーカ砲の威力は?
発表日:2016年4月1日(金)
~TLTRO2の利用拡大に期待~
第一生命経済研究所 経済調査部
主席エコノミスト 田中 理
03-5221-4527
◇ ECBが6月に開始するTLTRO2は、TLTRO1からの借り換え、貸出増加、南欧国債のキャ
リー・トレードなど様々な政策意図が読み取れる。罰則型から優遇型へのインセンティブ設計の変更、
有利な金利条件、比較的容易な優遇金利の適用基準など使い勝手もよく、資金需要の回復と相俟って、
相当額の利用が期待できる。ただ、市場調達環境の改善で多くの銀行はECBの資金供給に依存する
必要がなくなり、金利低下でキャリ・トレードの妙味も薄れており、初回の参加規模に注目が集まる。
ECBは3月10日に発表した追加緩和パッケージの中で、貸出増加を条件とした銀行への長期資金供給
オペの第2弾(TLTRO2)を盛り込んだ。ECBはこれまで二度にわたって大規模な長期資金供給を
行なっている。インターバンク市場の機能不全とイタリアやスペインへの債務危機の飛び火が懸念された
2011年末にECBが導入した3年物LTROは、2回総額で1兆ユーロ超もの巨額の資金を供給(図表
1)。銀行の資金調達難を緩和したうえ、低利で供給された流動性資金を元手に南欧の銀行が高利回りの
自国債を購入して利ザヤを稼ぎ、イタリアやスペインの国債利回り低下につながった。ただ、キャリー・
トレードの活発化で銀行の国債保有が増加し、2012年央にかけての銀行危機とソブリン危機との負の連鎖
への懸念を強めたことや、供給された資金が貸出増加に向かわなかったことが問題点とされた。
(図表1)ECBによる長期流動性供給オペの概要
3年物LTRO
初回
2回目
TLTRO1
初回
2回目
3回目
4回目
5回目
6回目
7回目
8回目
TLTRO2
初回
2回目
3回目
4回目
開始日
償還日
(年/月/日) (年/月/日)
-
-
2011/12/22
2015/1/29
2012/3/1
2015/2/26
-
-
2014/9/24
2018/9/26
2014/12/17
2018/9/26
2015/3/25
2018/9/26
2015/6/24
2018/9/26
2015/9/30
2018/9/26
2015/12/16
2018/9/26
2016/3/30
2018/9/26
2016/6/29
2018/9/26
-
-
2016年6月
2020年6月
2016年9月
2020年9月
2016年12月 2020年12月
2017年3月
2021年3月
供給日数
(日)
-
1,134
1,092
-
1,463
1,379
1,281
1,190
1,092
1,015
910
819
-
約1,460
約1,460
約1,460
約1,460
適用金利
供給額
(%)
(億ユーロ)
0.50
10,187
0.53
4,892
0.48
5,295
0.10
4,253
0.15
826
0.15
1,298
0.05
979
0.05
738
0.05
156
0.05
183
0.00
73
-
-
-
-
▲0.4~0.0
-
▲0.4~0.0
-
▲0.4~0.0
-
▲0.4~0.0
-
利用行数
(行)
-
523
800
-
255
306
143
128
88
55
19
-
-
-
-
-
-
注:3年物LTROの適用金利は借り入れ期間中の主要政策金利の加重平均、表中は満期保有時。
TLTRO1の適用金利は2回目までが主要政策金利+10bps、3回目以降は主要政策金利。
TLTRO2の適用金利は主要政策金利、貸出増加行は最大で預金ファシリティ金利まで引き下げ。
出所:欧州中央銀行資料より第一生命経済研究所が作成
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
1
その後、2013年に3年物LTROの前倒し償還が始まり、ECBのバランスシート縮小がユーロ高を通
じて金融緩和の効果を減殺したことや、2015年初に3年物LTROの巨額償還を控えていたこともあり、
バランスシートの再拡大と銀行の借り換え支援の両方の効果を狙って、2014年9月に新たな長期資金供給
オペ(TLTRO1)が開始された。3年物LTROの反省を踏まえ、TLTRO1の利用上限は貸出増
加額と連動し、貸出残高の基準に満たなかった銀行は強制的に資金を返済しなければならない。計8回の
TLTRO1は、初回と2回目の利用額の上限が2014年4月末時点の対象貸出残高(非金融企業向け貸出
と住宅ローンを除く家計向け貸出の合計)の7%、3回目以降の利用額の上限がベンチマーク対比の貸出
