物流・倉庫 - 地銀連携産業調査センター

産業
アウトルック
物流・倉庫
Quarterly
2015年9月30日
担当: 田原
昌
≫Summary

足元におけるトラック貨物輸送量は、全体としては一進一退で推移
している。貨物種類別にみると、15年4~6月は生産関連や建設関

Regional banks Industrial research Center
連の荷動きが持ち直す一方、消費関連の荷動きは回復が遅れている。
15年4~6月における道路貨物運送業の営業収入は、宅配便と特別
積合せ貨物(宅配便を除く)で改善の兆しがみられたものの、一般
貨物は苦戦が続いた模様だ。一般貨物では、運賃の低下が収入改善
の足を引っ張る形となった。なお、コスト面では、軽油価格が再び
低水準となる一方で、人手不足に伴う人件費の上昇が続いており、
トラック業界の利益を圧迫している。

倉庫業は、生産関連貨物を中心とした出荷が伸びたことから、貨物
回転率が改善した。そのため、大手5社の15年第1四半期決算は前
年同期比で増収増益となった。

当センターでは、2015年度のトラック貨物輸送量を前年度比0.8%増
と見込み、また2016年度は同1.3%増と予測する。
≫Overview
【道路貨物運送業(トラック)】
◆トラック貨物輸送量は一進一退
国土交通省「トラック輸送情報」より毎月のトラック貨物輸送量(トン
数ベース)の推移を
みると、最新の値で
トラック貨物輸送量の推移
12
ある2015年6月にお
9
ける輸送量は、一般
6
貨物が前年同月比
3
1.7%増、特別積合せ
0
-3
貨物も同3.3%増と
-6
なった。2014年春以
-9
降のトラック貨物輸
送量は、消費税率引
き上げの影響等から、
前年同月比、%
2012年
13
一般貨物
出所:国土交通省「トラック輸送情報」
14
特別積合せ貨物
15
本レポートに記載されている情
報は、地銀連携産業調査センタ
ーが信頼できると考える情報源
に基づいたものですが、その正
確性、完全性を保証するもので
はありません。本レポートに記
載した内容は、レポート執筆時
の情報に基づくものであり、レ
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れることがあります。ご利用の
際は、最新の情報をご確認くだ
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(浜銀総合研究所内)
Tel 045-225-2375
33
15年1~3月まで前年実績を下回る展開となって
で全て「増加」超となっており、荷動きは総じて
いたが、ここに来て、ようやく前年同月比の伸び
増加傾向にあると言えよう。
率がプラスに転じつつある。
ただし、1年前の14年4~6月は消費増税に伴
転じるなど、一部の品目で不安定な荷動きがみら
う駆け込み需要の反動を受けて輸送量が大きく減
れるものの、砂利・砂・石材は「増加」超の割合
少したという特殊要因があるため、前年同月比の
が増え、さらにその他窯業品(ガラスやセメント
結果だけでは15年6月の輸送量が持ち直している
等)も「増加」超に転じていることから、全体と
とは言い切れない。そこで、駆け込み需要の影響
しては持ち直しの方向にあるとみられる。
を受けていない2年前の同月を基準にした増減率
一方、消費関連貨物(消費者によって日常的に
を計算し、その推移をみた。これによると、輸送
消費される品目)をみると、食料工業品が「増加」
量の2年前同月比は、14年秋口に下げ止まった後、
超を維持した一方で、日用品(生活雑貨等)や取
一進一退で推移している。特に一般貨物は比較的
り合せ品(引越荷物、郵便物、宅配便等)は「減
安定的な荷動きを維持しているといえよう。
少」超から脱し切れていない。
2年前同月比、%
トラック貨物輸送量の推移
(2年前同月との比較)
