(公財)航空機国際共同開発促進基金 【解説概要 16-4-7】 この解説概要に対するアンケートにご協力ください。 最近の降着装置システムに関する技術動向 1 背景 降着装置システムは、軽量化及び信頼性向上のために、材料の高強度化、熱処理・表面 処理等特殊工程の改良、ブレーキ材料やシール技術の改良、各種制御方法の進歩とともに 発展してきた。ここでは、降着装置システムに関する最近の技術を紹介する。 2 降着装置システムの概要 降着装置システムは、着陸時の衝撃の緩衝、地上走行時の路面凸凹による衝撃の緩衝と 吸収、着陸時及び離陸断念時のブレーキ、地上走行時のステアリングを行うシステムであ り、前脚柱、主脚柱、脚支柱、揚降アクチュエータ、ブレーキ、ホイール、タイヤ、ブレ ーキ制御機器、ステアリング制御機器、揚降制御機器等で構成される。 当該システムは大きく分けて、前脚システム、主脚システム、前輪ステアリング制御シ ステム、ブレーキ制御システム、揚降制御システムの 5 つのサブ・システムから成り立っ ている。 図1-1に、代表例としてボンバルディア CRJ-700 の降着装置システム配置を示す。 緊急アップロック・ リリース用ケーブル 前脚 ステアリング制御 揚降制御 主脚 ブレーキ制御 揚降制御 図1-1 CRJ-700 降着装置システム 2.1 降着装置の構造 降着装置は、1903 年のライト兄弟による初飛行より程なく、 1906 年には車輪が使用され、 1920 年後半には飛行性能を改善 するために引き込み式脚が採用された。1930 年代に油-空気 式のオレオ・ニューマティック緩衝装置(以降オレオ)が採用 されて以来、降着装置の緩衝装置として現在も使用されてい る。 図2.1-1にオレオ構造図を示す。着陸時に下部チャン バー内の油がオリフィスを通り、上部チャンバーへ移動する 際に発生する動的油圧抵抗力によって緩衝力を発生させる。 図2.1-1 オレオ構造図 1 殆どの降着装置にはメータリングピンが装着されており、ストロークに応じてオリフィ ス面積を変化させることによって緩衝特性の最適化を図っている。民間機では着陸時の設 計最大沈下速度 10ft/s(3m/s)に耐えられるよう設計されている。 基本的な脚柱形態としては、中大型機民間機等によく見られるカンチレバー方式と小型 機(特にビジネス機)に採用されるアーティキュレーテッド方式の 2 種類がある。 図2.1-2に示すカンチレバー方式は、最もシンプルな形状をしており、コスト及び 重量メリットが大きい。エンジンを主翼下面に搭載する中・大型民間機は、脚取り付け点 から地面までの距離が長いため、脚長を長く設定できるカンチレバー式脚形態が採用され ている。 図2.1-3に示すアーティキュレーテッド方式は、脚取り付け点から地面までの距離 が短い機体(エンジン・リア・マウント機)や脚室のスペースが厳しい機体によく用いら れる。又、本方式のメリットとしては、脚柱全体を取り卸しすることなくオレオを取り外 すことができる点や不整地等でのスムーズな乗り心地が得られる点である。 図2.1-2 カンチレバー式脚 図2.1-3 アーティキュレーテッド式脚 脚柱構造に関しては、緩衝機能や基本的形態は旧来から大きな変化はないが、今後は、 オレオの整備性、信頼性の向上を図るためのモニタリング装置が開発されると思われる。 オレオの空気圧や油量の変化は、着陸時の緩衝性能、地上運用時の機体姿勢等に影響があ り、重要な点検項目となっている。空気圧については、飛行前点検にパイロットや地上整 備員が脚柱の長さを確認点検しており、油量については、充填した空気の開放作業と分解 作業を伴うために、機体ジャッキアップ等の作業が伴う整備点検時でないと出来なかった。 エアバスの A380 には OPMS(Oleo Pressure Monitoring System)と呼ばれるオレオ内の空 気圧力を測定する装置が搭載された。これにより、パイロットはコクピット内で空気圧の 点検確認が出来ることになる。 2.2 降着装置の材料 降着装置に用いられる材料には、静的機械的特性、疲労強度特性、入手性、コスト、加 工性、鍛造成型性等が求められる。又、劣悪な環境に曝されることから、応力腐食割れ性、 切り欠き感受性、水素脆性、破壊靱性、焼き入れ性等も考慮して選定されなければならな い。降着装置の構造部材に使用される材料及びその比率は大略次の通りである。 ・低合金系炭素鋼(Ni-Cr-Mo 鋼:300M、4340 鋼) 2 :75% ・高強度アルミ合金(7075、7050、7175) :15% ・析出硬化型ステンレス鋼(15-5PH、13-8Mo) :10% ・チタン合金(6Al-4V、10V-2Fe-3Al) :数% (1)鉄鋼材料 中・大型民間機で最も広く使用され ている鉄鋼材料は、抗張力 1930MPa (280ksi)以上の“300M”と呼ばれる 低合金系中炭素鋼である。近年、米国 Carpenter 社が 300M と同等の強度、高 い耐応力腐食割れ特性と破壊靱性を持 つ“AerMet100”や 300M 以上の抗張力 (2137MPa(310ksi))をもつ “AerMet310” を開発したが、これらは米軍機向けに 開発され、コストも 300M に対して 5 倍以上と非常に高く、未だ民間機に採 用されるに至っていない。 図2.2-1 鉄鋼材料の強度レベル変遷 図2.2-1の降着装置の鉄鋼材料 の開発変遷から分かる通り、鉄鋼材料 の強度レベルは 30 年前から横ばい状 態であり、低コスト高強度鋼材料の開 発が必要とされている。 (2)チタン合金 一方、近年使用比率が増しているのが チタン合金である。 図2.2-2に示すボーイングの B777 主脚では、トラック・ビーム、サイド/ド ラグ・ブレース、トルクリンク、ブレーキ・ 図2.2-2 ボーイング B777 主脚 ロッド等に Ti10-2-3 材が多く使用され、 重量軽減と共に耐食性及び整備性において大 きな改善がなされ、民間機脚におけるチタン 合金の多用の先鞭となった。 又、1997 年頃にボーイングと米国 TIMET 社 が共同で“TIMETAL 555 (Ti5Al--5Mo-5V -3Cr)”を開発し、図2.2-3に示すトラッ ク・ビームに採用されている。本材料は、水 焼入れが必要な Ti10-2-3 に対して大気中焼 入れが可能であり、Ti10-2-3 では焼入れ時の 寸法が 76mm 以下に制限されるが、178mm とい う厚肉でも強度が確保される利点をもつ。 図2.2-3 トラック・ビームの鍛造素材 本チタン材は、現在基本設計が進んでいる B787 に多用されると思われる。 3 又、現在開発試験が進んでいる A380 においてもチタン合金が多く使用され、その主脚の 材料使用比率は、鉄(300M):68%、チタン(10-2-3):30%、その他:8%と報告されている。 図2.2-4のボーイング旅客機の機体材料構成の推移に示すように、航空機に使用さ れる鉄鋼の大半は降着装置に使用されているのであるが、その比率は下がっており、チタ ン合金の比率は増している。この傾向は今後も続くと思われる。 図2.2-4 ボーイング旅客機の材料構成 (3)高強度ステンレス鋼 降着装置に多く使用される鉄鋼材料は劣悪な腐食環境に曝されるので、その耐食性が問 題になっている。 そのため、耐食性が良好な高強度高靭性ステンレス鋼の開発も進んでいる。米国 CARPENTER 社が抗張力 1526~1665MPa(220~240ksi)レベルの“Custom455” 及び “Custom465” を開発し、又、日本においても、1989 年に日立金属/住友精密工業共同で抗張力 1760MPa (255ksi)以上の“HSL180”を開発した。HSL180 は、1999 年に米国公共規格(AMS5933)を 取得し、間もなく航空機の材料マニュアルである Metallic Materials Properties Development and Standardization(旧 MIL-HDBK-5)にその特性が記載される予定である。 現在、高強度ステンレス鋼は、一次構造部材ジョイント部のピン・ボルトや特に耐食性 が要求される箇所に限定されているが、今後の利用拡大が期待されている。 (4)複合材 上述のように、降着装置には金属系材料が使用されており、機体構造に多く採用されて いる複合材は未だ研究レベルである。 米軍において、金属系材料がこれ以上の大幅な強度向上が望めないとして、1970 年代か ら複合材の降着装置への適用が研究されてきた。攻撃ヘリコプターAH-64 の尾脚のトレー リング・アームや戦闘機 F-15 の主脚のドラグ・ブレースを CFRP にて製作し、試験も行わ れている。 1980 年代後半からは、チタン・マトリックス複合材(以下 TMC)の適用研究が始められ、 1991 年には F-15 前脚の TMC 製シリンダによる、 落下試験も含めた各種試験が実施されて、 その有用性が確認された。