増加額の3倍に設定された(図表2)。ベンチマークは2014年4月末までの1年間で貸出を増加させた銀
行については当該時点の対象貸出残高で横這い、貸出を減少させた銀行については2015年4月末までは過
去1年と同ペースで減少してゆき、それ以降は2015年4月末時点の貸出残高で横這いとされた。2016年4
月末時点でベンチマークを達成していない銀行については、同年9月に強制的に資金返済が求められる。
利用額の上限とベンチマーク達成の有無は個別行で判断されるが、データの制約上、国全体の数字を計算
したところ、最新数字が入手可能な今年の2月末時点で、オーストリア、ベルギー、ギリシャ、アイルラ
ンド、ポルトガルがベンチマークを下回り、キプロスとスペインが基準すれすれのところで低迷している
(図表3)。今回、TLTRO2が6月から開始されることが決まった背景には、強制返済に見舞われる
銀行を救済する目的もあったことが窺える。TLTRO1の利用額の多くは、借り入れ条件が緩和される
TLTRO2に借り換えられることが考えられよう(2016年9月以降は任意の前倒し返済が可能になる)。
(図表2)TLTRO1の国別利用上限
ユーロ圏
オーストリア
ベルギー
キプロス
エストニア
フィンランド
フランス
ドイツ
ギリシャ
アイルランド
イタリア
ラトビア
リトアニア
ルクセンブルク
マルタ
オランダ
ポルトガル
スロバキア
スロベニア
スペイン
対象貸出
2回目までの利用上限
3回目以降の利用上限
2014年4月末
国別
構成比
2015年4月末 2016年2月末
(億ユーロ) (億ユーロ)
(%)
(億ユーロ) (億ユーロ)
56,887
3,982
100.0
475
544
2,194
154
3.9
0
0
1,397
98
2.5
0
0
354
25
0.6
2
0
74
5
0.1
0
2
975
68
1.7
13
25
10,993
770
19.3
172
269
13,501
945
23.7
12
96
1,390
97
2.4
18
0
1,103
77
1.9
0
0
10,742
752
18.9
39
48
76
5
0.1
1
1
89
6
0.2
0
1
619
43
1.1
18
57
59
4
0.1
1
1
4,138
290
7.3
131
94
1,196
84
2.1
0
0
213
15
0.4
2
4
175
12
0.3
10
6
7,684
538
13.5
136
58
注:2回目までの利用上限は2014年4月末時点の対象貸出残高の7%。
3回目以降はベンチマーク対比の対象貸出増加額の3倍。表中は事後的な計算値。
出所:欧州中央銀行資料より第一生命経済研究所が作成
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
2
(図表3)ユーロ圏各国の民間部門向け貸出残高とTLTRO1の強制返済基準(億ユーロ)
【ユーロ圏】
【オーストリア】
6000
225
【ベルギー】
5800
220
5600
5200
2014
2015
2016
【エストニア】
8.2
7.8
40
140
38
34
125
2013
2014
2015
2016
110
2013
2015
2016
【フランス】
1200
実績
ベンチマーク
基準時点の実績
105
2014
7.4
2014
2015
2016
2014
2015
2016
160
140
150
120
1300
2013
2014
2015
2016
【イタリア】
130
2014
2015
2016
【リトアニア】
実績
ベンチマーク
基準時点の実績
2014
2015
2013
2016
2014
2015
2016
【マルタ】
80
実績
7.0
9.4
75
ベンチマーク
6.5
70
基準時点の実績
実績
ベンチマーク
基準時点の実績
6
1000
2013
9.6
9.0
2016
7
1050
実績
ベンチマーク
基準時点の実績
【ルクセンブルク】
9.2
2015
8
1100
60
2013
2014
9
1150
80
120
2013
【ラトビア】
100
実績
ベンチマーク
基準時点の実績
実績
ベンチマーク
基準時点の実績
1320
1050
2013
【アイルランド】
140
2016
1340
1100
90
2013
2015
1360
1150
95
7.0
2014
1380
実績
ベンチマーク
基準時点の実績
7.2
【ギリシャ】
32
2013
【ドイツ】
100
7.6
実績
ベンチマーク
基準時点の実績
36
実績
ベンチマーク
基準時点の実績
130
210
【フィンランド】
実績
ベンチマーク
基準時点の実績
