16-I-0001 2016 年 4 月 4 日 株式会社日本格付研究所(JCR)は、以下のとおり信用格付の結果を公表します。 インド共和国 (証券コード:−) 【据置】 外貨建長期発行体格付 格付の見通し 自国通貨建長期発行体格付 格付の見通し BBB+ 安定的 BBB+ 安定的 ■格付事由 (1) 格付は、底堅い経済成長、改善しつつあるマクロ経済の安定性および潤沢な外貨準備に支えられている。 他方、格付は、インフラや事業環境など生産性向上や輸出拡大を阻害するボトルネック、悪化する国営銀 行の健全性、ならびに、高い財政健全化の必要性に制約されている。格付の見通しは安定的である。新興 国経済を取り巻く環境に厳しさが増す中、インドも、輸出の低迷や、外国からの証券投資の急減、為替の 減価といったストレスにさらされている。しかしながら、油価下落や機動的な金融政策を受け、インフレ 圧力が鎮静化に向かうとともに、経常収支赤字も大きく改善。マクロ経済の安定性が増す中で、内需主導 による 7%台の高成長が続いている。14 年に成立したモディ政権は、財政規律を維持する一方で、事業環 境の改善と競争の促進を通じた経済システムの近代化に取り組んでいる。インドは 13 億人弱もの人口を 有する大国であり、歴史的な経緯もあり既得権益層や官僚主義の色彩も色濃く残る。与党連合の議席が議 会上院では少数にとどまる中、法改正を伴う措置の実現は容易では無い。また、足元では、銀行システム の 7 割を占める国営銀行の不良債権が増加し、政府による資本注入を必要とする事態となっている。しか しながら、力強い経済成長を中長期にわたり持続可能とさせるためには、こうした構造的な課題への効果 的な対処が欠かせない。JCR は、全国レベルでの物品・サービス税(GST)の導入や銀行システム改革を 含む当局による対応とその成果を注視していく。なお、インドのカントリーシーリングを「A-」に据え 置いた。 (2) インドは、南アジアに位置する連邦制共和国で、13 億人弱の人口を有する。一人あたりの GDP は 1,600 ドル強にとどまるものの、経済規模は 2 兆ドルを超える。近年、中間層の台頭による個人消費の拡大など から、内需主導による自律的な経済成長を続けており、15 年(暦年)の実質 GDP 成長率は 7.5%に達し た。財・サービスの輸出規模は GDP の 2 割を超えているが、ドル建てで見た輸出額は近年伸び悩んでお り、15/16 年度(会計年度は 4∼3 月)には前年比 20%弱の減少が見込まれている。かつては、消費者物 価(CPI)上昇率が前年比 10%を上回り、経常収支赤字も GDP 比 5%近い水準まで拡大していたものの、 機動的な金融政策と油価下落の恩恵を受け、マクロ経済の安定性は足元で大きく改善している。16 年 2 月末の CPI 上昇率はインフレ目標の範囲内に収まる前年比 5.2%、15 年 10-12 月期の経常収支赤字は GDP 比 1.3%となった。14 年に成立したモディ政権は、インフラ整備、製造業の強化、対内直接投資 (FDI)の促進、事業環境の改善などに取り組んでいる。与党連合が議会上院では少数にとどまることも あり、土地収用法案や GST 法案の遅れなどに見られるように、その実現は一筋縄ではない。近年、自動 車販売の増加に伴い、自動車産業が発展し始め、14/15 年度の乗用車の生産・輸出台数は 322 万台・62 万 台に達した。こうした産業の持続的な発展や輸出拡大のためにも、インフラを含む事業環境を改善してい くことが重要である。 (3) 対外面では、旺盛な内需と油価上昇を背景に 2000 年代後半から貿易赤字が拡大。印僑による労働者送金 の下支えにもかかわらず、経常収支は 12/13 年度には GDP 比 4.8%の赤字を記録した。経常収支赤字はそ の後、金融引締めの効果や、金(ゴールド)の輸入抑制措置、油価下落などから大きく改善。足元では 1/3 http://www.jcr.co.jp GDP 比 1%台におさまっている。当局は、対内証券投資および対外借入に関する慎重な外貨管理を続けて おり、14/15 年度末の対外債務残高は GDP 比 23%(うち民間部門が同 10%) 、非居住者による対内証券 投資残高は GDP 比 11%と、抑制された水準に維持されている。