◆運賃は下落基調も軽油価格は利益面に寄与
12
次に道路貨物運送業の業績動向に関して、全日
9
6
本トラック協会「トラック運送業界の景況感」に
3
より、同業種の営業収入の判断指標をみると、2015
0
-3
年4~6月(速報)は、特別積合せ貨物(宅配便
-6
を除く)と宅配便で改善の兆しがみられた。
-9
2
3
4
5
6
7
8
9 10 11 12 1
2014年
(対2012年)
2
3
4
5
15
(対2013年)
一般貨物
特別積合せ貨物
出所:国土交通省「トラック輸送情報」
◆生産関連貨物や建設関連貨物が持ち直し
続いて、2015年4~6月における品目別荷動き
の推移をみると、足元では生産関連貨物(企業の
生産活動によって製造された品目)と建設関連貨
物(建設の際に使用される資材等の品目)の回復
が目立つ。生産関連貨物は、輸送量に占めるウェ
イトが大きい鉄鋼、機械、紙・パルプが6月時点
前年同期比、ポイント
60
40
20
0
-20
-40
-60
見通し
2010年
11
12
13
14
15
一般貨物
特別積合せ貨物(宅配便除く)
宅配便
注1:1Q=1~3月、2Q=4~6月、3Q=7~9月、4Q=10~12月
注2:指標はそれぞれ直前の3か月間に対し、景況感が大幅に悪化
(-2)~大幅に好転(+2)の点数を加え、1事業者あたりの平均
値を100倍することにより算出している。
出所:公益社団法人 全日本トラック協会「トラック運送業界の景況感」
宅配便は、足元で輸送量が下げ止まりつつある
ことに加えて、運賃が上向いたことも追い風とな
主要品目別増減状況D.I.(1~6月)
D.I.(前月比「増加」-「減少」)、%
100
営業収入の判断指標推移
6
1Q
2Q
3Q
4Q
1Q
2Q
3Q
4Q
1Q
2Q
3Q
4Q
1Q
2Q
3Q
4Q
1Q
2Q
3Q
4Q
1Q
2Q
3Q
1
Regional banks Industrial research Center
また、建設関連貨物は、廃棄物が「減少」超に
「増加」超
り、営業収入の減少に歯止めがかかり始めた模様
だ。また特別積合せ貨物(宅配便を除く)は、運
60
20
賃引き上げの動きに頭打ち感が現われ始めている
-20
-60
「減少」超
-100
123456 123456 123456 123456 123456 123456 123456 123456 123456
食料
取り合
工業品 日用品 せ品
鉄鋼
機械
紙・
パルプ
砂利
砂・
石材
その他
窯業品 廃棄物
が、荷動きの減少ペースが和らいだことにより、
営業収入の「減少」超幅がやや縮小している。
これに対して、一般貨物は引き続き苦戦した。
足元において運賃の引き上げにブレーキがかかっ
消費関連貨物
生産関連貨物
建設関連貨物
注:品目別荷動きにおける前月比「増加」、「減少」の回答社数から、
当センターがD.I.(「増加」構成比-「減少」構成比)を計算したもの。
出所:国土交通省「トラック輸送情報」より当センター作成
ている模様であり、このことが営業収入改善の足
を引っ張る要因になったとみられる。
34
運賃料金の判断指標推移
人手不足が続くと給与の引き上げ等人件費が増
前年同期比、ポイント
60
見通し
40
加するため、利益面でのマイナス要因となる。事
実、足元でも道路貨物運送業者の年収は緩やかな
20
がらも上昇を続けており、企業利益を圧迫してい
0
-20
ることが考えられる。
1Q
2Q
3Q
4Q
1Q
2Q
3Q
4Q
1Q
2Q
3Q
4Q
1Q
2Q
3Q
4Q
1Q
2Q
3Q
4Q
1Q
2Q
3Q
-40
12
13
14
特別積合せ貨物(宅配便除く)
15
宅配便
注1:1Q=1~3月、2Q=4~6月、3Q=7~9月、4Q=10~12月
注2:指標はそれぞれ直前の3か月間に対し、景況感が大幅に悪化
(-2)~大幅に好転(+2)の点数を加え、1事業者あたりの平均