8.0
実績
ベンチマーク
基準時点の実績
215
5000
2013
145
135
実績
ベンチマーク
基準時点の実績
5400
【キプロス】
5
2013
2014
2015
2016
【オランダ】
実績
ベンチマーク
基準時点の実績
460
440
6.0
420
5.5
400
5.0
380
65
8.8
60
実績
ベンチマーク
基準時点の実績
8.6
8.4
55
8.2
2013
2014
2015
2016
【ポルトガル】
140
24
2015
2016
2013
2014
2015
120
25
1000
20
900
15
800
10
100
21
90
20
2013
2014
2015
2016
2014
2015
2016
2016
実績
ベンチマーク
基準時点の実績
600
500
0
2013
2015
700
実績
ベンチマーク
基準時点の実績
5
2014
【スペイン】
22
110
2013
2016
【スロベニア】
実績
ベンチマーク
基準時点の実績
23
360
4.5
2014
【スロバキア】
実績
ベンチマーク
基準時点の実績
130
50
2013
実績
ベンチマーク
基準時点の実績
2013
2014
2015
2016
2013
2014
2015
2016
注:対象の貸出は非金融企業向け+個人向け-住宅向け
出所:欧州中央銀行資料より第一生命経済研究所が作成
TLTRO1は3年物LTROの借り換え対応の側面が強かった2回目までの利用行・利用額が比較的
多かったが、その後は回を重ねる度にジリ貧となっている(前掲図表1)。計8回のオペは何れも満期が
2018年9月に定められており、満期返済までの残存期間が逓減することも魅力を損なう一因となっている
(2014年9月の初回オペの満期が4年だったのに対し、2016年6月に予定される最終オペの満期は2年3
ヶ月に短縮)。ECBのアンケート調査によれば、TLTRO1の未利用行はその理由として、「調達難
にない」と回答する割合が一貫して多く、「十分な資金需要がない(貸出のベンチマーク達成への懸念も
含まれる)」、「マイナスの預金ファシリティ金利に伴う流動性資金の保有コスト」、「調達先の分散
(ECB資金への過度な依存を回避)」、「市場調達環境の改善に伴うTLTRO調達の魅力低下」など
を挙げる割合も多い(図表4)。また、TLTRO1の利用目的を尋ねた同調査では、資金供給オペ/債務
の借り換えや貸出増加に利用した割合が多く、国債投資に振り向けた割合はそれほど多くない(図表5)。
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
3
(図表4)TLTRO1の利用方針に関する聞き取り調査
【参加行の参加理由(構成比、%)】
【不参加行の不参加理由(構成比、%)】
100
90
100
15
23
90
26
29
70
12
14
60
12
9
6
1
19
3
7
12
市場調達
調達先の分散
マイナス金利
60
負の烙印
規制達成
50
50
予備的動機
40
30
5
20
80
19
19
2
5
3
1
80
70
15
66
58
57
担保不足
90
有利な利用条件
40
61
30
20
20
10
10
資本不足
63
61
63
資金需要なし
調達難なし
0
0
初回
2回目
初回
3/4回目 5/6回目
2回目
3/4回目 5/6回目
出所:欧州中央銀行資料より第一生命経済研究所が作成
(図表5)TLTRO1資金の利用目的(構成比、%、2016年1月調査)
貢献
預金不足を代替
償還債務を代替
資金調達
銀行間取引を代替
他の資金供給オペを代替
非金融企業向け
貸出増加 家計の住宅購入向け
消費者信用ほか家計向け
自国ソブリン債
資産購入
その他金融資産
過去のTLTRO1
やや貢献 影響なし 不参加
2
5
93
42
2
34
64
34
10
11
79
38
26
10
64
42
23
58
20
41
0
21
79
41
11
39
50
38
2
10
88
35
0
12
88
39
貢献
将来のTLTRO1
やや貢献 影響なし 不参加
0
7
93
55
0
20
80
53
2
14
85
53
7
5
79
57
12
42
47
55
1
29
71
54
5
34
60
52
1
1
98
55
0
0
100
54
出所:欧州中央銀行資料より第一生命経済研究所が作成
新たに導入するTLTRO2は、3年物LTROとTLTRO1の双方の利点を取り込むとともに、T
LTRO1の利用を阻害してきた要因の一部を緩和するように制度設計されている。すなわち、貸出を増