又、2003 年にはオランダの SP Aerospace 社がオランダ空軍と の共同研究で、戦闘機 F-16 主脚の TMC 製ドラグ・ブレースを開発し、実機にて飛行試験ま で実施した。300M 材のドラグ・ブレースに比較して 40%もの重量軽減を達成したが、コス トは重量低減量 1kg に対し 4650 ドルを要し、今後のコストダウンが課題とされている。海 外の降着装置メーカーにおいても TMC の積極的な研究開発されており、近い将来、民間機 に採用される日が来ると思われる。 4 参考として、図2.2-5に TMC 製部品を搭載した F-16、及び図2.2-6にその TMC 製ドラグ・ブレースを示す。 図2.2-5 TMC 製部品を搭載した F-16 3 図2.2-6 TMC 製ドラグ・ブレース 降着装置の環境適用技術 3.1 メッキの代替技術 前述のように、降着装置には多くの鉄鋼材料が使用されており、その防食対策として多 種の表面処理が施される。代表的な表面処理としては、カドミウム・メッキや 300M 等超高 抗張力鋼に適用されるチタン・カドミウム・メッキである。又、緩衝装置やアクチュエー タの摺動面、ピン・ボルト表面には耐摩耗性向上のために硬質クロム・メッキが施されて いる。 カドミウムやクロム・メッキ工程で使用されるクロム酸溶液に含まれる6価クロムは発 ガン物質であり、メッキ工程においてそれら物質が大気中や廃液中に放出され環境汚染に 繋がる可能性がある。近年EUを始めとして、これら有害物質の規制や使用禁止、メッキ 工場での規制強化が始まっている。このような動きを受けて、航空機業界においても、規 制されたメッキに替わる技術の開発が進められている。 (1)High-Velocity Oxygen-Fuel カドミウム・メッキに関しては未だ具体的代替法は確定されていないが、クロム・メッ キについては、1996 年に北米の民間企業と官共同にて Hard Chrome Alternatives Team(以 下 HCAT)なる調査・研究チームを立ち上げ、代替法の評価を行っている。このチームは、 クロム・メッキ代替法として high-velocity oxygen-fuel(以下 HVOF)の評価・検証を行 ない、HVOF がクロム・メッキ代替技術をして認証され、実機への適用が始まっている。こ こでは、HVOF について紹介する。 HVOF は、熱源を用いて溶融状態にした粉末を素材表面に高速で吹き付けて薄い皮膜を作 る溶射法の一種で、粉末式高速フレーム溶射と呼ばれる。次ページ図3.1-1の HVOF 原理図に示すように、燃料となる灯油と酸素を燃焼室に吹き込み高圧で燃焼させ、超音速 の燃焼炎を発生させる。燃焼炎はノズルで一旦絞られ、後にバレルを通って大気中に噴出 するバレル入り口で原料粉末を燃焼炎中に吹き込み、加熱、加速して、素材に投射して皮 膜を作る。この時のフレーム温度は 2000℃以上、速度 600~800m/sec である。これにより 高密着で緻密な皮膜を形成することができる。 5 図3.1-1 HVOF 原理図 表3.1-1に、クロム・メッキと HVOF の一般特性比較を示す。 HCAT の各種評価試験では、クロム・メッキと比較し、耐久性、気密性、耐食性( “ニッ ケル上クロム・メッキ”以上)において、より優れた皮膜性能を示した。また、超高張力 鋼への適用に対しても問題ないことが証明された。 クロム・メッキ HVOF 硬度 HV900 程度 HV1100 程度 気孔率 2%以下/CWC 1%以下 密着強度 100MPa 70MPa 以上 残留応力 引張応力 圧縮応力 水素脆性 有 無 0.01~0.04mm/hr 0.25~0.54mm/hr <1.0mm <2.5mm 可能 困難 6価クロム 粉塵 コーティング速度 膜厚 内径への適用 環境影響 表3.1-1 クロム・メッキと HVOF の一般特性比較 図3.1-2は、降着装置のピストンへ の溶射状況である。 海外では、現在エアバスが開発中の A380 降着装置に対して、既に HVOF が採 用され、ボーイングの B787 にも適用が必 須と思われる。 又、既存機の降着装置のオーバーホー ル時には、クロム・メッキから HVOF への 変更も行われている。 3.2 降着装置の空力音低減 離陸及び着陸時の航空機の騒音源は、 エンジン(コンプレッサー、ファン、タ 図3.1-2 ピストンへの HVOF 施工状況 6 ービンと排気音) 、高揚力装置(スラット、フラップ)、エンジン取り付け用部材及び降着 装置 (前脚、 主脚) であることが知られている。 