熊本大学学術リポジトリ Kumamoto University Repository System

熊本大学学術リポジトリ
Kumamoto University Repository System
Title
消化器癌における腫瘍間質内マクロファージによる腫瘍
進展機構の解明
Author(s)
杉原, 栄孝
Citation
Issue date
2015-03-25
Type
Thesis or Dissertation
URL
http://hdl.handle.net/2298/32194
Right
学位論文
Doctoral Thesis
消化器癌における腫瘍間質内マクロファージよる腫瘍進展機構の解明
(Clarification of tumor progression mediated by tumor-associated macrophages )
杉原 栄孝
Sugihara Hidetaka
熊本大学大学院医学教育部博士課程医学専攻消化器外科学
指導教員
馬場 秀夫教授
熊本大学大学院医学教育部博士課程医学専攻消化器外科学
2015年3月
1
学
位
論
文
Doctoral Thesis
論文題名
:
消化器癌における腫瘍間質内マクロファージによる腫瘍進展機構の解明
(Clarification of tumor progression mediated by tumor-associated macrophages)
著 者 名
:
杉原
栄孝
指導教員名 : 熊本大学大学院医学教育部博士課程医学専攻消化器外科学
審査委員名
:
免疫識別学教授
皮膚病態治療再建学教授
小児外科学・移植外科学教授
2015年3月
2
西村
尹
泰治
猪股
浩信
裕紀洋
馬場
秀夫教授
目次
1. 要旨…………………………………………………………………………………………..3
2. 論文発表リスト……………………………………………………………………………..4
3. 謝辞…………………………………………………………………………………………. 6
4. 略語一覧……………………………………………………………………………………..7
5. 研究の背景と目的…………………………………………………………………………...8
5- 1. 胃癌および大腸癌……………………………………………………………………………8
5- 2. 腫瘍間質内マクロファージ(Tumor Associated Macrophage ; TAM………………………9
5- 3. B cell-specific moloney murine leukemia virus integration site 1 (Bmi1)……………………10
5- 4. CD44…………………………………………………………………………………………..11
5- 5. microRNA(miR)…………………………………………………………………………..12
5- 6. 本研究の目的………………………………………………………………………………..13
6. 患者対象、実験材料と方法
6- 1. 胃癌、大腸癌および食道胃接合部癌の対象患者………………………………………..14
6- 2. 免疫組織学的解析…………………………………………………………………………..14
6- 3. 細胞培養……………………………………………………………………………………..14
6- 4. ウエスタン・ブロット法…………………………………………………………………..14
6- 5. Real-time RT-PCR 法…………………………………………………………………………15
6- 6. miRNA マイクロアレイ……………………………………………………………………..15
6- 7. mimic/inhibitor miRNA を用いた miRNA 過剰発現株/発現抑制株の作成、およびルシフ
ェラーゼアッセイ………………………………………………………………………………...16
6- 8. THP-1 由来およびヒト単球由来マクロファージの作成、癌細胞株との共培養…......16
6- 9. 統計解析………………………………………………………………………………...…...16
7. 研究結果
7-1. 消化器癌における TAM との共培養による癌幹細胞マーカー発現…............................18
7-2. 消化器癌における Bmi1 発現と間質内マクロファージ浸潤の評価................................19
7-3. 消化器癌細胞株における TAM との共培養による Bmi1 発現および sphere 形成能につ
いて.....................................................................................................................................................20
3
7-4. Bmi1 発現を制御する miR の検索........................................................................................21
7-5. miR-30e* transfection による Bmi1 発現および sphere 形成能の変化...............................22
7-6. ルシフェラーゼアッセイによる miR-30e*結合..................................................................23
7-7. 胃癌・大腸癌における miR-30e*発現および Bmi1 発現...................................................24
7-8. ヒト単球由来マクロファージとの共培養における Bmi1 発現および miR-30e*発現...25
7-9. CD44 に結合しうる miR の検索............................................................................................26
7-10. ルシフェラーゼアッセイによる miR-328*結合................................................................27
7-11. 胃癌における miR-328 発現および CD44v9 発現..............................................................28
7-12. miR-328 強制発現または発現抑制による CD44v 発現、細胞増殖の変化……………29
7-13. miR-328 強制発現による癌細胞における ROS および抗癌剤への抵抗性....................30
7-14. 胃癌細胞株における H2O2 投与および TAM 共培養による CD44 発現および miR328
発現および細胞増殖の変化.............................................................................................................31
7-15. 胃癌における CD44v9 発現および miR-328 と間質内マクロファージ浸潤の評価….32
8. 考察................................................................................................................................................33
8-1. 消化器癌における TAM による Bmi1 を介した腫瘍進展機序…………………………..33
8-2. Bmi1 を制御する miR について…………………………………………………………….33
8-3. 消化器癌における miR-328 による CD44 制御機構………………………………………33
8-4. TAM の極性、および TAM が産生する ROS による CD44 発現制御について………..34
9. 結語………………………………………………………………………………………….35
10. 参考文献…………………………………………………………………………………...36
4
1. 要旨
【目的】腫瘍微小環境と癌細胞における相互作用は癌の進展において非常に重要な役割を
担っている。本研究では、腫瘍微小環境の構成細胞のひとつである腫瘍間質内マクロファー
ジ(TAM;Tumor-associated macrophage)による microRNA(miR)を介した腫瘍の進展を制
御する①Bmi1 および②CD44 分子の発現調整の分子機構を解明することを目的とした。
【方法】Bmi1、CD44、CD68、CD163 に関して免疫組織化学的解析を行い、臨床病理学的因
子との相関について検討した。miRNA microarray、miRNA PCR Array および in silico 解析を
用いて、Bmi および CD44 を制御する miR を抽出した。miR-30e*による Bmi1 制御、および
miR-328 による CD44 制御について消化器癌細胞株を用いて解析した。
【結果】① Bmi1 発現と CD68/CD163 発現は正に相関しており、マクロファージと共培養
することで癌細胞における Bmi1 発現は上昇し、sphere 形成能が亢進した。miR-30e*は Bmi1
3’UTR に直接結合しており、胃癌細胞株に miR-30e*を強制発現させると、Bmi1 の発現と
癌細胞の sphere 形成能が抑制された。さらに胃癌臨床検体で Bmi1 発現は miR-30e*発現と
逆相関した。
②miR-328 は CD44 3’-UTR に直接結合し CD44 の発現を抑制した。消化器癌細胞株におけ
る miR-328 の強制発現により CD44v9 の発現が抑制され、細胞増殖および酸化ストレスと
抗癌剤への耐性が抑制された。さらに H2O2 処理あるいはマクロファージにより産生され
た ROS を介して、胃癌細胞株における miR-328 の発現が抑制され CD44v9 の発現が増強し
た。CD44 発現と CD68/163 発現は相関しており、臨床検体で CD44 発現は miR328 発現と逆
相関した。
【考察】TAM が癌細胞における miR-30e*および miR-328 の発現抑制を介して、Bmi1 や
CD44v9 などの腫瘍の進展増強分子の発現を増強していることが示された。本研究の結果に
基づき、生体レベルでの治療効果を評価しドラッグデリバリーシステムを具体化すること
で、TAM を標的とした創薬の開発に寄与できると考えられる。
【結論】TAM は癌細胞と相互作用し、癌細胞における miR を介した癌関連遺伝子発現の制
御により消化器癌の発育・進展を促している可能性が示唆される。
5
2. 発表論文リスト
1) 関連論文
1. Sugihara H, Ishimoto T, Watanabe M, Sawayama H, Iwatsuki M, Baba Y, Komohara Y, Takeya
M, Baba H. Identification of miR-30e* Regulation of Bmi1 Expression Mediated by TumorAssociated Macrophages in Gastrointestinal Cancer. PLos One 2013 Nov 28;8 (11):e81839.
