免疫・炎症性疾患治療を目指したmiRNA阻害核酸医薬の研究開発

文部科学省 橋渡し研究加速ネットワークプログラム
B18: 免疫・炎症性疾患治療を目指したmiRNA阻害核酸医薬の研究開発
プロジェクト責任者:東京大学医科学研究所・伊庭英夫
プロジェクト概要
申請者らは、特定の miRNA の活性を効率よく阻害するデコイRNAを設計して
Tough Decoy(TuD) と名付けた(Nucleic Acids Res. 37: e43, 2009)。さらに、この
デコイRNAを模した合成修飾RNA(Synthetic TuD; S-TuD)にも高い阻害活性が
あることを見出した(Nucleic Acids Res. 40: e58, 2012)。申請者らは、TuDとSTuDの両者について日・米・中の特許を取得し、これを免疫・炎症性疾患の制
圧に用いるための研究を進めている。
シーズの概要
TuD
A
C
S-TuD
図1. TuDとS-TuDの構造
TuD とS-TuD はよく似た2次構造をもつ。TuD は1本の天然型RNA であり、種々のベク
ターから転写されて産生される。S-TuD はすべてが、2’-O-Methyl 化された2本のヌクレ
オチドとして合成したのち、これらをanneal して作製する。S-TuD の場合、MBS(miRNA
Binding site) は、抑制するmiRNA に対する完全相補配列が最適の阻害活性を示す。
STEM I とII は、細胞中のRNaseに対する抵抗性を付与し、LinkerはmiRNA に対する
accessibility を高める働きをもつ。
miRNAの活性抑制による治療には高効率で安定的に特定のmiRNAの機能を
細胞外からのS-TuDの導入
阻害する技術が不可欠である。「 Tough Decoy RNA (TuD RNA)」は特徴的な二
S-TuD
次構造を有するDecoy RNAであり、特定のmiRNAの活性を阻害することができ
RISC
る(図1、図2)。TuD RNAはRNA polymerase IIIにより転写することができ、これを
(A)
(A)
RISC
搭載したプラスミドベクターやレンチウイルスベクターは、他のmiRNA阻害ベク
図2. S-TuDがmiRNA 阻害活性を示す機構の模式図
ターに比べ顕著に高い阻害効果を発揮することから、miRNAの標的同定、発
mRNA(ピンク色)中の3’UTR に存在するmiRNA結合配列(赤破線)に、RISC (薄緑色;
RNA-induced silencing complex)中のmiRNA(青色)が結合し、そのmRNA の安定性や
癌活性の検定等において有用なツールとして使用されている。さらに我々はこ
翻訳効率を抑制する。 細胞中にそのmiRNA に対するS-TuD (赤線)を導入すると、STuDは効率よくそのRISCに結合するようになり、消化されにくい (Tough) Decoyとして機
の技術の核酸医薬化を目指して、TuD RNAと同様の二次構造を有する2’-OME
能するようになる。その結果mRNA の機能が回復することになる。
RNA核酸オリゴで構成される分子「 Synthetic TuD (S-TuD)」を開発し、その設計
法を確立した。
図2に示すように、S-TuD はmRNA に結合したmiRNAを含むRISC複合体を効率よく結合して、mRNA の機能回復をすることも示
されている。最適に設計したS-TuDは既存のmiRNA阻害剤と比べ高い阻害効果を有していることから、基礎研究はもとより、今
後は有力なmiRNA阻害核酸医薬として利用できるものと期待される。
【競合技術に対する優位性】
現在、miRNAの阻害薬としてはアンチセンスオリゴが主流である。C型肝炎を対象に第II相臨床試験が既に開始されているも
のがあり、重篤な副作用を伴わずにC型肝炎ウイルスを抑制することが示されている(N. Engl. J. Med. 368:18, 2013)。申請者
や欧米の第三者研究チームによる複数の比較研究から、TuD/S-TuDは他のmiRNA阻害技術と比べて圧倒的に強いmiRNA阻
害効果を示すことがin vitroおよびin vivoで立証されており、実験用試薬として汎用されている(Nucleic Acids Res. 40: e58,
2012; Nature Methods 9:403, 2012; RNA 19:280, 2013; Pro Nat Acad Sci 111:1604, 2014; J Clin Invest 124:5109, 2014)。
n
n
現在の進捗
これまでに、特定のmiRNA を標的とした、S-TuD を合成して、その阻害活性を最適化するように、S-TuD の基本構造に関す
る諸パラメーターを決定した。現在免疫・炎症反応を抑制する標的miRNA についてこれを適用してマウスモデルを用いた
POCの取得に集中している。
TuD と S-TuDの両者について、日本(登録番号第4936343号)、米国(登録番号8563709)、中国(登録番号102264898号)の
特許をすでに取得している。欧州の特許については出願中であり(出願番号9821914)、現在、拒絶理由に対応中である。
分子生物学試薬として、TuD/S-TuDはSigma-Aldrich社(全世界)、TuD はTakaraBio社(日本)、S-TuDはジーンデザイン社(日
本)にそれぞれライセンスアウトしているが、医薬品としてはライセンスアウトには至っていない。
今後の研究計画
S-TuDの特徴として、その汎用性の広さが挙げられる。ひとたびS-TuDによるmiRNA阻害があるアレルギー反応の抑制に有効
であることが証明されれば、他のアレルギー疾患へも適用の可能性が広がることはもちろん、異なるmiRNA を標的とした
S-TuD RNAを用いることによってがんをはじめとした他の疾患の治療にも繋がりうるという点でも、本研究は大きな可能性を
秘めている。