近年、米国の金融政策の方向性や投資家 のリスクアピタイトの変化に伴い、非居住者による証券投資の流出入や為替相場のボラティリティも増し ているが、当局は潤沢な外準を用いてショックの緩和に努めている。外貨準備は、対内証券投資の流入時 に積み増され、13 年 8 月末の 2,755 億ドルから 15 年 6 月末には 3,560 億ドルまで増加。以後、3,500 億ド ル前後を維持しており、これは、14/15 年度の輸入の 7.8 ヵ月、短期対外債務の 4 倍超に相当する。 (4) 民主的な連邦国家であるインドでは、①中央政府と州政府との権限や財源をめぐる複雑な関係②州間での 経済格差是正に向けた財政移転制度③選挙を意識した財政運営―といった状況の下で、巨額の財政赤字と 公的債務の累増が続いてきた。政府は、03 年に財政責任予算管理法(FRBM 法)を策定し、財政赤字幅 の緩やかな削減による財政健全化に着手。リーマンショック直後には FRBM 法の適用を一時停止したも のの、03/04 年度に GDP 比 90%近くに達していた一般政府債務は 14/15 年度には同 68%まで低下してき た。現政権は、中央政府財政赤字を 15/16 年度の GDP 比 3.9%から 16/17 年度に同 3.5%、17/18 年度以 降は同 3.0%へと削減する方針を表明しており、その実現に向け、課税ベースの拡大を図るとしている。 長年の懸案である全国一律での GST の導入については、憲法改正を必要とし、政権与党が少数にとどま る上院での審議待ちの状態が長引いている。GST 導入は、州間を超えた事業推進の円滑化のために極め て重要であり、実現が強く期待される。 (5) 金融システムは、深化が緩やかに進んでいるものの、銀行部門の民間部門向け貸出残高は 15 年 3 月末時 点で GDP 比 60%にとどまる。銀行部門の内訳をみると、総資産で見て全体の 7 割強を占める国営銀行の 健全性が悪化しており、15 年 9 月末時点での不良債権および債務再編済債権の合計は、国営銀行 14.1%、 民間銀行 4.6%となった。こうした問題債権の半分以上は、鉱業、鉄鋼、繊維、インフラ、航空の 5 業種 で占められている。政府・中銀は、資産査定の強化、引当金の早期積み増し、国営銀行への資金注入とガ バナンス強化などにより対応しており、政府は 7,000 億ルピーの資金注入計画を発表している。健全で効 率的な金融システムは、力強い経済成長を支えるために必要不可欠であり、銀行部門、とりわけ国営銀行 の改革の進展が注目される。 (担当)仲川 聡・利根川 ■格付対象 発行体:インド共和国(Republic of India) 【据置】 対象 外貨建長期発行体格付 自国通貨建長期発行体格付 格付 見通し BBB+ BBB+ 安定的 安定的 2/3 http://www.jcr.co.jp 浩司 格付提供方針に基づくその他開示事項 1. 信用格付を付与した年月日:2016 年 3 月 30 日 2. 信用格付の付与について代表して責任を有する者:藤本 主任格付アナリスト:仲川 聡 幸一 3. 評価の前提・等級基準: 評価の前提および等級基準は、JCR のホームページ(http://www.jcr.co.jp)の「格付方針等」に「信用格付の種類 と記号の定義」 (2014 年 1 月 6 日)として掲載している。 4. 信用格付の付与にかかる方法の概要: 本件信用格付の付与にかかる方法の概要は、JCR のホームページ(http://www.jcr.co.jp)の「格付方針等」に、 「ソブリン・準ソブリンの信用格付方法」 (2014 年 11 月 7 日)として掲載している。 5. 格付関係者: (発行体・債務者等) インド共和国(Republic of India) 6. 本件信用格付の前提・意義・限界: 本件信用格付は、格付対象となる債務について約定通り履行される確実性の程度を等級をもって示すものである。 本件信用格付は、債務履行の確実性の程度に関しての JCR の現時点での総合的な意見の表明であり、当該確実性 の程度を完全に表示しているものではない。