2. Ishimoto T, Sugihara H (As co-first author), Watanabe M, Sawayama H, Iwatsuki M, Baba Y,
Okabe H, Hidaka K, Yokoyama N, Miyake K, Yoshikawa M, Nagano O, Komohara Y, Takeya
M, Saya H and Baba H. Macrophage-derived reactive oxygen species suppress miR-328 targeting
CD44 in cancer cells and promote redox adaptation. Carcinogenesis. 2014 May;35(5):1003-11.
2) その他の論文
1. Ishimoto T, Izumi D, Watanabe M, Yoshida N, Hidaka K, Miyake K, Sugihara H, Sawayama H,
Imamura Y, Iwatsuki M, Iwagami S, Baba Y, Hasita H, Komohara Y, Takeya M, Baba H. Chronic
inflammation with Helicobacter pylori-infection is implicated in CD44 overexpression through
miR-328 suppression in the gastric mucosa. J Gastroenterol. (in press)
2. Sawayama H, Ishimoto T, Sugihara H, Miyanari N, Miyamoto Y, Baba Y, Yoshida N, Baba H.
Clinical impact of the Warburg effect in gastrointestinal cancer (Review). Int J Oncol. 2014
Oct;45(4):1345-54.
3. Ishimoto T, Sawayama H, Sugihara H, Baba H. Interaction between gastric cancer stem cells and
the tumor microenvironment. J Gastroenterol. 2014 Jul;49(7):1111-20.
4. Sawayama H, Ishimoto T, Watanabe M, Yoshida N, Sugihara H, Kurashige J, Hirashima K,
Iwatsuki M, Baba Y, Oki E, Morita M, Shiose Y, Baba H. Small molecule agonists of PPAR-γ
exert therapeutic effects in esophageal cancer. Cancer Res. 2014 Jan 15; 74(2):575-85.
5. Sawayama H, Ishimoto T, Watanabe M, Yoshida N, Baba Y, Sugihara H, Izumi D, Kurashige J,
Baba H. High expression of glucose transporter 1 on primary lesions of esophageal squamous cell
carcinoma is associated with hematogenous recurrence. Ann Surg Oncol. 2014 May;21(5):175662.
6. Miyamoto Y, Watanabe M, Sakamoto Y, Shigaki H, Murata A, Sugihara H, Etoh K, Ishimoto T,
Iwatsuki M, Baba Y, Iwagami S, Yoshida N, Baba H. Evaluation of the necessity of primary tumor
6
resection for synchronous metastatic colorectal cancer. Surg Today. 2014 Mar 14.
7. Izumi D, Ishimoto T, Yoshida N, Nakamura K, Kosumi K, Tokunaga R, Sugihara H, Sawayama
H, Karashima R, Imamura Y, Ida S, Hiyoshi Y, Iwagami S, Baba Y, Sakamoto Y, Miyamoto Y,
Watanabe M, Baba H. A clinicopathological analysis of primary mucosal malignant melanoma.
Surg Today. 2014 Oct 9. [Epub ahead of print]
8. Eto K, Watanabe M, Iwatsuki M, Sugihara H, Murata A, Ozaki N, Ishimoto T, Iwagami S, Baba
Y, Miyamoto Y, Yoshida N, Ikeshima S, Kuramoto M, Shimada S, Baba H. Granulocyte-colonystimulating factor producing esophageal squamous cell carcinoma: a report of 3 cases.
