○セミナーの部 「〜素材革命〜 セルロースナノファイバーの将来展望」 経済産業省製造産業局紙業服飾課 課長補佐(総括) 松本 要 氏 <セルロースナノファイバー(CNF)とは> ・セルロースナノファイバーは、木材から化学的・機械的処理により取り出した直径数~数 十ナノメートル(1 ナノメートル=10 億分の 1 メートル)の繊維状物質で、 鋼鉄の 1/5 の軽さで 5 倍以上の強度を持ち、熱による膨張・収縮が少なく、環境負荷の少ない植物由 来の素材である。 ・主要な汎用樹脂や金属と比較すると、引張強度など機械的特性が非常に高いだけでなく、 温度変化による膨張・収縮が極めて小さい特性がある。製法としては、パルプにするまで は、基本的に紙と同じ製法であり、そこからナノにする工程が異なる。沢山の資源をパル プにするところは、既にある程度出来上がっているインフラを活用して、新素材を作るこ とになるので、現在同じように研究が進められているカーボンナノチューブなどと比べ ると、低コスト化できる可能性が高いと言われている。 ・炭素繊維やアラミド繊維、ガラス繊維など主要な高強度繊維と比較すると、同程度の密 度・引張弾性率・引張強度を有する一方、低コスト化のポテンシャルは大きい。またガラ ス繊維は燃やして処分できないため、そのような点でセルロースナノファイバーは、リサ イクル性でも優位性があると言われている。 ・先ほど申した通り、CNF の製造工程は木材をチップ化・パルプ化するところまでは基本 的に紙と同じ製法であり、パルプをナノ化するところに特徴がある。 CNF にすると非常 に強い強度を有しているので、自動車の部材や、ガスバリア性のフィルム、有機 EL 基板 などに利用できる。また、既に実用化されているが、ボールペンのインクにセルロースナ ノファイバーを入れると変わった特徴が出てくる。力を加えると流動性が高くなり、書く ときに力を入れると、インクが良く出て滑らかに書けるが、書く力を止めると粘度が一気 に高まり、液垂れがしないという特徴が見いだされ、それを活用化してインクとして実用 化されている。インクとしての実用化は早書きをする方が実感されやすいということで、 企業の戦略だと思うが、日本では発売されておらず、北米やヨーロッパで先行発売されて いる。これは 5 月末に開催される伊勢志摩サミットで、日本技術の PR 品としてサンプル として配られることが決定している。また消臭剤は日本製紙で開発されている大人用紙 おむつの中に使われている。CNF の表面に化学物質のイオンと結びつきやすい官能基が あるため、そこに大量に消臭機能を持つ銀イオンを付着させ、今までにない消臭機能を持 たせることができたということで実用化されている。 ・パルプをナノ化する方法として、大きく分けて 3 つに分かれる。1 つは機械的処理によっ て CNF にするもの。同じく機械処理で、中越パルプでも採用されている水中カウンター コリジョン法の技術、化学的処理として、セルロースのパルプになったものを TEMPO という特殊な触媒を用いて、酸化をさせて処理を行うと、CNF の中でも特に細いものが 得られる技術が開発されている。これは昨年東京大学の磯貝教授達が、森林・木材科学分 野のノーベル賞とも言われるマルクス・ヴァ-レンベリ賞というスウェーデンの賞を受 賞されている。 <研究開発動向> ・日本以外では、スウェーデン、フィンランドなどの北欧地域や、カナダ、アメリカなどの 北米地域で研究が進んでいる。国内では、先ほど申し上げた中越パルプ、日本製紙のほか、 王子HD、大王製紙などで研究が進んでいる。 <日本再興戦略における CNF の位置づけ> ・政府では毎年、日本再興戦略ということで、日本が抱えている様々な課題についての取り 組みについて文書で記載している。日本再興戦略では基本的に研究開発が大事などとい う横串のものを記載するものであり、特定の素材について研究を進めるといったことは 基本的には、書かれていない。しかし 2014 年度は CNF のみ、2015 年度は CNF、窒化 ガリウムという特定のものが記載されており、それほど CNF が注目されている。窒化ガ リウムはノーベル賞を日本人が取ったという理由で載せてあるので、それと同じだけ CNF が重要視されている。 <高度バイオマス産業創造戦略> ・高度バイオマス産業創造戦略では、製紙会社で紙が売れなくなるにあたり、紙の技術を活 かして新しい事業を見出していくという意味で、 セルロースナノファイバーを戦略の 1 つ に位置付けている。低コスト化が実用化の鍵であり、実用化の先には目標として年間 1 兆 円の市場が開かれていると言われている。 <ナノセルロースフォーラム> ・平成 26 年の 6 月にナノセルロースフォーラムを作った。現在企業が 170 社以上参加して おり、その他にも大学・研究機関、官公庁、自治体なども参加している。ナノセルロース フォーラムの事業として、技術セミナーの開催や情報発信するためのホームページ、CNF は未だ規格化されていないので、国際標準化の推進などを行っている。また人材育成の一 環として本も出版しているので、 「図解よくわかるナノセルロース」を興味があれば手に 取っていただきたい。 ・ナノセルロースフォーラム地域分科会は、地域の強みに応じた CNF の実用化・事業化展 開の支援を行うものであり、ナノセルロースフォーラムの中に設定している。各自治体の 取り組みを紹介しあい、参考しあい、さらには、地域間連携をするなどの場として活用い ただいている。このように地域の取り組みを上手く活かしていけば、新しい産業の創出に 繋がるのではないかと考えており、それをナノセルロースフォーラムという全国組織と してサポートしていこうと考えている。 <CNF 関連の平成 28 年度予算案> ・経済産業省では研究開発予算として大学や企業の方に 4.2 億円つけており、国として研究 を行っている。これまで、経産省では 2005 年からそのようなプロジェクトを行ってきて いる。また、実用化に繋げるため、いくつかのサンプルプラントの設置に補助金を出して いる。 ・平成 28 年度は環境省が非常に多くの予算をつけており、CNF だけで 33 億円の予算をつ けている。CNF が環境問題に対して、どのような貢献ができるかを定量的に測るために 実際に LCA を回してみて削減効果を検証するものである。 ・農林水産省は、CNF だけでなく、CLT など様々なところの予算の内数として、17.3 億円 かけている。最近のニュースとして、筑波にある森林総合研究所で CNF のプラントを先 日立ち上げ、サンプル提供を始めた。 ・このように、関係省庁がそれぞれ取り組んでいるが、ナノセルロース推進関係省庁連携会 議を設置し、農林水産省、経済産業省、環境省、文部科学省がそれぞれ定期的に集まり、 役割分担などを行いながら連携を進めている。
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