DEIM Forum 2016 P6-6 高齢者の情報行動にかかるデータ収集と可視化 松原 正樹† 上保 秀夫† 宇陀 則彦† 呑海 沙織† 溝上 智恵子‡ †筑波大学図書館情報メディア系 〒305-8550 茨城県つくば市春日 1-2 E-mail: †[email protected] あらまし 日本は現在4人に1人が 65 歳以上の高齢者であり,高齢化の速度も世界有数である.高齢者は,対 人交流関係の縮小や活動範囲の制限など個人の生活習慣に関連した固有の問題も抱えている.本研究の目的は高 齢者の情報行動をウェアラブルデバイスにより記録し,高齢者自身が振り返られるよう得られたデータの分析結 果を可視化することである.実験的環境に不慣れな高齢者の情報行動のデータ収集のために,高齢者の日常生活 に溶け込むようにウェアラブルデバイスをデザインする.分析結果の可視化を高齢者にフィードバックすること で,高齢者自らが暗黙的であった生活行動を振り返ることになり,彼らの行動の変容を促すことを目指す. キーワード 高齢者, 情報行動, ライフログ, 情報可視化, 振り返り学習 1. は じ め に れ て お り [6],そ の 結 果 ,高 齢 者 の 対 人 交 流 の 測 定 も 試 日 本 は 現 在 4 人 に 1 人 が 65 歳 以 上 の 高 齢 者 と い う み ら れ て い る [7]. し か し 自 ら を 客 観 的 に モ ニ タ リ ン 社会であり,高齢化も世界有数の速さで進展している グすることが可能になれば,メタ認知が働いて学びが [1]. も っ と も 高 齢 化 は 日 本 や 先 進 諸 国 に 限 定 さ れ ず , 深 化 す る と 予 想 さ れ る [8, 9]. 団 塊 世 代 が 退 職 年 齢 を 開発途上国においても今後急速な高齢者人口の増大が 迎えている現在,早急に高齢者の情報行動特性を客観 見 込 ま れ て い る [2].こ の よ う な 中 ,高 齢 者 は 単 に 保 護 的に把握する必要がある. すべき存在とは位置づけられるのではなく,むしろ高 しかし実験的環境に不慣れな高齢者の生活行動を 齢者自身が高齢社会の運営に積極的に携わることが期 データ化するためには,高齢者の日常生活に溶け込む 待されるようになった.例えば日本の文部科学省の検 ようにウェアラブルデバイスをデザインする必要があ 討 会 は『 長 寿 社 会 に お け る 生 涯 学 習 の 在 り 方 に つ い て 』 る.そこで本研究では日常的に利用するセンサを用い [3]に お い て ,社 会 参 画 型 の 高 齢 者 を 顕 在 化 さ せ ,高 齢 たデータ収集法とウェブアプリによる可視化について 者が「よりよい社会をつくる主役として,選択的に自 検討する.分析結果の可視化を高齢者にフィードバッ 身の生きがいを選び取れる」社会の実現を強く求めて クすることで,高齢者自らが暗黙的であった生活行動 いる. を振り返ることになり,彼らの行動の変容を促すこと ついては,先導的に高齢者の情報行動特性を明らか を目指す. にし,高齢者の生活環境に即した問題解決が求められ ている.一方で,日本においても認知症予備軍を多く 含 む 65 歳 以 上 の 人 口 が 3000 万 人 を 超 え る な か , 高 2. 高 齢 者 の 情 報 行 動 デ ー タ 収 集 本研究で収集する情報行動データは位置,移動手段, 齢者は一括りにできない多様性をもちながらも,対人 活動量,音声,写真の 5 項目である.上記の項目を記 交流関係の縮小や活動範囲の制限など個人の生活習慣 録するものとしてスマートホン(以下,スマホ)の他 に関連した固有の問題も抱えている.従って,高齢者 に ,ウ ェ ア ラ ブ ル カ メ ラ や 活 動 量 計 ,GPS ロ ガ ー ,IC の医学的側面のみならず情報行動特性といった側面に レコーダなどが考えられる.高齢者にとって日常生活 ついてもデータに基づいて議論する時期を迎えている. に馴染みが深いこと,全ての項目をできるだけ少ない 本 研 究 の 目 標 は , (1) 高 齢 者 の 情 報 行 動 を ウ ェ ア ラ デバイスで記録することを考慮し,スマホを用いたデ ブ ル デ バ イ ス に よ り 記 録 し , (2) 得 ら れ た デ ー タ の 分 ータ収集に決定した.5 項目のうち位置と移動手段, 析結果を可視化し高齢者自身が振り返り「学び」を深 活動量に関してはライフログアプリの一つである 化させ,長寿社会の生涯学習における生きがい創出を Moves[10]を 用 い ,音 声 と 写 真 は ス マ ホ 機 能 を 用 い た . 促進することである. ま た 上 記 の 5 項 目 に 加 え て ,複 数 人 の 情 報 行 動 デ ー すでに幼児・児童の情報行動に関するデータ収集や タを組み合わせることで,誰がいつどこで会っていた そのためのウェラブルデバイスの検討はなされている とされるかという社会的交流についても収集を行うこ ( 例 え ば [4]), ま た 高 齢 者 に つ い て も 情 報 行 動 に 関 す とができる.