International Cancer Conference Journal. July 2013, Volume 2, Issue 3, pp 149-153
9. 杉原栄孝, 近本亮, 赤星慎一, 小森宏之, 渡邊雅之, 石河隆敏, 高森啓史, 別府透, 猪山
賢一, 馬場秀夫. 胆管腺腫内に発生した肝内胆管癌の 1 例:日本消化器外科学会雑誌 46
巻 5 号 356-361(2013.05)
10. 杉原栄孝, 石本 崇胤, 渡邊 雅之, 馬場 秀夫. Bmi1 発現制御機構の解明:日本臨床(00471852)72 巻増刊 1 最新胃癌学 122-124(2014.01)
7
3. 謝辞
本研究の遂行並びに本論文作成にあたり、御指導頂きました熊本大学大学院生命科学研
究部 消化器外科学分野の馬場 秀夫教授に謹んで厚く御礼申し上げます。
詳細な研究の方向性や実験手法、実験データの解釈、論理的な論文の作成方法や校正につ
いて、日々ご指導頂いた消化器外科学 石本崇胤特任助教(現 Duke-NUS Graduate Medical
School Singapore Visiting Assistant Professor)に深く感謝致します。
消化器癌の診断と治療、臨床データの解釈において、本研究の根幹となる部分をご指導頂
きました、消化器外科学
渡邊雅之准教授(現がん研有明病院消化器外科食道担当部長)、
吉田直矢講師に深く感謝致します。
三宅慧介技術補佐員、横山奈穂美技術補佐員、緒方陽子技術補佐員に研究の補助をして頂
き、谷口裕子技術補佐員に臨床検体の薄切標本の作製をして頂きました。深く感謝致します。
さらに、研究の遂行にあたり検体の提供に御協力頂きました患者様に深く感謝致します。
最後に、消化器外科学のリサーチカンファレンス、日々の実験におきまして、貴重なご意
見を頂き、ご協力とご指導をいただきました消化器外科学教室の教室員の皆様に心より感
謝を申し上げて、私の謝辞と代えさせて頂きます。
8
4. 略語一覧
TAM : Tumor Associated Macrophage
Bmi1 : B cell-specific mMoloney murine leukemia virus integration site 1
ROS : Reactive oxygen species
miR : microRNA
9
5. 研究の背景と目的
5- 1. 胃癌および大腸癌
胃癌は、世界で 4 番目に多く年間 90 万人以上が発症し、約 73 万人が死亡している[1]。
日本を含めた東アジア、東ヨーロッパ、中南米に多く、南アジア、北東アフリカ、オースト
ラリア、北米では少ないと言われ、地域間で発症率が異なっている[2, 3]。胃癌の危険因子と
してヘリコバクター・ピロリ菌が関与していると報告されており、慢性炎症を引き起こすこ
とで、腸上皮化生が発生し、発癌の発生母地となり、結果として胃癌が発症すると考えられ
ている[4]。
一方、大腸癌は、世界において男性で 3 番目、女性 2 番目に多く、年間 120 万人以上が発
症し、約 60 万人が死亡している[1]。大腸癌の危険因子として、肥満や喫煙などを含む、食
事や生活習慣の欧米化が挙げられており、元々欧米白色人種に多く認められた癌種である
が、近年アジア人やヒスパニック人においても増加傾向にあるとされる[5]。
図 1;癌の発生部位による年齢調整死亡率の推移
厚生労働省人口動態統計より引用改変
10
5- 2. 腫瘍間質内マクロファージ(Tumor Associated Macrophage ; TAM)
固形癌は、癌細胞のみならず、間質細胞や血管内皮細胞やマクロファージなど様々な腫瘍
微小環境で構成されている。マクロファージは可逆性があり、異なる 2 つの極性を持ってお
り、最近では、古典的活性化マクロファージ(M1)および代替的活性化マクロファージ(M2)
に分類されている。M1 および M2 マクロファージは腫瘍微小環境において異なる働きをす
ることが以前の研究で明らかになっている[6-8]。M1 マクロファージは抗原提示機能および
殺腫瘍活性を有していると言われている。一方、M2 マクロファージは寄生虫や創傷治癒、
組織リモデリングへの活性を示し、腫瘍の増殖や血管増生を促進するとされている。TAM
は腫瘍増殖、浸潤、転移に関与すると言われており、TAM は M2 マクロファージへの極性
を有していると考えられている[9-12]。その一方で、マクロファージは可塑性のある細胞で
あり、エピジェネティックな機序により TAM が M2 マクロファージ極性から M1 マクロフ
ァージ極性へと変化することも最近報告されている[13, 14]。
図 2;腫瘍微小環境におけるマクロファージと癌細胞の相互作用(文献[8]より引用)
11
5- 3. B cell-specific moloney murine leukemia virus integration site 1 (Bmi1)
自己複製分子の一つであるポリコーム群遺伝子産物は、PRC1およびPRC2という巨大複合
体を形成し、エピジェネティックな遺伝子発現制御を通じて細胞形質の維持に関与し、幹細
胞の自己複製を制御している。Bmi1はPRC1の構成分子のひとつであり、造血幹細胞の自己
複製能を有する。Bmi1は、過去の報告で、マウスリンパ腫において過剰発現しており、c-myc
と協調して腫瘍増殖を引き起こす癌遺伝子として発見され [15]、神経幹細胞において
INK4a/ARF遺伝子座を抑制することで組織幹細胞の自己複製や分化制御にかかわることが
示された[16]。Bmi1は消化器領域において、腸管幹細胞に発現し小腸上皮維持を行っており、
食道癌および大腸癌に関して予後不良因子とされている[17, 18]。さらに胃領域に関しては、
Bmi1は胃癌の増殖や進展にも関わっており[19]、Bmi1発現陽性群では陰性群と比して予後
不良(平均生存期間;21.4ヶ月vs35.4ヶ月、p<0.01)であることも報告されている[20]。した
がって、Bmi1の発現亢進に伴いINK4a/ARFの機能が抑制され癌幹細胞分画が増加し、胃癌
の増殖や進展に関わっていることが示唆される。一方、Bmi1の発現を制御する上流のメカ
ニズムに関しては不明な点が多い。
図3;Bmi1による腫瘍進展機序
12
5- 4. CD44
CD44 はヒアルロン酸をはじめとする細胞外マトリックスと結合する接着分子であり、
リンパ球ホーミングや活性化、細胞運動などの正常細胞の生理的機能を有すると同時に、
腫瘍細胞の浸潤や転移に関わる事が良く知られている[21-24]。CD44 は選択的スプライシ
ングによる多くのバリアントアイソフォーム(CD44v)があり、内側の細胞外ドメインに
発現している。スタンダードアイソフォーム(CD44s)は幹細胞や正常上皮細胞で発現し
ている一方で、CD44v は上皮系癌において高発現しているとされている[25]。また、CD44
はいくつかの癌腫において癌幹細胞マーカーとして報告されており、癌発生や癌細胞発現
維持に重要な働きをしていることが考えられる[26-28]。美馬らは CD44s が肝細胞癌におい
て TGF-を介して EMT(上皮間葉転移)を引き起こし腫瘍の浸潤に関与することを報告し
ている[29]。石本らは CD44v が胃癌においてシスチントランスポーターと結合することで
癌細胞内の活性酸素(Reactive oxygen species;ROS)の蓄積を抑制し、腫瘍の増大と治療
抵抗性を促進することを報告している[30]。
図 4;CD44 における癌細胞における腫瘍増大のメカニズム(文献[30]より引用)
13
5- 5. microRNA(miR)
タンパクをコードする mRNA は全 RNA のうち 2-3%にしか過ぎず、リボソーム RNA、転
写 RNA、長鎖非コード RNA、そして miR といった非コード RNA の働きを理解することは
非常に重要である。miR は DICER1 により pre-miR から切り出されて生成される。miR は標
的遺伝子の 3 標非翻訳領域(3 翻訳領域)に不完全に結合することでその遺伝子の翻訳を抑
制する、21-23 塩基長の非コード RNA である[31]。近年、miR は様々な癌遺伝子、癌抑制遺
伝子を標的としていることが知られ、miR の調節異常が様々な癌種の病因と関与している
ことが明らかになってきている[32-34]。
図 5;microRNA による癌遺伝子および癌抑制遺伝子の制御メカニズム(文献[34]より引
用)
14
5- 6.