値を100倍することにより算出している。
出所:公益社団法人 全日本トラック協会「トラック運送業界の景況感」
雇用状況の判断指標推移
ポイント
80
60
40
20
0
-20
-40
一方、道路貨物運送業のコスト面に関して軽油
価格の推移をみると、足元では、安価な軽油が引
き続き利益面を支える要因になっていると考えら
れる。15年2月9日に104.63円/ℓ(全国平均)の
2010年
4050
4000
は再び下落し、9月28日には104.35円/ℓと2月の
3950
11
12
13
14
15
3900
3850
軽油価格(店頭現金価格)推移
2014.07.14
138.06円/ℓ
140
過剰
道路貨物運送業者の年収推移
千円
4100
上昇して110~113円/ℓの間で推移したが、足元で
円/ℓ
145
不足
注1:1Q=1~3月、2Q=4~6月、3Q=7~9月、4Q=10~12月
注2:見通しについては、前年同月比の見通しとなっている。
出所:公益社団法人 全日本トラック協会「トラック運送業界の景況感」
安値を記録した軽油価格は、同年4~6月にやや
安値を更新した。
見通し
2015.09.28
104.35円/ℓ
2010
2011
2012
2013
2014
2009年
注:「きまって支給する現金給与額」および「年間賞与その他特別給
与額」から当センターが算出。
出所:厚生労働省「賃金構造基本統計調査」
135
130
【倉庫業】
125
◆荷動きが活発化し在庫調整が進む
120
115
国土交通省「営業普通倉庫の実績(主要21社)
110
2015.02.09
104.63円/ℓ
105
について」より営業倉庫保管残高(トン数ベース、
100
2012/1/5
2013/1/5
2014/1/5
Regional banks Industrial research Center
一般貨物
11
1Q
2Q
3Q
4Q
1Q
2Q
3Q
4Q
1Q
2Q
3Q
4Q
1Q
2Q
3Q
4Q
1Q
2Q
3Q
4Q
1Q
2Q
3Q
2010年
2015/1/5
注:消費税は除く。
出所:資源エネルギー庁
「給油所小売価格調査(ガソリン、軽油、灯油)」
なお、全日本トラック協会「トラック運送業界
の景況感」によると、トラック業界の人手不足感
は高止まりを続けている。企業は人材を繋ぎ止め
るために給与の引き上げを行うなど、さまざまな
対応策をとっており、政府も高校新卒者がトラッ
ク業界へ就職しやすくするための法整備 1 や女性
ドライバーの就業推進策を展開するなど、若年層
や女性を呼び込むための取り組みを行っているも
のの、労働力の確保は依然として厳しい状況が続
いている。
12015 年6月 11 日に車両総重量 3.5 トン以上 7.5 トン未満の貨物
自動車を対象とした「準中型自動車免許」の新設を盛り込んだ道路
交通法改正案が衆院本会議で可決、成立した。
季調済)の推移をみると、2015年1~3月までは
保管残高の積み上がりが見られたものの、4月以
降から在庫調整が進み、直近の6月の保管残高は
前月比1.6%減少した。
貨物種類別保管残高の寄与度推移
季調済、前月比、%
3
2
1
0
-1
-2
-3
1 2 3 4 5
6
7
8
9 10 11 12 1
消費関連貨物
その他
2
3
4
5
6
15
2014年
生産関連貨物
合計
建設関連貨物
注1:季節調整は当センターが実施。
注2:雑品は分類ができなかったため、「その他」とした。
出所:国土交通省「営業普通倉庫の実績(主要21社)について」より
当センター作成
一方、営業倉庫貨物回転率(季調済)の推移か
35
ら荷役業務についてみると、15年1月に48.5%を
続く16年度は同1.3%増の30.0億トンになると予
つけた後、荷動きの停滞がみられたが、6月は生
測する。トラック貨物輸送量全体としては、15年