また、本件信用格付は、デフォルト率や損失の程度を予想するもので はない。本件信用格付の評価の対象には、価格変動リスクや市場流動性リスクなど、債務履行の確実性の程度以外 の事項は含まれない。 本件信用格付は、格付対象の発行体の業績、規制などを含む業界環境などの変化に伴い見直され、変動する。ま た、本件信用格付の付与にあたり利用した情報は、JCR が格付対象の発行体および正確で信頼すべき情報源から入 手したものであるが、当該情報には、人為的、機械的またはその他の理由により誤りが存在する可能性がある。 7. 本件信用格付に利用した主要な情報の概要および提供者: ・ 格付関係者が提供した経済・財政運営方針などに関する資料および説明 ・ 経済・財政動向などに関し中立的な機関が公表した統計・報告 8. 利用した主要な情報の品質を確保するために講じられた措置の概要: JCR は、信用格付の審査の基礎をなす情報の品質確保についての方針を定めている。本件信用格付においては、 発行体または中立的な機関による対外公表、または担当格付アナリストによる検証など、当該方針が求める要件を 満たした情報を、審査の基礎をなす情報として利用した。 9. 非依頼格付について: 本件信用格付は格付関係者からの依頼に基づかない信用格付である。国に対する信用格付である場合を除き、依 頼に基づく格付と区別するため格付記号の後に「p」を表示している。格付関係者からは、信用評価に重要な影響を及 ぼす非公表情報を入手している。 10. JCR に対して直近 1 年以内に講じられた監督上の措置:なし ■留意事項 本文書に記載された情報は、JCR が、発行体および正確で信頼すべき情報源から入手したものです。ただし、当該情報には、人為的、機械的、また はその他の事由による誤りが存在する可能性があります。したがって、JCR は、明示的であると黙示的であるとを問わず、当該情報の正確性、結果、 的確性、適時性、完全性、市場性、特定の目的への適合性について、一切表明保証するものではなく、また、JCR は、当該情報の誤り、遺漏、また は当該情報を使用した結果について、一切責任を負いません。JCR は、いかなる状況においても、当該情報のあらゆる使用から生じうる、機会損失、 金銭的損失を含むあらゆる種類の、特別損害、間接損害、付随的損害、派生的損害について、契約責任、不法行為責任、無過失責任その他責任原因 のいかんを問わず、また、当該損害が予見可能であると予見不可能であるとを問わず、一切責任を負いません。また、JCR の格付は意見の表明であ って、事実の表明ではなく、信用リスクの判断や個別の債券、コマーシャルペーパー等の購入、売却、保有の意思決定に関して何らの推奨をするも のでもありません。JCR の格付は、情報の変更、情報の不足その他の事由により変更、中断、または撤回されることがあります。格付は原則として 発行体より手数料をいただいて行っております。JCR の格付データを含め、本文書に係る一切の権利は、JCR が保有しています。JCR の格付データ を含め、本文書の一部または全部を問わず、JCR に無断で複製、翻案、改変等をすることは禁じられています。 ■NRSRO 登録状況 JCR は、米国証券取引委員会の定める NRSRO(Nationally Recognized Statistical Rating Organization)の 5 つの信用格付クラスのうち、以下の 4 クラ スに登録しています。(1)金融機関、ブローカー・ディーラー、(2)保険会社、(3)一般事業法人、(4)政府・地方自治体。米国証券取引委員会規則 17g7(a)項に基づく開示の対象となる場合、当該開示は JCR のホームページの“Rating Information”(http://www.jcr.co.jp/english/top_cont/rat_info01.php) に掲載されるニュースリリースに添付しています。 ■本件に関するお問い合わせ先 情報サービス部 TEL:03-3544-7013 FAX:03-3544-7026 3/3 http://www.jcr.co.jp
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