本研究の目的
消化器癌における TAM による miR を介した①Bmi1、②CD44 制御機構について明らかにす
る。
①miRNA microarray を用いて網羅的解析により Bmi1 発現を制御する miR-30e*を抽出し、
miR-30e*を用いた Bmi1 制御機構を解析することを目的とした。②miRNA PCR Array を用い
た網羅的解析により CD44 発現を制御する miR-328 を抽出し、miR-328 を用いた CD44 制御
機構解明を行い、マクロファージが産生する ROS による miR-328 および CD44 発現の制御
機構および抗癌剤抵抗性のメカニズムを解析することを目的とした。
15
6. 患者対象、実験材料と方法
6- 1. 胃癌、大腸癌および食道胃接合部癌の対象患者
本研究において、2000 年から 2008 年の期間に、熊本大学医学部附属病院にて術前治療を
行わずにリンパ節郭清を伴う根治手術を施行した胃癌 83 例及び大腸癌 49 例を対象とした。
6- 2. 免疫組織学的解析
胃癌および大腸癌組織はホルマリン固定パラフィン包埋ブロックを用いて免疫組織学的
検討に使用した。4μm の厚さで薄切を行い、組織切片を作成した。Hematoxylin-eosin (HE) 染
色と以下の免疫染色を行った。脱パラフィンを行い、120℃、20 分もしくは 15 分マイクロ
ウェイブで抗原の賦活化を行った。3%過酸化水素水にて内因性ペルオキシダーゼの除去を
5 分間行った後、1 次抗体 [Mouse monoclonal antibody specific for human Bmi1 (×100, Abcam),
Rat monoclonal antibody specific for human CD44v9 (×100, 慶應義塾大学先端医科学研究所遺
伝子制御研究部門より譲渡),Mouse monoclonal antibody specific for human CD68 (×100, Dako),
Mouse monoclonal antibody specific for human CD163 (×100, Novocastra)と 4℃ overnight で抗原
抗体反応を行った。洗浄を行った後、2 次抗体 [Envision plus (Dako)] と 30 分反応させ、DAB
にて発色を行い、ヘマトキシリン染色後封入を行った。CD44v9 に関しては 30 分ブロッキ
ングを行い 2 次抗体[Vectastain Elite Kit (Vector Laboratories)]を使用した。免疫組織学的評
価は、Bmi1、CD44v9、CD68/CD163 に関しては高倍率 1 視野あたりの全細胞数のうち、核
の濃染が認められる割合を計算した。0-3 点にスコア化し(0; 0%, 1+; 1-25%, 2+; 26-50%, 3+;
>50%)
、3+を陽性とした。
6- 3 細胞培養
胃癌細胞株 AGS は American Type Culture Collection (ATCC)
、NUGC-4 は理研バイオリ
ソースセンター、KATOIII は Japanese Collection of Research Bioresources (JCRB)より、大腸癌
細胞株 HCT116 および HT29 は ATCC、COLO201 は JCRB より、ヒト急性白血病細胞株 THP1 は理研バイオリソースセンターより入手した。培養液に関しては、
AGS、
NUGC-4、
KATOIII、
COLO201、HT29、THP-1 では RPMI、HCT116 では Dulbecco’s modified Eagle’s medium-nutrient
mixture F-12 に 10%FBS を添加し、5%CO2 下に 37℃で培養を行った。
6- 4. ウエスタン・ブロット法
RIPA buffer (25 mM Tris-HCl [pH 7.4], 100 mM NaCl with 2 mM EDTA, Halt Protease and
16
Phosphatase Inhibitor Single-Use Cocktail [100×] [Thermo: 78442])を用いて細胞株から蛋白を抽
出し-80℃で保存した。使用時は融解し、同量の蛋白を 10%ゲルにサプライし、SDS-PAGE
で分離した。分離された蛋白を polyvinylidene fluoride (PVDF)メンブレン(Bio-Rad, Inc.)に転
写した。メンブレンは、TBS-T [25 mM Tris (pH 7.4), 125mM NaCl, 0.4% Tween 20] に溶解し
た 5%スキムミルクを用いて、1 時間室温にてブロッキングを行った。TBS-T を用いてメン
ブレンを洗った後に、4℃でオーバーナイト、一次抗体と反応させた。次に、1:2000 の濃度
の二次抗体と反応させ、ECL Detection System (GE Healthcare, Little Chalfont, UK)を用いて発
色させた。
6- 5. Real-time RT-PCR 法
細胞株より、RNeasy Mini Kit (Qiagen)を用いて RNA を採取した。mRNA の発現レベルは、
Bmi1 および GAPDH を認識するプライマーを作成し(表 2)、TaqMan probes (Roche Diagnostic
K.K.)を用いた qRT-PCR 法にて測定した。測定には、 LightCycler 480 System II (Roche
Diagnostics)を用いた。real-time RT-PCR は、トリプリケートし、データは平均±標準誤差を
用いて示した。
表 1. 定量 real-time PCR に用いた primer 配列
Gene
Primer Sequence
Bmi1
F 5’-TTCTTTGACCAGAACAGATTGG-3’
R 5’-GCATCACAGTCATTGCTGCT-3’
CD44
F 5’-GCAGTCAACAGTCGAAGAAGG-3’
R 5’- TGTCCTCCACAGCTCCATT -3’
GAPDH
F 5’- AGCCACATCGCTCAGACAC-3’
R 5’- GCCCAATACGACCAAATCC -3’
6- 6. miRNA マイクロアレイ
100ng に調整した cRNA を Agilent's miRNA Complete Labeling and Hyb Kit を用いてシアニ
ン-3(Cy3)をラベル化し、ハイブリダイゼーションした。アレイを洗浄および乾燥後、Agilent
DNA Microarray Scanner (G2505C)を用いてスキャンした。アレイデータは GeneSpring 12.0 を