加させなかった銀行にも主要政策金利(現在ゼロ%)での資金供給を保証し、ベンチマーク対比で貸出を
増加させた銀行に対しては、最大で預金ファシリティ金利(現在▲0.4%)まで金利をさらに優遇する。貸
出増加を基準としている点ではTLTRO1と変わりがないが、インセンティブ設計が罰則型(強制返済)
から優遇型(金利優遇)に変更されたことで、より積極的な利用が見込まれる。また、貸出を増加させな
い場合にもゼロ金利での調達が可能なため、3年物LTRO時にみられた南欧国債のキャリー・トレード
需要も喚起することが期待できる。2016年6月から2017年3月まで計4回のオペは何れも満期が4年に設
定され、残存期間が逓減することで魅力が徐々に損なわれるTLTRO1の問題点が改められた。
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
4
では、TLTRO2はどの程度の利用が見込まれるのだろうか。利用額の上限は2016年1月末時点の対
象貸出残高(非金融企業向け貸出と住宅ローンを除く家計向け貸出の合計)の30%に設定され、「同7%
+ベンチマーク対比の貸出増加額の3倍」に設定されたTLTRO1以上の積極利用に期待を寄せている
様子が窺える(図表6)。金利優遇のベンチマークは、2016年1月末までの1年間に対象貸出を増やした
銀行(貸出増加行)に対しては、2018年1月末時点で同残高を上回った銀行の金利を優遇し、下回った銀
行にも現在ゼロ%の主要政策金利での資金供給を行なう。他方、2016年1月末までの1年間に対象貸出を
減らした銀行(貸出減少行)に対しては、2018年1月末時点の貸出減少額が過去1年間の減少額と同額未
満にとどまれば金利を優遇し、過去1年間の減少額を上回って減少した銀行に対しては主要政策金利での
資金供給を行なう。つまり、過去1年の半分以下の貸出減少ペースにとどまれば、基準をクリアすること
になる(=1年間の減少額を2年間で達成する)。何れのケースも2018年1月末時点で貸出がベンチマー
クを2.5%以上上回った銀行には、最大で現在▲0.4%の預金ファシリティ金利まで金利を優遇する。ベン
チマークを上回ったが超過率が2.5%に届かなかった銀行には、超過割合に応じて比例的に金利を優遇する
(例えばベンチマークを1.25%上回った銀行はゼロ%と▲0.4%の中間の▲0.2%を適用する)。
(図表6)TLTRO2の国別利用上限と適用金利を決めるベンチマーク
ユーロ圏
オーストリア
ベルギー
キプロス
エストニア
フィンランド
フランス
ドイツ
ギリシャ
アイルランド
イタリア
ラトビア
リトアニア
ルクセンブルク
マルタ
オランダ
ポルトガル
スロバキア
スロベニア
スペイン
利用上限
対象貸出残高
ベンチ
国別
構成比
2016年1月末
12ヶ月増減 2018年1月時点
(億ユーロ)
(%)
(億ユーロ) (億ユーロ) (億ユーロ)
16,926
100.0
56,422
93
56,422
643
3.8
2,142
-14
2,128
413
2.4
1,377
59
1,377
103
0.6
342
-5
337
24
0.1
80
5
80
315
1.9
1,051
45
1,051
3,497
20.7
11,657
445
11,657
4,067
24.0
13,558
206
13,558
392
2.3
1,307
-85
1,221
213
1.3
711
-183
528
3,170
18.7
10,567
-4
10,563
21
0.1
71
-2
69
28
0.2
94
6
94
224
1.3
747
84
747
16
0.1
54
-8
46
1,304
7.7
4,347
-155
4,192
313
1.8
1,043
-47
996
68
0.4
228
11
228
41
0.2
135
-13
122
2,072
12.2
6,906
-249
6,656
基準達成に必要な伸び率
ベンチ
ベンチ+2.5%
(%)
(%)
0.0
2.5
-0.7
1.8
0.0
2.5
-1.6
0.9
0.0
2.5
0.0
2.5
0.0
2.5
0.0
2.5
-6.5
-4.2
-25.7
-23.9
-0.0
2.5
-2.5
-0.0
0.0
2.5
0.0
2.5
-15.1
-13.0
-3.6
-1.2
-4.5
-2.1
0.0
2.5
-9.8
-7.6
-3.6
-1.2
注:TLTRO2の利用上限は2016年1月末時点の対象貸出残高の30%。
出所:欧州中央銀行資料より第一生命経済研究所が作成
ユーロ圏全体では最大1兆6,900億ユーロの資金供給を受けることが可能な計算で(これはユーロ圏全体
