持続的回復力に乏しいアジア、回復は中国次第

リサーチ TODAY
2016 年 3 月 31 日
持続的回復力に乏しいアジア、回復は中国次第
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
みずほ総合研究所は『みずほアジア・オセアニア経済情報』1を発表した。下記の図表はアジア地域の経
済予測総括表である。2015年10~12月期のアジアの実質GDP成長率は、多くの国・地域で前期から上昇
したが、これには公共投資の拡大や消費刺激策などの政策要因による下支え効果による面が強く、自律的
な回復力が出てきたとは言えない。2016年については、原油など資源価格の低迷による産油国・資源国の
景気停滞などを受け、輸出は軟調に推移すると見込まれる。その結果、輸出依存度の高いNIEsやタイ、マ
レーシアを中心に輸出の伸び悩みが景気の重石となる。また、2017年までを展望しても自律的回復力に欠
ける展開が続き、景気の大幅加速は見込みづらい。仮に、人民元が想定以上に下落した場合、アジア諸
国に対し、輸出の下押しなどの悪影響が及ぶリスクには留意が必要だ。結局、中国頼みの面が大きいため、
依然としてアジア経済は多くの不確実性を抱えていると覚悟すべきだろう。
■図表:みずほ総合研究所のアジア経済予測総括表
アジア
中国
NIEs
韓 国
台 湾
香 港
シンガポール
ASEAN5
インドネシア
タ イ
マレーシア
フィリピン
ベトナム
インド(2011年度基準)
オーストラリア
2011年 2012年 2013年 2014年 2015年
(実績)
(実績)
(実績) (実績) (実績)
7.4
6.3
6.4
6.3
6.1
9.5
7.7
7.7
7.3
6.9
4.1
2.3
2.9
3.4
2.0
3.7
2.3
2.9
3.3
2.6
3.8
2.1
2.2
3.9
0.7
4.8
1.7
3.1
2.6
2.4
6.2
3.7
4.7
3.3
2.0
4.7
6.2
5.0
4.6
4.7
6.2
6.0
5.6
5.0
4.8
0.8
7.2
2.7
0.8
2.8
5.3
5.5
4.7
6.0
5.0
3.7
6.7
7.1
6.1
5.8
6.2
5.3
5.4
6.0
6.7
6.6
5.1
6.3
7.0
7.3
2.6
3.6
2.0
2.6
2.5
(単位:%)
2016年 2017年
(予測) (予測)
6.0
6.0
6.6
6.5
2.0
2.2
2.3
2.5
1.4
1.8
1.9
1.8
1.8
2.3
4.5
4.5
4.7
4.7
2.5
2.7
3.8
4.3
6.0
5.5
6.0
5.7
7.6
7.5
2.6
2.5
(注)1.実質 GDP 成長率(前年比)。
2.インドの伸び率は、2012 年以前は IMF、2013 年以降はインド統計計画実行省の値。
3.平均値は IMF による 2013 年 GDP シェア(購買力平価ベース)により計算。
(資料)各国統計、CEIC Data、IMF よりみずほ総合研究所作成
次ページの図表はアジア諸国の債務水準を示したものだ。アジア諸国では国ごとに様々な債務問題が
あり、大幅な財政支出や金融緩和による債務膨張から、中長期的にバランスシート調整圧力が強まるなど
の副作用が生じることが懸念されている。図表から、中国の企業の過剰債務、韓国・台湾の家計債務の過
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2016 年 3 月 31 日
剰債務には今後、留意が必要だ。また、マレーシアは全般的に債務負担がやや重めになっている。通貨
安が加速した場合、外貨建て対外債務の返済負担が高まる事態も生じやすい。
■図表:アジア諸国・地域の債務水準
(対GDP比、%)
家計
2015年2Q
中国
韓国
台湾
インドネシア
タイ
マレーシア
フィリピン
ベトナム
インド
政府
企業
(2010年以降の
トレンド)
2015年2Q
公的債務残高
(2010年以降の
トレンド)
37.9
85.7
87.7
17.1
70.5
70.1
36.9
84.7
86.8
17.9
71.8
70.4
163.1
105.2
72.5
23.0
51.5
66.6
159.8
104.6
73.7
23.9
52.1
63.3
9.5
9.1
50.0
51.6
2014年末
41.1
36.0
37.9
25.0
43.5
55.2
36.4
57.2
66.1
財政収支
(2010年以降の
トレンド)
40.7
35.7
38.9
24.6
43.4
56.0
37.0
55.5
66.0
2014年
▲ 0.7
0.9
▲ 2.8
▲ 2.1
▲ 0.4
▲ 3.0
0.6
▲ 6.1
▲ 6.9
(2010年以降の
トレンド)
▲ 0.4
0.9
▲ 2.7
▲ 2.1
▲ 0.0
▲ 3.0
0.8
▲ 7.5
▲ 6.9
(注)1.濃い青の網掛けは他国・地域対比で水準が高く、かつトレンドからのかい離が大きい。薄い青の網掛けは、他
国・地域対比で水準が高い、もしくはトレンドからのかい離が大きい。
2.台湾の家計、企業の値は 2013 年の値でみずほ総合研究所による試算。
3.ベトナムの財政収支以外は、景気変動を除去した構造的財政収支。
(資料)IMF、国際金融公社(IIF)、各国統計、CEIC Data よりみずほ総合研究所作成
以上を総括すれば、2016年のアジア経済は、軟調な輸出の推移を受け減速する見込みだ。2017年は米
国経済などの回復から輸出が小幅に持ち直すものの、政策効果の縮小から大幅な景気拡大は見込めな
い。これまで高成長が続いたアジア経済だが、当面2年は足踏みを続けるといえる。そうしたなか、比較的
堅調な動きが期待されるのは、一覧表の下にあるフィリピン、ベトナム、インドである。中国を中心としたアジ
ア諸国・地域で深刻なバランスシート調整が起こりうる一方で、こうした国々はフロンティアとなる国々として
期待される。
アジア地域は大きい潜在力を持ちながらも、これまでのような輸出主導の戦略をとりにくくなっている。こ
の背景には、①中国の在庫調整の圧力が長期化し、このことが中国の輸入需要回復の重石になる状態が
続くこと、②リーマン・ショック以降の世界的な投資需要の弱さが続くこと、③アジアでの単位労働コスト上昇
などによる輸出競争力の伸び悩みという構造要因が存在することなどがある。中国経済への依存をいかに
低下させていくかが、アジア諸国の大きな課題になるだろう。
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『みずほアジア・オセアニア経済情報』 (2016 年 4 月号
2016 年 3 月 10 日)
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