用いてノーマライゼーションされた。マイクロアレイデータは GEO (accession no. GSE50601;
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/geo/query/acc.cgi?acc=GSE50601)に登録されている。
17
6- 7. mimic/inhibitor miRNA を用いた miRNA 過剰発現株/発現抑制株の作成、お
よびルシフェラーゼアッセイ
Lipofectamine RNAiMax transfection reagent (Invitrogen)を用いて胃癌および大腸癌細胞株に
5nM の mimic および inhibitor miR-30e*(Applied Biosystems)を transfection した。
標的遺伝子の mRNA 3’-UTR における推定上 miR と結合しうる DNA 塩基配列(野生型
および変異型)をベクターのルシフェラーゼ遺伝子の 3’-UTR に挿入し、ルシフェラーゼ
活性を測定した。
6- 8. THP-1 由来およびヒト単球由来マクロファージの作成、癌細胞株との共培
養
THP-1 は 6well 用トランスウェル(3540, Corning)に蒔かれた。M1 マクロファージを作
成するため、320nM phorbol myristate acetate (PMA)を 6 時間添加し、PMA に加え 20 ng/ml
interferon (IFN)-γ、および 100 ng/ml lipopolysaccharide を 18 時間添加した。M2 マクロファー
ジを作成するため 320nM PMA を添加し、6 時間後、PMA に加え 20 ng/ml interleukin(IL)-4 お
よび IL-13interferon (IFN)-γ を 18 時間添加した。THP-1 を蒔くと同時期に、別の 6well に AGS
および HCT116 を蒔き、トランスウェルを AGS および HCT116 の well に挿入し、indirect に
共培養し、24 時間後回収した。
健常者から採取した末梢血単球を用いた。CD14 マイクロビーズ(Miltenyi Biotec, Bergisch
Gladbach, Germany)により CD14 陽性単球を分離し、6well プレートに蒔き、granulocyte MCSF (2 ng/mL) (Wako) を添加し 5 日間培養した。PBS で洗浄後、IFN-γ (1ng/mL) (PeproTech)
を添加し M1 マクロファージへ、IL-10 (10 ng/mL) (PeproTech)を添加し M2 マクロファージ
へ分化させた。M1 および M2 マクロファージの上清を AGS および HCT116 へ添加し、24
時間後回収した。
ヒト単球由来マクロファージの作成には、健常者からの同意のもと末梢血採取を行って
おり、熊本大学細胞病理学との共同研究で行った。
6-9. 統計解析
2 変量の比較は、名義変数に対してはχ2 検定を用いて行い、連続変数に対しては t 検定
または Mann–Whitney U 検定を用いて行った。3 変量の比較は、連続変数に対しては TukeyHSD 検定を用いて行った。生存は Kaplan-Meier 法を用いて生存曲線を作成し、log-rank 検定
18
にて 2 群間の差を検定した。多変量解析は Cox 回帰分析を用いた。解析は JMP program (SAS
Institute) を用いて行い、P 値<0.05 を有意と定義した。
19
7. 研究結果
7-1.
消化器癌における TAM との共培養による癌幹細胞マーカー発現
消化器癌における TAM を介した miR による癌遺伝子制御機構について明らかにするた
め、まずは、癌幹細胞マーカーとして報告されている遺伝子(CD44、Bmi1、CD90、CD133、
EpCAM、LGR5、CD24、ALDH、CD26、CD29)について、TAM と共培養することによる癌
細胞における各遺伝子発現について qRT-PCR にてそれぞれの mRNA 発現を測定した。
共培養にて上昇を認めた遺伝子は①Bmi1、②CD44 であり、それぞれの遺伝子について更な
る解析を行った。
図 6;TAM との共培養による胃癌細胞株における Bmi1 および CD44 遺伝子発現変化
20
7-2.
消化器癌における Bmi1 発現と間質内マクロファージ浸潤の評価
胃 癌 お よ び 大 腸 癌 症 例 に て Bmi1 及 び 間 質 内 マ ク ロ フ ァ ー ジ の マ ー カ ー で あ る
CD68/CD163 の免疫組織化学染色を行った。Bmi1 は癌細胞の核に発現を認め、CD68/CD163
は間質細胞の核に強い染色を認めた (図.)。Bmi1 陽性は、胃癌 83 例中 44 例(53%)、大腸癌
49 例中 26 例(53%)の患者に認められ、胃癌・大腸癌ともに Bmi1 発現と CD68 発現、または
Bmi1 発現と CD163 発現は正に相関していた。
図 7;免疫組織化学染色による Bmi1 および CD68/CD163 発現の相関
21
7-3. 消化器癌細胞株における TAM との共培養による Bmi1 発現および sphere
形成能について
胃癌および大腸癌における THP-1 より分化したマクロファージ(M1/M2 マクロファー
ジ)との共培養による Bmi1 mRNA 発現について qRT-PCR により比較した。胃癌・大腸癌
細胞株ともに M1/M2 マクロファージと共培養することで Bmi1 mRNA 発現が上昇した。
さらに、それぞれの細胞株において 3 次元 dish を用いて sphere 形成能について比較し
た。それぞれの細胞株ともに M1/M2 マクロファージと共培養することで sphere 形成能が
亢進された。
図 8;TAM との共培養における Bmi1 発現および sphere 形成能の変化
22
7-4. Bmi1 発現を制御する miR の検索
Bmi1 発現を制御する miR を検索するため、M1 マクロファージ・M2 マクロファージと
共培養した胃癌細胞株を用いて microRNA microarray を行い、網羅的解析をおこなった。
その結果、M1 マクロファージ・M2 マクロファージと共培養により発現が低下した miR
を上位 10 個抽出した。さらに、on-line database 上で Bmi1 3’-UTR に結合しうる miR を検
索し、条件を満たす候補 miR として miR-30e*を同定した。さらに、miR-30e*による Bmi1
発現制御について更なる解析をおこなった。
表 2;胃癌細胞株における TAM との共培養による miRNA microarray
23
7-5.