ヨーロッパでは、RAIN(Reduction of Airframe and Installation Noise)プロジェクトにおいて、1998 年から 2001 年まで騒音低減研究が 行われた。米国 NASA においては、QAT(Quiet Aircraft Technology) プロジェクトが 2001 年に開始された。これらの降着装置に関する騒音低減の研究内容を紹介する。 (1)ヨーロッパの研究 ヨーロッパの研究では、エアバスと脚メーカーである Messier-Dowty 社が共同で、A340 の実物の降着装置を用いて風洞試験を行い、又、騒音低減用フェアリングを取り付けてそ の効果の確認試験を実施している。図3.2-1に A340 主脚の風洞試験状況、図3.2- 2に騒音低減用フェアリングを取り付けた主脚での風洞試験状況を示す。 図3.2-2 フェアリング装着状態での風洞試験 図3.2-1 A340 主脚の風洞試験 本研究では、最大 10dB の低減が見込まれる成果を上げたが、実機に搭載するために、よ り現実的なフェアリング形状設計を必要としている。 (2)米国の研究 一方 NASA の研究では、B777 主脚モデルを用いて風洞試験を実施し、降着装置内の騒音 源の特定及び解析が行われている。 次ページの図3.2-3に各種装備品を搭載した B777 主脚の風洞試験、図3.2-4に ドア、ドラグ/サイド・ブレースを取り除いた状態での風洞試験状況を示す。 これらの試験から、降着装置の騒音源は、脚柱による空気の切り裂き音と降着装置に取 り付けた各種部品からの騒音であることが突き止められた。又、部品の形状及び寸法が各 種異なっていることから発生周波数域も広く、油圧配管やボルト・ナットが高周波域の原 因であることが判った。 騒音低減策の研究も進められており、部品の後方配置、脚柱へのフェアリング取付、脚 室用ドアの形状見直しによるフェアリング効果が報告されている。又、脚柱の周りに風を 送ることにより、空気によるフェアリング効果もアイデアとして提起されている。 7 図3.2-3 B777 主脚の風洞試験 図3.2-4 部品を取り外した B777 主脚の風洞試験 4 電動化技術 4.1 Electro Hydrostatic Actuator 及び Electro Mechanical Actuator 降着装置には、前脚ステアリング・アクチュエータの駆動、車輪ブレーキの作動及び揚 降アクチュエータや各種アクチュエータの駆動に油圧を用いている。それらの油圧は、機 体の集中油圧システムから供給されている。現在運用されている民間機は 20.7MPa(3000psi)の油圧システムであるが、A380 には、油圧機器の軽量・コンパクト化の ために 34.5MPa(5000psi)の油圧システムが採用された。B787 にも同様の高圧油圧システム が採用される予定である。 油圧の高圧化が進む一方で、磁石の改良・開発に伴う小型・高出力の電動アクチュエー タの研究開発が進み、油圧から電動に置き換わった部分もある。 8 A380 の主脚アップロック装置では、リリー ス用油圧アクチュエータが油圧から電動モー ターに置き換わり、緊急時のアップ・ロック・ リリースも電動で行うようになった。これに より、油圧配管はもとより、緊急リリース用 の機体内のケーブルやリンクが不要となり、 軽量化と共に整備性の向上に大きく寄与する ことになる。 図4.1-1に A380 に搭載された主脚用ア ップロック装置を示す。 又、ヨーロッパにおいては、2002 年に 4 年 計画で Power Optimized Aircraft(以下 POA) プロジェクトが開始された。本プロジェクト にはエアバスとヨーロッパの主要システム・ サプライヤーが参加し、機械、油圧、空圧、 図4.1-1 A380 アップロック装置 電気の四つの動力に分散した現状の航空機の システムを、より少ないエンジン・ブリード、油圧源の分散配置、より多くの電動化によ る効率のよい航空機システムの開発を目標に進められている。 図4.1-2に、POA が研 究を進めるイメージを示す。 日本国内においても、経済 産業省より委託を受けて、 (財)日本航空機開発協会の主 導の下、 「航空機用先進システ ム基盤技術開発事業」が 2004 年度から 3 年間計画で進めら れており、燃費向上・環境負 荷低減を目標にアクチュエー タの Electro Hydrostatic Actuator(以下 EHA)化や Electro Mechanical Actuator (以下 EMA)化の技術開発が 進められている。 