産関連貨物を中心に出荷が伸びたことから、回転
度後半から16年度後半にかけて緩やかな持ち直し
率も47.1%へと回復した。
が続く展開となろう。
貨物回転率(1~3類倉庫)の推移
このうち、まず消費関連貨物については、雇用・
季調済、%
55
所得環境の改善等を背景に今後も家計消費が持ち
直しの基調を維持すると考えられる。なお、16年
50
度末に消費税率引き上げを前にした駆け込み需要
が再び起こると考えられるが、耐久財など買い替
45
えサイクルが比較的長い商品は前回(14年)の増
123456
13
2012年
14
15
注:貨物回転率=(入庫高+出庫高)/(前月末保管残高+
当月末保管残高) ×100
出所:国土交通省「営業普通倉庫の実績(主要21社)について」より
当センター作成
◆貨物回転率上昇により企業業績に回復の兆し
倉庫業大手各社決算短信より、倉庫業大手5社
の業績の推移をみると、2015年度第1四半期は売
上高が前年同期比4.9%増、営業利益は同5.7%増
の増収増益となった。倉庫業の主な収益源は荷
役・運送業であり、これら業務が売上高に占める
割合は6割を超える。上述のように、15年4~6
月は倉庫業全体として貨物回転率が改善しており、
荷役・運送業売上高の増加が企業業績の回復に貢
税の前に購入されており、今回は買い替え需要が
起きにくいとみられることなどを考慮すると、今
回の増税による荷動きへの影響は前回よりも限定
的であると考えられる。以上から、消費関連貨物
の15年度の輸送量を前年度比0.2%増の11.9億ト
ン、16年度は同1.0%増の12.0億トンと予測する。
次に生産関連貨物については、企業業績の改善
や生産活動の持ち直しにより、今後は積極的な設
備投資に伴う輸送量の増加が見込まれる。したが
って、輸送量は15年度を同1.1%増の9.8億トン、
16年度を同1.2%増の9.9億トンと予測する。
建設関連貨物は、補正予算縮小に伴う公共事業
の減少が見込まれる一方、民間建設投資では雇
用・所得環境の改善等を背景とした住宅投資の増
加や、企業収益の改善に伴う積極的な設備投資が
献したと想定される。
Regional banks Industrial research Center
40
予想され、全体としては持ち直しの動きが続くと
倉庫業大手5社決算推移
10億円
250
倉庫業売上高上位4社
の手数料別収入割合
前年同期比、%
40
ン、また16年度は同2.0%増の8.1億トンになると
10.4 11.0
30
200
20
150
10
100
53.2
0
-10
百万トン
3500
-20
3000
1Q 2Q 3Q 4Q 1Q 2Q 3Q 4Q 1Q
2013年度
14
15
日本梱包運輸
上組
三井倉庫
住友倉庫
三菱倉庫
営業利益前年同期比(右目盛)
出所:大手各社決算短信
予測する。
13.711.7
0
50
みられる。15年度の輸送量は同1.5%増の8.0億ト
貨物種類別輸送量の推移
予測
2500
0%
20%
40%
各種運送料
倉庫保管料
その他
60%
80% 100%
倉庫荷役料
不動産賃貸料
出所:三菱倉庫、住友倉庫、
三井倉庫、日本梱包運輸倉庫
各社の決算決算短信
2000
1500
1000
500
0
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16
年度
≫Forecast
◆トラック貨物輸送量は緩やかな増加が続く
当センターでは、2015年度の国内トラック貨物
輸送量を前年度比0.8%増の29.6億トンと見込み、
消費関連貨物
生産関連貨物
建設関連貨物
注:消費関連貨物…農水産品、薪炭、食料工業品、日用品、動植物飼料、取り合せ品
建設関連貨物…木材、砂利・砂・石材、非金属鉱物、金属製品、窯業品、廃棄物
生産関連貨物…上記以外の品目
出所:国土交通省「自動車輸送統計月報」より、当センターにて推計
36