miR-30e* transfection による Bmi1 発現および sphere 形成能の変化
まず 6 種類の胃癌・大腸癌の細胞株を用いて miR-30e*過剰発現および発現抑制による
Bmi1 発現変化についてウエスタン・ブロット法にて検討した。Bmi1 高発現細胞株
(AGS、HCT116)に対して miR-30e*過剰発現を、Bmi1 低発現細胞株(NUGC4、
COLO201)に対して miR-30e*発現抑制を行なった。Bmi1 高発現細胞株において mimic
miR-30e*投与により Bmi1 発現が低下し、sphere 形成能が低下した。一方、Bmi1 低発現細
胞株において inhibitor miR-30e*投与により Bmi1 発現が上昇した。
図 9;mimic/inhibitor miR-30e* transfection による Bmi1 発現の変化
24
7-6. ルシフェラーゼアッセイによる miR-30e*結合
miR-30e*が Bmi1 3’-UTR に直接結合するかを確認するため、Bmi1 3’-UTR 配列の中で
miR-30e*が結合し得る塩基配列(野生型、および同部位での塩基配列を変更して組み込ん
だ変異型)を DNA 塩基配列をベクターのルシフェラーゼ遺伝子の 3’-UTR に挿入し、2
群においてルシフェラーゼ活性を比較した。野生型では mimic miR-30e*を投与すること
で、ルシフェラーゼ活性が減少するものの、変異型では活性が変わらず、miR-30e*が結合
する Bmi1 3’-UTR 配列を明らかにした。
図 10;ルシフェラーゼ活性による miR-30e*における Bmi1 3’-UTR への結合
25
7-7. 胃癌・大腸癌における miR-30e*発現および Bmi1 発現
癌部および非癌部における miR-30e*発現を測定すべく、胃癌 53 例および大腸癌 37 例に
おいて癌部および非癌部それぞれのパラフィン切片から miR を抽出し、qRT-PCR にて
miR-30e*発現を測定した。胃癌および大腸癌において非癌部と比べ癌部において miR-30e*
発現が有意に低下していた。
次に、癌部における miR-30e*発現および Bmi1 発現について比較した。Bmi1 発現は免疫
組織化学染色により高発現・低発現に分類した。miR-30e*発現は、Bmi1 低発現群と比べ
Bmi1 高発現群において有意に低下していた。
図 11;消化器癌臨床検体における miR-30e*発現
26
7-8. ヒト単球由来マクロファージとの共培養における Bmi1 発現および miR30e*発現
ヒト末梢血より単球を分離し、分化誘導した活性化マクロファージ(M1/M2 マクロファ
ージ)を用いて、胃癌および大腸癌細胞株と共培養を行った。qRT-PCR にて miR-30e*発現
を比較したところ、どちらの細胞株においても共培養することで miR-30e*発現は低下し
た。同様に qRT-PCR にて Bmi1 発現を比較したところ、胃癌細胞株では THP-1 細胞株と同
様に共培養することで Bmi1 発現は上昇したが、大腸癌細胞株では M1 マクロファージ群
では上昇するものの、M2 マクロファージ群では上昇しなかった。
図 12;ヒト単球由来 TAM との共培養による miR-30e*および Bmi1 発現変化
27
7-9. CD44 に結合しうる miR の検索
6 つの消化器癌細胞株における CD44 発現をウエスタン・ブロット法にて確認した。
CD44 低発現株および高発現株を用いて、miRNA qRT-PCR Array を行い、CD44 低発現株と
比べ CD44 高発現株において 0.5 倍以下に低下している 59 種類の miR を抽出した。さら
に、on-line database 上で CD44 3’-UTR に結合し得る miR として 44 種類の miR を抽出し、
共に合致する 3 種類の miR(miR-328、miR-373、miR-520c)を候補とした。miR-520/373
ファミリーは癌促進作用のある miR として報告されている一方で、miR-328 は大腸癌で低
発現であり、癌幹細胞様細胞を制御する事が報告されている[35, 36]。そこで、今回 CD44
を制御する miR として miR-328 を最終候補として解析を進めた。
図 13;miRNA PCR Array による CD44 を制御する miR の検索
28
7-10.