このように、各国で航空機 システムの電動化の研究開発 が進められており、降着装置 の油圧アクチュエータも近い 将来 EHA/EMA に置き換わって いくものと思われる。 図4.1-2 POAプロジェクト・システム 9 4.2 電気式ブレーキ 現在民間旅客機に搭載されているディスク・ブレーキは油圧式であるが、米国では 1980 年後半より電気式ブレーキの研究が進められてきた。1990 年前半はダイナモメーター試験 での実証試験に留まっていたが、1990 年後半から現在飛行試験が行われている各種無人機 への搭載が始まった。無人戦闘攻撃機 X-45 には Honeywell 社製、実験用再使用宇宙飛行機 X-37 には ABSC 製の電気式ブレーキが搭載され、飛行試験ではあるが、実運用に近いレベ ルに達している。 又、世界の主要ブレーキ・メーカーでも独自に研究開発を進めており、この度、民間旅 客機としては初めて Goodrich 社と Messier-Bugatti 社の電気式ブレーキが B787 に採用さ れることが決定した。電気式ブレーキは、従来油圧により多板ディスクを加圧していたも のを、電気モーターとボール・スクリューの組み合わせにより行うものである。これによ り、高い信頼性、油漏れによる火災の防止、油圧配管破損時のブレーキ残存率の向上、油 圧配管不要による軽量化、 また自己診断機能の搭載による整備性の向上が期待されている。 図4.2-1に電気式ブレーキのスケマティック図を示す。 図4.2-1 電気式ブレーキのスケマティック 5 降着装置システムのインテグレーション 従来は、脚柱(緩衝支柱)やドラッグブレス(支柱)の構造は脚メーカー、各種アクチ ュエータは油圧機器メーカーで設計、製作し、タイヤ・ホイール、ブレーキの調達や電気 配線・油圧配管の設計含め、それら機器の組み込みは機体メーカーが担当するのが通例で あった。しかしながら、近年では脚メーカーがプライムとなって、全機器を含んだ降着装 置システムとして開発・取りまとめする傾向にある。この傾向は、自動車業界でトレンド になっているモジュール化と似たものである。機体メーカーは、システム(モジュール) 発注とすることによって各装備品間のインターフェースの調整及び管理が簡素化され、設 計開発時間の短縮、機体への艤装時間の短縮が図れる。又、同時にインテグレーションの 負荷を低減でき、資源の集中化が図れる一方で、プライム・サプライヤーは、長期的なプ ログラムへの参加の確保、補用品ビジネスの機会の増大というメリットを受ける。この傾 向は特に小型機の開発プロジェクトに多く見られるが、中・大型機メーカーであるボーイ ングやエアバスでは、全システムのインテグレーションは今までのままとし、脚メーカー 10 この解説概要に対するアンケートにご協力ください。 への発注は、脚柱に取り付く各種装備品(電気配線、油圧配管)までを単位としているよ うである。 図5-1に、Goodrich 社での A380 主脚の組立状況、図5-2に Messier-Dowty 社が受 注した B787 主脚のイメージ図を示す。 図5-1 A380 主脚組立風景 6 図5-2 B787 主脚イメージ(M-D 社) まとめ 降着装置の構造関係については、軽量化のため、主に高強度金属材料の開発が進められ てきたが、金属材料のこれ以上の高強度化や加工技術の大きな進歩は期待できない状況で ある。従って、今後も機体構造の複合材化と併せて、脚構造への複合材適用の研究開発が 加速される、と思われる。又、オレオの整備性の向上のためのセンシング技術の開発も重 要である。 近年の環境適用への対応のために、有害物質を使用した各種メッキ・プロセスの代替技 術の開発や新技術への移行はますます加速していくと思われる。又、低騒音化のための脚 柱の設計技術の開発が必要になる。 各種システム機器については、現在油圧システムに依存しているが、B787 での電気式ブ レーキ採用を始めとして、その他油圧アクチュエータの電動化が加速されると考えられ、 そのための EHA/EMA 要素技術の開発が重要と考える。 以上 KEIRIN この事業は、競輪の補助金を受けて実施したものです。 11
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