これは事前の予備調査の段階で高齢者が る 調 査 の 実 施 [5] や 生 活 行 動 の ア セ ス メ ン ト が 実 施 さ 特定の範囲内で行動することが多いこと,高齢者同士 図 1 振り返り学習のための情報行動データ可視化 図 2 ある高齢者の活動箇所の地図表示 Web イ ン タ フ ェ ー ス Reflect の 画 面 キ ャ プ チ ャ 今後は,集めたデータを分析し可視化したものを本 が特定グループ内の人同士で頻繁に社会的交流を持っ 人にフィードバックして振り返り学習が生じるかどう ていたことが判明したためである. か参与観察やインタビューによって検証することを予 定している.他の予備実験で集めた若年層のデータと 3. 高 齢 者 の 情 報 行 動 デ ー タ の 可 視 化 収集した 5 項目のデータは現在様々なツールを用い の比較も行い高齢者ならではの行動特性について考察 を行う. て可視化しているが,最終的には一つのインタフェー スでの可視化を想定している.プロトタイプとして振 謝辞 り返り学習のために情報行動データを可視化する 学振課題設定による先導的人文・社会科学研究推進 Web イ ン タ フ ェ ー ス (Reflect) を HTML5 お よ び 事業の助成を受けた.実験参加者に感謝申し上げる. JavaScript に よ り 実 装 し た . 図 1 に Reflect の イ ン タ フェースを示す. Reflect の 画 面 左 側 は 記 録 し た 写 真 が 時 系 列 上 に 並 んでおり,画面右側の位置の地図表示を対応付けがな されながら,地図にある撮影ポイントを俯瞰すること ができる. 移 動 経 路 や 活 動 量 の 推 移 は Moves ア プ リ に よ っ て 閲 覧 す る . ま た , 図 2 の よ う に Moves で 得 た 位 置 デ ータをもとに活動箇所を地図上に俯瞰できる.同一グ ループ内で他人の活動範囲を振り返る事で誰と誰に社 会的交流があったか確認することができるだろう. 現在は本人のみが自身で収集したデータを閲覧で きるようにしている.他人の見ている世界を覗くこと で新たな世界の見え方を広げていく効果もあることか ら,今後は同一グループ内で閲覧できるようにする予 定である. 4. デ ー タ 収 集 実 験 2 節で述べた情報行動データの収集のため,1 月か ら 3 月までの 3 ヶ月において同一グループ内に所属す る高齢者 4 名を対象としたパイロット実験を行った. 各自にスマホを携帯させてデータを収集し,定期的に ス マ ホ に 取 り た め た デ ー タ を Reflect を 通 じ て サ ー バ の方にアップロードする. 参 考 文 献 [1] 総 務 省 統 計 局 , 統 計 ト ピ ッ ク ス No.90, 統 計 か ら 見 た 我 が 国 の 高 齢 者 : 高 齢 者 の 人 工 , 2015, http://www.stat.go.jp/data/topics/topi900.htm, ( 1 月 10 日 閲 覧 ) [2] Department of Economic and Social Affairs, United Nations. World Population Ageing 2013, 2013, http://www.un.org/en/development/desa/populatio n/publications/pdf/ageing/WorldPopulationAgeing2 013.pdf, ( 1 月 22 日 閲 覧 ) [3] 超 高 齢 社 会 に お け る 生 涯 学 習 の 在 り 方 に 関 す る 検 討 会 , 長 寿 社 会 に お け る 生 涯 学 習 の 在 り 方 に つ い て , 2012, http://www.mext.go.jp/component/a_menu/educati on/detail/__icsFiles/afieldfile/2012/03/28/1319112 _1.pdf, ( 1 月 10 日 閲 覧 ) [4] S.H.Lee 他 . The Onigiri Machine ‒Development of Wearable Device by Kid s Friendly Design for Children s Safety. International Association of Societies of Design Research, 2011 [5] 総 務 省 情 報 通 信 政 策 研 究 所 ,情 報 通 信 メテ ィアの利 用 時 間 と 情 報 行 動 に 関 す る 調 査 報 告 , 2015, http://www.soumu.go.jp/main_content/000357570. pdf, ( 1 月 10 日 閲 覧 ) [6] 川 野 雅 資 他 編 , 生 活 行 動 の ア セ ス メ ン ト , 中 央 法 規 , 1998 [7] 大 川 一 郎 , 対 人 交 流 の ア セ ス メ ン ト , 生 活 行 動 の ア セ ス メ ン ト , 中 央 法 規 , 1998 [8] D. J. Hacker, 他 , Metacognition in Educational Theory and Practice, Routledge, 1998. [9] D. A. Schön, Reflective Practitioner, Basic Books, 1984. [10] Foursquare Labs, Inc., Moves-app., https://moves-app.com, ( 1 月 10 日 閲 覧 )
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