ルシフェラーゼアッセイによる miR-328 結合
miR-328 が CD44 3’-UTR に直接結合するかを確認するため、CD44 3’-UTR の配列で miR328 が結合し得る塩基配列を検索したところ 3 か所存在した。そのためそれぞれの DNA 塩
基配列をベクターのルシフェラーゼ遺伝子の 3’-UTR に挿入した野生型を作成した。
CD44 3’-UTR, 353-374 の部位のみ mimic miR-328 を投与することでルシフェラーゼ活性が
減少した。同部位での塩基配列を変更して組み込んだ変異型を作成し、ルシフェラーゼ活
性を比較したところ、mimic miR-328 を投与しても活性が変わらないことがわかり、miR328 は CD44 3’-UTR, 353-374 に結合する事が明らかになった。
図 14;ルシフェラーゼ活性による miR-328 における CD44 3’-UTR への結合
29
7-11. 胃癌における miR-328 発現および CD44v9 発現
癌部および非癌部における miR-328 発現を測定すべく、胃癌 16 例において癌部および
非癌部それぞれのパラフィン切片から miR を抽出し、qRT-PCR にて miR-328 発現を測定し
た。非癌部と比べ癌部において miR-328 発現が有意に低下していた。
次に、胃癌 63 例における癌部での miR-328 発現および CD44v9 発現について比較した。
CD44v9 発現は免疫組織化学染色により高発現・低発現に分類した。CD44v9 は癌細胞膜に
発現していた。miR-328 発現は、CD44v9 低発現群と比べ CD44v9 高発現群において有意に
低下していた。
図 15;胃癌臨床検体における miR-328 および CD44v9 発現
30
7-12. miR-328 強制発現または発現抑制による CD44v 発現、細胞増殖の変化
CD44v 高発現株に対して miR-328 強制発現を行い、CD44v 発現をウエスタン・ブロット
法、細胞増殖を growth assay にて検討した。miR-328 強制発現することにより CD44v 発現
は経時的に低下し、細胞増殖能も低下した。胃癌および大腸細胞株ともに同様の結果が得
られた。一方、CD44v 低発現株に対して miR-328 発現抑制を行い、CD44v 発現および細胞
増殖を観察したところ、CD44v 発現は経時的に上昇し、細胞増殖能も上昇した。
図 16;mimic miR-328 transfection による CD44v9 発現および細胞増殖の変化
31
7-13. miR-328 強制発現による癌細胞における ROS および抗癌剤への抵抗性
大腸癌細胞株を用いて、miR-328 強制発現による H2O2 および抗癌剤投与による細胞生
存性について比較検討した。miR-328 強制発現により、対照群と比較して、H2O2 および
抗癌剤投与への抵抗性が減弱した。更に、CD44v 過剰発現株にいて miR-328 を強制発現す
ると再度 H2O2 および抗癌剤への抵抗性を獲得することが確認された。さらに、miR-328
発現ベクターを用いて miR-328 安定過剰発現株を作製し CD44v9 発現を確認ところ、対照
群と比べて CD44v9 発現は有意に低下していた。さらに、この miR-328 安定過剰発現株を
用いて xenograft model による in vivo での腫瘍形成能を評価した結果、対照群に比べて腫瘍
量は有意に減量した。
図 17;miR-328 transfection による抗癌剤抵抗性の変化および miR-328 ベクター投与による
腫瘍量変化
32
7-14. 胃癌細胞株における H2O2 投与および TAM 共培養による CD44 発現お
よび miR-328 発現および細胞増殖の変化
胃癌細胞株における H2O2 投与による CD44 発現および miR-328 発現をみたところ、
H2O2 濃度依存的に CD44 発現は上昇し、miR-328 発現は低下した。そして、H2O2 還元剤
(NAC)を投与することにより miR-328 発現は還元された。次に、THP-1 由来活性化マク
ロファージ(M1/M2 マクロファージ)と共培養することで、miR-328 発現は低下し、NAC
投与で還元された。CD44 発現は上昇し、NAC 投与で還元された。さらに FCM で CD44
分画をみたところ、共培養することにより CD44 分画が上昇していた。また、細胞増殖も
上昇した。
図 18;ROS による CD44v9 および miR-328 発現変化
33
7-15. 胃癌における CD44v9 発現および miR-328 と間質内マクロファージ浸潤
の評価
胃癌 63 症例にて Bmi1 及び間質内マクロファージのマーカーである CD68/CD163 の免疫
組織化学染色を行った。CD44v9 は癌細胞膜に発現を認め、CD68/CD163 は間質細胞に強い
染色性を認めた (図.)。CD44v9 発現と CD68 発現、または CD44v9 発現と CD163 発現は正
に相関していた。また、miR-328 発現を qRT-PCR で測定し、miR-328 発現と CD68 発現、ま
たは miR-328 発現と CD163 発現と比較したところ、ともに逆相関していた。
図 19;免疫組織化学染色による CD44v9、miR-328 と CD68/CD163 発現の相関
34
8. 考察
8-1. 消化器癌における TAM による Bmi1 を介した腫瘍進展機序
消化器癌における、Bmi1 および間質内マクロファージのマーカーである CD68/CD163 の
免疫組織化学染色をおこなった結果、Bmi1 発現と腫瘍内マクロファージ発現は正の相関関
係にあった。さらに消化器癌細胞株において M1/M2 マクロファージとの共培養にて Bmi1
発現が上昇し sphere 形成能が亢進した。今回の結果から、TAM が miR-30e*抑制を介して
Bmi1 発現を上昇させることで sphere 形成能が亢進し、腫瘍進展につながると考えられる。
Bmi1 を制御する miR について
8-2.
今回、miRNA microarray および online database 上の検索により Bmi1 3’-UTR に結合する
miR-30e*を見出した。mimic miR-30e*および inhibitor miR-30e* transfection により miR-30e*
による Bmi1 発現制御、およびルシフェラーゼ活性による miR-30e*による Bmi1 3’-UTR へ
の直接的な結合について明らかにした。
癌において miR がターゲットとなる遺伝子発現を調節することで、様々な癌細胞の特性
を制御していることがわかっており、更には癌幹細胞においても、癌幹細胞性維持や癌細胞
の増殖を制御していることが明らかになってきている[37]。そこで、今回癌幹細胞マーカー
である Bmi1 の発現制御機序として miR に注目した(後述する CD44 においても同様であ
る)
。
Bmi1 の 3’UTR に結合し、
Bmi1 発現を制御する miR としていくつかの報告がされている。
Bmi1 発現制御に関わる miR としては髄芽腫では miR-128a[38]、大腸癌では miR-218[39]、
卵巣癌では miR-15a/miR-16[40]、子宮内膜癌では miR-194 が報告されている[41]。これらの
報告では、Bmi1 発現低下により細胞増殖が抑制されることが示されており、Bmi1 は癌細胞
増殖に関与していることが示唆される。更に、舌扁平上皮癌では miR-15b/miR-200b が Bmi1
を制御することで EMT が誘導され、結果として肺および肝転移を引き起こすと報告されて
おり[42]、乳癌では miR-128 が Bmi1 発現を抑制することで、乳癌細胞株の治療抵抗性が減
弱するとのことであった[43]。このように Bmi1 は様々な miR により発現制御され、細胞増
殖や癌幹細胞性維持に関わっていると考えられ、今回の研究で明らかとなった miR-30e*に
よる Bmi1 発現制御機構は消化器癌における新たな治療戦略につながる可能性がある。
8-3.