の貸出データから計算したものだが、本来は各行の上限額を計算し、それらを合算する必要がある)、優
遇金利の適用を受ける基準達成のハードルもそれほど高くない。主要国毎の優遇金利の適用基準を確認す
ると、ドイツとフランスでは現状程度のペースで貸出が増加すれば、スペインとオランダでは貸出減少に
歯止めが掛かれば、最優遇金利(▲0.4%)の適用が視野に入ってくる(図表7・8)。このところ企業の
資金需要に回復の兆しが広がっており、こうしたタイミングでのTLTRO2の開始は相応の利用額が期
待できそうだ(図表9)。但し、前述のTLTRO1の利用阻害要因からは、多くの銀行が調達難になく、
市場調達環境の改善と代替調達手段(カバードボンドやハイブリッド債など)の金利低下もあり、ECB
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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の流動性資金に過度に依存する必要性が低下している様子が窺える。また、最近のアンケート調査では、
マイナスの中銀預金金利に伴うコスト負担増を挙げる回答が増えているが、TLTRO2で優遇金利の適
用が受けられるかが決まるのは2018年1月末以降になるため、余剰資金の保有コストは今後も積極利用を
妨げる一因となり得る。さらに、3年物LTRO資金による南欧国債のキャリー・トレードが活発化した
2011~12年頃と比べて、南欧諸国の国債利回りが大幅に低下しており、利ザヤ獲得の妙味も薄れている。
2011~12年当時、イタリアやスペインの3年物国債利回りは3~5%程度で高止まりし、3年物LTRO
の平均調達金利(0.50%)を大きく上回っていた。現在、イタリアやスペインの4年物国債利回りは0.2~
0.3%程度にまで低下し、▲0.4~ゼロ%でTLTRO2資金を調達した場合も利ザヤは限られる。
(図表7)ユーロ圏主要国の民間部門向け貸出残高とTLTRO2の適用金利基準
【ユーロ圏】
【ドイツ】
(億ユーロ)
(億ユーロ)
実績
金利0%(ベンチマーク)
金利▲0.1%(ベンチ+0.625%)
金利▲0.2%(ベンチ+1.25%)
金利▲0.3%(ベンチ+1.875%)
金利▲0.4%(ベンチ+2.5%)
基準時点の実績
6000
5950
5900
5850
5800
実績
金利0%(ベンチマーク)
金利▲0.1%(ベンチ+0.625%)
金利▲0.2%(ベンチ+1.25%)
金利▲0.3%(ベンチ+1.875%)
金利▲0.4%(ベンチ+2.5%)
基準時点の実績
1400
1390
1380
1370
1360
5750
1350
5700
5650
1340
5600
1330
5550
1320
2013
2014
2015
2016
2017
2018
【フランス】
(億ユーロ)
1220
1200
1180
1160
2013
2014
2015
2016
2017
2018
【イタリア】
実績
金利0%(ベンチマーク)
金利▲0.1%(ベンチ+0.625%)
金利▲0.2%(ベンチ+1.25%)
金利▲0.3%(ベンチ+1.875%)
金利▲0.4%(ベンチ+2.5%)
基準時点の実績
(億ユーロ)
実績
1130
金利0%(ベンチマーク)
1120
金利▲0.1%(ベンチ+0.625%)
1110
金利▲0.2%(ベンチ+1.25%)
金利▲0.3%(ベンチ+1.875%)
1100
金利▲0.4%(ベンチ+2.5%)
1090
基準時点の実績
1080
1140
1070
1120
1060
1100
1050
1040
1080
2013
2014
2015
2016
2017
2013
2018
【スペイン】
2014
2015
2016
2017
2018
【オランダ】
(億ユーロ)
950
480
金利0%(ベンチマーク)
900
850
金利▲0.1%(ベンチ+0.625%)
470
金利▲0.2%(ベンチ+1.25%)
460
金利▲0.3%(ベンチ+1.875%)
450
金利▲0.4%(ベンチ+2.5%)
800
実績
金利0%(ベンチマーク)
金利▲0.1%(ベンチ+0.625%)
金利▲0.2%(ベンチ+1.25%)
金利▲0.3%(ベンチ+1.875%)
金利▲0.4%(ベンチ+2.5%)
基準時点の実績
(億ユーロ)
実績
440
基準時点の実績
430
750
420
410
700
400
650
390
2013
2014
2015
2016
2017
2018
2013
2014
2015
2016
2017
2018
注:対象の貸出は非金融企業向け+個人向け-住宅向け
出所:欧州中央銀行資料より第一生命経済研究所が作成
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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(図表8)ユーロ圏各国の民間部門向け貸出残高とTLTRO2の適用金利基準(億ユーロ)
【ユーロ圏】
【オーストリア】
実績
金利0%
金利▲0.1%
金利▲0.2%
金利▲0.3%
金利▲0.4%
6000
5900
5800
【ベルギー】
【キプロス】
40
142
225
140
220
38
138
36
136
215
5700
134
34
132
5600
2013
2014
2015
2016
2017
210
2018
2013
【エストニア】
2014
2015
2016
2017
130
2018
2013
【フィンランド】
8.0
105
7.5
100
7.0
2013
2014
2015
2016
2017
2018
95
2013
2014
2015
2016
2017
32
2013
2018
【フランス】
110
8.5
2014
2015
2016
2017
2018
1250
1400
1200
1380
1150
1360
1100
1340
1050
2013
2014
2015
2016
2017
1320
2013
2018
【ギリシャ】
【アイルランド】
【イタリア】
160
140
1140
9
120
1120
8.5
100
1100
80
1080
60
1060
150
140
130
120
2013
2014
2015
2016
2017
2018
40
2013
2014
2015
2016
2017
2018
【ルクセンブルク】
9.7
80
7
9.5
75
6.5
9.3
8.5
2013
2014
2015
2016
2017
2018
55
2013
【ポルトガル】
【スロバキア】
135
24
125
23
115
22
95
2013
2016
2017
2018
2014
2015
2016
2017
2018
20
2013
2015
2016
2017
6
2013
2018
2017
2018
2014
2015
2016
2017
2018
2015
2016
2017
2018
420
400
4
2013
2014
2015
2016
2017
2018
380
2013
2014
【スペイン】
24
950
22
900
850
800
16
2016
2017
440
18
2015
2016
460
20
2014
2015
【オランダ】
【スロベニア】
21
105
2014
4.5
2015
2014
7
5
2014
2018
6.5
6
60
8.7
2017
8
5.5
65
8.9
2016
【ラトビア】
【マルタ】
70
9.1
2015
7.5
1040
2013
【リトアニア】
2014
【ドイツ】
14
750
12
700
10
2013
2018
2014
2015
2016
2017
2018
650
2013
2014
2015
2016
2017
2018
注:対象の貸出は非金融企業向け+個人向け-住宅向け
出所:欧州中央銀行資料より第一生命経済研究所が作成
(図表9)ユーロ圏の銀行融資基準と企業の資金需要
ユーロ圏の銀行融資基準
(「厳格化」-「緩和」)
80
70
60
50
40
30
20
10
0
-10
-20
厳格化
↑
↓
緩和
ユーロ圏企業の資金需要
(「増加」-「減少」)
過去3ヶ月
40
30
20
10
0
-10
-20
-30
-40
-50
-60
今後3ヶ月
過去3ヶ月
今後3ヶ月
増加
↑
↓
減少
03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15
03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15
出所:欧州中央銀行資料より第一生命経済研究所が作成
以上
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足る
と判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内
容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
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