消化器癌における miR-328 による CD44 制御機構
以前の我々の報告で、CD44v が胃癌においてシスチントランスポーターと結合するこ
35
とで癌細胞内の活性酸素(Reactive oxygen species;ROS)の蓄積を抑制し、腫瘍の増大と治
療抵抗性を促進することを明らかにしたが[30]、CD44 を制御する機構については不明な点
が多い。これまでの報告で、前立腺癌では miR-34a が、卵巣癌では miR-199a が CD44 3’-UTR
に結合し発現制御を行うと報告されている[44, 45]。今回、CD44 低発現株および高発現株を
用いて、miRNA qRT-PCR Array を行い、online database 上の検索により CD44 3’-UTR に結合
する miR-328 を見出した。mimic miR-328 transfection により miR-328 による CD44 発現制
御、およびルシフェラーゼ活性による miR-328 による CD44 3’-UTR への直接的な結合につ
いて明らかにした。
8-4.
TAM の極性、および TAM が産生する ROS による CD44 発現制御につい
て
今回、M1 マクロファージ、M2 マクロファージともに共培養にて癌細胞の Bmi1 を上昇
させた。多くの癌腫においては、TAM は M2 マクロファージへと極性化していると報告さ
れている[9-12]。一方で、消化器癌において M2 マクロファージ浸潤の程度は予後良好と相
関しているとの報告もあり[46, 47]、M1 マクロファージと M2 マクロファージのどちらが腫
瘍進展に関わっているかについてはいまだ決まった見解はない。さらに、近年の報告では、
マクロファージは可塑性があり、エピジェネティックな機序により TAM を M2 から M1 に
変化させることも報告されており[13, 16]、今回の結果からも消化器癌において TAM は M2
へ極性化しているわけではないものと考えられた。
癌組織において ROS は好中球、マクロファージ、血管内皮細胞など様々な細胞から産生
されると言われており、腫瘍間質内マクロファージにより産生される様々な炎症性サイト
カインを通じて CD44 発現を上昇させ腫瘍進展に寄与していると報告されている[48, 49]。
今回、ROS 投与および TAM との共培養により癌細胞における miR-328 発現が低下し、CD44
発現が上昇することが示された。さらに、miR-328 投与により CD44 発現抑制を通じて細胞
増殖および抗癌剤抵抗性を低下させることを明らかにしている。今まで、TAM が産生する
ROS により miR を通じた CD44 発現制御に関わるという報告はなく、miR-328 は今後の治
療ターゲットになりうるものと考えられる。
36
9. 結語
消化器癌において腫瘍間質内マクロファージ(TAM)による癌進展メカニズムについて
検討した結果、以下の知見を明らかにした。
TAM により癌細胞において Bmi1 および CD44 発現が上昇し癌進展に寄与していること
が明らかとなった。
それぞれの遺伝子発現には microRNA が関与しており、
Bmi1 発現は miR30e*が制御しており、CD44 発現は miR-328 が制御していることを明らかにした。さらに
TAM が産生する ROS により CD44 発現が上昇し、癌細胞は酸化ストレス抵抗性を獲得する
ことが明らかになった。
消化器癌組織において TAM と癌細胞との相互作用を明らかにすることにより、新たな治
療標的になり得る分子および miR が同定された。これらの研究成果に基づき、さらに生体
レベルでの治療効果を評価し、今後ドラッグデリバリーシステムを具体化することで、TAM
を標的とした創薬の開発につなげることが可能と考えられる。
37
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学位論文抄録
【目的】腫瘍微小環境と癌細胞における相互作用は癌の進展において非常に重要な役割を
担っている。本研究では、腫瘍微小環境の構成細胞のひとつである腫瘍間質内マクロファー
ジ(TAM;Tumor-associated macrophage)による microRNA(miR)を介した腫瘍の進展を制
御する①Bmi1 および②CD44 分子の発現調整の分子機構を解明することを目的とした。
【方法】Bmi1、CD44、CD68、CD163 に関して免疫組織化学的解析を行い、臨床病理学的因
子との相関について検討した。miRNA microarray、miRNA PCR Array および in silico 解析を
用いて、Bmi および CD44 を制御する miR を抽出した。miR-30e*による Bmi1 制御、および
miR-328 による CD44 制御について消化器癌細胞株を用いて解析した。
【結果】① Bmi1 発現と CD68/CD163 発現は正に相関しており、マクロファージと共培養
することで癌細胞における Bmi1 発現は上昇し、sphere 形成能が亢進した。miR-30e*は Bmi1
3’UTR に直接結合しており、胃癌細胞株に miR-30e*を強制発現させると、Bmi1 の発現と
癌細胞の sphere 形成能が抑制された。さらに胃癌臨床検体で Bmi1 発現は miR-30e*発現と
逆相関した。
②miR-328 は CD44 3’-UTR に直接結合し CD44 の発現を抑制した。消化器癌細胞株におけ
る miR-328 の強制発現により CD44v9 の発現が抑制され、細胞増殖および酸化ストレスと
抗癌剤への耐性が抑制された。さらに H2O2 処理あるいはマクロファージにより産生され
た ROS を介して、胃癌細胞株における miR-328 の発現が抑制され CD44v9 の発現が増強し
た。CD44 発現と CD68/163 発現は相関しており、臨床検体で CD44 発現は miR328 発現と逆
相関した。
【考察】TAM が癌細胞における miR-30e*および miR-328 の発現抑制を介して、Bmi1 や
CD44v9 などの腫瘍の進展増強分子の発現を増強していることが示された。本研究の結果に
基づき、生体レベルでの治療効果を評価しドラッグデリバリーシステムを具体化すること
で、TAM を標的とした創薬の開発に寄与できると考えられる。
【結論】TAM は癌細胞と相互作用し、癌細胞における miR を介した癌関連遺伝子発現の制
御により消化器癌の発育・進展を促している可能性が示唆される。
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